恋の魔眼で見つめたら

立花鏡河

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3 わたしがクラスの人気者!?

第7話

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「ちょ、ちょっとトイレ……」
「じゃあ、あたしたちもいっしょに……」

 席を立ったわたしに、佐々木さんたちもついてこようとした。

「ううん、ひとりで行きたいから……」
「待ってよ、つむぎちゃん!」

 わたしは必死に走って、追いかけてくる女子をふりきった。
 トイレを素通りして、昇降口まで降りて、校庭に出る。
 ボール遊びしている子らを横目に、わたしは、じょうろで花壇の花に水やりしていった。

 自分が園芸部に所属していて、今日が水やりの当番だと思いだしたんだ。
 そして、校庭から離れて、人気のない中庭へと移動した。
 花壇にはコスモスがピンクの花を咲かせ、今が見ごろ。さらにパンジーも開花したところだ。
 ここはあまり生徒が寄りつかないので、他人の目を気にしないで落ち着ける場所で。
 わたしにとって、秘密の花園――。

「はぁ。やっぱり、わたしは人気者なんてガラじゃないんだね」

 ため息とひとりごとが口からこぼれ出る。
 魅了の魔眼のおかげで「みんなにチヤホヤされたい」という願いはかなった。
 最初はうれしくてテンション上がったけれど、みんなの視線をあつめる状態に慣れてないから疲れてしまって……。
 人気者って、大変だ。
 もう、みんなの暗示をといちゃおうかなぁ。

 ブレザーのポケットからハンカチを取りだして、くるんであった魔除けの水晶玉を見つめる。
 ――と、足音がして、ひとりの男の子がやってきた。
 あわててハンカチをしまう。

 ドキッ。
 同じ二年生のきし湊斗みなとくんだ!
 クラスが離れているから話したことはないけれど、名前と顔はしっかり一致する。
 この学園には四人のイケメン王子がいて。
 岸くんは、そのうちのひとり。
 学園のウワサ話にうといわたしだって、それくらいは知ってる。

 スラッと背が高くて、うっすら茶色い髪が、陽光を反射してキラキラ光っている。
 切れ長の瞳は涼やかだし、鼻すじはよく通っていて、見とれてしまうほど美しい顔立ち――。
 つまりはイケメン!
 水やりの手が止まったわたしと、花壇をはさんで、岸くんの視線がまじわる。

「ここ、落ち着く場所だな」

 えっ、わたしが話しかけられたんだよね?
 あわてて周りを見わたしたけれど、ほかにはだれもいない。

「は、はい……。その……人はあんまり来ないかと……」

 たどたどしく答えるわたし。
 さっきまでクラスの主役として堂々としていた自分は、どこかに行ってしまった。
 これじゃ、いつものわたしだよ。
 岸くんはわたしを見つめたまま口をひらいた。

「おれ、二年C組の岸湊斗」

 もちろん知ってます!
 学園の人気者なのに、自分からしっかりと名前を言ってくれることに誠実さを感じる。

「あっ、わたしは二年A組の吉丸つむぎ……です」

 あわてて、わたしも名乗る。
 すると――。

「知ってる」

 岸くんが事もなげに言ったから、びっくりしてしまった。
 えっ、わたしなんかのことをどうして……?
 ううん、「友だちがいない、ひとりぼっちの女子」だと陰口をたたかれているのを耳にしたのかもしれない。
 ひとり納得していたら、岸くんは中庭を見わたして。

「おれ、ダンス動画やってんだけどさ……」
「はあ……」

 それも知ってます。
 岸くんの異名は【ダンス王子】だもん。
 ダンス部に入ってて、高等部にも彼にかなう先輩はいないくらい、飛びぬけてダンスがうまい。
 さらに岸くんは自分のダンスを動画投稿サイトにアップしていて、それが大人気で、テレビでも紹介されたほど。
 
 ……以上のことは、クラスの女子たちが話しているのが耳に入ったんだけど。
 ちなみに、動画はチラッと見たことがある。
 たしかにうますぎて、【ダンス王子】の異名はダテじゃないと思った。
 わたしなんかとは住む世界がちがう男の子だ。

 それなのに……。
 岸くんは笑顔こそ見せないけれど、わたしにざっくばらんに話しかけてくれている。

「いつも学校の屋上とか、橋の下で撮ってて、ワンパターンになってたんだよね。こういう花が咲いてる場所で撮ってみるのもいいかなって……」

 それは素敵だけど、じゃあ、わたしは邪魔だよね?

「あっ、ごめんなさい! すぐにどきますから……」

 立ち去ろうとしたわたしを、岸くんは手で制して、
「いや、いいって。吉丸は園芸部なんだろ? おれがあとから来たんだし……」
「でも……撮影は……?」
「今日はリハーサル動画が撮れりゃいいかなって」

 岸くんはスマホを取りだして、地面にセッティングしはじめた。
 花壇をバックにダンスしているところを撮影するみたい。
 そうこうしているうちに水やりは終わってしまった。
 基本的に、コスモスもパンジーも、水分は少しでいいし、やりすぎは根腐ねくされの原因になっちゃう。

「あの……水やり終わったから、わたし行きますね」
「あっ、ちょっと。もし良かったら、動画に出てくれないか?」
「ええっ!?」

 ど、どういうこと――――っ!?
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