降る、ふる、かれる。

茶茶

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第二章 歌い手

テスト

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学校の中心にある噴水の水は光の粒子を飲み込んだように輝いていた。広場のベンチでくすくすと笑いあう女子大学生もキラキラして見えた。彼女らは流行の服に身をつつみ、化粧をし、綺麗に染められた髪の毛をくるくると丁寧にまいている。

ガラスに反射する僕の姿はそれらに比べてひどくみっともないもののように見えた。何度も洗濯し。首者がグダグダになった安物のティーシャツに、高校生の頃から来ているジャージ。貧相な顔に貧相な体。

こんなんじゃ誰にも友達になってくれるはずがない。僕だって僕と友達にはなりたくない。

黒いアゲハ蝶が緩い弧を描きながら空を飛んでいる。まるで素晴らしい大学生活のキャストのひとりかのように、優雅に飛び回っている。

僕はテストに遅刻しないように足を速めた。

五十人ほど入ることが出来る教室には、早くもほとんどの席が埋まっていた。半分より少し後ろの席が一つだけ空いているのを見つけ、そこに座った。

隣に座る眼鏡をかけた女学生がちらりと僕の方を見た気がした。

「問一から問三までは、過去問のままで問四の記述は毎年変わるから、とりあえずここら辺覚え解けばいいかんじ?」
「そうそう」
「ってか、教科書の三十二ページのここ、答え持ってない?教科書の省略ってマジ使えん」
「それ第三回のレジュメの裏に答えのってる」
「うわ、本当じゃん。ありがと。覚えるわ」

周りは何やら教科書やレジュメを手に今回テストの最終確認をしていた。僕は、そんな相手がいるわけもなく、ボカロをかけながら教科書を流し見していた。見てはいるけど、視線は文字を滑るばかりで、脳みそには何も入ってこない。自分のことが何か言われているんじゃないかと気が気ではなかった。

テストが始まる三分前。教授が紙の束を抱え、教室に入ってきた。教室内の騒めきはやまない。

人の個々の匂いが端から順番に埋まってゆく。右端から左端まで余すことなく、染まってゆく。圧迫感に頬をうずめた。



トンっと何かが胸を突いた。


テストを受けるために持ってきた平常心や普通に生きる力をすべて使い果たした気分だった。

どうしてだか分からないけど、とにかく無理だ、と思った。

呼吸が続けられない。

生きていられない。

あぁおちる。

おちる。

おちる。

おちる。

深い穴に落ちている。

僕が、落ちてゆく。

横になりたい。家に帰って毛布を頭からかぶりたい。生きられない。

その思いが全身を一瞬にして埋め尽くす。

前から問題用紙が配られているが僕は動けずにいた。じっと座り、苦しみが体を侵している。動けない。どうしよう。死んでしまいそうだった。

 チャイムと共にテストは始まり、シャープペンシルの芯が紙にこすれる音が一斉にして広がる。僕だけぽつりと置いて行かれている気分だった。

 解かなきゃ、と思うのに体の力が抜けてシャーペンを持つことさえできない。せめて、この場所から出てトイレに駆け込みたかったがそれもすることができなかった。

周りの人は、友達や恋人がいて、バイトをして、笑っていて、大学に通って、集中してテストを解くことが出来るのに、僕にはなにもない。人が普通にできることが全てできない。

なんで。

どうして。

僕は毎日こんなにも必死に生きているのに。神様は僕にテストを解くことさえ許してくれないのか。


真っ白の解答用紙を目の前に、苦しくて、辛くてただ静かに涙を流していた。


トプチコーネ(歌ってみた)/無夢
   無夢・二十三万回視聴・二週間前
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