降る、ふる、かれる。

茶茶

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第二章 歌い手

僕はゴミ

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僕はレジに立ち、ひたすらマニュアルをなぞっていた。

 いらっしゃいませ。お預かりいたします。カードはお持ちですか。袋はご利用なさいますか。合計で三千二百円になります。お会計失礼いたします。五千円御預かりいたします。先に大きい方が二千。そして、残りが八百円とレシートになります。こちら商品になります。ありがとうございました。いらっしゃいませ。お預かりいたします。

 気が狂いそうになるほど同じ言葉を繰り返していた。僕が発しているのに僕のものではない言葉は無責任にふわりと宙に浮き、すぐにどこかへ行ってしまう。取り戻さないと、と思って掴もうとしても、いつだって掴むのは空気だ。無責任な言葉はとても軽く、すぐにどこかへ消えてしまう。

 ずっと同じことを繰り返しているだけなのに、今日は三回もお釣りを渡し間違え、CDの予約内容を間違え、よくわからない客に怒鳴られた。

 お客さんが途切れ、僕は特にすることがなく、レジの中に入っている百円玉を数えた。以前、お客さんがくるまで何もすることが無いからと、ただ突っ立っていると「何もしない店員がいて、すごく不快になった」というクレームがきた。

 それからはすることが無くても適当に手元のメモ用紙に五十音表を書いてみたり、レジの画面を見つめて「これはこうだから」と呟いてみたり、近くにある商品のISBNを暗記したりすることにしている。

 百円玉を数え終え、今度は十円玉に手を付けた。

 店内では今流行っているジェーポップが永遠に流れている。
 一人じゃないから。ずっとそばにいるよ。永遠に。愛して。あきらめないで。大丈夫。

 そんなふざけた歌詞にありきたりな音がくっ付いた代物が金を生み出している。音だけなのに、匂いが伝わってくる。耳も鼻も塞ぎたくなる。


 店のごみを集めて裏に出、ごみ袋を三つほど投げ捨てた。ゴミ捨て場には明日持っていかれるであろうゴミたちが転がっていた。

 僕も本当はこの中にいることが正しいんじゃないかと思えてきた。僕はごみの隣に腰を下ろし、足を抱えてみた。少しだけ匂いがしたが、なんだか心地よかった。本当は僕はごみなのかもしれないと思った。

 膝の間に顔をうずめ、心地よくてうつらうつらしていると突然の轟音が降りかかってきた。

「アカサカさん、いったいなにやってるのっ」

 顔を上げてみればバイトリーダーがいた。

「いや、僕はごみなので。その」

「もういいから、あなたの訳の分からない言い訳は」バイトリーダーは僕の言葉をさえぎっていった。

「アカサカさん。とりあえずそこから立って中に入って」

 僕は言われた通りに立ち、中に入った。バイトリーダーからはぷうんと腐った花々の死体の匂いがした。

 バイトリーダーは腕を組み、「あなた、明日から来なくていいから。それから、もう今日帰っていいよ」と言った。

「えっ」と僕は小さく呟いた。

「あぁ、お給料は今日までの分はちゃんと振り込んであげるから」バイトリーダーは勝ち誇った顔で言う。

 不当解雇じゃないかと思った。一か月前に言い渡していないし、突然解雇された場合の一か月分以上の給料を払うわけでもない。

 でも、不当解雇だと口に出すことはできなかった。代わりにうなだれるように「はい」と言っただけだった。

 終業時間まで後に時間もあるというのにロッカーをガチャガチャと音を鳴らせ、帰って行く僕を、社員さんや同じバイトの人たちはちらちらち見、こそこそと何かを喋っていた。

 使えなくて、ごめんなさい。

 いっぱい迷惑かけてごめんなさい。

 心の中であやまりながら、裏口から外へ出た
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