7 / 51
3 わたしがクラスの人気者!?
第7話
しおりを挟む
「ちょ、ちょっとトイレ……」
「じゃあ、あたしたちもいっしょに……」
席を立ったわたしに、佐々木さんたちもついてこようとした。
「ううん、ひとりで行きたいから……」
「待ってよ、つむぎちゃん!」
わたしは必死に走って、追いかけてくる女子をふりきった。
トイレを素通りして、昇降口まで降りて、校庭に出る。
ボール遊びしている子らを横目に、わたしは、じょうろで花壇の花に水やりしていった。
自分が園芸部に所属していて、今日が水やりの当番だと思いだしたんだ。
そして、校庭から離れて、人気のない中庭へと移動した。
花壇にはコスモスがピンクの花を咲かせ、今が見ごろ。さらにパンジーも開花したところだ。
ここはあまり生徒が寄りつかないので、他人の目を気にしないで落ち着ける場所で。
わたしにとって、秘密の花園――。
「はぁ。やっぱり、わたしは人気者なんてガラじゃないんだね」
ため息とひとりごとが口からこぼれ出る。
魅了の魔眼のおかげで「みんなにチヤホヤされたい」という願いはかなった。
最初はうれしくてテンション上がったけれど、みんなの視線をあつめる状態に慣れてないから疲れてしまって……。
人気者って、大変だ。
もう、みんなの暗示をといちゃおうかなぁ。
ブレザーのポケットからハンカチを取りだして、くるんであった魔除けの水晶玉を見つめる。
――と、足音がして、ひとりの男の子がやってきた。
あわててハンカチをしまう。
ドキッ。
同じ二年生の岸湊斗くんだ!
クラスが離れているから話したことはないけれど、名前と顔はしっかり一致する。
この学園には四人のイケメン王子がいて。
岸くんは、そのうちのひとり。
学園のウワサ話に疎いわたしだって、それくらいは知ってる。
スラッと背が高くて、うっすら茶色い髪が、陽光を反射してキラキラ光っている。
切れ長の瞳は涼やかだし、鼻すじはよく通っていて、見とれてしまうほど美しい顔立ち――。
つまりはイケメン!
水やりの手が止まったわたしと、花壇をはさんで、岸くんの視線がまじわる。
「ここ、落ち着く場所だな」
えっ、わたしが話しかけられたんだよね?
あわてて周りを見わたしたけれど、ほかにはだれもいない。
「は、はい……。その……人はあんまり来ないかと……」
たどたどしく答えるわたし。
さっきまでクラスの主役として堂々としていた自分は、どこかに行ってしまった。
これじゃ、いつものわたしだよ。
岸くんはわたしを見つめたまま口をひらいた。
「おれ、二年C組の岸湊斗」
もちろん知ってます!
学園の人気者なのに、自分からしっかりと名前を言ってくれることに誠実さを感じる。
「あっ、わたしは二年A組の吉丸つむぎ……です」
あわてて、わたしも名乗る。
すると――。
「知ってる」
岸くんが事もなげに言ったから、びっくりしてしまった。
えっ、わたしなんかのことをどうして……?
ううん、「友だちがいない、ひとりぼっちの女子」だと陰口をたたかれているのを耳にしたのかもしれない。
ひとり納得していたら、岸くんは中庭を見わたして。
「おれ、ダンス動画やってんだけどさ……」
「はあ……」
それも知ってます。
岸くんの異名は【ダンス王子】だもん。
ダンス部に入ってて、高等部にも彼にかなう先輩はいないくらい、飛びぬけてダンスがうまい。
さらに岸くんは自分のダンスを動画投稿サイトにアップしていて、それが大人気で、テレビでも紹介されたほど。
……以上のことは、クラスの女子たちが話しているのが耳に入ったんだけど。
ちなみに、動画はチラッと見たことがある。
たしかにうますぎて、【ダンス王子】の異名はダテじゃないと思った。
わたしなんかとは住む世界がちがう男の子だ。
それなのに……。
岸くんは笑顔こそ見せないけれど、わたしにざっくばらんに話しかけてくれている。
「いつも学校の屋上とか、橋の下で撮ってて、ワンパターンになってたんだよね。こういう花が咲いてる場所で撮ってみるのもいいかなって……」
それは素敵だけど、じゃあ、わたしは邪魔だよね?
「あっ、ごめんなさい! すぐにどきますから……」
立ち去ろうとしたわたしを、岸くんは手で制して、
「いや、いいって。吉丸は園芸部なんだろ? おれがあとから来たんだし……」
「でも……撮影は……?」
「今日はリハーサル動画が撮れりゃいいかなって」
岸くんはスマホを取りだして、地面にセッティングしはじめた。
花壇をバックにダンスしているところを撮影するみたい。
そうこうしているうちに水やりは終わってしまった。
基本的に、コスモスもパンジーも、水分は少しでいいし、やりすぎは根腐れの原因になっちゃう。
「あの……水やり終わったから、わたし行きますね」
「あっ、ちょっと。もし良かったら、動画に出てくれないか?」
「ええっ!?」
ど、どういうこと――――っ!?
「じゃあ、あたしたちもいっしょに……」
席を立ったわたしに、佐々木さんたちもついてこようとした。
「ううん、ひとりで行きたいから……」
「待ってよ、つむぎちゃん!」
わたしは必死に走って、追いかけてくる女子をふりきった。
トイレを素通りして、昇降口まで降りて、校庭に出る。
ボール遊びしている子らを横目に、わたしは、じょうろで花壇の花に水やりしていった。
自分が園芸部に所属していて、今日が水やりの当番だと思いだしたんだ。
そして、校庭から離れて、人気のない中庭へと移動した。
花壇にはコスモスがピンクの花を咲かせ、今が見ごろ。さらにパンジーも開花したところだ。
ここはあまり生徒が寄りつかないので、他人の目を気にしないで落ち着ける場所で。
わたしにとって、秘密の花園――。
「はぁ。やっぱり、わたしは人気者なんてガラじゃないんだね」
ため息とひとりごとが口からこぼれ出る。
魅了の魔眼のおかげで「みんなにチヤホヤされたい」という願いはかなった。
最初はうれしくてテンション上がったけれど、みんなの視線をあつめる状態に慣れてないから疲れてしまって……。
人気者って、大変だ。
もう、みんなの暗示をといちゃおうかなぁ。
ブレザーのポケットからハンカチを取りだして、くるんであった魔除けの水晶玉を見つめる。
――と、足音がして、ひとりの男の子がやってきた。
あわててハンカチをしまう。
ドキッ。
同じ二年生の岸湊斗くんだ!
クラスが離れているから話したことはないけれど、名前と顔はしっかり一致する。
この学園には四人のイケメン王子がいて。
岸くんは、そのうちのひとり。
学園のウワサ話に疎いわたしだって、それくらいは知ってる。
スラッと背が高くて、うっすら茶色い髪が、陽光を反射してキラキラ光っている。
切れ長の瞳は涼やかだし、鼻すじはよく通っていて、見とれてしまうほど美しい顔立ち――。
つまりはイケメン!
水やりの手が止まったわたしと、花壇をはさんで、岸くんの視線がまじわる。
「ここ、落ち着く場所だな」
えっ、わたしが話しかけられたんだよね?
あわてて周りを見わたしたけれど、ほかにはだれもいない。
「は、はい……。その……人はあんまり来ないかと……」
たどたどしく答えるわたし。
さっきまでクラスの主役として堂々としていた自分は、どこかに行ってしまった。
これじゃ、いつものわたしだよ。
岸くんはわたしを見つめたまま口をひらいた。
「おれ、二年C組の岸湊斗」
もちろん知ってます!
学園の人気者なのに、自分からしっかりと名前を言ってくれることに誠実さを感じる。
「あっ、わたしは二年A組の吉丸つむぎ……です」
あわてて、わたしも名乗る。
すると――。
「知ってる」
岸くんが事もなげに言ったから、びっくりしてしまった。
えっ、わたしなんかのことをどうして……?
ううん、「友だちがいない、ひとりぼっちの女子」だと陰口をたたかれているのを耳にしたのかもしれない。
ひとり納得していたら、岸くんは中庭を見わたして。
「おれ、ダンス動画やってんだけどさ……」
「はあ……」
それも知ってます。
岸くんの異名は【ダンス王子】だもん。
ダンス部に入ってて、高等部にも彼にかなう先輩はいないくらい、飛びぬけてダンスがうまい。
さらに岸くんは自分のダンスを動画投稿サイトにアップしていて、それが大人気で、テレビでも紹介されたほど。
……以上のことは、クラスの女子たちが話しているのが耳に入ったんだけど。
ちなみに、動画はチラッと見たことがある。
たしかにうますぎて、【ダンス王子】の異名はダテじゃないと思った。
わたしなんかとは住む世界がちがう男の子だ。
それなのに……。
岸くんは笑顔こそ見せないけれど、わたしにざっくばらんに話しかけてくれている。
「いつも学校の屋上とか、橋の下で撮ってて、ワンパターンになってたんだよね。こういう花が咲いてる場所で撮ってみるのもいいかなって……」
それは素敵だけど、じゃあ、わたしは邪魔だよね?
「あっ、ごめんなさい! すぐにどきますから……」
立ち去ろうとしたわたしを、岸くんは手で制して、
「いや、いいって。吉丸は園芸部なんだろ? おれがあとから来たんだし……」
「でも……撮影は……?」
「今日はリハーサル動画が撮れりゃいいかなって」
岸くんはスマホを取りだして、地面にセッティングしはじめた。
花壇をバックにダンスしているところを撮影するみたい。
そうこうしているうちに水やりは終わってしまった。
基本的に、コスモスもパンジーも、水分は少しでいいし、やりすぎは根腐れの原因になっちゃう。
「あの……水やり終わったから、わたし行きますね」
「あっ、ちょっと。もし良かったら、動画に出てくれないか?」
「ええっ!?」
ど、どういうこと――――っ!?
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
小学生の働き方改革
芸州天邪鬼久時
児童書・童話
竹原 翔 は働いていた。彼の母は病院で病に伏せていて稼ぎは入院費に充てられている。ただそれはほんの少し。翔が働くきっかけ母はなのだがそれを勧めのたのは彼の父だった。彼は父に自分が母に対して何かできないかを聞いた。するとちちはこう言った。
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。
広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ!
待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの?
「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」
国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる