降る、ふる、かれる。

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第一章 リスナー

リスナー、いじめ

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熱気が籠り、トイレの匂いが余計きつくなっている。



私は時折、気持ち悪くなってむせた。



そうすると、「きもいんだけどー」と言いながらりりかの強い蹴りがみぞおちに入る。

私が痛がりながらもっとむせると、りりかは楽しそうに笑うのだった。



 あらかた写真を撮り終わると、今度は動画を回し始めた。



「ほら、笑えよ。ピースピース。」



 私は髪の毛を掴まれ、顔をレンズに向けさせられた。携帯の後ろのりりかの笑顔がぱちり、ぱちりと心の最下層にしかれる。



「おい、座って、足ひらけよ。なぁ、座れって」



ずっと放心状態で立っていた私は、りりかに肩を思いっきり押されて床に尻もちをついた。



「もー。ゆあちゃんはドジっ子なんだから」とリリカが言う。



タイルのひやりという感触伝わってくる。それから、二人に無理やり足を開かされた。



「ぎゃはははは、みて、まるみえー。優紀ゆあちゃんのお父さんとお母さんみてますかー。ぎゃははは」

りりかはスマホを持って私をアップにした。



「ゆあちゃんはさ処女?この、毛ちゃんと処理した方がいいよー」



りりかはドアップにして笑っている。



それから、制服のポケットからライターを取り出した。

しゅぼっという音共にちりちりと焼ける匂いが広がる。一瞬にして火は広がる。





熱い。





痛い。





「みて、まるみえ。ぐっろー」りりかは高らかに笑う。

お前らにも同じもんがついているだろうが。何がおかしいんだ。



嫌な焦げたにおいが鼻をつく。



「えぇーなんかないかなー」とりりかは掃除用具をさぐっている。



「あった。これいいじゃーん」と喜ばしそうな手にはモップがあった。



 じりじりとモップの先端が私の先に迫ってくる。



 逃げたい。

逃げてしまいたい。



私がとっさに逃げようと腰をひくと、その瞬間を二人は見逃さず、腕も足もがっちりとつかまれて、固定された。



「ナイスー」と二人を褒める声が飛ぶ。



 モップを片手に、動画を回すりりかがいる。



「ほら、やめてほしかったらお願いします。やめて下さいって頭をさげてみろよ」



「お、お願いします」私は必死に言葉をしぼりだす。



「は?全然聞こえねーよ。これ、入れてしまっていいのか」モップの先端で私の中心をつついた。



「お願いします。やめて下さい」



「ははっ、こいつ涙目になって震えてんの、うける」人を馬鹿にするりりかの目ん玉は奇妙に濡れている。



「お願いします。お願いします。何でもするから。お願いします」



りりかの顔はぐにゃりと曲がった。悪い夢を見ているみたいだ。ぐるぐるしている。りりかが鬼にも蝶にも悪魔にもミミズにも見えた。



「じゃあ、トイレの床なめてよ」



「えっ」



「できねーの?なんでもするっていったじゃん」



「いやっ、やります」



 私は膝をつき、おずおずと顔を床に近づけた。

いろんな匂いが鼻腔を埋めた。



髪の毛がはりつき、黒ずんだタイルが目の前にある。

菌とか汚れとかそういうものを全て考えるのを辞めた。



私はただ目の前のものをなめるだけだ。



できるだけ匂いをかがないように息を止めて、舐めた。ざらり、という音が脳内に大きく響いた。



「もっと、ちゃんと舐めてくんない?」



私は舌を大きくだし、顔を動かした。



こつりと何かが心に落ちてきた。



白くてすべすべした石の音。心の天井から降ってくる。



こつり、こつりと一つずつ降ってくる。



「ぎゃははははっこいつマジでトイレの床なめてるよ。やばー」

「ゆあー辞めたい?」りりかは優し気に聞いた。



私は首を縦に振った。

ほんの一ミリでもいいからりりかに善の、同情の心をもっていてほしかった。



視界の隅にうつるりりかの赤いシューズが見える。



「きゃははは、辞めねーけどな」



りりかは、私を仰向けにし、手に持っていたモップの柄の部分を私の中に力強く差し込んだ。





痛い。





お腹の底の部分が弾けてしまいそうだった。



りりかは、無遠慮にモップを出し入れしている。



痛い。



痛い。



痛い。



痛い。





「なんで、なんで。床、舐めたじゃん。服、脱いだじゃん」



なんで私がこんな目に合わないといけないの



「あぅ、あっ、いた、いたっ、あぁっ、うぅ、はぁ、あぁ、あっうっ」勝手に涙が流れてくる。



「トイレのモップとやったかんそーはどうですか。きゃははは」



心に降ってくる白い石はどんどんと増えてゆく。



腰回りがあたたかい。



「きゃー、ゆあちゃん。この年になってもお漏らしとか恥ずかしいよ」



あぁ、自分の尿で暖かいのか。



ビリビリと染みる。痛い。



石は心にいっぱいになっても止まることはない。溢れても溢れても、どんどん降ってくる。



モップの動きは止まるどころかいっそう激しくなってゆく。



いっそのこと殺してくれ。



意識が少しずつ遠のいてゆく。匂いが、音が、光が、痛みが無へ帰してゆく。



そして、いつのまにか私は四角い箱の底にいた。
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