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8 青柳家にて
第20話
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「えっと、その姿はどうしたんですか?」
「よくぞ聞いてくれた! 聞くも涙、語るも涙……」
目がしらをおさえると、長い髪をかきあげながら口を開く弦一郎さん。
「美月からも説明はあったと思うが、私たちは魔眼ホルダーの一族だ。妻と出会って結婚したのも、互いに魔眼ホルダー同士で、惹かれあったというのが大きい。ダークピースと戦うことを運命づけられている以上、普通の人には話せない苦労があるからね。その点、魔眼ホルダー同士なら、苦労も分かちあえる」
よくわかる気がした。
あたしも美月と出会って間もないけれど、すでにキズナのようなものを感じている。
「私と妻は日本全国を回って、ひたすらダークピースを破壊してきた。妻は【水】の魔眼ホルダー、私は【空間】の魔眼ホルダーなんだ」
【水】……ということは、美月はお母さんの魔眼を遺伝で受けついだんだね。
「【空間】の魔眼って、どんなのですか?」
あたしがたずねると、
「空間を自由に生みだすことができるのさ。見てもらったほうが早いね」
と言って、立ちあがる弦一郎さん。
押し入れの中からトランクを取りだして、それを開いて見せてくれた。
中身は、色とりどりのスーパーボールみたいなものが数十個。
「空間を生みだすだけじゃない。空間を形あるものにして、こうして手につかめるようにできるんだ」
弦一郎さんは、ボールを一つ手にとって、
「展開!」
とさけんだ。
その瞬間、あたしたちの周りの景色が一変して――。
おだやかに流れる川。
豊かに生い茂った木々から聞こえてくる、鳥のさえずり。
頬をそっとなでる、さわやかな風。
見上げれば、目にあざやかな青空。
あたしたちは、木造アパートの一室ではなくて、川辺の岩に腰かけていたんだ。
「え? え? どうなってんの!?」
もう何が起きてもおどろかないつもりでいたけれど、これはおどろくってば!
「ここは、私が生みだした別空間――。空間創造の能力……といったところかな。私が生まれ育った故郷の川を参考にしているんだ」
そんなことも魔眼でできちゃうんだ!
「縮小!」
ふたたび弦一郎さんがさけぶと、元の部屋にもどった。
「はぁ……」
思わずため息が出ちゃう。
今のはすごかった。幻でもなんでもなく、本当に別空間に移動したんだもん!
「あっ……じゃあ、あの空き地の小屋も……?」
美月は、いたずらっぽい笑みを浮かべて、
「そう。お父さんに頼んで、このボールを借りたのよ。ヒナタちゃんが魔眼ホルダーかどうか試したくて……」
と教えてくれた。
「あれ、夢か幻を見たんだと思ってた……」
あたしがつぶやくと、美月はうなずいた。
「それでよかったのよ。いきなりすべてを話しても、ヒナタちゃんを混乱させるだけだったと思うから……」
「さあ、次はマリンブルーの海に行ってみるかね? それとも砂漠を散歩してみるかい?」
うきうきと声を弾ませ、ボールを選ぶ弦一郎さん。
「お父さん! 遊んでる場合じゃないでしょ!」
「おっと、そうだな」
ぺろっと舌を出す弦一郎さん。
中身が美月のお父さんだってことを忘れそうになるほどかわいらしい。
「まあ、こうした能力が使えたわけだよ。こんな姿になるまではね。もう新しい空間は生みだせない。魔眼が失われたからね」
弦一郎さんは左目を指さし、言葉を続けた。
「私と妻のコンビネーションは抜群だった。妻が【水】の魔眼でダークピースを弱らせ、私が別空間に閉じこめて、それをボールにしてしまう。あとは粉々に破壊するだけでいい。そのやり方で長年やってきたんだが……」
弦一郎さんの顔色が曇る。
「三年前、いつものようにダークピースを別空間に閉じこめた。だが……やつは並のダークピースではなかった。別空間を食いやぶって、出てきたんだ」
「え……?」
そんなことが可能なの!?
「それからは、あっという間だった。ダークピースは妻の体にとり憑き、私を女の子の姿に変えて、魔眼の能力を奪ってしまった」
あたしは、ゴクリとのどを鳴らしてたずねる。
「それで……美月のお母さんは……?」
「……消えてしまった。黒い霧の向こうに……」
弦一郎さんはさびしそうに笑って、
「それ以来、妻を探し求めて、ダークピースを破壊しながら日本全国を回っているのさ。住むところはどこでも構わないんだ。私たちには、この空間ボールがあるのだからね」
と、トランクの中のボールをなでた。
「魔眼は失われたが、過去に作っておいた空間ボールは今も自由に使える。不幸中の幸いだったよ。それに、魔力を感じとる力だけはそのままだった。魔眼ホルダーの本能のようなものだから、さすがにダークピースでも奪えなかったようだ」
そして、弦一郎さんはあたしたちを見つめた。
「――ところで、美月たちが戦ってるダークピースは手ごわいかね? この部屋からも、学校で美月たちふたりが協力して戦っているのは感じとれたよ。闇の魔力はやや弱まったようだが……」
「やっとその話! めちゃくちゃ大変だったんだからね!」
学校でのクールな美月とちがって、少しくだけた話し方になっていて、やっぱり親子なんだなと感じる。
「よくぞ聞いてくれた! 聞くも涙、語るも涙……」
目がしらをおさえると、長い髪をかきあげながら口を開く弦一郎さん。
「美月からも説明はあったと思うが、私たちは魔眼ホルダーの一族だ。妻と出会って結婚したのも、互いに魔眼ホルダー同士で、惹かれあったというのが大きい。ダークピースと戦うことを運命づけられている以上、普通の人には話せない苦労があるからね。その点、魔眼ホルダー同士なら、苦労も分かちあえる」
よくわかる気がした。
あたしも美月と出会って間もないけれど、すでにキズナのようなものを感じている。
「私と妻は日本全国を回って、ひたすらダークピースを破壊してきた。妻は【水】の魔眼ホルダー、私は【空間】の魔眼ホルダーなんだ」
【水】……ということは、美月はお母さんの魔眼を遺伝で受けついだんだね。
「【空間】の魔眼って、どんなのですか?」
あたしがたずねると、
「空間を自由に生みだすことができるのさ。見てもらったほうが早いね」
と言って、立ちあがる弦一郎さん。
押し入れの中からトランクを取りだして、それを開いて見せてくれた。
中身は、色とりどりのスーパーボールみたいなものが数十個。
「空間を生みだすだけじゃない。空間を形あるものにして、こうして手につかめるようにできるんだ」
弦一郎さんは、ボールを一つ手にとって、
「展開!」
とさけんだ。
その瞬間、あたしたちの周りの景色が一変して――。
おだやかに流れる川。
豊かに生い茂った木々から聞こえてくる、鳥のさえずり。
頬をそっとなでる、さわやかな風。
見上げれば、目にあざやかな青空。
あたしたちは、木造アパートの一室ではなくて、川辺の岩に腰かけていたんだ。
「え? え? どうなってんの!?」
もう何が起きてもおどろかないつもりでいたけれど、これはおどろくってば!
「ここは、私が生みだした別空間――。空間創造の能力……といったところかな。私が生まれ育った故郷の川を参考にしているんだ」
そんなことも魔眼でできちゃうんだ!
「縮小!」
ふたたび弦一郎さんがさけぶと、元の部屋にもどった。
「はぁ……」
思わずため息が出ちゃう。
今のはすごかった。幻でもなんでもなく、本当に別空間に移動したんだもん!
「あっ……じゃあ、あの空き地の小屋も……?」
美月は、いたずらっぽい笑みを浮かべて、
「そう。お父さんに頼んで、このボールを借りたのよ。ヒナタちゃんが魔眼ホルダーかどうか試したくて……」
と教えてくれた。
「あれ、夢か幻を見たんだと思ってた……」
あたしがつぶやくと、美月はうなずいた。
「それでよかったのよ。いきなりすべてを話しても、ヒナタちゃんを混乱させるだけだったと思うから……」
「さあ、次はマリンブルーの海に行ってみるかね? それとも砂漠を散歩してみるかい?」
うきうきと声を弾ませ、ボールを選ぶ弦一郎さん。
「お父さん! 遊んでる場合じゃないでしょ!」
「おっと、そうだな」
ぺろっと舌を出す弦一郎さん。
中身が美月のお父さんだってことを忘れそうになるほどかわいらしい。
「まあ、こうした能力が使えたわけだよ。こんな姿になるまではね。もう新しい空間は生みだせない。魔眼が失われたからね」
弦一郎さんは左目を指さし、言葉を続けた。
「私と妻のコンビネーションは抜群だった。妻が【水】の魔眼でダークピースを弱らせ、私が別空間に閉じこめて、それをボールにしてしまう。あとは粉々に破壊するだけでいい。そのやり方で長年やってきたんだが……」
弦一郎さんの顔色が曇る。
「三年前、いつものようにダークピースを別空間に閉じこめた。だが……やつは並のダークピースではなかった。別空間を食いやぶって、出てきたんだ」
「え……?」
そんなことが可能なの!?
「それからは、あっという間だった。ダークピースは妻の体にとり憑き、私を女の子の姿に変えて、魔眼の能力を奪ってしまった」
あたしは、ゴクリとのどを鳴らしてたずねる。
「それで……美月のお母さんは……?」
「……消えてしまった。黒い霧の向こうに……」
弦一郎さんはさびしそうに笑って、
「それ以来、妻を探し求めて、ダークピースを破壊しながら日本全国を回っているのさ。住むところはどこでも構わないんだ。私たちには、この空間ボールがあるのだからね」
と、トランクの中のボールをなでた。
「魔眼は失われたが、過去に作っておいた空間ボールは今も自由に使える。不幸中の幸いだったよ。それに、魔力を感じとる力だけはそのままだった。魔眼ホルダーの本能のようなものだから、さすがにダークピースでも奪えなかったようだ」
そして、弦一郎さんはあたしたちを見つめた。
「――ところで、美月たちが戦ってるダークピースは手ごわいかね? この部屋からも、学校で美月たちふたりが協力して戦っているのは感じとれたよ。闇の魔力はやや弱まったようだが……」
「やっとその話! めちゃくちゃ大変だったんだからね!」
学校でのクールな美月とちがって、少しくだけた話し方になっていて、やっぱり親子なんだなと感じる。
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