Avaloncity Stories(掌編集)

明智紫苑

文字の大きさ
上 下
3 / 25

不死鳥

しおりを挟む
「趙の武霊王の庶子、平原君趙勝の異母兄」
 周りの者たちがどよめいた。
「楽毅の娘婿、李牧の師」
 そんな馬鹿な? 秦軍の者たちは動揺した。
 秦王の前に連れてこられた趙軍捕虜の男は、どう見てもそのような年には見えなかった。まだ二十代、せいぜい三十前後にしか見えなかった。胡服が似合う長身の美丈夫である。
 なるほど、あの「英雄」武霊王の血を引くだけの事はある。
「『狂公子』趙翔、字は子鳳。信陵君魏無忌の盟友にして『守り神』」
 趙翔と呼ばれた男は秦王の目をしっかりと見据え、言い放つ。

「ならば、この俺を殺して、五体バラバラにしてさらしものにするがいい。それでお前が欲しいものが分かる」

 趙の王族の生き残りである男は、その言葉通り処刑され、邯鄲の街で死体をさらされた。
 その夜、秦王の枕元に彼が立った。
「古き秩序は新しき秩序に取って代わられる。それは、我が母方の曾祖父である商君(商鞅)がしばしば口にしていたらしいが、いずれはお前の秩序も別の何者かに取って代わられる。俺の仕事はそいつらを助ける事だ」
 翌朝、彼の死体は消えていた。



「あれはいずれにせよ、天下統一を果たすだろう。そうなれば、あの男が次に欲しがるものが何なのか?」
 趙翔…子鳳はある街の酒場で一人の男と出会っていた。その男は韓の宰相の息子で、名を張良、字を子房という。
「あの男はいずれにせよ、『迷う』。今は亡き文淵殿の助言通りに」
 文淵…子鳳の友人であった韓の公子・海は生前、子鳳に秦王に対する秘策を授けていた。

 あなたの「特異体質不老不死」が、あの者に「迷い」を植え付けるでしょう。

「楽将軍の主君だった燕の昭王のような名君でさえも、不老不死への誘惑に取り憑かれたのだ」
 それぞれのやり方で、秦への報復を果たす。どれだけの月日が経とうとも、きっとやり遂げてみせる。
 子鳳は自嘲気味に言う。
「今、こうして生きて飲み食いしているけども、我が曾祖父と同じように『死体』を車裂きにされたのは皮肉だな」
 子鳳は苦笑いした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

処理中です...