魔眼少女 ~太陽と月のヒロインズ~

立花鏡河

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9 眠れる戦士たち

第22話

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 うす暗くて、やたらに広い場所。
 だけど、不思議と安らぎを感じる。

 目が慣れてくると、そこは神殿みたいな場所だとわかった。
 いつかテレビで見たことあるような……たしかギリシア建築だっけ?
 そんな立派な柱が並んでいて、床は大理石が一面にびっしりと。

「ヒナタちゃん、あれを見て」

 美月が指さした方向を見ると、柱の上のほうに、やさしい光をはなつ物体があった。

「『光の魔女』のカケラ――シャイニングピースだよ」
「あれが……」
「『光の魔女』もまた、長い戦いで傷ついてる。あれは本体が削られて、落ちたカケラの一つ。もちろんダークピースと同じで、魔力や意思もあるわ」
「どうしてここに……?」
「お父さんがまだ若くて十代のころ、ダークピースと戦ってピンチになったとき、飛んできて、助けてくれたんだって。でも、力を使いはたしちゃって、動かなくなったって。それで持ち帰ったの。お父さんが言うには、魔力をためている状態らしいわ。いつか動きだすその日のために、この空間でお守りしているのよ」
「そうなんだ……」

 カケラになってもまだ戦いつづけるんだね。
 じゃあ、『光の魔女』本体もまだ、どこかで戦っているはず。
 五年前、あたしを助けてくれたのは、おそらく『光の魔女』本体だ。

 考えこんでいると、美月が問いかけてきた。

「どう? やさしい光でしょ?」
「うん。力がみなぎってくる感じがする」
「『安らぎの魔女』の魂が宿っているのよ。おかげで、この空間は時間の進みが遅いの。十時間ここにいても、外の世界では一分しか進まないわ」
「えっ、ホント!?」

 美月はうなずいた。

「だから、ぐっすり眠って、魔力を回復させましょう」

 弦一郎さんが、「この別空間は特別だ」って言った理由がわかった。

「ヒナタちゃん。こっちだよ」

 美月に手を引かれ、奥に進むと、天蓋てんがいつきの巨大なベッド!

「わあ、すごい!」

 女の子ならだれもが憧れる、お姫さまのベッドみたいだ。
 美月がカーテンを開けると、大きな枕二つと、ふかふかのお布団が目に飛びこんできた。

「さあ、寝ましょう」

 美月が横になったので、あたしもたまらずベッドにダイブした。
 想像以上にふかふかな感触!

「う~ん……」

 あおむけになって、思いきり手足をのばす。
 右目の痛みや、体のだるさなんかが、すっかりぬけおちていくよう。

 それにしても……。さっきまでの出来事が、頭の中でぐるぐると回ってる。

「あたしが魔眼ホルダーだなんて、まだ信じられないや……」

 ぽつりと、つぶやくように言った。

「でも、現実だよ」

 そう言った美月のほうを向くと――。
 美月があたしを見つめていた。
 ドキッ。
 お人形さんのように美しい顔が、すぐそばにあった。
 目と目が合う。
 うす暗い中に、ほのかに青色の光が見える。

「ヒナタちゃんの魔眼は、きれいな桃色だね……」

 美月に言われて初めて気づいた。あたしの【洞察】の魔眼は桃色だって。

「その桃色の裏には……どんな色がかくされているんだろう?」
「裏……?」

 首をかしげるあたし。

「うん。ウラ魔眼――というのがあってね、魔眼にはオモテ魔眼と、ウラ魔眼があるの。わたしのオモテ魔眼は【水】、ウラ魔眼は【石】。切りかえることができるんだけど、魔力を削られるから、あまり使わないようにしてるわ」
「えっ、じゃあ、あたしにもウラ魔眼が……?」
「あるんじゃないかなぁ? でも、オモテ魔眼をひらいたばかりだからね。あまり無理はしなくていいわ」

 ウラ魔眼!?
 おどろきの連続だよ! あたしの右目には、とんでもない力が宿っているんだね。
 この魔眼をくれたのは、五年前のあの光だ。

「こわかったんだ……」
「え……?」

 あたしは自然と、五年前のあの出来事を美月に語っていた。
 夕暮れに染まる公園で、ひとりぼっちだったあたし。
 ブランコに乗っていたら、巨大な影が現れた。

 でも、一番こわかったのは怪物におそわれたことじゃない。
 自分がイケナイ子だって、バレてしまったことだ。
 あたしにはママがいないのに、みんなには当たり前のようにいて。幸せそうで。
 うらやましかった。ねたましかった。


 ――みんなもママがいなくなっちゃえばいいのに!


 そんな風に思った罰が当たったんだ。

「怪物におそわれる前から、あたしは闇に染まってたのかもしれない」

 涙がぽろぽろとこぼれてくる。
 ――と、美月の手が、あたしの頬にのびてきた。

「そんなことない。そんなことないよ」

 そう言いながら、涙を指でぬぐってくれる。

「弦一郎さんと同じ。あたしも『光の魔女』に助けられたんだ。ママみたいにあったかくて、やさしかった……。ママは早くに死んじゃって、覚えてないはずなのに……。ママみたいだったんだ……」

 ぎゅっと美月が抱きしめてくれた。
 あったかいよ……。
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