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13 お母さんみたい

第41話

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 駅前のバス乗り場に戻ってきたのは、夕方五時過ぎ。
 見なれているはずの駅前の風景が、なぜかそれまでとちがって見えた。
 それは――咲也くんとデートする前と、デートしたあとでは、わたしのなかでなにかが変わったんだと思う。

 ホントにわたし、恋しちゃってるんだ。
 恋をしたら、なんでもない風景でも色づいて見えるの?
 それはとっても素敵なこと。


「どうだった? 楽しかった?」

 芽依さんのお店「semer」に戻ると、すぐにたずねられて、わたしは笑顔で答えた。

「はい! すっごく!」

 魔物にねらわれたりしたけれど、そんなことが吹き飛ぶくらい、胸がキュンキュンして……。
 魔物や、おでこにキスのことは伏せて、デートの内容を報告したら、芽依さんはうれしそうだった。

 そして、ハンドバッグを返して、「ワンピースはクリーニングしてお返ししますね」と言って、お礼を伝える。
 すると――。

「いいよ、一千花ちゃんにあげるよ」

 さらりとした調子で、芽依さんが言ったんだ。
 ええっ!? こんな高価なものを!?

「ちょ、ちょっと待ってください! それはダメですよ!」

 あわてて断わろうとすると、芽依さんはクスッとして、
「あたしより一千花ちゃんのほうが似あってるもの。ちょっとサイズ大きいけど、すぐに背も伸びて、ぴったりになるわよ。なお、返品は受けつけませーん」
 と、一歩もゆずる気配がない。

「でも……」

 助けを求めるように咲也くんを見たけど、
「もらっておきなよ」
 って、にこやかに言うばかり。

 結局、ワンピースをいただいてしまった。
 しかも、持って帰るセーラー服を入れる袋までもらって……。
 何度もお礼を言って、咲也くんといっしょにお店をあとにしたんだ。


 咲也くんは、わたしの家まで送ってくれた。
 おたがい、口数は少なかったけれど、ちっとも気づまりじゃなくて。
 フラワーロードの作業を終えて、開花パークへ。
 いろんなことがあった一日を思い返し、幸せな気分にひたっていたから……。

 それにしても――。

「ワンピースもらっちゃったよ。ホントにどうしよう……」

 うれしさと困惑が入りまじった声を出すわたし。

「めいめいはさ、うれしかったんだと思うよ。甥っ子のデートの相手が、楽しそうに帰ってきたから……。遠慮しないで受けとってあげてよ」
「うん……。芽依さんは、咲也くんのことをかわいがってるんだね」
「まあ……そうなるかな……」

 照れたように、頬をかく咲也くん。

「あっ、ここがわたしの家なの……」

 もう自分の家に着いてしまった。

「そう……」
「送ってくれて、ありがとう」

 遠回りなのに、わざわざ送ってくれた咲也くん。
 あっ、家に上がってもらって、なにか冷たいものでも……。
 それから、お母さんが「いっしょに夕飯でもどう?」って言ってくれて――。
 わずか数秒のあいだに、そんな妄想をしてしまった。
 小百合センパイの影響だよ、これはっ!

 妄想を打ち切ったわたしは、ガレージに車がないことに気づいた。
 ああっ! たしか今日、万理花の塾で三者面談があるとか言ってた!
 いま、家には万理花も、お父さんも、お母さんもいないんだ!
 じゃあ、家で咲也くんとふたりっきりに!?
 イケナイ妄想がはじまりそうになって――。

「あっ――」

 ブルームスがいるじゃん!
 わたしたちの恋愛にNGだしてる張本人が!
 がっくりと肩を落としていると。

「どうしたの?」

 咲也くんが目を丸くしている。

「ううん、なんでもないの!」

 両手のひらを激しくふると、咲也くんは眉を下げて、
「おれ、明日からゴールデンウィークの終わりまで、家族で北海道に旅行に行っちゃうんだ」
 と切りだした。

「北海道! いいなあ。うちは妹が受験で、どこにも連れていってくれないんだよ」

 口をとがらせると、クスッとする咲也くん。

「開花町に戻ってきたばかりだから、おれはゆっくりしたいのに、うちの親がやたらアクティブでさ。大変だよ。それに……一千花センパイと会えないのが残念だな」

 ドキッと、心臓がねあがる。

「わたしも……さびしい……」

 咲也くんの瞳を見つめながら、すなおな感情を吐きだす。
 ポンと、わたしの頭に手をのせてきて、やわらかくほほ笑む咲也くん。

「またすぐ会えるさ」
「うん……」

「それじゃあ」
 ときびすを返して歩きかけた咲也くんは、またわたしに向きなおった。

「えっと、休み明けからさ、いっしょに登下校しない?」

 魔物の呪いが強くなってきたことを警戒してくれているんだろうけど、それって、まるで――。

「う、うん。いいよ……」
「じゃあ、開花第一公園に、朝八時に待ちあわせで。いいかな?」
「わかった」

 こくりとうなずくと、咲也くんは「じゃあね」と歩きだした。

「今日はホントにありがとう!」

 わたしはあわててお礼を言うと、咲也くんの背中が見えなくなるまで、ずっと見つめていたんだ。
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