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第2章 君のことは俺が守る
第14話
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◆ ◆ ◆
帰り道、わたしは黒江くんと並んで歩いていた。
黒江くんが引っ越してきた家は、わたしの家の目と鼻の先だったこともあり、黒江くんが「いっしょに帰ろう」と誘ってくれたの。
結局、今日は文芸部に顔を出せなかった。毎日、部室に行っているから、部長が心配しているかもしれない。
黒江くんも吹奏楽部の見学に行けずじまい。
それにしても、今日はとんでもない一日だった。どっと疲れが押し寄せる。頭のなかがぐちゃぐちゃに混乱していて、整理がつかない。
「大変……だったね……」
苦笑まじりに黒江くんが言った。
「うん……」
心ここにあらず、といった調子で、うなずくだけのわたし。
「でも、もう大丈夫じゃないかな。樋口先生がピシャリと言ってくれたしね。前の学校には、あんなに頼れる先生はいなかったよ。遠藤も、佐久間さんも心から反省しているようだったし。それに、またなにかあっても、君のことは俺が守るよ」
――君のことは俺が守るよ……。
黒江くんの言葉が頭のなかでぐるぐると回る。
「……黒江くん」
「ん?」
「どうして、わたしのことをそんなに守ってくれるの?」
「どうしてって……」
「わたしなんか、地味だし、おとなしいというより臆病なだけ。黒江くんみたいな子に相手されるような子じゃなくて……」
「ストーップ!」
黒江くんは立ち止まり、わたしの言葉をさえぎった。わたしも立ち止まって、向かい合う。
「赤木さんは、自分のことをネガティブに考えすぎじゃない? あいさつ運動で大きな声出せるようになってたし、佐久間さんにしっかり自分の気持ちを言えてたじゃない?」
「それは……」
黒江くんのおかげだよ。そう言いかけて言葉を飲みこんだ。そのかわり、わたしの口から出てきたのは、恨みごとだった。
「……昨日からイヤなことばかり。わたし、ホントに地味だし、いままでクラスで目立つこともなかったし、それでよかったの。なのに……」
それ以上は言っちゃダメって、わたしの頭のなかで、もうひとりのわたしが大声で叫んでる。だけど、わたしはその声を無視した。
「遠藤くんと佐久間さんに嫌われるし! ケンカになったし! 生徒指導室なんかに呼び出されたし! それもこれも、黒江くんが……黒江くんが……」
もうひとりのわたしが「ダメ―ッ!」って叫んで、頭がクラクラしたけど、知らぬ間に心にたまっていた、どす黒いものを吐き出したい誘惑に負けてしまった。
「黒江くんがわたしの隣に来たから!」
「赤木さん……」
黒江くんがわたしを見つめる瞳が、哀しい色に染まっていく。
それを見た瞬間に、激しい後悔に襲われた。
ちがうの! わたしが言いたかったのは、黒江くんへの感謝の気持ちなのに!
でも、素直にそう言えなかったのは、わたしの頭のなかにある疑問がいつまでも晴れないで、モヤモヤしているからだ。
「黒江くん……。あなたをずっと前から知っている気がするの。きっと、わたしたちは会ったことがある」
思いきって言うと、黒江くんは少し驚いたような表情になったけど、すぐにいつものクールな表情に戻った。
「…………」
すぐに「そんなはずはないよ」って返事が返ってくるかと思えば、黒江くんはわたしを見つめて黙ったままだ。
自転車に乗ったおばさんが、わたしたちをじろじろ見て通りすぎていった。
「あの公園で、ちょっと話そうか」
黒江くんが指さしたのは、町の児童公園だった。
「うん……」
黒江くんのあとについていく。
公園のなかにはブランコに乗っている小さな女の子がふたり。他には誰もいなかった。
黒江くんは公園の中央に向かって歩いていく。そこには五色町のシンボルともいえる、巨大なクスノキが圧倒的な存在感を放っている。
そのクスノキに近づき、黒江くんはそっと手を添えた。
きっと怒ったよね。八つ当たりみたいにヒドいこと言ったし、「会ったことがある」とか、わけわかんないことまで……。
「あの……黒江くん……。さっきは、ごめんなさい」
「…………」
黒江くんは返事してくれない。クスノキの幹に手を添えて、わたしに背を向けたままだ。
帰り道、わたしは黒江くんと並んで歩いていた。
黒江くんが引っ越してきた家は、わたしの家の目と鼻の先だったこともあり、黒江くんが「いっしょに帰ろう」と誘ってくれたの。
結局、今日は文芸部に顔を出せなかった。毎日、部室に行っているから、部長が心配しているかもしれない。
黒江くんも吹奏楽部の見学に行けずじまい。
それにしても、今日はとんでもない一日だった。どっと疲れが押し寄せる。頭のなかがぐちゃぐちゃに混乱していて、整理がつかない。
「大変……だったね……」
苦笑まじりに黒江くんが言った。
「うん……」
心ここにあらず、といった調子で、うなずくだけのわたし。
「でも、もう大丈夫じゃないかな。樋口先生がピシャリと言ってくれたしね。前の学校には、あんなに頼れる先生はいなかったよ。遠藤も、佐久間さんも心から反省しているようだったし。それに、またなにかあっても、君のことは俺が守るよ」
――君のことは俺が守るよ……。
黒江くんの言葉が頭のなかでぐるぐると回る。
「……黒江くん」
「ん?」
「どうして、わたしのことをそんなに守ってくれるの?」
「どうしてって……」
「わたしなんか、地味だし、おとなしいというより臆病なだけ。黒江くんみたいな子に相手されるような子じゃなくて……」
「ストーップ!」
黒江くんは立ち止まり、わたしの言葉をさえぎった。わたしも立ち止まって、向かい合う。
「赤木さんは、自分のことをネガティブに考えすぎじゃない? あいさつ運動で大きな声出せるようになってたし、佐久間さんにしっかり自分の気持ちを言えてたじゃない?」
「それは……」
黒江くんのおかげだよ。そう言いかけて言葉を飲みこんだ。そのかわり、わたしの口から出てきたのは、恨みごとだった。
「……昨日からイヤなことばかり。わたし、ホントに地味だし、いままでクラスで目立つこともなかったし、それでよかったの。なのに……」
それ以上は言っちゃダメって、わたしの頭のなかで、もうひとりのわたしが大声で叫んでる。だけど、わたしはその声を無視した。
「遠藤くんと佐久間さんに嫌われるし! ケンカになったし! 生徒指導室なんかに呼び出されたし! それもこれも、黒江くんが……黒江くんが……」
もうひとりのわたしが「ダメ―ッ!」って叫んで、頭がクラクラしたけど、知らぬ間に心にたまっていた、どす黒いものを吐き出したい誘惑に負けてしまった。
「黒江くんがわたしの隣に来たから!」
「赤木さん……」
黒江くんがわたしを見つめる瞳が、哀しい色に染まっていく。
それを見た瞬間に、激しい後悔に襲われた。
ちがうの! わたしが言いたかったのは、黒江くんへの感謝の気持ちなのに!
でも、素直にそう言えなかったのは、わたしの頭のなかにある疑問がいつまでも晴れないで、モヤモヤしているからだ。
「黒江くん……。あなたをずっと前から知っている気がするの。きっと、わたしたちは会ったことがある」
思いきって言うと、黒江くんは少し驚いたような表情になったけど、すぐにいつものクールな表情に戻った。
「…………」
すぐに「そんなはずはないよ」って返事が返ってくるかと思えば、黒江くんはわたしを見つめて黙ったままだ。
自転車に乗ったおばさんが、わたしたちをじろじろ見て通りすぎていった。
「あの公園で、ちょっと話そうか」
黒江くんが指さしたのは、町の児童公園だった。
「うん……」
黒江くんのあとについていく。
公園のなかにはブランコに乗っている小さな女の子がふたり。他には誰もいなかった。
黒江くんは公園の中央に向かって歩いていく。そこには五色町のシンボルともいえる、巨大なクスノキが圧倒的な存在感を放っている。
そのクスノキに近づき、黒江くんはそっと手を添えた。
きっと怒ったよね。八つ当たりみたいにヒドいこと言ったし、「会ったことがある」とか、わけわかんないことまで……。
「あの……黒江くん……。さっきは、ごめんなさい」
「…………」
黒江くんは返事してくれない。クスノキの幹に手を添えて、わたしに背を向けたままだ。
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