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第一章 ピアノの女の子の怪
1、音楽室のウワサ
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「ねぇねぇ、そういえば音楽室に出たらしいよ!」
朝の教室のざわめきの中、そんな声が聞こえてきてぼくは瞬時に聞き耳を立てた。
ぼくの名前は萩野佑真。
別に、女子の話に聞き耳を立てるのが趣味というわけではない。
でも、今聞こえてきた話にはすごく興味をひかれて、できれば続きが聞きたいと思う。
同じことを考えてるやつがいるんじゃないかと思ってふとそっちを見ると、視線に気づいた男子が見つめ返してきた。
彼は井波蓮。
今日も今日とて日に焼けた肌がよく似合う、さわやかなスポーツ男子だ。
女子たちにもキャーキャー言われているから、ぼくの代わりにあの女子たちに聞いてきてくれないかなと思うけれど。
その気持ちが伝わったらしく、いやそうに首をふられた。
仕方がない。レンはあの女子たち⸺黒川さんたちを苦手としているから。
クラスの強そうな女子集団はレンのことが好きだけれど、レンはそういう子たちにさわがれるのを好んでいない。
ただ好きで、一生懸命サッカーをやっているだけでさわがれるのがいやなんだって。
だれかにさわがれることなんてないぼくからしたら、ちょっとうらやましいと思ってしまうのに。
そういう考え方からして、ぼくとレンはちがうのだ。
でも、不思議と仲がいい。
「これを教えてくれたのがマリちゃんって子なんだけど、マリちゃんは六年生でね、英会話の教室がいっしょでさ、いつもは時間がちがうんだけど、その日はマリちゃんが早い時間に来てて……」
話の続きが気になってずっと聞いているのに、黒川さんの話はなかなか本題に入らない。
レンのほうを見ると、あきれてどんどん目が細くなっていっている。そんな顔をしていてもたぶん女子たちはかっこいいって言うんだろうなと思うと、ちょっとふくざつな気分になる。
『一体、なにが出たっていうんだろうな』
レンが口の動きだけでそう言うのが見えて、ぼくはうなずき返した。
それが知りたいのだ。
オバケとか幽霊とか、そういう話にぼくらはびんかんだから。
かたや地味で目立たないぼく、かたやかっこよくてスポーツ万能のレン。
そんなタイプのちがうぼくら二人が仲良くなったのも、怖い話がきっかけだった。
あるとき、帰りの会が終わって帰ろうとしていると、こっそりという感じでレンに声をかけられたのだ。
まだ四年生に上がったばかりの春のころ。
三年生のときからクラスは持ち上がりだから、別に新鮮味もなにもなかったけれど、新学期ということでまだみんながそわそわしていた時期だ。
だから、ぼくもあまり話したことがないレンに声をかけられて、びっくりはしたけれど新学期だからかなと思った。
「萩野ってさ……幽霊とか信じる人?」
声をかけてきたレンは、突然そんなことを聞いてきた。
とっさのことで、ぼくはすぐに答えられなかった。
だって、質問の意図がわからなかったから。もしバカにするために聞いてきたのだったらどうしようと、そのときは少し不安だったのだ。
でも、レンの目を見たら真剣なのが伝わってきて、それで正直に話してみてもいいと思った。
「うん。まだはっきりとは見たことなくて、怖い話を本で読んだり映画を見たりするのが好きなだけだけど」
「ホラー映画見れるんだ……すげぇ。じゃあさ、おれが見たものの話したら、信じてくれるかな」
「うん! 聞きたい!」
そのときぼくは、迷いもなくうなずいた。
だって、ひそかにすごいなと思っていたクラスメイトがぼくの趣味をほめてくれたから。
何より、すごいと思っていたクラスメイトが頼りにしてくれているみたいで、嬉しかったんだ。
くわしく話を聞くと、レンはこの前のスポ少の練習の帰りにグラウンドのすみっこに幽霊っぽいものを見たらしい。
帰らないのかと思って声をかけようと近づいていったらいなくなっていて、それが怖くて不思議で、だれにも話せなかったと言っていた。
その話を聞いてすぐ、いっしょにグラウンドに行ったけれど、そのとき幽霊を見ることはできなかった。
でも、それ以来少しずつ話をするようになって、「いつか二人で幽霊を見よう」「なんなら身近な怖い話を追究しよう」という話になったのだ。
そしてF・K調査隊を二人でやるようになったというわけである。
「マリちゃん、あるとき学童が終わって帰ろうとしたときに、忘れ物をしちゃったことに気づいて、まだ学校は開いてる時間だったから取りに行こうとしたんだって。夕方の六時すぎだよね、学童が終わる時間だから。でね……」
ぼくもレンもがんばって黒川さんの話に耳をかたむけ続けているけれど、本当の本当に話の本題に入らない。
でも、あと少しでたどり着くかなと思ったときに、勢いよく教室のドアが開いて、だれかがぼくのそばまで走ってきた。
「ユーマ、聞いて聞いて! ビッグニュースだよ! 今日、このクラスに新しい先生が来るんだって!」
朝の教室のざわめきの中、そんな声が聞こえてきてぼくは瞬時に聞き耳を立てた。
ぼくの名前は萩野佑真。
別に、女子の話に聞き耳を立てるのが趣味というわけではない。
でも、今聞こえてきた話にはすごく興味をひかれて、できれば続きが聞きたいと思う。
同じことを考えてるやつがいるんじゃないかと思ってふとそっちを見ると、視線に気づいた男子が見つめ返してきた。
彼は井波蓮。
今日も今日とて日に焼けた肌がよく似合う、さわやかなスポーツ男子だ。
女子たちにもキャーキャー言われているから、ぼくの代わりにあの女子たちに聞いてきてくれないかなと思うけれど。
その気持ちが伝わったらしく、いやそうに首をふられた。
仕方がない。レンはあの女子たち⸺黒川さんたちを苦手としているから。
クラスの強そうな女子集団はレンのことが好きだけれど、レンはそういう子たちにさわがれるのを好んでいない。
ただ好きで、一生懸命サッカーをやっているだけでさわがれるのがいやなんだって。
だれかにさわがれることなんてないぼくからしたら、ちょっとうらやましいと思ってしまうのに。
そういう考え方からして、ぼくとレンはちがうのだ。
でも、不思議と仲がいい。
「これを教えてくれたのがマリちゃんって子なんだけど、マリちゃんは六年生でね、英会話の教室がいっしょでさ、いつもは時間がちがうんだけど、その日はマリちゃんが早い時間に来てて……」
話の続きが気になってずっと聞いているのに、黒川さんの話はなかなか本題に入らない。
レンのほうを見ると、あきれてどんどん目が細くなっていっている。そんな顔をしていてもたぶん女子たちはかっこいいって言うんだろうなと思うと、ちょっとふくざつな気分になる。
『一体、なにが出たっていうんだろうな』
レンが口の動きだけでそう言うのが見えて、ぼくはうなずき返した。
それが知りたいのだ。
オバケとか幽霊とか、そういう話にぼくらはびんかんだから。
かたや地味で目立たないぼく、かたやかっこよくてスポーツ万能のレン。
そんなタイプのちがうぼくら二人が仲良くなったのも、怖い話がきっかけだった。
あるとき、帰りの会が終わって帰ろうとしていると、こっそりという感じでレンに声をかけられたのだ。
まだ四年生に上がったばかりの春のころ。
三年生のときからクラスは持ち上がりだから、別に新鮮味もなにもなかったけれど、新学期ということでまだみんながそわそわしていた時期だ。
だから、ぼくもあまり話したことがないレンに声をかけられて、びっくりはしたけれど新学期だからかなと思った。
「萩野ってさ……幽霊とか信じる人?」
声をかけてきたレンは、突然そんなことを聞いてきた。
とっさのことで、ぼくはすぐに答えられなかった。
だって、質問の意図がわからなかったから。もしバカにするために聞いてきたのだったらどうしようと、そのときは少し不安だったのだ。
でも、レンの目を見たら真剣なのが伝わってきて、それで正直に話してみてもいいと思った。
「うん。まだはっきりとは見たことなくて、怖い話を本で読んだり映画を見たりするのが好きなだけだけど」
「ホラー映画見れるんだ……すげぇ。じゃあさ、おれが見たものの話したら、信じてくれるかな」
「うん! 聞きたい!」
そのときぼくは、迷いもなくうなずいた。
だって、ひそかにすごいなと思っていたクラスメイトがぼくの趣味をほめてくれたから。
何より、すごいと思っていたクラスメイトが頼りにしてくれているみたいで、嬉しかったんだ。
くわしく話を聞くと、レンはこの前のスポ少の練習の帰りにグラウンドのすみっこに幽霊っぽいものを見たらしい。
帰らないのかと思って声をかけようと近づいていったらいなくなっていて、それが怖くて不思議で、だれにも話せなかったと言っていた。
その話を聞いてすぐ、いっしょにグラウンドに行ったけれど、そのとき幽霊を見ることはできなかった。
でも、それ以来少しずつ話をするようになって、「いつか二人で幽霊を見よう」「なんなら身近な怖い話を追究しよう」という話になったのだ。
そしてF・K調査隊を二人でやるようになったというわけである。
「マリちゃん、あるとき学童が終わって帰ろうとしたときに、忘れ物をしちゃったことに気づいて、まだ学校は開いてる時間だったから取りに行こうとしたんだって。夕方の六時すぎだよね、学童が終わる時間だから。でね……」
ぼくもレンもがんばって黒川さんの話に耳をかたむけ続けているけれど、本当の本当に話の本題に入らない。
でも、あと少しでたどり着くかなと思ったときに、勢いよく教室のドアが開いて、だれかがぼくのそばまで走ってきた。
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