Avaloncity Stories(掌編集)

明智紫苑

文字の大きさ
上 下
23 / 25

バベルシティのモードギャング

しおりを挟む
「ねぇ、聞いた?」
「何さ?」
「〈コモン・バベル〉に大物の賞金稼ぎが来たって」
「ふーん」
 花柄やアニマルプリントのトップスや、フェイクレザーのホットパンツやミニスカートを身に着けた若い女たちが噂する。地球史の21世紀序盤の日本で流行っていた「ギャル」系のファッションで武装した〈モードギャング〉だ。
 彼女らの主な敵は、これまた21世紀序盤の日本で流行したゴシック・ロリータファッションに身を包んだ別のモードギャングだ。
 かつては地球連邦の植民惑星だったディルムン最大にして最凶の都市、それが文字通りの現代のバベルの塔、〈バベルシティ〉だった。
 この惑星ディルムンでは、〈ドン〉と呼ばれる影の支配者によって、ほとんどの男性たちが殺戮されたと言われる。生き残った男性たちも地下刑務所に幽閉されているという。地上エリアにいる男性のほとんどは人造人間〈アンドロイド〉であり、地下の歓楽街〈プリムローズ〉エリアにある遊郭の〈遊夫〉たちもアンドロイドだ。

 女性ばかりのモードギャングたちは、天然人工問わず、男性という資源を巡って争っていた。

「あ、あいつ…!」
「デカい刀を振り回してやがる」
 白ギャルと黒ギャルのコンビの目の前に、黒を基調としたワンピースを着た少女が現れた。その小柄な身体にふさわしくない大刀を振りかざす。
「逃げるは恥だが役に立つ!」
 ギャルコンビがその場から逃げ出そうとする間もなく、ゴスロリ少女は二人を斬り捨てた。



「やれやれ、またモードギャングの連中がやらかしたのか?」
 最上ファルコはブラックコーヒーをすすりつつぼやく。彼はバベルシティの地下第一階層〈リンボ・タウン〉で探偵事務所を経営している。
 ファルコの言うモードギャングの中でも特に有力なグループは4つある。
 ギャル系モードギャング〈スワロウテイル〉。
 ゴシック・ロリータ系モードギャング〈ローザ・ネーラ〉。
 サイバーゴス系モードギャング〈エンブリオ〉。
 そして、森ガール系モードギャング〈夢見る子羊団〉。
 以上、地下の居住地に君臨するモードギャングたちである。
 ファルコはアンドロイドではない。一応は、天然の人間男性である。ただし、物心がつく時点で実の両親はいなかったので、自分が本当に普通の人間なのかは怪しい。現に、彼には普通の人間にはない能力があるのだ。
「さてと、行くか」

 地下第二階層〈プリムローズ〉にある遊郭〈ジョイアス・ガルド〉には、上の階層の女たちがたまに降りてくる。目当てはもちろん、美男子として作られたアンドロイドの〈遊夫〉たちだ。
 彼ら遊夫たちは、地球史上の有名人たちの名を源氏名としてつけられている。
「すみません! もう勘弁してください!」
「あたしの言う事を聞けっつーの!」
 客の女が遊夫に暴力を振るっている。どうやらこの女は根っからのサディストであり、この遊郭では禁じられているプレイを強制しているのだ。
「やめろ!」
 部屋の中にある信楽焼風の狸の置物が口をきく。
「な、何なの?」
「お前こそ何だ? この店のルールを破っている。大切な〈商品〉を傷物にするなら、オーナーに出入り禁止処分してもらうからな」
 狸の置物は、人間の男に変わっていた。私立探偵、最上ファルコ。たまには遊郭〈ジョイアス・ガルド〉の用心棒を務める。

「ファルコ兄さん、本当にありがとうございます」
「何とか助けられて良かったよ。さっきの女もモードギャングの奴だったようだな」
 地下の居住地エリアは、地上の法治主義がまともに機能しない。だからこそ、ファルコらのような自警団的な存在が必要だ。
「さて、上に戻るか」
 ファルコは〈ジョイアス・ガルド〉を出ていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

入れ替わった恋人

廣瀬純一
ファンタジー
大学生の恋人同士の入れ替わりの話

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

処理中です...