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本編
4. 奇跡
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二人の繋がりが始まってから二週間ほどが過ぎた水曜日の夜。
康汰と月香は、会う約束をしていた。
仕事をしながら連絡を交し、二人はビルのエントランス近くのソファーで待ち合わせることにした。
普段は残業することの多い康汰だが、この日は午後6時30分には退勤の準備が整っていた。
康汰が務める会社の定時は午後6時。
「今日は早いんですね」
ニヤケ顔の同僚から声をかけられ、康汰は顔を赤らめた。
「たまにはそういうこともあるよ」
何事も無いかのように振る舞い、康汰はそそくさと出口に向かった。
エレベーターに乗り込み閉扉ボタンを押した康汰は、6階でエレベーターが止まることを期待しながら、1階のボタンを静かに押し込んだ。
扉が閉まると同時に康汰はスマートフォンを取り出し、月香にメッセージを送信した。
18:33:康汰
「会社出られそう?」
月香:18:33
「今出るます!」
18:33:康汰
わくわく...っ!!(スタンプ)
月香:18:34
おでけけ♪̊̈♪̆̈ おでけけ♪̊̈♪̆̈(スタンプ)
二人のやり取りは、以前にも増して小気味の良いテンポで進むようになっていた。
エレベーターを一人で降りてソファーに腰掛けた康汰は、これまでの月香との何気ないやり取りを見返していた。
知らぬ間に腑抜けた表情になっていたのは言うまでもない。
画面に夢中になり、月香が近づいてきていたことにも気が付かなかった。
月香「何ニヤニヤしてんですか?笑笑」
康汰「..あぉう、おつかれさんです」
月香「笑 お待たせしました」
康汰「お待ちしておりました」
月香「行くわよ、爺や」
康汰「せめて執事にして」
月香「いいじゃない、爺さんや」
康汰「それは意味変わっちゃうから」
月香「あら、随分細かいこと気にするのね」
康汰「お嬢様は大雑把すぎるんですよ」
月香「いちいち考えてたら息が詰まっちゃうわよ」
月香「爺や、どっちに行けばいいのかしら?」
康汰「右ですよお嬢様」
康汰「相変わらず方向音痴ですね」
月香「言葉を慎みなさい、お爺」
康汰「...笑」
月香「...やめる?笑」
康汰「やめよ笑」
歩いて10分ほどの新橋までの道のりは、二人にとって初めて外で過ごす時間だった。
軽い冗談を交わしながら、その距離はあっという間に縮まっていった。
目的地に到着した二人は、少しふるびたエレベーターに乗り込んだ。
4階で降り、店員に案内された個室に向かった。
静かな空間の中で、最初は仕事の話や最近の出来事を語り合っていたが、徐々に二人の会話は音楽や趣味の話に移っていった。
月香「K-POPって聞いたりします?」
康汰「前は結構好きで聞いてたけど、最近はあんまりだな」
康汰「好きなの?」
月香「最近エスパっていうグループが好きで、よくライブの動画とか見てるんです」
月香「知ってます?」
康汰「エスパ、、エスパー伊東?」
康汰は適当なことを言いながら検索していた。
月香はそんな康汰の手元を呆れた様子で見つめていた。
康汰「aespaって書くのね。どの子が推しなの?」
康汰は画面を見せながら月香に尋ねた。
月香「この子この子! ウィンターちゃん!」
康汰「ウィンターちゃんって言うんだ」
康汰「キラキラしてるね、パウダースノーみたい」
月香「上手いこと言わんでもろて笑」
月香「でも確かにキラキラしてて可愛いんですよね」
月香「どの子が1番タイプですか?」
康汰「この写真で言うと、この端の子かな」
月香「おー、ジゼルちゃん。日本生まれなんですよこの子」
康汰「あーどうりで、少し和風な気がしないでもない」
月香「三ヶ国語話せて美人で...言うことないです」
康汰「三ヶ国語、凄いね」
月香「そうなんです」
月香「康汰さんの最近の推しは?」
康汰「俺はそうだな、優里くんが好きなんだよね。運転しながらいっつも歌ってる。あとed sheeranとか。」
月香「優里好きなんですね、なんか意外です笑」
康汰「意外なんだ笑」
康汰「歌詞と歌声がすごく好きなんだよね」
月香「確かにいいですよね、すごく印象に残ります」
月香「私youtuberのばんばんざいも好きなんですけど、たまに優里が曲作ったり一緒に歌ったりしてるんですよ。知ってます?」
康汰「知ってる! 最近だと青と夏歌ってたね」
月香「そうそう!」
二人にとって、二時間などあっという間だった。
次の日も仕事はあったが、時刻はまだ午後9時を回ったばかり。
二人はカラオケに場所を移すことにした。
新橋駅前に向かう途中、康汰は少し先に同僚の顔を見つけた。
咄嗟に下を向き、顔を隠す。
「そういうところ、康汰さんらしいですね。」
月香は、康汰のそんな行動に気づいて、くすっと笑った。
「会社じゃあんまりこういうキャラじゃないからさ、恥ずかしいんだよね」と、康汰は照れ笑いを浮かべながら返した。
カラオケに入った二人は、まずは一緒に歌える曲を選ぼうと決めた。
選んだのはGreeenのキセキ。
二人は各々の想いを歌詞に重ね、同じ時代に生まれ、同じ場所で働き、そして今こうしていられることが、まさに奇跡だと感じた。
4分30秒という短い時間があっという間に過ぎ、曲が終わった後の静寂が二人を包んだ。
目を合わせて微笑み合いながら、言葉はなくても、お互いにその瞬間を共有していたことが伝わってきた。
ここでの二時間もあっという間に過ぎ、康汰はそろそろ終電が近くなっていた。
康汰の終電は少し早く、午後11時19分。
月香はJRを使えば深夜0時過ぎまでいることが出来たが、康汰に合わせて帰宅することにした。
月香「楽しかったですね!」
康汰「楽しかったね、あっという間だったよ」
月香「また...呑みましょうね!」
月香は、デートという言葉を使うべきか一瞬迷い、躊躇った。
自分には、両親の勧めで交際を始めたひとつ年上の相手がいる。その関係は真剣なものとは言えなかったが、康汰にはまだ伝えていなかった。
二人の時間を共にする中で、その事実を明らかにすることはどうしても出来なかった。
康汰は、月香の少し曖昧なトーンが気になったが、さほど気にしてはいなかった。
笑顔で頷き、「また行こうね」と一言返した。
月香の心には少しだけ重いものが残ったが、それを押し隠しながら、二人は駅に向かって歩き出した。
彼女の中で、どこか言葉にできない思いが渦巻いていた。
康汰と月香は、会う約束をしていた。
仕事をしながら連絡を交し、二人はビルのエントランス近くのソファーで待ち合わせることにした。
普段は残業することの多い康汰だが、この日は午後6時30分には退勤の準備が整っていた。
康汰が務める会社の定時は午後6時。
「今日は早いんですね」
ニヤケ顔の同僚から声をかけられ、康汰は顔を赤らめた。
「たまにはそういうこともあるよ」
何事も無いかのように振る舞い、康汰はそそくさと出口に向かった。
エレベーターに乗り込み閉扉ボタンを押した康汰は、6階でエレベーターが止まることを期待しながら、1階のボタンを静かに押し込んだ。
扉が閉まると同時に康汰はスマートフォンを取り出し、月香にメッセージを送信した。
18:33:康汰
「会社出られそう?」
月香:18:33
「今出るます!」
18:33:康汰
わくわく...っ!!(スタンプ)
月香:18:34
おでけけ♪̊̈♪̆̈ おでけけ♪̊̈♪̆̈(スタンプ)
二人のやり取りは、以前にも増して小気味の良いテンポで進むようになっていた。
エレベーターを一人で降りてソファーに腰掛けた康汰は、これまでの月香との何気ないやり取りを見返していた。
知らぬ間に腑抜けた表情になっていたのは言うまでもない。
画面に夢中になり、月香が近づいてきていたことにも気が付かなかった。
月香「何ニヤニヤしてんですか?笑笑」
康汰「..あぉう、おつかれさんです」
月香「笑 お待たせしました」
康汰「お待ちしておりました」
月香「行くわよ、爺や」
康汰「せめて執事にして」
月香「いいじゃない、爺さんや」
康汰「それは意味変わっちゃうから」
月香「あら、随分細かいこと気にするのね」
康汰「お嬢様は大雑把すぎるんですよ」
月香「いちいち考えてたら息が詰まっちゃうわよ」
月香「爺や、どっちに行けばいいのかしら?」
康汰「右ですよお嬢様」
康汰「相変わらず方向音痴ですね」
月香「言葉を慎みなさい、お爺」
康汰「...笑」
月香「...やめる?笑」
康汰「やめよ笑」
歩いて10分ほどの新橋までの道のりは、二人にとって初めて外で過ごす時間だった。
軽い冗談を交わしながら、その距離はあっという間に縮まっていった。
目的地に到着した二人は、少しふるびたエレベーターに乗り込んだ。
4階で降り、店員に案内された個室に向かった。
静かな空間の中で、最初は仕事の話や最近の出来事を語り合っていたが、徐々に二人の会話は音楽や趣味の話に移っていった。
月香「K-POPって聞いたりします?」
康汰「前は結構好きで聞いてたけど、最近はあんまりだな」
康汰「好きなの?」
月香「最近エスパっていうグループが好きで、よくライブの動画とか見てるんです」
月香「知ってます?」
康汰「エスパ、、エスパー伊東?」
康汰は適当なことを言いながら検索していた。
月香はそんな康汰の手元を呆れた様子で見つめていた。
康汰「aespaって書くのね。どの子が推しなの?」
康汰は画面を見せながら月香に尋ねた。
月香「この子この子! ウィンターちゃん!」
康汰「ウィンターちゃんって言うんだ」
康汰「キラキラしてるね、パウダースノーみたい」
月香「上手いこと言わんでもろて笑」
月香「でも確かにキラキラしてて可愛いんですよね」
月香「どの子が1番タイプですか?」
康汰「この写真で言うと、この端の子かな」
月香「おー、ジゼルちゃん。日本生まれなんですよこの子」
康汰「あーどうりで、少し和風な気がしないでもない」
月香「三ヶ国語話せて美人で...言うことないです」
康汰「三ヶ国語、凄いね」
月香「そうなんです」
月香「康汰さんの最近の推しは?」
康汰「俺はそうだな、優里くんが好きなんだよね。運転しながらいっつも歌ってる。あとed sheeranとか。」
月香「優里好きなんですね、なんか意外です笑」
康汰「意外なんだ笑」
康汰「歌詞と歌声がすごく好きなんだよね」
月香「確かにいいですよね、すごく印象に残ります」
月香「私youtuberのばんばんざいも好きなんですけど、たまに優里が曲作ったり一緒に歌ったりしてるんですよ。知ってます?」
康汰「知ってる! 最近だと青と夏歌ってたね」
月香「そうそう!」
二人にとって、二時間などあっという間だった。
次の日も仕事はあったが、時刻はまだ午後9時を回ったばかり。
二人はカラオケに場所を移すことにした。
新橋駅前に向かう途中、康汰は少し先に同僚の顔を見つけた。
咄嗟に下を向き、顔を隠す。
「そういうところ、康汰さんらしいですね。」
月香は、康汰のそんな行動に気づいて、くすっと笑った。
「会社じゃあんまりこういうキャラじゃないからさ、恥ずかしいんだよね」と、康汰は照れ笑いを浮かべながら返した。
カラオケに入った二人は、まずは一緒に歌える曲を選ぼうと決めた。
選んだのはGreeenのキセキ。
二人は各々の想いを歌詞に重ね、同じ時代に生まれ、同じ場所で働き、そして今こうしていられることが、まさに奇跡だと感じた。
4分30秒という短い時間があっという間に過ぎ、曲が終わった後の静寂が二人を包んだ。
目を合わせて微笑み合いながら、言葉はなくても、お互いにその瞬間を共有していたことが伝わってきた。
ここでの二時間もあっという間に過ぎ、康汰はそろそろ終電が近くなっていた。
康汰の終電は少し早く、午後11時19分。
月香はJRを使えば深夜0時過ぎまでいることが出来たが、康汰に合わせて帰宅することにした。
月香「楽しかったですね!」
康汰「楽しかったね、あっという間だったよ」
月香「また...呑みましょうね!」
月香は、デートという言葉を使うべきか一瞬迷い、躊躇った。
自分には、両親の勧めで交際を始めたひとつ年上の相手がいる。その関係は真剣なものとは言えなかったが、康汰にはまだ伝えていなかった。
二人の時間を共にする中で、その事実を明らかにすることはどうしても出来なかった。
康汰は、月香の少し曖昧なトーンが気になったが、さほど気にしてはいなかった。
笑顔で頷き、「また行こうね」と一言返した。
月香の心には少しだけ重いものが残ったが、それを押し隠しながら、二人は駅に向かって歩き出した。
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