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第四章 ライブ
花咲く観覧車。
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皆、こんな僕を見つけてくれてありがとう。
それでは、さいごの曲です。
僕が初めて作詞、作曲をしました。
聞いてください。
「目を縁取る黒くてふさふさした睫毛
首筋の骨をそろりと撫でると
熱が渦巻いているのが分かった。」
霧の中で混ざり合う光と言葉は、言葉に表せないほど綺麗だった。人々は息をするのも忘れていた。無夢は左手で細長い首元を撫でた。
「たんたんたんって踊ったなら
肥大する赤くて黒い
何者にもなれなかった存在は
寝転がって
猫尖って
にっこり笑って
手を振る
ばいばい」
無夢は両手でギュっとマイクを握りしめ、眼をつむった。天に音が貫いている。
「あほなら
踊ろう
ばかでも
踊ろう
右足
左足
たんたたん」
会場は薄い闇に染まっていた。時々刺す人工的な光が無夢の存在を照らしていた。
「水こぼしちゃって
怪我つくって
したたり落ちる
心の叫び
きっと
必ず
ぜったい
また会おう
死なないでね」
無夢は口の中から何か液体を吐き出した。吐き出した液体は音を産み、光をまき散らしている。
「カフェラテ片手に
地獄の門で
考えずに
踊り狂う僕がいるから」
音の化身が見える。無垢な少年が笑い転げた。かと思えば、真顔で拳をふりかざした。
「手を失って
目が回って」
人々の潜在的音の塊が散り散りになり、興奮と快楽の海が出来上がっていた。
「花咲く観覧車
真っ青の空が
街を破る
絵が描けない絵描きはいったい何者?」
水の中で溺れている。苦しいのに、もっとここにいたいと思ってしまう。
「あほなら
踊ろう
ばかでも
踊ろう
右手
左手
たんたたん」
無夢は持っていたマイクをステージに落とした。ボツっという鈍い音が響いた。
ポケットの中から何かを取り出した。
進行とは違う雰囲気を察した音楽隊は、音を止めた。
カメラは何事かと無夢の顔に焦点を当てた。
青色の光が壁に這っている。
夜のとばりが引き裂かれる。
無夢は腕を振り、かくれていた刃を出した。
無夢は泣きながら笑っていた。苦しそうな顔にも見えたし、幸福そうな顔にもみえた。ものすごく、美麗だった。興奮しているせいか、すごく官能的に見えた。
カメラの奥に向かって「ありがとう」という言葉を落とした。でも、本当にありがとうと言ったのかはわからない。ただ、口を動かす無夢の言葉が見えただけだった。
無夢は震える手を両手でかばい、ナイフで首を切った。
まるで映画のワンシーンのようだった。
血しぶきが上がり、無夢はばたりと倒れた。
つかの間の沈黙があった後、悲鳴と、怒号が上がった。
カメラは乱れ、よくわからず暗転した。
街の巨大テレビには馬鹿みたいなバラエティ番組が流れ、ユーチューブライブには、ユーチューブライブは終了しました。という文字だけが映し出されている。
ライブ会場にはただただざわめきだけが鳴り響いている。遠くで救急車のサイレンが聞こえる。
それでは、さいごの曲です。
僕が初めて作詞、作曲をしました。
聞いてください。
「目を縁取る黒くてふさふさした睫毛
首筋の骨をそろりと撫でると
熱が渦巻いているのが分かった。」
霧の中で混ざり合う光と言葉は、言葉に表せないほど綺麗だった。人々は息をするのも忘れていた。無夢は左手で細長い首元を撫でた。
「たんたんたんって踊ったなら
肥大する赤くて黒い
何者にもなれなかった存在は
寝転がって
猫尖って
にっこり笑って
手を振る
ばいばい」
無夢は両手でギュっとマイクを握りしめ、眼をつむった。天に音が貫いている。
「あほなら
踊ろう
ばかでも
踊ろう
右足
左足
たんたたん」
会場は薄い闇に染まっていた。時々刺す人工的な光が無夢の存在を照らしていた。
「水こぼしちゃって
怪我つくって
したたり落ちる
心の叫び
きっと
必ず
ぜったい
また会おう
死なないでね」
無夢は口の中から何か液体を吐き出した。吐き出した液体は音を産み、光をまき散らしている。
「カフェラテ片手に
地獄の門で
考えずに
踊り狂う僕がいるから」
音の化身が見える。無垢な少年が笑い転げた。かと思えば、真顔で拳をふりかざした。
「手を失って
目が回って」
人々の潜在的音の塊が散り散りになり、興奮と快楽の海が出来上がっていた。
「花咲く観覧車
真っ青の空が
街を破る
絵が描けない絵描きはいったい何者?」
水の中で溺れている。苦しいのに、もっとここにいたいと思ってしまう。
「あほなら
踊ろう
ばかでも
踊ろう
右手
左手
たんたたん」
無夢は持っていたマイクをステージに落とした。ボツっという鈍い音が響いた。
ポケットの中から何かを取り出した。
進行とは違う雰囲気を察した音楽隊は、音を止めた。
カメラは何事かと無夢の顔に焦点を当てた。
青色の光が壁に這っている。
夜のとばりが引き裂かれる。
無夢は腕を振り、かくれていた刃を出した。
無夢は泣きながら笑っていた。苦しそうな顔にも見えたし、幸福そうな顔にもみえた。ものすごく、美麗だった。興奮しているせいか、すごく官能的に見えた。
カメラの奥に向かって「ありがとう」という言葉を落とした。でも、本当にありがとうと言ったのかはわからない。ただ、口を動かす無夢の言葉が見えただけだった。
無夢は震える手を両手でかばい、ナイフで首を切った。
まるで映画のワンシーンのようだった。
血しぶきが上がり、無夢はばたりと倒れた。
つかの間の沈黙があった後、悲鳴と、怒号が上がった。
カメラは乱れ、よくわからず暗転した。
街の巨大テレビには馬鹿みたいなバラエティ番組が流れ、ユーチューブライブには、ユーチューブライブは終了しました。という文字だけが映し出されている。
ライブ会場にはただただざわめきだけが鳴り響いている。遠くで救急車のサイレンが聞こえる。
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