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第一章 リスナー
リスナー、底
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人の音が消え去った空っぽの家の中で、画面から発せられる笑い声だけが響いていた。
「今年中に登録者数百万人を目指しています。なので、高評価、チャンネル登録をぜひぜひお願いします。それでは、次の動画でお会いしましょう。ばいばいー」と手を振る二人組ユーチューバーの眼には希望が宿っていた。
私はベッドの上で寝返りを打ち、関連動画に出てくる動画をタップした。陽気な音楽が流れ込んでくる。
学校に行かなくなって三週間がたった。
お母さんは最初の二、三日は学校に行けとうるさく言ったものの、何かに触発されてか一週間もたつと何も言わなくなった。
変わりに、いやな友達とかいたの?何かされた?少しくらい休んでも大学には行けるしねと猫なで声を私にかけるようになった。
夜、お腹がすいてリビングに降りた時、ダイニングテーブルの上にひきこもりの特集が組まれた本や不登校の子供のための本、公認試験やフリースクールのちらしが置いてあった。
本を手に取り、パラパラとめくっていると、「不登校の殆どは普通の大人になる」「親が悪いわけではない」「子供を責めたり、同情したりしない」の場所に定規をあてがって引いたのか、赤い線が綺麗にひかれてあった。
私は、そっと本を閉じ、冷蔵庫の中からバニラアイスを取り出したのだった。
今までは勉強に差し支えるからと、一日一時間までと決めていたユーチューブだが、ひたすら布団の中で呆けたように見るようになった。
勉強はやめた。
動画を見ている間だけが、友達も、勉強も、将来も、学校も全て考えなくてよかった。
お風呂やトイレ、ご飯など日常の隙間時間が出来るとどうしても考えてしまうし、思いだしてしまう。
だから、考える余地を与えないために、私は目を開けている間は永遠に動画を見続けた。
ゲーム実況、美容系、お絵かきチャンネル、自作短編映画、料理系、お笑い、アニメ、ブイログ、商品紹介、大食い、チャレンジ系、企画系、二チャンネルのまとめ、ASMR。
ユーチューブの全てのジャンルを網羅する勢いで見ていた。
〈お前、馬鹿じゃねーの〉
〈ぶはははっ、うけるー〉
動画の中に出てくる人は、皆楽しそうに笑っていた。
動画を見終わってしまうと、画面の向こう側との距離に寂しくなった。その寂しさを埋めるためにまた新しい動画を見る。その行為の繰り返しだった。
丸めていた足を延ばすと、布団の冷たさが自分の熱で火照った足を優しく覆う。
〈ということで、今日は質問コーナー〉
〈うぇーい〉
〈今回ね、たくさんの質問が届きました。本当にありがとうございます〉
新世代と言われている男女混合の五人グループ。
〈次の質問です。ファンとの恋愛はありですか〉
〈えー、俺はありかな。好きになったらしょうがなくない?よしきは?〉
〈おれはなしかなー。だから、俺と付き合いたかったら、視聴者じゃないふりをして近づいてください〉
それはいいのかよという黄緑のテロップの下メンバーの笑い声に包まれる。
ピロリンとメッセージが届く音がした。無視して、動画を見続けようとするが、ラインは次から次に送られてくる。やけにうるさい。通知がどんどんと溜まってゆく。
私はラインを開いた。クラスメイトがほとんど入っているグループが原因のようだ。
〈まじ?〉〈やばくない?〉〈エグっ〉〈人生終わりじゃん〉〈興奮してきた〉〈お前、不謹慎のこと言うのやめろや笑〉
メッセージがどんどんと飛んでくる。
今までりりかたちからラインが来ても、クラスのラインが動いても、全て無視していた。
しかし、今日だけは胸騒ぎがしてグループラインを開いてしまった。スマホ画面をスクロールして遡ってゆく。
男子が送ってきたURLが事の原因のようだ。
そのリンクをタップすると、ネットのアングラのサイトに飛んだ。
私は眩暈がした。
「処女女子高生、モップセックス」
百二十万回再生
「今年中に登録者数百万人を目指しています。なので、高評価、チャンネル登録をぜひぜひお願いします。それでは、次の動画でお会いしましょう。ばいばいー」と手を振る二人組ユーチューバーの眼には希望が宿っていた。
私はベッドの上で寝返りを打ち、関連動画に出てくる動画をタップした。陽気な音楽が流れ込んでくる。
学校に行かなくなって三週間がたった。
お母さんは最初の二、三日は学校に行けとうるさく言ったものの、何かに触発されてか一週間もたつと何も言わなくなった。
変わりに、いやな友達とかいたの?何かされた?少しくらい休んでも大学には行けるしねと猫なで声を私にかけるようになった。
夜、お腹がすいてリビングに降りた時、ダイニングテーブルの上にひきこもりの特集が組まれた本や不登校の子供のための本、公認試験やフリースクールのちらしが置いてあった。
本を手に取り、パラパラとめくっていると、「不登校の殆どは普通の大人になる」「親が悪いわけではない」「子供を責めたり、同情したりしない」の場所に定規をあてがって引いたのか、赤い線が綺麗にひかれてあった。
私は、そっと本を閉じ、冷蔵庫の中からバニラアイスを取り出したのだった。
今までは勉強に差し支えるからと、一日一時間までと決めていたユーチューブだが、ひたすら布団の中で呆けたように見るようになった。
勉強はやめた。
動画を見ている間だけが、友達も、勉強も、将来も、学校も全て考えなくてよかった。
お風呂やトイレ、ご飯など日常の隙間時間が出来るとどうしても考えてしまうし、思いだしてしまう。
だから、考える余地を与えないために、私は目を開けている間は永遠に動画を見続けた。
ゲーム実況、美容系、お絵かきチャンネル、自作短編映画、料理系、お笑い、アニメ、ブイログ、商品紹介、大食い、チャレンジ系、企画系、二チャンネルのまとめ、ASMR。
ユーチューブの全てのジャンルを網羅する勢いで見ていた。
〈お前、馬鹿じゃねーの〉
〈ぶはははっ、うけるー〉
動画の中に出てくる人は、皆楽しそうに笑っていた。
動画を見終わってしまうと、画面の向こう側との距離に寂しくなった。その寂しさを埋めるためにまた新しい動画を見る。その行為の繰り返しだった。
丸めていた足を延ばすと、布団の冷たさが自分の熱で火照った足を優しく覆う。
〈ということで、今日は質問コーナー〉
〈うぇーい〉
〈今回ね、たくさんの質問が届きました。本当にありがとうございます〉
新世代と言われている男女混合の五人グループ。
〈次の質問です。ファンとの恋愛はありですか〉
〈えー、俺はありかな。好きになったらしょうがなくない?よしきは?〉
〈おれはなしかなー。だから、俺と付き合いたかったら、視聴者じゃないふりをして近づいてください〉
それはいいのかよという黄緑のテロップの下メンバーの笑い声に包まれる。
ピロリンとメッセージが届く音がした。無視して、動画を見続けようとするが、ラインは次から次に送られてくる。やけにうるさい。通知がどんどんと溜まってゆく。
私はラインを開いた。クラスメイトがほとんど入っているグループが原因のようだ。
〈まじ?〉〈やばくない?〉〈エグっ〉〈人生終わりじゃん〉〈興奮してきた〉〈お前、不謹慎のこと言うのやめろや笑〉
メッセージがどんどんと飛んでくる。
今までりりかたちからラインが来ても、クラスのラインが動いても、全て無視していた。
しかし、今日だけは胸騒ぎがしてグループラインを開いてしまった。スマホ画面をスクロールして遡ってゆく。
男子が送ってきたURLが事の原因のようだ。
そのリンクをタップすると、ネットのアングラのサイトに飛んだ。
私は眩暈がした。
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