上 下
25 / 51
第4章 白野先輩とふたりっきり!

第24話

しおりを挟む
 ドアのところで遠慮がちにしている遠藤くんを、黒江くんが招き入れる。

「どうぞ。入って」

 遠藤くんは落ち着かないようで、きょろきょろと視線を泳がせた。

「門倉部長。彼が作戦の協力者です」

 ええええええ!
 黒江くんってば、遠藤くんまで巻きこんだの!?

「遠藤です」

 ぺこりと頭を下げる遠藤くん。門倉部長は腰に手をあて、まるで指揮官のように言った。

「ご苦労さま。あなたが協力者2号ね。協力に感謝するわ」
「2号……? 1号がいるんですか?」

 小首をかしげる遠藤くん。
 たぶん、山川さんのことだね。
 黒江くんが肩をすくめ、口を開いた。

「ああ、こっちの話。それより……持ってきてくれた?」
「もちろん」

 遠藤くんはカバンから一冊の本を取りだした。人気サッカー選手のインタビューをまとめたものだ。

「これ、白野先輩に借りてたやつ」

 そう言って、遠藤くんはわたしに差しだした。

「え……?」

 とまどいながら受け取るわたし。

「俺の代わりに返してくれよ。部活終わったけど、白野先輩、いつも木曜日は居残りで自主練やって帰るんだ。白野先輩がひとりになるときなんて、滅多めったにないぞ」

 ああ、そういうことか!
 黒江くんが「ナイス!」と言って、遠藤くんの腕をポン! とたたいた。数日前までいがみ合っていたとは思えない。やっぱり男子はカラッとしたものだね。

「遠藤は白野先輩と同じサッカー部だからね。なにか情報を得られれば……と思って協力を頼んだんだよ。赤木さんへの罪滅ぼしにもなるし……」

 遠藤くんは軽くせき払いして、照れ臭そうにした。
 そういうことであれば、この情報は無駄にはできない。

「ありがとう。じゃあ、行ってくるね」

 行こうとしたら、遠藤くんが口を開いた。

「あっ、本当にいいのか?」
「えっ?」
「白野先輩、やさしい人だけどさ、それだけじゃないっていうか……なんていうか……」
「それだけじゃないって……?」

 門倉部長がたずねた。

「いや、なんて言ったらいいか……」
「もうっ! じれったいわね! はっきり言いなさいよ!」

 門倉部長にタジタジの遠藤くん。

「いや、イケメンだし、やさしい人だし、人気あるけどさ……実は裏表ありそうっていうか……」
「そんなはずないでしょ! 白野くんにかぎって!」
「はいっ! 俺が間違ってました!」

 門倉部長に詰め寄られ、遠藤くんはあっさりと前言撤回した。
 でも、わたしは遠藤くんの言っていることがわかる気がしたの。白野先輩は、あの爽やかな笑顔の裏に、なにかを隠しているんだ。そのなにかを確かめたい……。

「じゃあ……行ってきます」

 わたしはカバンと、遠藤くんから受け取った本を手に、部室を出た。

「がんばれ、赤木さん」
「本を渡すだけじゃダメよ。会話! 会話を楽しむのよ!」

 黒江くんと門倉部長の激励を背中で受け止めた。


   ◆ ◆ ◆


 玄関から外に出ると、もう真っ暗。
 部活を終えた生徒たちが校門から出ていくのとは逆に、わたしはひとり校庭に向かった。

 心もとない照明に照らされたサッカーゴールのほうへ歩いていくと、ボールを蹴る音が響いている。
 無人のゴールに向かって、黙々とシュート練習しているサッカー部員がひとり。
 もちろん白野先輩だった。
 練習の邪魔をするわけにはいかない。離れたところで待つことにした。
 いまさらドキドキしてきて、白野先輩の本を持つ手に力が入る。

 しばらくして、ゴールに散らばったボールをすべてあつめると、車輪のついたカゴに入れていく白野先輩。
 そして、体育用具倉庫までカゴを押していき、なかに入れて、外に出てきたところで、わたしは思い切って駆けていって……。

「あ……あの……白野先輩!」
「……え?」
「あ……二年の赤木です」
「ああ、赤木さんか。びっくりしたよ。どうしたの?」
「突然すみません。あの……遠藤くんに、この本を白野先輩に返すように頼まれたので……」

 本を渡すと、白野先輩はあきれたようにため息をいた。

「あいつ、自分で返せばいいのに、そんなことを赤木さんに頼んだの? ごめんね、うちの後輩が……。明日キツく叱っておかないとな」
「いえっ! そんな! いいんです!」

 わたしはあわてて両手の平をぶんぶんとふった。
 協力してくれたのに、怒られるのはあまりに可哀想だ。

「遠藤くん、用事があるとかで、急いでるみたいだったので……」

 アドリブで思わず嘘をついてしまった。
 白野先輩はクスッと笑って。

「やさしいんだね、赤木さんは……」
「いえ、やさしいだなんて……」

 白野先輩は辺りを見回した。

「もうすっかり暗いね。女の子ひとりじゃ危ない。よかったら家まで送るよ」
「えっ、大丈夫です!」
「後輩が迷惑かけたお詫びだよ。すぐ着がえてくるから、校門のところで待ってて」

 言い終わらないうちに、白野先輩は駆け出していた。


   ◆ ◆ ◆


 校門に着くと、人影があった。
 ――黒江くんだった。

「待っててくれたの?」

 一気に気がゆるんで、心の底からホッとした。

「うん。心配だったからね。……で、どうだった?」
「ちゃんと本を返して、少し話せたよ。家まで送ってくれるって」
「えっ、そうなの!?」
「うん。着がえてくるから、先にここで待っててって……」
「そうなんだ。よかったね! これは急展開だ。チャンスだよ!」

 暗くて表情がよく見えないけれど、テンションが上がっている様子の黒江くん。

「じゃあ、がんばってね」

 歩き出す黒江くんを見て、わたしはあわてた。

「えっ、ちょっと待って! いっしょに帰ってくれるんじゃなかったの!?」
「白野先輩とふたりっきりで帰れるんじゃないか。俺がいたんじゃ意味ないでしょ」
「それは……」
「明日の結果報告を楽しみにしてるよ!」

 爽やかに言い残して、黒江くんは帰ってしまった。
 ぽつんと取り残され、言いようのない不安に襲われる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

オオカミ少女と呼ばないで

柳律斗
児童書・童話
「大神くんの頭、オオカミみたいな耳、生えてる……?」 その一言が、私をオオカミ少女にした。 空気を読むことが少し苦手なさくら。人気者の男子、大神くんと接点を持つようになって以降、クラスの女子に目をつけられてしまう。そんな中、あるできごとをきっかけに「空気の色」が見えるように―― 表紙画像はノーコピーライトガール様よりお借りしました。ありがとうございます。

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

わたしたちの恋、NGですっ! ~魔力ゼロの魔法少女~

立花鏡河
児童書・童話
【第1回きずな児童書大賞】奨励賞を受賞しました! 応援して下さった方々に、心より感謝申し上げます! 「ひさしぶりだね、魔法少女アイカ」 再会は突然だった。 わたし、愛葉一千花は、何の取り柄もない、フツーの中学二年生。 なじめないバスケ部をやめようかと悩みながら、掛けもちで園芸部の活動もしている。 そんなわたしには、とある秘密があって……。 新入生のイケメン、乙黒咲也くん。 わたし、この子を知ってる。 ていうか、因縁の相手なんですけどっ!? ★*゚*☆*゚*★*゚*☆*゚*★ わたしはかつて、魔法少女だったんだ。 町をねらう魔物と戦う日々――。 魔物のリーダーで、宿敵だった男の子が、今やイケメンに成長していて……。 「意外とドジですね、愛葉センパイは」 「愛葉センパイは、おれの大切な人だ」 「生まれ変わったおれを見てほしい」 ★*゚*☆*゚*★*゚*☆*゚*★ 改心した彼が、わたしを溺愛して、心をまどわせてくる! 光と闇がまじりあうのはキケンです! わたしたちの恋愛、NGだよね!? ◆◆◆第1回きずな児童書大賞エントリー作品です◆◆◆ 表紙絵は「イラストAC」様からお借りしました。

佐藤さんの四重奏

makoto(木城まこと)
児童書・童話
佐藤千里は小学5年生の女の子。昔から好きになるものは大抵男子が好きになるもので、女子らしくないといじめられたことを機に、本当の自分をさらけ出せなくなってしまう。そんな中、男子と偽って出会った佐藤陽がとなりのクラスに転校してきて、千里の本当の性別がバレてしまい――? 弦楽器を通じて自分らしさを見つける、小学生たちの物語。 第2回きずな児童書大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます!

【完結】てのひらは君のため

星名柚花
児童書・童話
あまりの暑さで熱中症になりかけていた深森真白に、美少年が声をかけてきた。 彼は同じ中学に通う一つ年下の男子、成瀬漣里。 無口、無表情、無愛想。 三拍子そろった彼は入学早々、上級生を殴った不良として有名だった。 てっきり怖い人かと思いきや、不良を殴ったのはイジメを止めるためだったらしい。 話してみると、本当の彼は照れ屋で可愛かった。 交流を深めていくうちに、真白はどんどん漣里に惹かれていく。 でも、周囲に不良と誤解されている彼との恋は前途多難な様子で…?

友梨奈さまの言う通り

西羽咲 花月
児童書・童話
「友梨奈さまの言う通り」 この学校にはどんな病でも治してしまう神様のような生徒がいるらしい だけど力はそれだけじゃなかった その生徒は治した病気を再び本人に戻す力も持っていた……

がらくた屋 ふしぎ堂のヒミツ

三柴 ヲト
児童書・童話
『がらくた屋ふしぎ堂』  ――それは、ちょっと変わった不思議なお店。  おもちゃ、駄菓子、古本、文房具、骨董品……。子どもが気になるものはなんでもそろっていて、店主であるミチばあちゃんが不在の時は、太った変な招き猫〝にゃすけ〟が代わりに商品を案内してくれる。  ミチばあちゃんの孫である小学6年生の風間吏斗(かざまりと)は、わくわく探しのため毎日のように『ふしぎ堂』へ通う。  お店に並んだ商品の中には、普通のがらくたに混じって『神商品(アイテム)』と呼ばれるレアなお宝もたくさん隠されていて、悪戯好きのリトはクラスメイトの男友達・ルカを巻き込んで、神商品を使ってはおかしな事件を起こしたり、逆にみんなの困りごとを解決したり、毎日を刺激的に楽しく過ごす。  そんなある日のこと、リトとルカのクラスメイトであるお金持ちのお嬢様アンが行方不明になるという騒ぎが起こる。  彼女の足取りを追うリトは、やがてふしぎ堂の裏庭にある『蔵』に隠された〝ヒミツの扉〟に辿り着くのだが、扉の向こう側には『異世界』や過去未来の『時空を超えた世界』が広がっていて――⁉︎  いたずら好きのリト、心優しい少年ルカ、いじっぱりなお嬢様アンの三人組が織りなす、事件、ふしぎ、夢、冒険、恋、わくわく、どきどきが全部詰まった、少年少女向けの現代和風ファンタジー。

あさはんのゆげ

深水千世
児童書・童話
【映画化】私を笑顔にするのも泣かせるのも『あさはん』と彼でした。 7月2日公開オムニバス映画『全員、片想い』の中の一遍『あさはんのゆげ』原案作品。 千葉雄大さん・清水富美加さんW主演、監督・脚本は山岸聖太さん。 彼は夏時雨の日にやって来た。 猫と画材と糠床を抱え、かつて暮らした群馬県の祖母の家に。 食べることがないとわかっていても朝食を用意する彼。 彼が救いたかったものは。この家に戻ってきた理由は。少女の心の行方は。 彼と過ごしたひと夏の日々が輝きだす。 FMヨコハマ『アナタの恋、映画化します。』受賞作品。 エブリスタにて公開していた作品です。

処理中です...