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2 出会いの春です

第6話

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     ◆


 クラス替えは、何度経験してもドキドキする。
 わたしの新しいクラス――二年B組。
 幸い、小学校で仲のよかった子が何人かいたし、なにより里桜がいっしょだ。
 男子もおとなしい子が多いし、平和なクラスになりそう。

 でも――。
 ざっと見わたしてみても、胸のときめくようなイケメンはいないなぁ。
 もっとも、わたしは恋というものをしたことがない。
 アイドルや俳優を見て、「イケメンだなぁ」とあこがれることはあるけれど、現実でそんなイケメンにお目にかかったことなんて……。


 放課後――。

「じゃあ、あたし、バスケ部の練習に出るね」
「うん。わたしは、今日は園芸部の活動やるよ」
「わかった。センパイたちに言っておくね」

 手をふる里桜と別れたあと、わたしは軍手とバケツを手にして、中庭に向かった。
 校舎と校舎にはさまれた中庭は、だれからも忘れ去られたような場所だ。運動場や体育館からは離れているし、普段からあまり人気ひとけがない。
 そこには園芸部が管理している花壇があって、今の時期はアネモネ、ロベリア、フリージア、パンジーなんかが花を咲かせている。
 花壇は学校の敷地内にいくつかあって、どうしても人目につくところの手入れが優先になるから、ここは後回しになりがち。
 雑草が伸びてきたのが気になっていたし、今日、手入れしよう。

 それに、人がいないということは、物思いにふけるには絶好の場所で。
 まさに「秘密の花園」なんだ。
 バスケ部をやめるかどうか、ひとりでじっくり考えよう。
 そう思っていたのだけれど……。

 意外にも先客がいた。
 しゃがみこんで、花壇の花を見つめている男の子。
 真新しい学ランに身をつつんでいるから新入生だね。


「あ……」

 わたしに気づいた男の子が、サッと立ちあがった。
 わっ、背が高い!
 それに……イケメンだ!
 ここにいたよ! ドラマに出てくるようなイケメンが!
 サラサラの髪に、クールな目元。とってもきれいな顔立ちの男の子だ。
 遠慮させちゃ悪いので、あわてて声をかける。

「あっ、そのまま、そのまま。新入生だよね? きれいに咲いてるでしょ? わたし、園芸部員で、花壇の手入れしにきたんだけど、遠慮しないで、お花ゆっくり見ていってね」
「はあ……」

 男の子は、じっとわたしを見つめてくる。
 新入生は大抵、制服がブカブカでかわいらしい感じになるのに、この男の子は制服を着こなしていた。
 学ランのホックをあけているのが、ちょっと不良っぽいけれど、無理にワルぶっている風でもなく、サマになっている。

 わたしはドキマギしながら目をそらすと、花壇の端っこに移動して、バケツを置いた。
 あちゃー。ずいぶんと雑草が伸びてる。
 軍手を手にはめようとすると、男の子が近づいてきた。

「あの……草引きですか?」
「え? う、うん」

 こくりとうなずくと、男の子はいきなり学ランをぬぎはじめた。

「おれも手伝いますよ」
「ええっ! いいよ、悪いよ。園芸部員の仕事だし……」

 意外な申し出にびっくりするやら、ドキドキするやら。

 男の子は無造作むぞうさに学ランをぬぎすてると、シャツのそでをまくって、
「おれ、花が好きなんです。園芸部に入りたいんですけど……」
 と切りだして、にっこりとほほ笑んだ。

 とたんに、わたしの頬がかーっと熱をおびる。
 なんだ、なんだ。
 クールなイケメンで、ちょっと不良っぽいけど、「花が好きなんです」だなんて。
 ギャップがすごくて、クラクラしてきた。
 とにかく素敵だ! ときめいてしまった!

 ぽーっとなって、なにも言えないでいると。
 男の子の眉が下がった。

「えっと……ヘンですか? 男が花を好きなのって……」

 わたしは、首をぶんぶんと横にふった。

「ううん! ちっともヘンじゃないよ! 素敵だと思うよ! うちはずっと人手不足だから、入部は大歓迎!」
「そうですか。じゃあ、お世話になります」

 男の子は軽く頭を下げると、花壇に向きなおった。
 やっぱり手伝ってくれるらしい。

「あっ、この軍手、よかったら使って。新しいやつだから」

 わたしは、手にもっていた軍手を男の子に渡した。
 予備がないから、自分の分を取りにいかなくちゃ。

「ちょっと待っててね。すぐ戻るから」

 きびすを返すと、腕をがっとつかまれた。

「――っ!」

 びっくりしてふり返ると、男の子がわたしを見下ろしている。
 わわっ! 近い!

「センパイ。おれ、いらないですよ。結構、雑草あるじゃないですか。ふたりでパパッとやっちゃいましょう」

 そう言って、男の子はわたしの腕をはなすと、軍手を返してきた。

「う、うん……」

 わたしの心臓は、すっかりねあがっていた。
 相手は新入生で、年下だっていうのに、ときめいている自分がいる。
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