Avaloncity Stories(掌編集)

明智紫苑

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Scarlet Apple ―『緋色の果実とファウストの聖杯』断片―

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 果心かしん様、早く会いたい。

 琉球の海で果心様に遺灰を撒いてもらってから、私は光と水の精霊として生まれ変わった。
 松永緋奈まつなが ひな、それが今の私の名前。元々「緋奈」という名前は、「海の娘」として生まれた私を拾ってくださった果心様に名付けられたものだけど、松永という苗字は「あのお方」にあやかったもの。
 私は、あのお二人以外の殿方に身を任せてはいない。精霊としての修行のために、何人かの男たちに官能的な幻を見せた事があるけど、私自身はその男たちに身を任せてはいない。

 ここは新宿2丁目のクラブ。レズビアンやバイセクシュアルなどの女たちだけのイベントが行われている。私はノースリーブでフロントジップの黒のボディコンミニワンピースに網タイツ、黒のピンヒールのパンプスという姿だ。腰まで届くまっすぐな黒髪は、特に目立っているかもしれない。ある女性からは、某美人女優に似ていると言われて口説かれそうだったけど、私の思い人は果心様だけ。
 私は以前、痴漢に襲われそうだった女の子を助けたけど、私も果心様と同じく、あの子を守るように呂先生に命じられた。そして、成長したあの子は田横でん おうの子孫の生まれ変わりと結婚して、男の子が生まれた。
 その男の子のベビーシッターとして、私はあの家族に雇われるつもりだ。

 その前に、果心様と再会する必要がある。

 今の果心様は、私が死んでからは何人かの女神様たちと肉体関係を結んでいるという。ハッキリ言って、悔しい。ついでに「あのお方」には何人かの愛妾がいたし、陣中でもお気に入りの美女と戯れていたらしいけど、果心様は他の誰にも奪われたくない。
 私は何度か、「あのお方」や果心様と三人で戯れた事があるけど、あれは「クレイジー」だった。そして、もし仮に果心様がいなければ、私は「あのお方」に完全に心を奪われていたかもしれない。「あのお方」は、若さだけが取り得の男なんかよりずっと蠱惑的な殿方だったのだから。そう、「あのお方」は「毒蜘蛛の王」、宿命の男homme Fataleだった。
 でも、私はどれだけ「あのお方」に抱かれようとも、果心様を捨てられなかった。そう、果心様こそが私の最愛の人。もう、離さない。

 果心様は、あの子の家の真向かいのマンションに住んでいる。あのお方は、押し掛け女房の私を受け入れてくださるだろうか? いいえ、必ずあのお方を再び捕まえてみせる。
 そう、前世からの約束なのだから。
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