窓際の交錯

プロローグ

軌跡 〜康汰〜

成瀬康汰（なるせ こうた）は、人生の大半を独りで過ごしてきた。
彼の27年という時間は、常に一定のリズムで流れていた。周囲に流されず思いのままに生きる、そんな自分が好きだった。

田舎出の彼は都会に憧れを持っていた。
大学進学をきっかけに八王子で一人暮らしを始め、就職をきっかけに新宿に身を移した。
気づけば社会人生活は6年目を迎えていた。

仕事は堅調だ。ITベンチャーのSEとして、彼は着実にキャリアを積んでいた。
これまで携わったプロジェクトは成功裏に終わり、周囲からの評価も悪くない。
山積する課題を確実にクリアし、顧客の理想を実現する毎日の中で、康汰はプロとしての自信を深めていた。

しかし、仕事が終われば、一転して孤独が彼を包む。
趣味はドライブ、読書、そして料理に映画鑑賞。
自らの手で作り出す料理の香りや、ページをめくる音だけが、康汰の日常に彩りを与えていた。
2024年の今、彼は千葉に移り住んでいる。
自分の車が欲しかったのだ。理想は必ず形にする。その粘り強さ、もとい頑固さが仕事にも活きているのだろう。

一方恋愛に関しては、康汰の人生はあまりにも空白が多すぎた。
好きになる女性は決まって他に想い人がいた。彼女ができたことは一度もない。
それでも康汰は、優しさに満ちた女性たちに心惹かれては、彼女たちの存在に甘えてしまうことが多かった。彼女たちの心の美しさが、彼の孤独をただ一時埋めてくれる。
しかしそのたびに康汰は、自分が何も手に入れられない現実に打ちのめされるのだった。

「恋愛以外のことは、うまくいくのに…」
康汰はいつもそう考えながら、曖昧な日常を生き続けていた。