恋の魔眼で見つめたら

立花鏡河

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7 ダンス王子VSさわやか王子

第15話

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 黒魔女のマヤと出会い、魅了の魔眼を与えられてから一週間がたった。
 みんなにチヤホヤされ、わたしはすっかり学園の注目のマトだ。
 これ以上、暗示にかかるひとを増やさないため、至近距離で見つめあわないことを心がけているけれど……。

 赤くなってしまったわたしの目は、のぞきこみたくなる衝動を誘うらしい。
 ふいにのぞきこまれては、どうしようもない。
 そうした不可抗力で、新たにクラスメイト四人、べつのクラスの生徒七人、さらに三人の先生までわたしに魅了されてしまった。

 今までの生活が一変!
 学園にいる間、わたしはずっとだれかといっしょだ。
 そうした状況にも、わたし自身、慣れてきた部分もあるけれど。

「ちょっとみんな、静かにしてよ。ここ図書室だからね?」

 放課後、図書室のカウンターの内側に腰かけて、眉をひそめるわたし。
 図書委員をやっているわたしは、今日が当番なんだけれど……。
 部活に行った子をのぞいて、わたしといたがる何人かがついてきてしまった。
 なかには岩田くんと佐々木さんもいる。

「はーい」

 みんな素直に返事して、席についておとなしく本を読みはじめた。
 暗示にかかっている子は、わたしに好意を持っているから、嫌われたくない気持ちが働くらしく。
 強気の態度で接すると、意外とすんなり言うことを聞いてくれることに気づいたんだ。
 おかげで、わたしのキャラが変わったと思われているはず。
 賢ちゃんと接しているときの“素”が出るようになっただけなんだけど。

 そういえば、賢ちゃんからは何の連絡もない。
 魔石を取りだす方法はまだ見つからないのかな?

「これ借りるよ」

 物思いにふけっていたら、スッと本を差しだされた。

「はい。図書カードをお願いします……って!?」
「よう」

 岸くんだ!
 相変わらずのクールな表情で、わたしを見おろしている。
 みんなが気づいて図書室がざわめいたけれど、岸くんは気にする様子がない。

「ちょっと話せないか?」
「仕事中だから……。では、二週間以内に返却してください」

 ドギマギしつつ、淡々と貸し出しの手続きをすませる。
 本を受けとっても、岸くんは動かなかった。

「つむぎ、なんでおれをさけるんだ?」
「さけてないよ」
「そうか?」

 疑わしげな目線を向けてくる岸くん。
 たしかに、わたしは岸くんをさけていた。
 廊下や校庭で見かけるたび、逃げていたし。

「……この前、おれがあんなことを言ったからか? 気を悪くしたならあやまるよ」

 あやまらなくちゃいけないのは、わたし。
 魅了の魔眼で暗示にかからなければ、岸くんはみんなの前であんなことは言わなかった。
 それなのに胸がときめいてしまった自分もいて。
 わたしは本当に罰当たりだ。
 そのことが心苦しくて、申し訳なくて、わたしはずっと岸くんをさけていたんだ。

「――でも、冗談で言ったワケじゃないんだぜ? おれは本気でつむぎのこと……」
「あのっ! わたし今、図書委員の仕事中だから!」

 自分でもびっくりするくらい大きな声を出してしまった。

「あっ……」

 あわてて口をおさえる。
 みんながこちらに注目していた。
 佐々木さんはにんまりしているし、岩田くんは苦虫をつぶしたような顔で見ている。

「ちょっとだけでも話せないか?」

 なおも岸くんが食い下がると。

「つむぎちゃん。あたしが代わるから、ふたりで話してきたら?」

 佐々木さんが気をつかって申し出てくれた。

「悪ぃな、佐々木」
「ううん、いいのよ」

 顔を赤らめながら岸くんに言うと、佐々木さんはわたしに耳打ちした。

「男子は怒るだろうけど、あたしとしては、つむぎちゃんに幸せになってもらいたいからさ。ふたりを応援することにしたよ」

 ううっ、そこまで言われては無下むげに断るわけにもいかないよ。

「あ、ありがとう、綾乃ちゃん。じゃあ、ちょっとだけお願い」

 佐々木さんにまかせて、わたしと岸くんは図書室を出た。

「あっち行こうぜ」

 ポケットに手をつっこみ、スタスタ歩く岸くんのあとをついていく。
 岸くんは一番強い暗示にかかっちゃってるような気がする。
 何を言われるんだろう?
 逃げだしたいキモチと、ふたりきりで話したいキモチと。

 岸くんが立ちどまったのは、北校舎と南校舎をつなぐ渡り廊下だった。
 手すりに両腕をのせた岸くんの横に立つわたし。
 中庭の花壇が見下ろせるけれど、最上階だから、下を向くのはちょっとこわい。

「「この前は……」」

 話しだすタイミングと、言葉までカブったから、わたしたちは顔を見あわせて苦笑いした。

「岸くんからどうぞ」
「マジで悪かったよ。早野たちが好き勝手言いやがるからさ、頭に血がのぼったんだよ。冗談じゃねーよ、つむぎは渡さねえって……。おれ、つむぎに本気で惚れたんだ。……でも、おまえのキモチ考えずに強引だったよな。ごめんな」

 岸くんが眉を下げたのを見て、後ろめたさで胸がズキズキと痛んだ。
 あやまらないで!
 すべては、魅了の魔眼のせい。
 でも、そんなことをいきなり説明したって、納得するのは賢ちゃんくらいのもの。
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