降る、ふる、かれる。

茶茶

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第二章 歌い手

死神

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蛇口をひねり、両手に水をためて顔を洗った。

皮脂が顔中を覆い、指先がぬめる。洗顔料に手を伸ばすが、空気ばかりが吐き出されて中身は出てこない。僕はあきらめて、タオルで顔を拭った。

 鏡に映る僕はひどいありさまだった。頬は随分とコケ、充血した目の下にはクマをつくり、顔は幽霊のごとく青白かった。特に、髪の毛がひどかった。長すぎてバサバサの髪の毛は不清潔で見るに堪えなかった。

 鋏を取り出し、髪の毛に鋏をあて、勢いよく髪を切り落とした。洗面台や足に切り取られてしまった髪の毛が落ちている。全体的に短くすると、鏡に映る自分はずいぶんましになった気がする。

引き出しの中からずいぶん前に買ったアイライナーを取り出した。鏡を前に、睫毛を縁どり、目尻は猫のように大きくはねあげた。久しぶりに使ったから、何度も書いている最中に瞬きをしてしまったし、線は汚かったけど、遠目で見ると悪くなかった。

アイシャドウを手にし、瞼に大粒の赤いラメを豪快に乗せた。

 今度は乾燥で割れてしまっている唇に口紅を塗った。そして、目の下に口紅でハートを描いた。反対側の眼の下には涙を描いた。

耳には大ぶりのシルバーのリングピアスをつけた。

 まるで、ピエロみたいだった。道化をやる自分にピッタリだった。こんな自分を見たら、無夢のファンは一体どう思うのだろう。



想いは詰まる。
なんてことのない日常で涙がこぼれる。僕は、幸せなはずなのに。靴の紐を結んでいる時、洗濯物を干している時、歯を磨く時、横断歩道の信号が青になるのを待つときそして、寝る時。

膝から崩れ落ちて、手で顔を覆い、ひたすら耐えた。

猛烈に、抱きしめて欲しくなる。がんばったねって優しく言って欲しくなる。

だけどいつだってそこにあるのは虚空だ。


どうしたらいい? 


なにをしたらいい?


僕は満たされない。

すべてがある気がするのに、たった一つの大事なものだけが僕の元にはない。

部屋に戻り、ギターを手にし、僕は風呂に閉じこもった。浴槽に腰を下ろし、両足を外の投げ出して浴槽の壁に体重を乗せた。底に少しだけ溜まっていた水で尻を濡らした。


 そこにいる死神さん、聞かせてあげますよ。僕は心の中でそう呟いた。


お腹の上に乗っているギターをかき鳴らした。



歌を歌い終えると、昨日の生放送のアーカイブを消した。



それから、僕は一つの動画をアップロードし、スーパーへと家を出た。
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