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第7章 時をこえる魔法少女
第45話
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一つ違和感があるとすれば、黒江くんの格好だ。門倉部長のイラスト通り、王子さまみたいな格好をしていたの!
「黒江くん。その格好……」
笑っちゃいけないけど、ああダメ、笑ってしまいそう。吹き出す寸前でなんとかこらえる。
「なんだよ、仕方ないだろ。イラストから復活したんだから、服装もイラスト通りだよ」
顔を赤らめながら、ちょっぴりすねたように言う黒江くん。
あっ、いまのかわいい……。
「きゃああああああああああ!」
耳をつんざく奇声……いや、喜びの声が部室に響いた。
門倉部長が身体をくねらせ、信じられないといったように。
「すごい! わたしの頭のなかにあったイメージが具現化するなんて! 尊い! 尊いでございますぅ! これは創作の神がわたしに与えたもうた才能!?」
「門倉部長! お、落ちついてくださ――」
わたしは最後まで言いきることはできなかった。
一瞬にして、周りの景色が変わったから……。
◆ ◆ ◆
門倉部長がいなくなった。
……というより、場所を移動してしまったのだと気づくのにそう時間はかからなかった。
わたしはクロエとふたりで、体育館に立っていたんだ。
バレー部とバスケ部の部員たちがいるけど、みんな動かない。時が止まっているかのよう。
こんなことができるのは……モアちゃんしかいない。
眩い光とともに、モアちゃんが姿を現した。魔法のステッキを手にして。
「――どうあっても奥さまに逆らう気ですか? クロエを復活させるとは……」
その冷たい瞳、冷たい声に、怒りがにじんでいる。
でも、そんなの怖くないよ。
「わたしは絶対に負けない。クロエは守ってみせる!」
「なぜそんなに使い魔にこだわるのです? ただの使い魔に……」
「ただの? クロエはわたしの大切なパートナーだよ!」
それをきいて、モアちゃんはフンと鼻で笑った。
「使い魔がなぜ使い魔であるか? ヒナさんはまるでわかっていないようですね」
「どういうこと?」
「使い魔に選ばれる人間は、生まれながらに魂が汚れているのですよ。その昔、奥さまたち魔女を火あぶりにし、根絶やしにしようとした愚かな人間が数多くいました。そんな者たちも死んで生まれ変わった。クロエ――黒江晶人の前世は、そういった類の愚かな人間でした」
「えっ……?」
「生まれ変わっても、その罪は消えない。だから奥さまが下した罰により、小学四年生のときに黒猫に姿を変えられ、あなたの使い魔となったのです。シラノも全く同じですよ」
そんな……。クロエとシラノの前世は……。
「ショックですか? 大切なパートナーが卑しい人間で……」
クロエを見やると、黙ってくちびるをかみしめ、うつむいている。
「……クロエの前世なんてわたしには関係ない。そんなことでわたしの心を乱そうとしてもムダだよ。クロエはわたしの大切な人。今も、昔も、これからも!」
「ヒナ……。ありがとう」
クロエは顔を上げて、うれしそうにわたしを見つめた。
「バッカみたい! 使い魔なんかと仲良くしちゃってさあ!」
「モアちゃん……」
「なによ、そんな目で見ないでよ! 人を憐れむような目つきしないでよ! わたしはあなたとは違う! 奥さまも認めてくださってる完ぺきな魔法少女なんだから! あなたみたいに使い魔なんて必要としないわ!」
はじめて感情的になったモアちゃんから、迷いや不安といった感情をうっすらと感じることができた。
モアちゃんも悩んでいる。ひとり魔法少女として戦ってきて、愚痴る相手もそばにいない。
能力が高いゆえに、奥さまに期待され、それが重荷になって、「重いよ。つらいよ……」って泣きたいのに、それが許されない。
「モアちゃん。奥さまが望んでいることは、町の平和なんかじゃない。日本全国にわたしたちみたいな魔法少女が大勢いて、奥さまに言われるまま人助けやモンスター退治をしてる。そうして町をハピハピエナジーで満たして……」
「わかってるよ、そんなことっ!」
「…………」
激しい口調で言葉をさえぎられ、わたしは口をつぐむしかなかった。
ハピハピエナジーとは、簡単にいえば幸せオーラのようなもの。町を平和にして、それをあつめるよう奥さまに言われて……。
モアちゃんは落ち着きを取り戻すかのように、ゆっくりと深呼吸し、再び冷静なトーンで話しはじめた。
「ハピハピエナジーは、魔法で若返りの化粧水に変えられます。奥さまがあの若さと美しさを保っていられるのは、その化粧水のおかげ……」
「それを知ってて……」
「どうだというんです? 奥さまは偉大な方です。永遠に生きるべき御方。魔法少女は奥さまの若返りに協力すべきなんです」
「それはわかるよ。でも、魔法は自分のために使うものじゃない。みんなを幸せにするために使うべきもの。それを教えてくれたのは、このクロエで……」
クロエはまっすぐな瞳でモアちゃんを見すえている。
「フン、そんなの綺麗事ですよ」
モアちゃんはクロエから目をそらして、吐きすてるように言った。
「綺麗事だとは思わない。本当にそうだなと思うの。奥さまは町の平和や人々の幸せよりも、ご自分の若返りを優先するところがあったわ」
「だから俺たちは奥さまに意見することがあった。ユメやシラノも同じだ」
クロエが言い放つと、モアちゃんは顔を引きつらせた。
「一体、なにが言いたいんです? 自分たちが魔力を取り上げられたのは、落第者だったからではない……とでも?」
「…………」
「ふざけないで! おしゃべりはここまでよ!」
モアちゃんが魔法のステッキをふりかざすと、その小さな身体は眩い光に包まれた。
「黒江くん。その格好……」
笑っちゃいけないけど、ああダメ、笑ってしまいそう。吹き出す寸前でなんとかこらえる。
「なんだよ、仕方ないだろ。イラストから復活したんだから、服装もイラスト通りだよ」
顔を赤らめながら、ちょっぴりすねたように言う黒江くん。
あっ、いまのかわいい……。
「きゃああああああああああ!」
耳をつんざく奇声……いや、喜びの声が部室に響いた。
門倉部長が身体をくねらせ、信じられないといったように。
「すごい! わたしの頭のなかにあったイメージが具現化するなんて! 尊い! 尊いでございますぅ! これは創作の神がわたしに与えたもうた才能!?」
「門倉部長! お、落ちついてくださ――」
わたしは最後まで言いきることはできなかった。
一瞬にして、周りの景色が変わったから……。
◆ ◆ ◆
門倉部長がいなくなった。
……というより、場所を移動してしまったのだと気づくのにそう時間はかからなかった。
わたしはクロエとふたりで、体育館に立っていたんだ。
バレー部とバスケ部の部員たちがいるけど、みんな動かない。時が止まっているかのよう。
こんなことができるのは……モアちゃんしかいない。
眩い光とともに、モアちゃんが姿を現した。魔法のステッキを手にして。
「――どうあっても奥さまに逆らう気ですか? クロエを復活させるとは……」
その冷たい瞳、冷たい声に、怒りがにじんでいる。
でも、そんなの怖くないよ。
「わたしは絶対に負けない。クロエは守ってみせる!」
「なぜそんなに使い魔にこだわるのです? ただの使い魔に……」
「ただの? クロエはわたしの大切なパートナーだよ!」
それをきいて、モアちゃんはフンと鼻で笑った。
「使い魔がなぜ使い魔であるか? ヒナさんはまるでわかっていないようですね」
「どういうこと?」
「使い魔に選ばれる人間は、生まれながらに魂が汚れているのですよ。その昔、奥さまたち魔女を火あぶりにし、根絶やしにしようとした愚かな人間が数多くいました。そんな者たちも死んで生まれ変わった。クロエ――黒江晶人の前世は、そういった類の愚かな人間でした」
「えっ……?」
「生まれ変わっても、その罪は消えない。だから奥さまが下した罰により、小学四年生のときに黒猫に姿を変えられ、あなたの使い魔となったのです。シラノも全く同じですよ」
そんな……。クロエとシラノの前世は……。
「ショックですか? 大切なパートナーが卑しい人間で……」
クロエを見やると、黙ってくちびるをかみしめ、うつむいている。
「……クロエの前世なんてわたしには関係ない。そんなことでわたしの心を乱そうとしてもムダだよ。クロエはわたしの大切な人。今も、昔も、これからも!」
「ヒナ……。ありがとう」
クロエは顔を上げて、うれしそうにわたしを見つめた。
「バッカみたい! 使い魔なんかと仲良くしちゃってさあ!」
「モアちゃん……」
「なによ、そんな目で見ないでよ! 人を憐れむような目つきしないでよ! わたしはあなたとは違う! 奥さまも認めてくださってる完ぺきな魔法少女なんだから! あなたみたいに使い魔なんて必要としないわ!」
はじめて感情的になったモアちゃんから、迷いや不安といった感情をうっすらと感じることができた。
モアちゃんも悩んでいる。ひとり魔法少女として戦ってきて、愚痴る相手もそばにいない。
能力が高いゆえに、奥さまに期待され、それが重荷になって、「重いよ。つらいよ……」って泣きたいのに、それが許されない。
「モアちゃん。奥さまが望んでいることは、町の平和なんかじゃない。日本全国にわたしたちみたいな魔法少女が大勢いて、奥さまに言われるまま人助けやモンスター退治をしてる。そうして町をハピハピエナジーで満たして……」
「わかってるよ、そんなことっ!」
「…………」
激しい口調で言葉をさえぎられ、わたしは口をつぐむしかなかった。
ハピハピエナジーとは、簡単にいえば幸せオーラのようなもの。町を平和にして、それをあつめるよう奥さまに言われて……。
モアちゃんは落ち着きを取り戻すかのように、ゆっくりと深呼吸し、再び冷静なトーンで話しはじめた。
「ハピハピエナジーは、魔法で若返りの化粧水に変えられます。奥さまがあの若さと美しさを保っていられるのは、その化粧水のおかげ……」
「それを知ってて……」
「どうだというんです? 奥さまは偉大な方です。永遠に生きるべき御方。魔法少女は奥さまの若返りに協力すべきなんです」
「それはわかるよ。でも、魔法は自分のために使うものじゃない。みんなを幸せにするために使うべきもの。それを教えてくれたのは、このクロエで……」
クロエはまっすぐな瞳でモアちゃんを見すえている。
「フン、そんなの綺麗事ですよ」
モアちゃんはクロエから目をそらして、吐きすてるように言った。
「綺麗事だとは思わない。本当にそうだなと思うの。奥さまは町の平和や人々の幸せよりも、ご自分の若返りを優先するところがあったわ」
「だから俺たちは奥さまに意見することがあった。ユメやシラノも同じだ」
クロエが言い放つと、モアちゃんは顔を引きつらせた。
「一体、なにが言いたいんです? 自分たちが魔力を取り上げられたのは、落第者だったからではない……とでも?」
「…………」
「ふざけないで! おしゃべりはここまでよ!」
モアちゃんが魔法のステッキをふりかざすと、その小さな身体は眩い光に包まれた。
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