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1 黒き魔女
第3話
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「いえ、大丈夫よ。ケガではないの。魔力切れをおこしているのよ。全身に痛みが走って、こうして動けなくなる」
「魔力切れ……?」
「この三日間、あたしはウィッチハンターと戦っては逃げ、戦っては逃げ……をくり返していたのよ。この長閑市にたどり着いたとき、魔力切れを起こしてしまって……」
「えっと……ウィッチ……ハンター……?」
わたしの頭のなかは「?」で埋めつくされている。
「大昔、ヨーロッパやアメリカで【魔女狩り】が行われたことは知っているかしら?」
「ええ、知ってますけど……」
こくりと、うなずくわたし。
「魔女とは無関係の人がたくさん処刑されてしまったことで有名だけれど、人に仇なす黒き魔女――いわゆる黒魔女も処刑されたわ。でも、命からがら、逃げた黒魔女もいたのよ。なかには、日本に逃げのびた黒魔女も……」
「日本に……ですか!?」
「あたしはその末裔。だけど、悪さはしないわ。魔力を持っているだけなの。信じて!」
女の人は、うるんだ瞳で、わたしの腕をつかんだ。
「わ、わかりました。落ち着いてください」
「生きのびた黒魔女を倒そうというウィッチハンターが、今の世にもいるのよ。あたしは、やつらに追われているの。魔力切れの苦痛をやわらげるために黒猫に変身して、この神社に隠れていたら、野良猫たちに目をつけられてね。あなたのおかげで助かったわ」
「はあ……」
「あたしの名前は、霊仙マヤ。あなたは?」
わたしはためらいつつも教えた。
「吉丸つむぎです」
「つむぎ……。いい名前ね」
マヤはニコッとほほ笑んで、手をのばしてきた。
「つむぎ、手を出して」
言われるまま、手を出すと。
マヤは、わたしの手のひらに、黒い石を落とした。
「受け取ってくれるかしら?」
「これは……?」
「助けてくれたお礼よ。あたしが魔法をかけてあるから、その石に願いごとをするといいわ。きっとかなえてくれるから……」
「ええっ……」
黒い石は、森の木漏れ日を反射して、ぎらぎらと輝いている。
なんだか胸がざわついて、受け取ってもいいものか、迷っていたら。
「大切に持っていてね」
マヤは、ひんやりと冷たい両手でわたしの手を包み、黒い石を握りこませた。
「はい……」
とまどいつつうなずくと、マヤはよろよろと立ちあがった。
「大丈夫ですか?」
あわてて手を貸したわたしは、ぽきりと折れてしまいそうなからだに息をのんだ。
わたしよりずっと背が高く、スタイルはいいけれど、まるで人間味がなくて、美しい人形や彫刻を思わせる。
「大丈夫よ。しばらく休めば魔力は回復するから……。じゃあ、あたしは行くわね」
歩きだしたマヤを、ぼわん! と白い煙が包む。
そして、煙が晴れると、ふたたび黒猫の姿に戻っていた。
「マヤさん……」
わたしがつぶやくと、黒猫はふり返った。
「猫の姿になっていると、魔力切れの苦痛はやわらぐの。まだこのあたりにウィッチハンターがいるから、あたしは隠れているわ。さようなら、つむぎ」
黒猫はマヤの声で別れを告げ、走り去ってしまった。
えっと……これは夢…………?
わたしは、しばらく、ぽーっと立ちつくしていて。
ようやく我に返ると、黒い石をぎゅっと握っていたことに気づいた。
夢なんかじゃない。
わたし、本物の魔女に会っちゃったよ!
「魔力切れ……?」
「この三日間、あたしはウィッチハンターと戦っては逃げ、戦っては逃げ……をくり返していたのよ。この長閑市にたどり着いたとき、魔力切れを起こしてしまって……」
「えっと……ウィッチ……ハンター……?」
わたしの頭のなかは「?」で埋めつくされている。
「大昔、ヨーロッパやアメリカで【魔女狩り】が行われたことは知っているかしら?」
「ええ、知ってますけど……」
こくりと、うなずくわたし。
「魔女とは無関係の人がたくさん処刑されてしまったことで有名だけれど、人に仇なす黒き魔女――いわゆる黒魔女も処刑されたわ。でも、命からがら、逃げた黒魔女もいたのよ。なかには、日本に逃げのびた黒魔女も……」
「日本に……ですか!?」
「あたしはその末裔。だけど、悪さはしないわ。魔力を持っているだけなの。信じて!」
女の人は、うるんだ瞳で、わたしの腕をつかんだ。
「わ、わかりました。落ち着いてください」
「生きのびた黒魔女を倒そうというウィッチハンターが、今の世にもいるのよ。あたしは、やつらに追われているの。魔力切れの苦痛をやわらげるために黒猫に変身して、この神社に隠れていたら、野良猫たちに目をつけられてね。あなたのおかげで助かったわ」
「はあ……」
「あたしの名前は、霊仙マヤ。あなたは?」
わたしはためらいつつも教えた。
「吉丸つむぎです」
「つむぎ……。いい名前ね」
マヤはニコッとほほ笑んで、手をのばしてきた。
「つむぎ、手を出して」
言われるまま、手を出すと。
マヤは、わたしの手のひらに、黒い石を落とした。
「受け取ってくれるかしら?」
「これは……?」
「助けてくれたお礼よ。あたしが魔法をかけてあるから、その石に願いごとをするといいわ。きっとかなえてくれるから……」
「ええっ……」
黒い石は、森の木漏れ日を反射して、ぎらぎらと輝いている。
なんだか胸がざわついて、受け取ってもいいものか、迷っていたら。
「大切に持っていてね」
マヤは、ひんやりと冷たい両手でわたしの手を包み、黒い石を握りこませた。
「はい……」
とまどいつつうなずくと、マヤはよろよろと立ちあがった。
「大丈夫ですか?」
あわてて手を貸したわたしは、ぽきりと折れてしまいそうなからだに息をのんだ。
わたしよりずっと背が高く、スタイルはいいけれど、まるで人間味がなくて、美しい人形や彫刻を思わせる。
「大丈夫よ。しばらく休めば魔力は回復するから……。じゃあ、あたしは行くわね」
歩きだしたマヤを、ぼわん! と白い煙が包む。
そして、煙が晴れると、ふたたび黒猫の姿に戻っていた。
「マヤさん……」
わたしがつぶやくと、黒猫はふり返った。
「猫の姿になっていると、魔力切れの苦痛はやわらぐの。まだこのあたりにウィッチハンターがいるから、あたしは隠れているわ。さようなら、つむぎ」
黒猫はマヤの声で別れを告げ、走り去ってしまった。
えっと……これは夢…………?
わたしは、しばらく、ぽーっと立ちつくしていて。
ようやく我に返ると、黒い石をぎゅっと握っていたことに気づいた。
夢なんかじゃない。
わたし、本物の魔女に会っちゃったよ!
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