降る、ふる、かれる。

茶茶

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第二章 歌い手

ライバル

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僕はサバの味噌煮定食を食べていた。

久しぶりの人間らしい温かみのあるご飯に、僕は心を許していた。

数日前、僕は栄養不足のためか倒れた。さすがにウィンダインゼリーやカロリーメイト、カップ麺ばかりの日々を送っていたため、体にぼろがきたのであろう。頭をしたたかにうち、天井がくるくるが回りながらも、ちゃんとしたご飯をたまには食べようと思ったのである。


お店は二人掛けのテーブルが三つと六人が座れるカウンターしかなく、こじんまりしていた。

出来るだけ人に合わないように、昼時を避けてお店に入ったため、カウンターにスーツを着たサラリーマンが一人しかいなかった。

 カウンターの隅っこに座り、流れるテレビをぼんやりと見ながらご飯を食べていた。テレビを見るのも久しぶりだった。必要なことは全てパソコンとスマホで事足りるし、正直ニュースやドラマやバラエティ番組など僕には一切必要のない代物だ。

出されたお冷には死にかけのコバエが浮いていた。バタバタと羽を動かし、必死に生きようとした。僕はコバエを手でそっと押してあげた。指を水から出すと、コバエは死に絶え、水の動きがされるがままになっていた。

 テレビに流れていたのは主婦向けの昼過ぎのバラエティ番組だった。芸能人がどこかの名物品を食べて、食レポしていた。全員顔も名前も知らない人ばかりだった。おいしいだの、もちもちしているだのありきたりな言葉が流れた後、やがて次のコーナーへと移った。

〈それでは次のコーナーに行きましょう。ネクストブレイク!〉騒がしい音楽が鳴り、拍手が聞こえる。

〈さて、このコーナーでは、次にブレイクするだろう物や人を、一足先に紹介します〉

〈はい、本日はこちらの方々に来ていただいています〉

カメラが司会者から三人の男を写した。

〈こんにちはー。僕たちユークロニアの音瀬〉

〈叶羽〉

〈海猫です〉

〈よろしくお願いしまーす〉三人が同時に頭を下げた。

〈よういちさん。彼らが誰か分かりますか?〉司会の男は近くの腹のでっぷりとした大御所のタレントに問う。

〈いやー、モデルかなんかですかね〉

〈顔も整っていますしね〉

〈かっきーはなんだと思う?〉司会の男が若手タレントに質問を振った。

〈えっニート?〉会場が笑い声で埋まる。

〈何でイケメンのニートがネクストブレイクにでてくるねん〉お笑い芸人らしき頭のつんつくてんでタンクトップを着た若い男が答える。

〈それでは彼らが何者なのか、VTRにまとめましたので、音瀬さん、Vフリお願いします〉

〈はい。それでは、VTRどうぞ〉

画面は切り替わり、ナレーションが流れ始めた。


「今、若者に圧倒的支持を得ているユークロニア、略してユークロ。彼らは一体何者なのか。
彼らは、ユーチューブを主な活動の拠点とし、「歌ってみた」や「踊ってみた」動画を投稿している今現在、若者に最も人気のある歌い手アイドルグループ。

音声合成技術で作られたボーカロイドの曲をカバーし、「踊ってみた」ではオリジナルのアクロバティックなダンスが特徴的だ。他にもツイッター、インスタグラム、ティックトックなどのSNSでも動画は上げており、現在総フォロワー数は七十万人!!そして、結成一年目にも関わらず、既に登録者数は百万人目前だ。

現在、CM出演もしており、ドラマ「君の明日にサヨナラ」の主題歌も歌っている 今度も広がっていく活動の幅に期待される。


ここで、ユークロニアの良さを街の人々に聞いてみました」

画面が変わり、人が行きかう街の映像が映し出される。

〈ユークロは歌い手なのに顔出ししていて、皆かっこいい。顔が天才!〉制服を着た高校生二人組が答える。
〈声が綺麗で、ダンスが魅力的〉顔にラメを散らし、蛍光色の洋服を着た少女が答えた。

 〈テレビのアイドルよりも、なんか身近に感じられて、それが良い〉発育の良い体に、化粧っけのない顔と太い触角、赤い眼鏡にフリルの多いワンピースを着た女の子が早口で言っている。
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