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12 おれが守るから

第39話

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 幸せな空気に満ちていた観覧車のゴンドラは、一転、緊張が走っていた。
 魔物が、わたしをねらってる!?
 しかも、かなり強い魔力をもった魔物らしい。
 生き残ってる魔物は、大したことないんじゃなかったの!?

 体をこわばらせていた、そのとき――。
 ゴンドラが、激しくゆれた。

「きゃあ!」

 わたしは悲鳴をあげて、咲也くんの腕にしがみついた。

「突風だ! しっかりつかまってて!」

 咲也くんは、わたしの背中に手をまわし、ぎゅっと抱きしめた。

 激しい横ゆれがつづき、
「やだ、やだ、こわいよ!」
 と、目をつぶって、咲也くんの胸に、顔を押しあてるわたし。

 永遠にも思われた時間――。

「……ふぅ、おさまったみたいだね」

 咲也くんの声で、ゴンドラのゆれが止まったことに気づく。
 よ、よかったぁ……。
 てか、わたし、超大胆なことを!!

「ご、ごめんっ!」

 あわてて、咲也くんから体を離す。

「あれ、もうおしまい?」
「おしまい!」

 いたずらっぽい表情の咲也くんに、怒ってみせる。
 でも、わたしを不安がらせないよう、軽口をたたいているのは、わかってる。
 だから、本気で怒ったわけじゃないよ。
 すると――。
 ゴンドラのなかのスピーカーから、係員の声が響いた。

「えー、ただいま、強風のため、運転を緊急停止しております。安全が確認できるまで、運転を停止させていただきます。そのままお待ちください」

 同じような内容のアナウンスが、何度もくり返される。

「これって、魔物の呪いのせい……?」

 わたしがたずねると、咲也くんは真顔でうなずいた。

「そのようだよ。気配は消えてしまったから、もうだいじょうぶだと思うけど……」

 いつの間にか、咲也くんの魔眼から光は消えていた。

「最近は、魔物たちも大人しくしてたし、油断があったかもしれない。デートに浮かれて、こんな高いところに一千花センパイを……。ウカツだった。ごめん……」

 くちびるをかんで、拳を握りしめる咲也くんの顔に、後悔の色がにじんでいる。

「いいのよ、気にしないで。だって、デートなんだもん」

 わたしは咲也くんにほほ笑みかけたけれど、頭のなかにモヤがかかってくるのを感じていた。

 ――このせまいゴンドラのなかに閉じこめられてるんだ!
 もうひとりの自分が、頭のなかでさけんだ。
 ううん、風はおさまってるもの。
 もうすぐ運転は再開して、下に降りていくよ。だいじょうぶ。
 イヤなイメージが浮かんでは、それを必死に打ち消す。

 そんなことが数秒のあいだにくり返されて……。
 冷たい汗がふきだし、サーッと血の気が引いていくのがわかる。
 次第に、呼吸もあらくなって、手足がふるえてきた。

「一千花センパイ! だいじょうぶ!?」

 異変に気づいた咲也くんが、心配そうに、わたしの顔をのぞきこむ。

「実は……せまい場所が苦手で……」

 わたしは、そう言うのが精一杯で。

「閉所恐怖症……?」
「そう……みたい……」

 息切れさせながら答えると、咲也くんはジャケットからハンカチを取りだし、わたしのひたいの汗をぬぐってくれた。

「肩にもたれて、リラックスしてなよ。無理にしゃべらなくていいからね」

 言われたとおり、わたしが咲也くんの肩にもたれると、ぎゅっと手を握ってくれて。

 わたしが閉所恐怖症になっちゃったのって、考えてみれば、魔界軍の幹部【風のテュポーン】が原因だ。
 魔法少女アイカとして戦っていたころ、テュポーンの罠にハマり、せまいロッカーに閉じこめられたんだ!
 そのときの恐怖が残っていて、いまだにエレベーターとか、せまい空間が苦手。
 でも……こんなにパニックになるのは、はじめてかもしれない。

 咲也くんは、わたしの気をまぎらわそうと、神戸にいたころの面白い体験談を話してくれている。
 やさしいね、咲也くん。

 あれ? テュポーンは、わたしをロッカーに閉じこめて、魔力で封印してしまった。
 わたし、どうやって脱出したんだっけ?


     ◆


「閉じこめられたまま、おまえは死んでゆくのだ!」

 テュポーンの高笑いに絶望したとき――。

「閉じこめたまま、魔法少女の死を待つというのか? 下劣な戦いをするな、テュポーン!」

 テュポーンを叱りつける気品ある声が響いて、わたしは解放された。
 魔神リュウトが、姿をあらわしたんだ。

「な、なぜ解放するのですか、リュウトさま!?」

 うろたえるテュポーンに背を向ける魔神リュウト。

「ボクの美学に反するからだ。魔法少女アイカよ、テュポーンに勝ってみせろ。そうすれば、残ったボクが自ら、君の相手をしよう」

 そんな言葉を残して、魔神リュウトは黒い霧となって消えた。
 あのままだったら、わたしは負けていたし、開花町はもちろん、世界は闇に染めあげられてたよ。
 今にして思えば、魔界軍のリーダーとしては、魔神リュウトは甘いところがあった。
 魔神リュウガの魂と、乙黒咲也くんのやさしい心が、常にせめぎあっていたんだ。


     ◆


 そんなことを思いだしていたら、手足のふるえはおさまっていた。
 甘いアーモンドのような匂いが、鼻をくすぐる。
 あっ、これは咲也くんのボディシャンプーの香りだ。
 わたし、この匂いに気づかないくらい、パニックになってたんだね。

 ずっと握ってくれていた手を、ぎゅっと握り返すと。
 わたしは、となりの咲也くんの顔を見あげた。
 やさしくわたしを見つめる瞳が、そこにあったんだ。
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