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第二章 コックリさん事件

1、不穏なクラスメイト

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 バケセンが非公式とはいえF・K調査隊の顧問になってくれたから、これからたくさん不思議で怖いものを調べていくぞと思っていたけれど、ぼくらの日常の中にそんなにたくさん不思議や怖いものなんてない。
 というより、十月中旬にあった運動会に向けての練習が忙しくて、いっときそれどころではなくなっていたのだ。
 感染対策だとか熱中症対策だとかで、ぼくらの学校の運動会は練習期間もとても短いし、本番の規模は縮小している。
 だから、練習も本番もそんなに大変ではなかったのだけれど、気忙しさがすごかった。
 そんな泡立たしい日々を抜けて、少しまったりできるかとみんなが油断していたとき、何やら事件が起きたようだった。
 教室の空気が、ものすごくピリピリしているのだ。
 ぼくが教室に入っているときにはすでにこの状態で、何がなんだかわからなかった。でも、少し時間が経つうちに、状況が飲み込めてきた。
 このクラスの強い女子グループの、黒川さんたちを中心にピリピリした雰囲気を醸し出している。
 いつもなら、大きな声で楽しそうにおしゃべりしているのに、今日はそれぞれ自分の席についてじっとしている。
 だからてっきり、喧嘩をしたのかなと思っていたのだけれど、朝の会が始まってバケセンの話を聞いて、違うのだとわかった。

「小田さんが、昨日の帰り道怪我をしてしまい、今日はお休みです。入院とか骨折みたいな大怪我というわけではないが、大事をとってのお休みとのことなので。でも、みんなも怪我には注意してください。先生がとても心配してしまいます」

 バケセンが本気で心配そうに顔をくしゃっとしたのを見て、みんな少し笑った。
 でも、すぐにものすごい圧を感じて黙ってしまう。黒川さんが、とてつもない不機嫌オーラを出したのだ。
 前にレンが「近所にいるめちゃくちゃデカくて怖い犬も、黒川さんに威圧されたら泣くと思う」と言っていたほどだ。
 とにかく、彼女の雰囲気から小田さんの話題には触れてはいけないようだとみんな悟った。

「なんかさ、空気読めないよねあの子。こういうことしたら、うちらが嫌な気持ちになるって考えらんないのかな」

 朝の会が終わってバケセンが教室を出たあと、黒川さんが不機嫌そうに言った。
 〝あの子〟というのは、小田さんのことだろう。小田さんは、黒川さんグループの子だから。
 相槌を求められた大野さんと木藤さんは気まずそうに目をそらすだけで、黒川さんの言葉に答えなかった。
 当然だ。友達が怪我をしたのに、そんな言い方はないだろうと思う。
 でも、二人が同意しなかったことがいやだったのか、黒川さんはますます不機嫌になった。今日一日、近くの席の子たちが男子も女子もこわがって、休み時間になるとどこかへ逃げ出していたほどだ。
 昼休み、黒川さんがいないすきに他の子たちがこっそり話しているのを聞いてしまった。
 「千織ちゃんたち、コックリさんやったらしいよ」と言っていた。千織ちゃんとは、黒川さんのことだ。
 まさかの単語が飛び出してきて、ぼくはすぐさまレンとミーに共有したかったけれど、レンは昼休みはサッカーをしに外へ行っているし、ミーは他の子たちとおしゃべりに忙しそうで邪魔するのは悪い。
 昼休みのチャイムが鳴ったところでようやく声をかけることができたものの、ミーには露骨にいやそうな顔をされてしまった。

「……それ、わたしに聞きに行ってほしいって言うの? いやだよ。誰があんな不機嫌まきちらしてる人に近づきたいっていうの?」
「そ、そうだよね……」
「あと、クラスメイトがケガしてるんだよ? 面白がっちゃだめだと思う」 

 ミーはそれだけ言うと、自分の席に戻ってしまった。
 グラウンドから戻ってきたレンが気づいて心配そうな顔をしたから、ぼくは大丈夫というふうに首をふっておいた。

(面白がってるわけじゃ、ないんだけどな……)

 ミーに言われたことがぐっさり胸に刺さっていて、ぼくは放課後になってもモヤモヤしていた。
 コックリさんというオカルトワードに飛びついてしまったのは確かだけれど、それは別にケガをした小田さんを面白がったわけではないのだ。
 でも、それがうまく説明できなくて、結局レンにも話せないまま放課後になった。レンはサッカーがあって一緒に帰れない日だから、ぼくは仕方なくひとりで昇降口に向かっていた。

「あんたのせいよ!」

 下駄箱のところで、誰かが大きな声を出すのが聞こえた。その直後に、何かが倒れるみたいな音も。
 急いで見に行ってみるとそこには、尻もちをついてしまっている相沢さんと、走り去る黒川さんの姿が見えた。
 コックリさんをやったと噂される女子と、クラスの中のおとなしい女子。
 何もないわけがないと、ぼくは急いで相沢さんにかけよった。

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