バケセンとぼくらの街の怪談

猫屋ちゃき

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第一章 ピアノの女の子の怪

3、作戦決行

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「……本当にこの作戦で大丈夫かな?」

 木曜日の放課後、ぼくとレンとそれからミーは、空き教室の中に身を潜めていた。
 みんな委員会を終えて一度帰るふりをして、それから戻ってきているのだ。
 これから、音楽室の噂を検証しに行くために。

「もー……何でわたしまでこんなことしなくちゃいけないの」
 
 廊下から見えないようにしゃがみこんで小さくなっているミーが、すごく不満そうに言う。
 
「ごめんね……ミーは帰ってもいいよ?」
「何言ってんの。ユーマが残るならわたしも残るに決まってるでしょ。ユーマのお母さんに『ユーマのことよろしくね』って言われてるんだから。いっしょに帰るか、いっしょに残るかしか選択肢はないの」
「うぅ……」

 ミーまで残ってくれることになって申し訳なくて言ったのだけれど、余計に怒らせてしまった。
 幼なじみというだけでなく、ミーはどこか自分のことをぼくのおねえさんとでも思っているようだ。
 たしかにミーのほうが誕生日も早いし、しっかりしている。
 でも、それだけじゃない。
 ミーやミーのお母さんはうちのお母さんに恩を感じていて、それでぼくによくしてくれるのだ。
 何でも、ミーがまだ赤ちゃんのころ、夜泣きがひどくて参ってしまっていたときに、ご近所のよしみでうちのお母さんがミーを預かったらしい。
 そのおかげでミーのお母さんはゆっくり眠ることができて、倒れずに済んだと言っている。そして未だに、ぼくら親子に感謝しているからよくしてくれるのだと言う。

「それにしても小石川さん、すごいな。あの黒川さんから噂について聞き出してきてくれるなんて」

 プリプリ怒っているミーの気をそらそうとしたのか、そう言ってレンが話題を変えた。
 ほめられて、ミーは嬉しそうにする。

「まあね。学級委員として、気になるところではあったわけだし」
「それにしたって、なかなか話が本題に入らない系の人からわかりやすく聞き出してくるなんて、すごい手腕だ。聞き上手なんだな」
「そんなことないよー。女の子の話なんてみんなそんなもんだよ。コツはあいづちをこまめに打つことかな。聞いてるよ、興味あるよ、早く聞きたいなってアピールすると、結構ちゃんと話してくれるものなんだ」
「それができるのがすごいよ、やっぱり」

 レンにほめられて、ミーはたちまち機嫌を直していた。
 レンのこういう、おせじではなく人のいいところをほめられるのがすごいと思う。
 そしてミーも、ほめ言葉を素直に受け取れるのがいい。
 でも、これはミーだからおかしなことにならないだけで、ほかの女子をこの調子でほめるのは、やめておいたほうがいいと忠告すべきかもしれない。

「そろそろ、音楽室に移動するか」
「うん」

 時計が五時半を過ぎたのを見て、レンが言った。
 噂ではこの時間にはもう目撃されるころだというから、それを思い出してぼくもうなずく。
 ミーが黒川さんから聞き出してくれた噂によると、黒川さんの友達だという六年生のマリちゃんとやらは、六時前に音楽室で女の子の幽霊を見たのだと言う。
 忘れ物を取りに行くとき、児童用の昇降口ではなく、外から直接職員室に続く階段を上がった先の入り口を使ったらしい。
 音楽室は、二階の職員室や特別教室などの並びの一番奥だ。
 自分の教室に忘れ物を取りに行って出口に戻ろうとしたところ、音楽室からピアノの音が聞こえて不思議に思って見に行ったら、体の透けた女の子がピアノを弾いていたのだという。

「音楽室の位置がもう、最悪よね。よりによって一番奥だなんて」

 空き教室からそろりそろりと出て、特別教室の前を通りながらミーが言う。

「位置は最悪だけど、幽霊が早い時間に出るみたいでよかった。これが夜にしか出ないなら無理だった。学校に忍び込もうにも、セキュリティが突破できなくてつんでた」
「そうなったら、たしかめなくていいからよかったじゃん。夜の学校なんて、わたしたちに関係ないし」
「まあ、そうだな。それならそもそも噂にもならないかもしれないし」
 
 緊張しないのか、それとも気をまぎらわせるためか、ミーとレンはそんなことを言い合っていた。
 ぼくは幽霊と出会うよりも先に先生に見つかっちゃわないか不安で、ひと言もしゃべる気になれない。
 その代わり、目に入るものや感じるものに全神経を集中させることができたけれど。

「なに、あれ……!?」

 音楽室が見えてきたとき、ミーが驚いて声を上げた。
 ぼくもレンも、驚いて顔を見合わせる。
 何かが音楽室の前を横切ったのを、見たのだ。
 それはそろりと戸を開けて、音楽室の中に入っていった。

「音楽室に出るのって、女の子の霊だよね……?」

 ぼくが聞くと、二人ともブンブンうなずいた。
 見たもののおかしさに、二人も気づいているのだろう。
 なぜなら、音楽室にそろりと入っていったのは、大きな黒い影だったのだから。
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