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第1章・『姫君を狙う者』:ウィーテネ編

#3. えっ?あっ、はい!

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「それじゃー行ってくるね」
 僕は見送ってくれる皆に最後の挨拶を交わす。

「えっ?あっ、はい!気を付けて行くんだよ?道中の森も十分危険なんだからね?」
「えっ?あっ、はい!大丈夫だよ、ちゃんと分かってるから」
 この言葉を聞かされ続けた結果『いつも同じ話して草』が畑に咲いてしまった。

「知らない人に会っても着いて行っちゃ駄目だからね?森には蚊が沢山居るから刺され無い様に注意してね?綺麗な花を見かけても立ち止まっちゃダメよ!!」
「何度も森に入ってるんだから大丈夫だって」
 昔からおばあちゃんの心配性は変わらない。
 おばあちゃんにとって僕はいつまでも子供のままなんだな。

「たぶん、きっと、おそらく今日からは三人が皆を護るんだよ」
 僕が抜けた後の年長組の三人にも別れの挨拶をする。

「えっ?あっ、はい!兄さん!!辛くなったらいつっっっでも!帰って来て良いからね」
「えっ?あっ、はい!兄。留守は任せろよな!」
「えっ?あっ、はい!お兄ちゃん。たぶん、きっと二人が居るから大丈夫だよ」
 たぶん、きっと、おそらく三人が居るから僕は安心して家を任せられる。

「やだ、やだやだ!!べつにさびしくないけど、ちゃんとかえってきてね?おにいちゃんのいうこときいて良い子にしてるんだよ?」
 小さい子供達にも一言お願いをする。

「えっ?あっ、はい!お兄ちゃん。やだもうお姉ちゃんだから大丈夫だよ!」
「えっ、あっ、はい!お兄ちゃん!!ヤダヤダ!!やだやだも行くぅう!!」
 しっかり者のやだに対してやだやだはまだ甘えたい年頃だ。

「ごめんね。お兄ちゃんも一緒に行きたいけどお家の事が心配だからやだやだが皆のそばにいてあげて欲しいんだ」
「やだやだ……もう7歳だから、もうお兄ちゃんだから大丈夫!!」

「うん。ありがとう。やだやだが居るから安心だな」
 この前までハイハイしてたやだやだの成長も今日を最後に見届ける事ができなくなるんだなぁ……。

「えっ?あっ、はい!お兄ちゃん。べつにさびしくないけどは別に寂しく無いけど、無いんだけど……お兄ちゃんが寂しかったらいつでも帰って来ていいんだからね?」
「うん。お兄ちゃん寂しいからなるべく帰って来るよ」

「兄ちゃんなんか嫌いだ!!俺は二度と顔なんか見たくない!!もう帰って来んな!!」
「ちょっとアンタお兄ちゃんに向かって『嫌い』って」
「たぶん良いんだ」
 僕はちゃんとかえってきてね?を叱るたぶんを止めちゃんとかえってきてね?を優しく抱きしめた。

「それでもお兄ちゃんは家族の皆が、ちゃんとかえってきてね?の事が大好きだから。帰って来たいな……ダメかな?」
「…………んっ!!」
 ちゃんとかえってきてね?は僕を無理やり剥がし家の中に入ってしまう。

「たぶん。お願いして良いかな?」
「……うん。分かった」
 ちゃんとかえってきてね?の後を追ってたぶんが家に入ってく。

「わっ、私も大きくなったら騎士団に入るの!!そしてお兄ちゃんと一緒にこの国を!家族を護るんだ!!」
「そっか……お兄ちゃん楽しみだな。その為にもおにいちゃんのいうこときいてはお姉ちゃん達の言う事聞いて元気に育ってね?」

「ん……ぅん。平気だよ!おにいちゃんのいうこときいてもう我儘言わないもん!!」
 これでおにちゃんのいうこときいてももうイヤイヤ期卒業できたのかな?

 そして、最後にまだ赤ん坊の末っ子とそれを抱き抱える僕の幼馴染へと向き合う。
「よく食べて、よく泣いて、いっぱい遊んだね。君が居てくれたから僕は今日まで頑張れたんだ。君の笑顔に沢山励まされた。ありがとうってごめんまだちゃんとしゃべれないか?」
「うっさい!!『よく食べて泣いた』は余計だっての!!」
 余計な事を言ってしまったせいで、ってごめんまだちゃんとしゃべれないか?に頭を思い切り殴られてしまう。

「昔はもっと可愛かったn───ったい!!」
「私は全然納得行って無いからな!私の方が強いのに先に騎士団入りしやがって!!調子乗んな!何でお前だけ勧誘されてんだっ」
 再びゲンコツをお見舞されてしまう。

「ててて……うん。一足先に待ってるね?ってごめんまだちゃんとしゃべれないか?」
 君は僕のライバルであり、家族と同じ僕の護りたい大切な人だから。

「君のおかげで強くなれた。ってごめんまだちゃんとしゃべれないか?」
「だから調子乗んなっての!!煽ってんのか!?」

「調子に乗って無いし別に煽って無いよ。本当に感謝してるんだって。ってごめんまだちゃんとしゃべれないか?」
「……うん///」

 そして最後は我が家のアイドル。おっちゃんだ。
「本当はもっとおっちゃんの成長を見守りたかった。おっちゃんがハイハイできるようになるのを見たかったよ。おっちゃんがちゃんと一人でうんちできるのも見たかった。おっちゃんに『お兄ちゃん』て呼ん欲しかった。はぁ……帰って来てもおっちゃんはお兄ちゃんの事全然覚えて無いんだろうな。それだけが心残りかな?」
 ってごめんまだちゃんとしゃべれないか?に抱き抱えられたおっちゃんの頭を優しく撫でる。

「それじゃあ、本当に行くね……?ちゃんとかえってきてね?とたぶん。後おじいちゃんによろしく言っといて」
 家に戻った二人と顔を見せてくれなかったおじいちゃんに軽く言伝を頼んだ。

「おじいちゃんもね、本当は騎士団入りしてくれた事嬉しいんだよ。でも、自分の家族が危ない仕事するのが心配なだけなんだよ」
「……ん。分かってる。僕もおじいちゃんの家族なんだから言いたい事は全部分かってる」
 元々無口ってのもあるけど、騎士団入りが決まってから今日までおじいちゃんとあまり話ができなかった。

 僕はおじいちゃんに憧れて騎士団を夢見て来た。
 騎士団員の時のおじいちゃんはとっくの昔に引退してて知らないけど、ずっと家族を護って来たおじいちゃんの事は知ってる。

 おじいちゃんに憧れて来たからこそ───
「十分教えてもらったから」
 ───おじいちゃんの背中をずっと見てきたから。
 他に言葉はいらない。

「いつまでもおじいちゃんに甘えてなんか居られないよ」
 おじいちゃんに頼らず『自分で考えて行動しろ』何でも答えを聞いちゃ駄目なんだ。

「何言ってるの?家族でも伝えなきゃ分かんない事あるのよ?私なんてあの人にいくら伝えても何一つ伝わっちゃ居ないんだから……」
「えっ……?」

「家族だから『何でも分かってます』なんて事無いんだかね」
「……家族でも、分かり合えないって事?」
 僕の質問におばあちゃんは少しニヤッとしてため息を吐いた。

「あの人と暮らし始めてからどれだけ『いつも同じ話して草』を咲かせた事か……。だからあの人の隣には私みたいな口うるさいおばあちゃんが居るんだよ」
 いつも『分かってる』って言ってたけど僕はおばあちゃんの気持ちすら全然分かって無かった。

「だから、当分会えないんだから最後位本当の気持ち伝えてから出発しなさい。恥ずかしい事言っても当分会わないんだし伝えたい事全部言っちゃいなさい!」
 おばあちゃんは家の方に向かって声を上げた。

「……?」
 そのドアは少し、時間を置いて開かれた。
「…………」

「ちゃんとかえってきてね??」
 ふつうと一緒にちゃんとかえってきてね?が家から出てくる。

「『嫌い』って言ってごめん」
「……うん」

「『顔見たく無い』って言ってごめん」
「うん」

「『帰って来んな』って言ってごめんね」
「うん!」

「俺も兄ちゃん大好き!」
 ちゃんとかえってきてね?は勢い良く僕に向かって走って来る。
「うん……お兄ちゃんも大好きだよ」

「うぁああ゛ぁぁぁあぁ~ん゛!!ちゃ、ちゃんと!ちゃんど帰゛って来゛でねぇ!!」
 泣き出すちゃんとかえってきてね?を抱きしめ、皆も『大好き』と叫び一緒に飛び込んで来る。
 これから会えなくなる時間を今の内にこれでもかって位強く抱きしめ合った。

「うん。帰ってくるよ。ちゃんと帰ってくる!!お兄ちゃんも大好きっ!!」
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