13 / 25
Golden Diamond
しおりを挟む
アスターティ…何て忌々しい!
ぽっと出のクセに。どこぞやの馬の骨とも知れない小娘。ちょっとキレイで、自作自演で歌えるなんて。
あたしも「一応」自作自演の「歌姫」だ。ちょっと前までは、若い子たちからカリスマ的な支持を集めていた。
だけど、あたしは「偽物」。
ロクサーヌ・ゴールド・ダイアモンドというゴージャスな芸名は本名じゃない。
この美貌だって作りもの。自作という事になっている歌詞だって、ゴーストライターに書かせている。
出自不明のカリスマモデル改め、売れっ子シンガー兼女優。ミステリアスな「ディーヴァ」ロクシー。
誰もがうらやむセレブ、あたしはあらゆるメディアに君臨する「偶像」だ。
しかし、あたしはあの女を目にして、改めて自分が「偽物」であるのを思い知らされた。
生まれついてのキレイなプラチナブロンドの髪と空色の目。身長168cmに股下90cm以上の美脚。ロックバンドで使う楽器はたいてい演奏出来て、キレイな声で歌唱力が高く、自作の楽曲の出来が良い。おまけに、売れっ子作家のフォースタス・チャオと婚約して同棲中の上に、アヴァロン大学文学部に在席する現役大学生ミュージシャンだ。
あたしが本来持っていないものを、あの女は持っている。
幸い、あたしは元々背が高く脚が長いので、「加工」にはそんなに手間がかからなかった。脂肪吸引で余計な贅肉を捨て、胸とお尻をグラマラスに形作り、ブルネットの髪を抜いてブロンドの髪に植え替え、黒い目を青い虹彩の人工眼球に取り替えた。マフィアの連中が経営する売春宿にいるバールの娼婦たちを作るようなものよ。
それに比べて、アスターティ。あの女は生まれついての美人だ。見ただけで「本物」だと分かった。だからこそ、あたしはあの女が許せなかったのよ。
今のあたしは、あのカルト集団を後ろ盾にしている。あんな連中に取り入らなければ、この業界にはいられない。あたしも落ちぶれたものよ。クスリに頼らなきゃやってらんない。
あたしは裏社会の連中にアスターティを襲わせようと企んだ事がある。だけど、アスターティは色々な連中に守られている。あいつの所属事務所は邯鄲ホールディングス傘下の会社だし、あの女のマネージャーのババァはかなりの切れ者だ。
〈ジ・オ〉の連中は、建国記念コンサートで爆破テロを仕掛けるつもりらしいけど、あたしの後にあの女が出番だから、あの女が巻き込まれちゃえばいいのよ。
いや、あいつらはあたしも巻き込むかもしれない。だったら、一体何のためにあたしはあの幹部連中の相手をしたのよ!?
あたしが何度か寝た事がある州知事の男。あいつは古典的な男らしさを自慢するホモフォビアの男。正妻に七人も子供を生ませた元辣腕弁護士だけど、あたしの他にも何人も女がいる。あいつは〈ジ・オ〉を後ろ盾に成り上がった。負け組の「プアホワイト」たちがあいつを支持したのよ。
あたしの実家も、そんな貧乏白人の一家だった。そして、あのロクデナシ親父はブスだったあたしをオモチャにした。
親父や兄貴だけじゃない。学校のバカ男子どももあたしをさんざん辱めた。
それでもあたしは、「男」がほしかった。
「店」にいた時にはレズビアンの金持ちババァを相手にする事もあったけど、あたしはやっぱり男を相手にする方が良かった。
「ねぇ、ゴールド。まだ寝ないの?」
「うん、もうすぐ寝るわ」
黒人の女の子があたしを呼ぶ。あたしの分身、ロクサーヌ・シルヴァー・ダイアモンド。あたしの「歌声」。彼女が舞台裏で歌うのに合わせて、あたしは口パクをする。あたしが唯一信頼している同性。
この娘もあたしと似たような境遇で育ったけど、あたしと違って無垢だ。あたしが偽物の「ゴールド」なら、この娘は本物の「シルヴァー」だ。
彼女は表向きはあたしの付き人だけど、実際には彼女こそが真の「歌姫ロクサーヌ・ゴールド・ダイアモンド」だ。
「おやすみ、シルヴァー」
あたしはベッドに潜り込んだ。
ぽっと出のクセに。どこぞやの馬の骨とも知れない小娘。ちょっとキレイで、自作自演で歌えるなんて。
あたしも「一応」自作自演の「歌姫」だ。ちょっと前までは、若い子たちからカリスマ的な支持を集めていた。
だけど、あたしは「偽物」。
ロクサーヌ・ゴールド・ダイアモンドというゴージャスな芸名は本名じゃない。
この美貌だって作りもの。自作という事になっている歌詞だって、ゴーストライターに書かせている。
出自不明のカリスマモデル改め、売れっ子シンガー兼女優。ミステリアスな「ディーヴァ」ロクシー。
誰もがうらやむセレブ、あたしはあらゆるメディアに君臨する「偶像」だ。
しかし、あたしはあの女を目にして、改めて自分が「偽物」であるのを思い知らされた。
生まれついてのキレイなプラチナブロンドの髪と空色の目。身長168cmに股下90cm以上の美脚。ロックバンドで使う楽器はたいてい演奏出来て、キレイな声で歌唱力が高く、自作の楽曲の出来が良い。おまけに、売れっ子作家のフォースタス・チャオと婚約して同棲中の上に、アヴァロン大学文学部に在席する現役大学生ミュージシャンだ。
あたしが本来持っていないものを、あの女は持っている。
幸い、あたしは元々背が高く脚が長いので、「加工」にはそんなに手間がかからなかった。脂肪吸引で余計な贅肉を捨て、胸とお尻をグラマラスに形作り、ブルネットの髪を抜いてブロンドの髪に植え替え、黒い目を青い虹彩の人工眼球に取り替えた。マフィアの連中が経営する売春宿にいるバールの娼婦たちを作るようなものよ。
それに比べて、アスターティ。あの女は生まれついての美人だ。見ただけで「本物」だと分かった。だからこそ、あたしはあの女が許せなかったのよ。
今のあたしは、あのカルト集団を後ろ盾にしている。あんな連中に取り入らなければ、この業界にはいられない。あたしも落ちぶれたものよ。クスリに頼らなきゃやってらんない。
あたしは裏社会の連中にアスターティを襲わせようと企んだ事がある。だけど、アスターティは色々な連中に守られている。あいつの所属事務所は邯鄲ホールディングス傘下の会社だし、あの女のマネージャーのババァはかなりの切れ者だ。
〈ジ・オ〉の連中は、建国記念コンサートで爆破テロを仕掛けるつもりらしいけど、あたしの後にあの女が出番だから、あの女が巻き込まれちゃえばいいのよ。
いや、あいつらはあたしも巻き込むかもしれない。だったら、一体何のためにあたしはあの幹部連中の相手をしたのよ!?
あたしが何度か寝た事がある州知事の男。あいつは古典的な男らしさを自慢するホモフォビアの男。正妻に七人も子供を生ませた元辣腕弁護士だけど、あたしの他にも何人も女がいる。あいつは〈ジ・オ〉を後ろ盾に成り上がった。負け組の「プアホワイト」たちがあいつを支持したのよ。
あたしの実家も、そんな貧乏白人の一家だった。そして、あのロクデナシ親父はブスだったあたしをオモチャにした。
親父や兄貴だけじゃない。学校のバカ男子どももあたしをさんざん辱めた。
それでもあたしは、「男」がほしかった。
「店」にいた時にはレズビアンの金持ちババァを相手にする事もあったけど、あたしはやっぱり男を相手にする方が良かった。
「ねぇ、ゴールド。まだ寝ないの?」
「うん、もうすぐ寝るわ」
黒人の女の子があたしを呼ぶ。あたしの分身、ロクサーヌ・シルヴァー・ダイアモンド。あたしの「歌声」。彼女が舞台裏で歌うのに合わせて、あたしは口パクをする。あたしが唯一信頼している同性。
この娘もあたしと似たような境遇で育ったけど、あたしと違って無垢だ。あたしが偽物の「ゴールド」なら、この娘は本物の「シルヴァー」だ。
彼女は表向きはあたしの付き人だけど、実際には彼女こそが真の「歌姫ロクサーヌ・ゴールド・ダイアモンド」だ。
「おやすみ、シルヴァー」
あたしはベッドに潜り込んだ。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本
しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。
関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください
ご自由にお使いください。
イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる