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5 これが壁ドン!?
第16話
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とにかく、晴れて園芸部専属になれたわけだし……。
「やってみたいことがあるんだ」
「やってみたいこと……?」
首をかしげるブルームスに、わたしはほほ笑んでみせる。
「学校だけじゃなくて、開花町全体をお花でいっぱいにするの! 植草先生に聞いたけど、だれかが町に寄付してくれたらしいのよ。『町の緑化に役立ててください』って。それで、園芸部が使える予算も増えたんだって!」
「ええっ、そうなの!?」
「うん! これから忙しくなるわ。ブルームスにとって、もっともっと心地いい町にしてみせるからね」
花の妖精・ブルームスは、お花が大好き。
だから、園芸部でがんばることは、ブルームスの笑顔につながるはず。
しっぽをせわしなくパタパタさせて、
「うれしいっ! 楽しみにしてるからね!」
って、大喜びのブルームス。
決心してよかったあ。
でも――。
これで咲也くんと、ますます深く関わることになっちゃう。
だいじょうぶかなあ?
新しい目標を見つけて、ワクワクする気持ちはあるけれど、同時に、ぬぐいきれない不安があることも確かなんだ。
それに、椿センパイにあいさつしないで退部したことも心に引っかかっていた。
◆
翌日の昼休み。
「一千花! 椿センパイが呼んでるよ!」
教室で里桜とおしゃべりしていたら、クラスメイトの女の子に教えてもらった。
「あっ……」
引き戸のところに仏頂面して立っている椿センパイを見て、息が止まりそうになった。
思わず、里桜と顔を見あわせると、里桜も不安げな表情。
わたしはゆっくりと立ちあがり、教えてくれたクラスメイトにお礼を言って、椿センパイに近づいていった。
やっぱり怒ってるのかな?
ぺこりと一礼して、おそるおそる話しかける。
「あの……退部のことでしたら――」
「ここじゃなんだから、ちょっとついてきて」
わたしの言葉をさえぎって、短く告げる椿センパイ。
ひいっ! めちゃくちゃ怒ってる!?
「あの……椿センパイ、一千花がなにか……?」
いつの間にか、わたしのうしろに立っていた里桜が、心配そうにたずねた。
「いや、ちょっと愛葉に話があるだけ」
ちらっと里桜を見やると、そっけなく返事をする椿センパイ。
さらに、「早くしなよ」と有無を言わさぬ調子でわたしに言って、さっさと歩きだしてしまった。
「一千花……あたしも……」
わたしは、ついてこようとする里桜を手で制して、
「ちょっと行ってくるね」
と、心配かけまいとほほ笑んで、椿センパイのあとを追った。
椿センパイは背すじをピンと伸ばして、ズンズンと廊下を進んでいく。
ふざけて走りまわっていた男の子たちも動きを止め、複数で固まっていた女の子たちもおしゃべりを止めて、何事かと、椿センパイのために道をあけた。
それほどまでに異様なオーラを身にまとっている椿センパイ。
体内に、静かに怒りを充満させているように見える。あとは、その怒りを大爆発させるだけ――。
怒りの矛先は、わたし!
ふるえがきて、逃げだしたい衝動にかられる。
椿センパイは階段を下りはじめたけど、うしろをふり向くこともない。
逃げても無駄だし、とりあえずついていくしかない。
一階まで下りると、下駄箱を通りすぎ、うす暗い、長い廊下を歩いていく。
こっちは家庭科室や多目的教室なんかがあるくらいで、昼休みはまるで人気がない。
突きあたりを曲がると、閉めきられた扉があって、行きどまりになっていた。
「ここでいいわ。だれも来ないし」
ようやく立ちどまった椿センパイは、壁にもたれて、腕組みした。
「あの……お話って、退部のことですよね?」
おずおずとわたしが口をひらくと、椿センパイは舌打ちした。
「それ以外、ある?」
こ、こわいっ!
「あの、ごめんなさい。あいさつもなしに辞めてしまって……。清水先生に退部届を出したとき、センパイたちへのあいさつはいらないと言われて……」
椿センパイは、ふんと鼻で笑った。
「それを真に受けて、ホントにあいさつもなしに辞めたってわけ?」
「すみません。あいさつすべきでした。ただ……」
「ただ……?」
暗くて椿センパイの表情はよく見えないけれど、眉間にしわを寄せたのが、なんとなくわかる。
「わたし、バスケ部の足手まといになってましたし、必要とされてないのは、自分でもわかってたんです。センパイたちは、わたしの顔なんて、もう見たくないんじゃないかと思って……」
あやまるつもりが、卑屈な言葉が口からこぼれてくる。
だけど、椿センパイは同情なんてしてくれなかった。
「やってみたいことがあるんだ」
「やってみたいこと……?」
首をかしげるブルームスに、わたしはほほ笑んでみせる。
「学校だけじゃなくて、開花町全体をお花でいっぱいにするの! 植草先生に聞いたけど、だれかが町に寄付してくれたらしいのよ。『町の緑化に役立ててください』って。それで、園芸部が使える予算も増えたんだって!」
「ええっ、そうなの!?」
「うん! これから忙しくなるわ。ブルームスにとって、もっともっと心地いい町にしてみせるからね」
花の妖精・ブルームスは、お花が大好き。
だから、園芸部でがんばることは、ブルームスの笑顔につながるはず。
しっぽをせわしなくパタパタさせて、
「うれしいっ! 楽しみにしてるからね!」
って、大喜びのブルームス。
決心してよかったあ。
でも――。
これで咲也くんと、ますます深く関わることになっちゃう。
だいじょうぶかなあ?
新しい目標を見つけて、ワクワクする気持ちはあるけれど、同時に、ぬぐいきれない不安があることも確かなんだ。
それに、椿センパイにあいさつしないで退部したことも心に引っかかっていた。
◆
翌日の昼休み。
「一千花! 椿センパイが呼んでるよ!」
教室で里桜とおしゃべりしていたら、クラスメイトの女の子に教えてもらった。
「あっ……」
引き戸のところに仏頂面して立っている椿センパイを見て、息が止まりそうになった。
思わず、里桜と顔を見あわせると、里桜も不安げな表情。
わたしはゆっくりと立ちあがり、教えてくれたクラスメイトにお礼を言って、椿センパイに近づいていった。
やっぱり怒ってるのかな?
ぺこりと一礼して、おそるおそる話しかける。
「あの……退部のことでしたら――」
「ここじゃなんだから、ちょっとついてきて」
わたしの言葉をさえぎって、短く告げる椿センパイ。
ひいっ! めちゃくちゃ怒ってる!?
「あの……椿センパイ、一千花がなにか……?」
いつの間にか、わたしのうしろに立っていた里桜が、心配そうにたずねた。
「いや、ちょっと愛葉に話があるだけ」
ちらっと里桜を見やると、そっけなく返事をする椿センパイ。
さらに、「早くしなよ」と有無を言わさぬ調子でわたしに言って、さっさと歩きだしてしまった。
「一千花……あたしも……」
わたしは、ついてこようとする里桜を手で制して、
「ちょっと行ってくるね」
と、心配かけまいとほほ笑んで、椿センパイのあとを追った。
椿センパイは背すじをピンと伸ばして、ズンズンと廊下を進んでいく。
ふざけて走りまわっていた男の子たちも動きを止め、複数で固まっていた女の子たちもおしゃべりを止めて、何事かと、椿センパイのために道をあけた。
それほどまでに異様なオーラを身にまとっている椿センパイ。
体内に、静かに怒りを充満させているように見える。あとは、その怒りを大爆発させるだけ――。
怒りの矛先は、わたし!
ふるえがきて、逃げだしたい衝動にかられる。
椿センパイは階段を下りはじめたけど、うしろをふり向くこともない。
逃げても無駄だし、とりあえずついていくしかない。
一階まで下りると、下駄箱を通りすぎ、うす暗い、長い廊下を歩いていく。
こっちは家庭科室や多目的教室なんかがあるくらいで、昼休みはまるで人気がない。
突きあたりを曲がると、閉めきられた扉があって、行きどまりになっていた。
「ここでいいわ。だれも来ないし」
ようやく立ちどまった椿センパイは、壁にもたれて、腕組みした。
「あの……お話って、退部のことですよね?」
おずおずとわたしが口をひらくと、椿センパイは舌打ちした。
「それ以外、ある?」
こ、こわいっ!
「あの、ごめんなさい。あいさつもなしに辞めてしまって……。清水先生に退部届を出したとき、センパイたちへのあいさつはいらないと言われて……」
椿センパイは、ふんと鼻で笑った。
「それを真に受けて、ホントにあいさつもなしに辞めたってわけ?」
「すみません。あいさつすべきでした。ただ……」
「ただ……?」
暗くて椿センパイの表情はよく見えないけれど、眉間にしわを寄せたのが、なんとなくわかる。
「わたし、バスケ部の足手まといになってましたし、必要とされてないのは、自分でもわかってたんです。センパイたちは、わたしの顔なんて、もう見たくないんじゃないかと思って……」
あやまるつもりが、卑屈な言葉が口からこぼれてくる。
だけど、椿センパイは同情なんてしてくれなかった。
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