上 下
32 / 51
9 超変身!

第32話

しおりを挟む
 ずーんと沈みかけたとき、さあっと涼しい風が吹きぬけていった。
 分厚い雲が出てきて、日差しも弱まっているし、夏の予告編は終わったのかもしれない。

「ちょっと涼しくなりそうだね。あのまま暑いままだったら、屋外デートは厳しかったよなぁ」
「どこに連れていってくれるの?」

 わたしがたずねると、咲也くんはニカッと白い歯を見せた。

「開花パークだけど……いいかな?」
「わあっ! ひさしぶりかも。楽しみっ!」
「おれ、一度も行かないまま引っ越しちゃったんだ」
「わたしもそう何回も行ってないよ。近いから、かえって行かないんだよね」

 開花パークは、町の中心部からは外れたところにあって、広大な敷地のなかで、四季折々の花や木を楽しめるいこいの場所なんだ。
 観光客にも人気のスポットだけれど、わたしみたいな町の住人には「いつでも行ける場所」だから、逆に、そんなに行かなかったりする。
 足をのばすキッカケができてうれしいし、今はどうなってるのか見てみたい。

 とりあえずわたしたちは、駅前のバス乗り場まで行った。

「おっ、開花パーク行き、ちょうど来てるよ。急ごう!」

 止まっているバスに向かって、ふたりでかけだす。

「間にあったぁ!」

 乗りこむと、車内は空いていて、乗客はまばら。
 わたしたちは、うしろのほうの座席に並んで腰かけた。
 これを逃がしたら、あと三十分は待たなきゃいけなかったよ。
 はぁはぁと肩で息をして、呼吸をととのえていると、バスは発車した。

「あっ――」

 窓側に座ったわたしが、ふと外に目を向けると。
 女の子三人が、楽しげに大通りを歩いていて、そのなかに桃井さんがいることに気づいたんだ。
 バスはすぐに追い越しちゃったけど、桃井さん、あのあと友だちと合流したのかな?

「どうしたの?」

 咲也くんがたずねてきたから、わたしは口ごもりつつ、
「……桃井さんがいたよ」
 と答えた。

 桃井さんは咲也くんをデートに誘ったけど、みんなのまえで断られちゃって。
 気になっていたから、さっき笑顔だったのは、ちょっと安心する。

「あいつ陸上部でさ、今日は運動部ぜんぶが練習休みになったから、テンション高いんだよ。一千花センパイ、あいつになにか言われた?」
「軽~くけん制されたよ。咲也くん、助けにきてくれなかったね」

 ぷく~っと頬をふくらませるわたし。

「いや、魔眼が反応しなかったし、桃井がなにか言ったのは呪いと関係ないし……。えっと、ごめん」

 咲也くんは急に、あたふたした。
 反応がかわいらしくて、ちょっとからかってみたくなったり。

「咲也くんって、スッゴくモテるのね」

 ジト目で言うと、頬をかく咲也くん。

「そう……かなぁ?」
「そうだよ」

 わたしがぷいっと横を向くと、咲也くんはクスッとした。

「もしかして……一千花センパイ、ヤキモチやいてくれたの?」

 思わぬ反撃に、「えっ」と固まるわたし。
 ドギマギして、言葉が出てこない。

「スゲーうれしいんだけど」
「そ、そんなわけないでしょ」

 咲也くんをじろりとにらんで否定したけど、声がうわずってしまう。

「はいはい、そういうことにしときます」

 いたずらっぽい笑みを浮かべる咲也くん。
 もうっ! ホントにヤキモチなんて……やいてなかった……とは言えない。
 わたし、やっぱり咲也くんのこと……。


「おれにとって大切な人は、一千花センパイだけだから……」


 咲也くんの左手が、わたしの右手をつつみこむ。
 わたしはだまったまま、ぎゅっとにぎり返した。
 バスがゆれるたびに、わたしと咲也くんの肩がくっついたり、離れたりして。

 でも――。
 終点まで、手と手は、固く結ばれたままだったんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話

赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

オオカミ少女と呼ばないで

柳律斗
児童書・童話
「大神くんの頭、オオカミみたいな耳、生えてる……?」 その一言が、私をオオカミ少女にした。 空気を読むことが少し苦手なさくら。人気者の男子、大神くんと接点を持つようになって以降、クラスの女子に目をつけられてしまう。そんな中、あるできごとをきっかけに「空気の色」が見えるように―― 表紙画像はノーコピーライトガール様よりお借りしました。ありがとうございます。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが集団お漏らしする話

赤髪命
大衆娯楽
※この作品は「校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話」のifバージョンとして、もっと渋滞がひどくトイレ休憩云々の前に高速道路上でバスが立ち往生していた場合を描く公式2次創作です。 前作との文体、文章量の違いはありますがその分キャラクターを濃く描いていくのでお楽しみ下さい。(評判が良ければ彼女たちの日常編もいずれ連載するかもです)

処理中です...