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第1章・『姫君を狙う者』:ウィーテネ編

#15. 天井裏に潜む……

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 長いパーティが終わり、無事『えっ?あっ、はい!』としてウィーテネの初仕事も終えた。
 ムラ村の人間には身分証が無いらしくウィーテネに本人と確かめる方法が存在しない。
 変装できそうな人間に当たりを付けて騎士団からの偽の招待状でえっ?あっ、はい!を別の場所に送り仲間に代わりに試験を受けてもらった。
 まさか好成績を収めるとは思っても居なかったが。

 街の宿に帰宅しすぐに城に戻る。
 予め教えられた裏口から塀を上り中に入った。
 仲間が細工した天井裏への入口を開けその中に。

 気付かれ無い様に明かりは付けられない。
「(こちら城の天井裏への侵入に成功しました)」
『ワママ姫の部屋は北方向に500mだ』

「(了解)」
 脳内に直接通信を受け、指示に従い真夜中の天井裏を手探りで這って行く。
 天井裏へ出入りする者はもちろん居なく埃や蜘蛛の巣、鼠とスライムなどが住み着いて居る為自分の襟元で口を覆う。

「(……こちら埃や蜘蛛の巣が多いです)」
『当たり前だ。でなければ頻繁に天井裏を通る人間が居る事になる』
 朝にはまた兵士としての仕事が始まる。その時には宿に戻り再び城に戻らなければならない。
 せめて綺麗な宿でゆっくり休みたい。

『この仕事も2日の辛抱だ』
 日本人に容疑を掛けウィーテネは世界中に戦争を仕掛けようとしている。
 つまり、日本人の滞在期間である残り2日間のいつオレに指示が来るか分からないのだ。

『それよりもK5、貴様新米兵士が無闇に対象者に近付くな!!』
「(了解です。以後気を付けます)」
 この通信は口に出さなくても互いにチャンネルを繋げる事で脳内での会話が成り立つ。
 感情が高ければ高い程聞こえる声は大きくなり、今みたいに声を張り上げられると更に脳に響く。

 現場は上が描いたシナリオ通りに行く事は稀で、現場では常にアドリブ力が試される。
 そんな事まで一々注意されてはこちらのやる気も阻害される。
 偶に指揮官への嫌がらせを混ぜなければやってられなくなるのはここだけの話だ。

「なっ!!そっそそ其方一体ここで何をしている!?」
 すると近くから誰かの叫び声が聞こえる。
 好奇心を抑えられなかったオレはその声のする方向へ……。

「何故我は裸なのだ!?」
 多分聞こえて来る声の真上に到着したオレは小さなドリルを取り出しゆっくりと穴を開ける。

「ここはどこだ!?ケイナリ!?ケイナリはどこだ!?」
 穴を開ける際の屑が落ちない様に慎重に掘る。
「やっと目覚めたか……第13ラウンドといこうや」
 バレない様に慎重に、優しく、そっと掘っていく。

「おい!ケイナリ!?どこだ助けてぇ!!」
 『13ラウンド』って何やってんだろ?
 ようやく開通した穴を覗き込み見えた世界は───。
 オレにはよく分からない光景が見えた。

 裸の男2人がベッドの上で何やら暴れている。
 イカつい顔した男がひ弱な男を襲っている様に見えるのだ。
 もう1人の男の顔には見覚えがあり、情報によるとギグルスの第一王子のフフフッ王子だ。

 フフフッ王子はこの城で好き勝手に遊んでいると聞いている。
 オレが見た限りでは昼間のパーティにも来ていなかったと思われる。
 ギグルスの王族が裸族なだけなのか、他の国でも同じなのかは正直分からないオレは少し目が離せないで居た。

『おい、もうそろそろ着いたか!?しっかり報告しろ』
「(もうそろそろ着きます。残り100mかと……)」
 逃げ様とするフフフッを抑え離さない男。
 ギグルスの王子よりも偉い人間なのだろうか?フフフッは無理矢理押さえ付けていた。

『予定では既に着いているはずだ!!一体何をやってるK5!』
「(申し訳ありません。天井裏にスライムらしき生物が居りまして大きな支障はありません)」
 スライムが居るのは嘘では無い。
 これから起こる事が気になるが改めて先を急ぐ事に。

「……」
 一瞬『黒き眼の看客』を残そうかと考えるもすぐに思いとどまる。

「(こちら目的地に到着しました。これより穴を開けます)」
 想定の時間を5分程過ぎてから到着する。
 スライムのネバ付きが無い所を探しドリルで穴を開ける。

『慎重に行え。絶対に対象者に気付かれるな』
「(了解です)」
 言われなくても分かってる事を一々言ってくる司令にも慎重に返事を返す。

 無事穴が開いた事を確認し黒き眼の看客をはめ込む。
『こちら対象者確認。K5ご苦労。これより明朝4時までそこで待機だ』
「(了解)」
 黒き眼の看客により司令の目にもその映像が映し出される。

 とりあえず自分の仕事を終え指示があるまで姫様の監視だ。
 部屋の中には副騎士団長の姿は無く、ワママ姫1人であった。

「───にょごにょ」
 枕に顔を押し付け何かを話している様子。
 他に人が居ない事からも独り言である可能性が高い。
 口元が見えたとしてもウィーテネの言葉はオレには分からない為解読する事は不可能であろう。

 再び部屋の中を確認し、ドアの位置を確かめる。
 姫様にバレない様に音を立てず静かに動く。

 通路側まで到着し、こちらの天井にも穴を開け黒き眼の看客をはめ込む。
 黒き眼の看客は普通の人が見ればただの黒い球体だ。

 実際昼に姫様が踏んずけて転んだ時も3人にも特に不審がれる事は無かった。
 これのおかげで会場内の様子を見る事もできた。
 会場の魔法の効果は音を外に出さないだけの様だった。

 今回はチャンネルを自分にだけに合し廊下を確認する。
 部屋の前には副騎士団長のみが静かにじっと立っていた。

 見張りは基本的に2人体制だとミハイリ先輩が言っていたが彼女がその例外なのだろう。
 副騎士団長さえどうにかできれば姫様を守る存在は居なくなると言う事だ。

 とりあえず2人とも動く気配がしないので天井裏をどうにかする事に。
 スライムはネバネバしていて触りたくは無いのだが、既に服にベッタリ着いてしまっている。
 そもそもスライムの通った後だろうか?スライム本体の姿が見えないのだ。
 鼠や蜘蛛などが、絡みついて身動き取れずに衰弱している。

 掃除する様な物も何も持って来て居ない。
 てかそもそもスライムとは雑食なモンスターらしい。
 だからトイレに置いて排出物を食べてくれて綺麗に消化してしまうとの事。

「……」
 確かスライム自体も、とても綺麗な生き物でトイレのスライムですら食べられると言ってた。
 オレは一度来た道を戻りトイレへと向かった。
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