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11 パーティータイム!
第30話
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◆
「いらっしゃい!」
ドアを開けて、お客さまを迎え入れる。
「こんにちは」
立っていたのは、美月と弦一郎さん。
美月は長い髪をポニーテールにして、水色のセーラーえりのついたTシャツに、ふわふわフリルのついたレモン色のショートパンツを合わせている。
「わあっ! 美月かわいい!」
「……そう? ありがと」
はにかむ美月。
もうっ! 最強にかわいいんですけどっ!
――対して、あたしは着古したピンクのTシャツ(謎の英字プリントつき)に、ジーンズだし。
学校に着て行っている格好と代わりばえしない。
もっと、おしゃれすればよかった……。
後悔したあたしと、弦一郎さんの目が合う。
当然、弦一郎さんは小さな女の子の姿で、ギンガムチェックのワンピースを着ていた。
「わあっ! 弦一郎さんもかわいいっ!」
めちゃくちゃ似合ってるし!
ホントは美月のお父さんだけどね……。
テンション上がってたら、美月と弦一郎さんがくちびるに指をあてて、必死に「しーっ」ってやってるのに気づいた。
「やあ、いらっしゃい」
玄関までパパがやってきて、にこやかに声をかける。
そうだ。あたしのパパの前では、弦一郎さんはあくまでも美月の妹だった。
事前に話しあって、五歳の菜月ちゃんという設定でいこうと決めたの。
「パパ! 紹介するね。青柳美月さんと、妹の菜月ちゃん」
あわててふたりを紹介すると、パパはにっこりとうなずいて、
「ヒナタの父です。娘と仲よくしてくれて、ありがとうね。さあ、上がって」
と、うながした。
あたしの家は、二階建ての一戸建て。
割と広くて気に入っているけれど、パパとふたりで住むには広すぎるし、正直さびしいと思うこともある。
美月と菜月ちゃんが来てくれて、一気に家の中が、本来の温もりを取りもどしたような気がした。
一階のリビングに美月たちを案内すると、ふたりは「広いなあ」と声をもらして、きょろきょろと見回した。
「菜月ちゃんは座って待ってて。お姉ちゃんとあたしで、うんとおいしい料理をつくるからね」
ホントは美月たちが来る時間に合わせて、料理を用意しておくつもりだったけれど、美月に「料理を教えてほしい」と頼まれたので、ふたりでいっしょにつくることにしたんだ。
メニューは、ハンバーグとポテトサラダとコ―ンスープ。あとは、おやつにドーナツも。
食材はすでに用意してある。
ダイニングキッチンに移って、美月にエプロンを貸してあげると、よく似合う!
かわいいなぁ……。
「ヤダ、照れるから、そんなに見ないでよ」
美月にじろりとにらまれたから、目をそらして軽くせき払いする。
「さあ、つくろうか」
腕まくりすると、本棚に見とれている菜月ちゃんが目に入った。
パパは本をたくさん持っていて、自分の部屋に入りきらないから、リビングの本棚にもいっぱい本を並べている。
「これ、読んだことある」
そう言いながら、一冊の本をつかむ菜月ちゃん。
それはパパが書いた小説だった。
「えっ!? ホントに!?」
パパはおどろきの声をあげたけど、すぐに苦笑いして。
「これはね、僕が書いたミステリー小説だよ。でも、菜月ちゃんにはちょっと難しいんじゃ……」
「主人公の探偵と、相棒の女子大生がケンカしながら、いっしょに謎解きしていくのが面白い。どんでん返しあるし、ふたりの関係性が変化していくのも、恋愛ものの要素あって好き。朝日奈紅陽先生の作品は全部読んでるよ。ミステリーだけど、人間のやさしさを描いてるのが、すばらしいと思う」
ちょっと菜月ちゃん! それは五歳の感想じゃないってば!
おそるおそる、パパの反応をうかがうと――。
「うおおっ! 君はすごいね! じゃあね、こっちもぜひ読んでほしいな。僕が大・大・大ソンケーしてる月城満夜先生の作品も――」
「それも全部読んでる」
「なにーーーーっ! じゃ……じゃあ、こっちは……」
心配はないみたい。
パパはぬけてるところあるし、あの様子じゃ、菜月ちゃんの中身が美月のお父さん――弦一郎さんにして月城満夜だって、気づくことはなさそう。
あたしは美月と顔を見合わせ、くすくすと笑った。
「さあ、まずはハンバーグつくろう!」
「OKよ!」
美月の左目が青く光った。
「ああっ! 魔眼使うの? ズルいよ、それは」
パパに聞こえないよう、声を落として言う。
「いいじゃない。早く料理を覚えたいもの」
美月は楽しそうに鼻歌を歌い始めた。
しょうがないな~。
「じゃあ、まずは玉ねぎのみじん切り!」
「うん! それから?」
「フライパンにサラダ油をひいて、じっくり玉ねぎを炒める!」
「それから?」
「ボウルに合びき肉を入れておいて、炒めた玉ねぎを加える!」
「はいはい、それから?」
「パン粉、牛乳、にんにくすりおろし、塩、砂糖、こしょうも加えて、よく混ぜる! これがハンバーグのタネになるの」
「なるほど~」
【水】の魔眼を発動させた美月は、ダンスのときと同じように、あたしの指示と動きに合わせて、テキパキと動いた。
それはもう水が流れるように、無駄がなく、手ぎわもよくて……。
あっという間にハンバーグ、ポテトサラダ、コ―ンスープが完成!
「よしっ! じゃあ、このままドーナツもつくっちゃおうか? 焼きドーナツなら、油で揚げなくても、オーブンで簡単にできるよ。外はサクッと、中はふんわりを目指そう!」
「おおーっ!」
「いらっしゃい!」
ドアを開けて、お客さまを迎え入れる。
「こんにちは」
立っていたのは、美月と弦一郎さん。
美月は長い髪をポニーテールにして、水色のセーラーえりのついたTシャツに、ふわふわフリルのついたレモン色のショートパンツを合わせている。
「わあっ! 美月かわいい!」
「……そう? ありがと」
はにかむ美月。
もうっ! 最強にかわいいんですけどっ!
――対して、あたしは着古したピンクのTシャツ(謎の英字プリントつき)に、ジーンズだし。
学校に着て行っている格好と代わりばえしない。
もっと、おしゃれすればよかった……。
後悔したあたしと、弦一郎さんの目が合う。
当然、弦一郎さんは小さな女の子の姿で、ギンガムチェックのワンピースを着ていた。
「わあっ! 弦一郎さんもかわいいっ!」
めちゃくちゃ似合ってるし!
ホントは美月のお父さんだけどね……。
テンション上がってたら、美月と弦一郎さんがくちびるに指をあてて、必死に「しーっ」ってやってるのに気づいた。
「やあ、いらっしゃい」
玄関までパパがやってきて、にこやかに声をかける。
そうだ。あたしのパパの前では、弦一郎さんはあくまでも美月の妹だった。
事前に話しあって、五歳の菜月ちゃんという設定でいこうと決めたの。
「パパ! 紹介するね。青柳美月さんと、妹の菜月ちゃん」
あわててふたりを紹介すると、パパはにっこりとうなずいて、
「ヒナタの父です。娘と仲よくしてくれて、ありがとうね。さあ、上がって」
と、うながした。
あたしの家は、二階建ての一戸建て。
割と広くて気に入っているけれど、パパとふたりで住むには広すぎるし、正直さびしいと思うこともある。
美月と菜月ちゃんが来てくれて、一気に家の中が、本来の温もりを取りもどしたような気がした。
一階のリビングに美月たちを案内すると、ふたりは「広いなあ」と声をもらして、きょろきょろと見回した。
「菜月ちゃんは座って待ってて。お姉ちゃんとあたしで、うんとおいしい料理をつくるからね」
ホントは美月たちが来る時間に合わせて、料理を用意しておくつもりだったけれど、美月に「料理を教えてほしい」と頼まれたので、ふたりでいっしょにつくることにしたんだ。
メニューは、ハンバーグとポテトサラダとコ―ンスープ。あとは、おやつにドーナツも。
食材はすでに用意してある。
ダイニングキッチンに移って、美月にエプロンを貸してあげると、よく似合う!
かわいいなぁ……。
「ヤダ、照れるから、そんなに見ないでよ」
美月にじろりとにらまれたから、目をそらして軽くせき払いする。
「さあ、つくろうか」
腕まくりすると、本棚に見とれている菜月ちゃんが目に入った。
パパは本をたくさん持っていて、自分の部屋に入りきらないから、リビングの本棚にもいっぱい本を並べている。
「これ、読んだことある」
そう言いながら、一冊の本をつかむ菜月ちゃん。
それはパパが書いた小説だった。
「えっ!? ホントに!?」
パパはおどろきの声をあげたけど、すぐに苦笑いして。
「これはね、僕が書いたミステリー小説だよ。でも、菜月ちゃんにはちょっと難しいんじゃ……」
「主人公の探偵と、相棒の女子大生がケンカしながら、いっしょに謎解きしていくのが面白い。どんでん返しあるし、ふたりの関係性が変化していくのも、恋愛ものの要素あって好き。朝日奈紅陽先生の作品は全部読んでるよ。ミステリーだけど、人間のやさしさを描いてるのが、すばらしいと思う」
ちょっと菜月ちゃん! それは五歳の感想じゃないってば!
おそるおそる、パパの反応をうかがうと――。
「うおおっ! 君はすごいね! じゃあね、こっちもぜひ読んでほしいな。僕が大・大・大ソンケーしてる月城満夜先生の作品も――」
「それも全部読んでる」
「なにーーーーっ! じゃ……じゃあ、こっちは……」
心配はないみたい。
パパはぬけてるところあるし、あの様子じゃ、菜月ちゃんの中身が美月のお父さん――弦一郎さんにして月城満夜だって、気づくことはなさそう。
あたしは美月と顔を見合わせ、くすくすと笑った。
「さあ、まずはハンバーグつくろう!」
「OKよ!」
美月の左目が青く光った。
「ああっ! 魔眼使うの? ズルいよ、それは」
パパに聞こえないよう、声を落として言う。
「いいじゃない。早く料理を覚えたいもの」
美月は楽しそうに鼻歌を歌い始めた。
しょうがないな~。
「じゃあ、まずは玉ねぎのみじん切り!」
「うん! それから?」
「フライパンにサラダ油をひいて、じっくり玉ねぎを炒める!」
「それから?」
「ボウルに合びき肉を入れておいて、炒めた玉ねぎを加える!」
「はいはい、それから?」
「パン粉、牛乳、にんにくすりおろし、塩、砂糖、こしょうも加えて、よく混ぜる! これがハンバーグのタネになるの」
「なるほど~」
【水】の魔眼を発動させた美月は、ダンスのときと同じように、あたしの指示と動きに合わせて、テキパキと動いた。
それはもう水が流れるように、無駄がなく、手ぎわもよくて……。
あっという間にハンバーグ、ポテトサラダ、コ―ンスープが完成!
「よしっ! じゃあ、このままドーナツもつくっちゃおうか? 焼きドーナツなら、油で揚げなくても、オーブンで簡単にできるよ。外はサクッと、中はふんわりを目指そう!」
「おおーっ!」
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