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第七話 使用人の秘密
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あまりのそっけなさに心が折れ、先日の暴言によってその折れた心もズタボロに傷つけられたが、リカと仲良くなりたいというミュリエルの気持ちは、実はなくなってはいなかった。
何せ、ミュリエルは美しいものが好きだ。
将来は美形と結婚し、愛くるしい子供に囲まれて暮らしたいと考えていたくらい美しいものには弱い。だから、少々口が悪いくらいで美貌のリカとお近づきになるのを諦めることはできなかったのだ。
クレーフェ侯爵に言われてから仲良くなる隙をうかがっていて、ミュリエルはいくつかの違和感を覚えていた。
基本的にリカは無愛想で不機嫌な表情をしているのだが、目撃したその時々で微妙にその顔つきが違うのだ。
人それぞれ機嫌というものがあって、それに応じて表情が違うというのはわかる。それでも、別の人格の存在を疑うほどの変化はないはずだ。
初めは、メイド姿のときは思いきり不機嫌で、従僕姿のときはそこそこの無愛想なのかと考えた。だが、何日か観察するとそれも当てはまらないと気づかされる。
従僕姿でも不機嫌なときは不機嫌だし、メイド姿でもご機嫌とまではいかなくても凪いだ表情のときもあるのだ。
恐ろしく辛辣な物言いをするし、もしかするとものすごく気分屋で表情がコロコロ変わるのかもしれない――よくよく考えてそう片づけようとしたとき、ミュリエルは決定的なものを目撃してしまう。
ある日のこと。
お茶が飲みたくて厨房に向っているとき、メイド姿のリカが不機嫌全開で入っていくのを見た。
鉢合わせしたくないミュリエルは廊下の柱の陰でやりすごそうとしていたのだが、その直後に今度は従僕姿でリカが出てきたのだ。
着替える時間など、なかったのに。おまけに、ついさっき厨房に入ったときは険しかった顔が、穏やかになっていた。
(……もしかして、リカって二人いるの?)
ふと湧いた疑問は、すぐにほとんど確信に変わる。
二人いると考えたほうがしっくり来ることが、あまりにも多いから。
「あの……そういえば、あなたのお名前を聞いていなかったんだけど、教えてくれるかしら?」
不審がられるかと思ったが、確かめなければ始まらない。
ミュリエルは思いきって従僕姿の背中を追いかけ、声をかけた。振り返った彼女は少し不思議そうにした。
「そっか。言ってなかったね。リケだよ」
「……そう、リケというのね。今度から何か頼むときは、きちんと名前を呼ぶわね」
核心を掴んだことで嬉しくなったが、顔に出すのはぐっとこらえた。
できればこのやりとりはリカのほうには知られないほうがいいだろう。それに、目の前のリケにも気づかれてはいけない。
だから、好奇心に胸が沸き立つのをこらえて、ミュリエルは何気ないふうを装って部屋へと帰った。
「リカとリケ、二人いるのならがらりと印象が変わるのも不思議じゃないわ。初日の早着替えも、着替えたのではなくリカとリケが入れ替わったのなら納得がいく……」
部屋へと戻ったミュリエルは、頭で考えるだけでは少し混乱してしまいそうな事柄をひとつひとつ書き出していった。
まず、美少女使用人の名前はリカとリケ。
おそらく、メイド姿でいることの多い辛辣なほうがリカ。従僕姿でいることが多いのがリケだ。
初日に着替えを手伝い、爽やかなウィンクを残していったのも、間違いなくリケのほうだろう。
この屋敷にいる間はコルセットをつけなくてもいいと言うなど、リケのほうはわりと親切だ。コルセットがいらない服のほうが着替えの手伝いが不要だからというのもあるだろうが、ああいってもらえて嬉しかった。
「……着替えくらい手伝ってくれてもいいのに、わざわざリケを呼びに行ったってことは、もしかしてリカは……?」
初日の着替えのときのことを思い出して、またミュリエルの頭の中ではパズルのピースがひとつはまる。
リカはやりたくないことや、やらなくていいと判断したことはその場で嫌な顔をするか断るのだ。だが、着替えについては渋々ではあるがリケを呼んできてくれた。
それはたぶん、やりたくないことではなくできないことだったからではないかと、ミュリエルは思い至った。
「不機嫌だから声が低くなってたわけじゃなくて、女の子のリケと比べると低くて当然だったわけか……」
そう納得して後日リカの喉元を見てみると、うっすらと喉仏があった。
それでようやく、この屋敷にはリカという男の子とリケという女の子がいるのだとミュリエルは確信した。
***
確信したところで何かが変わるわけでもなく、リカリケとの関係は進展しないまま、屋敷にやってきてから一ヶ月が経っていた。
変わったことがあったとすれば、魔術がめきめき上達していることと、自分でできることが増えたことくらいだ。
屋敷に来てから着替えは自分でできるようになったし、お茶も淹れられる。初めのうちはあまり美味しくなかったが、クレーフェ侯爵の言うとおり慣れてみると上手に淹れられるようになった。
そうしてひとつひとつできることが増えていくと自信がついてきて、ミュリエルは少しずつたくましくなっていった。
「痛い……」
机で書き物をしていると、指を切ってしまった。指の腹にうっすらと血がにじむ。
これが実家にいたときだったら、侍女が騒ぎ母が飛んできて丁寧に手当てをされただろう。だが、今はそうして薬を塗ってくれる人はいない。薬の在り処も、誰かに尋ねなければわからない。
ひとまずハンカチで拭って、それから机の上の本をパラパラとめくった。クレーフェ侯爵から渡された本の中には、初歩的な魔術薬学のものもあったのだ。
薬がなければ作ればいい――たくましくなったミュリエルはそう考え、材料をメモして庭へ向かった。
最低限の使用人しか雇っていないからか、それともクレーフェ侯爵の趣味なのか、この屋敷の庭は荒れ果てている。
かろうじて前庭部分は剪定されているが、裏庭は様々な植物が好き勝手に繁茂している。
初めて見たときは何て風情がない場所だろうと、花園のような実家の庭と見比べて思った。だが、薬学の本を片手に歩いてみれば、この庭がいかに有用な場所かわかる。
ただの雑草はほとんどなく、薬草や薬効のある植物ばかりが植わっている。
「鋸草と薄紅葵があればいいんだよね。あとは風邪をひいたとき用に、夏白菊も摘んで乾燥しておこうかな」
少し前まで深窓の令嬢といった雰囲気だったミュリエルが、今ではすっかり魔術師の卵らしくなっている。本人は魔女気取りだ。もう少し慣れてきたら鍋で煎じる薬も教わりたいと考えている。
「ん……?」
目当ての草を採取して、あとは少し散策してから戻ろうと考えていたとき、妙な音が聞こえて立ち止まった。
よくよく耳をそばだててみると、それは音では無く叫び声なのだとわかった。
(裏庭で誰かが叫んでるなんて……普通のことじゃないわ!)
叫んでいるのはクレーフェ侯爵かリカかリケかハインツか。はたまた侵入者か。とにかく確認せねばと、声のするほうへ走っていった。
「……大変だわ!」
途切れ途切れの声を頼りに裏庭の最奥までたどり着くと、そこには驚きの光景が広がっていた。
そびえ立つ大木の枝が、まるで触手のように宙でうごめいているのだ。枝というより、太い蔦なのかもしれない。
その蔦はひとりの人間――金髪の従僕の足首に絡みついて、高々と掲げている。
どう見ても普通の木ではない。人里離れた森の中には、こうして人に襲いかかる樹妖がいると聞いたことがある。おそらく、そういった類のものだろう。
樹妖はミュリエルの存在に気づいているようだが、一切襲いかかってこない。捕まえている人間を振り回したり持ち上げたりするのに忙しい。それを見て、樹妖の多くが若い男性が好きという話をミュリエルは思い出した。
「リ、リカ! 大丈夫?」
何か目的があって襲われているのか、それとも不慮の事故だったのか。判断がつかずに静観していたが、捕まっている人間が喉を絞められたニワトリのような声をあげたことで緊急事態なのだと悟った。
「た、助けてー!」
ミュリエルに気がつくと、リカは自由なほうの手を必死でバタバタと振った。それを面白がるように、樹妖は蔦を踊らせた。
「今助けるわ!」
そう叫んで、ミュリエルは杖を構えた。修行中の身で、何の準備もしていない状態では、できることは限られていても、無視することはできない。
今できることで最も攻撃的の高そうなものは火の魔術しかないが、制御が難しくてリカにまで怪我をさせそうだ。それに、この木をわざわざ傷つけたくない。クレーフェ侯爵もきっと、理由があってこの木を植えているのだろうから。
「――風の指先、その木をくすぐれ!」
木をもリカも傷つけない方法はないのか。そう考えて思いついたのは、風の魔術だった。
杖に刻まれた風の文様をひと撫でし、ミュリエルは自身の手に風の帯の端をまとわせると、遠隔操作するつもりで指をワシワシ動かした。
魔術を行使する上で大切なのは、しっかりと頭の中で想像することだという。ミュリエルは巨大な手で樹妖の枝の付け根をこしょこしょするのをイメージして、手を動かし続けた。
「うわっ」
しばらく続けているとくすぐったくなったのか、樹妖は幹を激しくよじり始めた。やがてリカを掴んでいた蔦をほどき、ポンと投げ出してしまう。
「――風の翼!」
地面に叩きつけさせてなるものかと、すかさず杖を振るう。だが、集中力の問題か魔力切れか、出現したのは小さな羽が一枚。
「いって!」
羽はわずかにリカの衝撃を吸収しただけで消えてしまった。おかげでリカは、激しく尻もちをついた。
それでも樹妖からは無事に助けることができて、ミュリエルはほっと息をついた。
何せ、ミュリエルは美しいものが好きだ。
将来は美形と結婚し、愛くるしい子供に囲まれて暮らしたいと考えていたくらい美しいものには弱い。だから、少々口が悪いくらいで美貌のリカとお近づきになるのを諦めることはできなかったのだ。
クレーフェ侯爵に言われてから仲良くなる隙をうかがっていて、ミュリエルはいくつかの違和感を覚えていた。
基本的にリカは無愛想で不機嫌な表情をしているのだが、目撃したその時々で微妙にその顔つきが違うのだ。
人それぞれ機嫌というものがあって、それに応じて表情が違うというのはわかる。それでも、別の人格の存在を疑うほどの変化はないはずだ。
初めは、メイド姿のときは思いきり不機嫌で、従僕姿のときはそこそこの無愛想なのかと考えた。だが、何日か観察するとそれも当てはまらないと気づかされる。
従僕姿でも不機嫌なときは不機嫌だし、メイド姿でもご機嫌とまではいかなくても凪いだ表情のときもあるのだ。
恐ろしく辛辣な物言いをするし、もしかするとものすごく気分屋で表情がコロコロ変わるのかもしれない――よくよく考えてそう片づけようとしたとき、ミュリエルは決定的なものを目撃してしまう。
ある日のこと。
お茶が飲みたくて厨房に向っているとき、メイド姿のリカが不機嫌全開で入っていくのを見た。
鉢合わせしたくないミュリエルは廊下の柱の陰でやりすごそうとしていたのだが、その直後に今度は従僕姿でリカが出てきたのだ。
着替える時間など、なかったのに。おまけに、ついさっき厨房に入ったときは険しかった顔が、穏やかになっていた。
(……もしかして、リカって二人いるの?)
ふと湧いた疑問は、すぐにほとんど確信に変わる。
二人いると考えたほうがしっくり来ることが、あまりにも多いから。
「あの……そういえば、あなたのお名前を聞いていなかったんだけど、教えてくれるかしら?」
不審がられるかと思ったが、確かめなければ始まらない。
ミュリエルは思いきって従僕姿の背中を追いかけ、声をかけた。振り返った彼女は少し不思議そうにした。
「そっか。言ってなかったね。リケだよ」
「……そう、リケというのね。今度から何か頼むときは、きちんと名前を呼ぶわね」
核心を掴んだことで嬉しくなったが、顔に出すのはぐっとこらえた。
できればこのやりとりはリカのほうには知られないほうがいいだろう。それに、目の前のリケにも気づかれてはいけない。
だから、好奇心に胸が沸き立つのをこらえて、ミュリエルは何気ないふうを装って部屋へと帰った。
「リカとリケ、二人いるのならがらりと印象が変わるのも不思議じゃないわ。初日の早着替えも、着替えたのではなくリカとリケが入れ替わったのなら納得がいく……」
部屋へと戻ったミュリエルは、頭で考えるだけでは少し混乱してしまいそうな事柄をひとつひとつ書き出していった。
まず、美少女使用人の名前はリカとリケ。
おそらく、メイド姿でいることの多い辛辣なほうがリカ。従僕姿でいることが多いのがリケだ。
初日に着替えを手伝い、爽やかなウィンクを残していったのも、間違いなくリケのほうだろう。
この屋敷にいる間はコルセットをつけなくてもいいと言うなど、リケのほうはわりと親切だ。コルセットがいらない服のほうが着替えの手伝いが不要だからというのもあるだろうが、ああいってもらえて嬉しかった。
「……着替えくらい手伝ってくれてもいいのに、わざわざリケを呼びに行ったってことは、もしかしてリカは……?」
初日の着替えのときのことを思い出して、またミュリエルの頭の中ではパズルのピースがひとつはまる。
リカはやりたくないことや、やらなくていいと判断したことはその場で嫌な顔をするか断るのだ。だが、着替えについては渋々ではあるがリケを呼んできてくれた。
それはたぶん、やりたくないことではなくできないことだったからではないかと、ミュリエルは思い至った。
「不機嫌だから声が低くなってたわけじゃなくて、女の子のリケと比べると低くて当然だったわけか……」
そう納得して後日リカの喉元を見てみると、うっすらと喉仏があった。
それでようやく、この屋敷にはリカという男の子とリケという女の子がいるのだとミュリエルは確信した。
***
確信したところで何かが変わるわけでもなく、リカリケとの関係は進展しないまま、屋敷にやってきてから一ヶ月が経っていた。
変わったことがあったとすれば、魔術がめきめき上達していることと、自分でできることが増えたことくらいだ。
屋敷に来てから着替えは自分でできるようになったし、お茶も淹れられる。初めのうちはあまり美味しくなかったが、クレーフェ侯爵の言うとおり慣れてみると上手に淹れられるようになった。
そうしてひとつひとつできることが増えていくと自信がついてきて、ミュリエルは少しずつたくましくなっていった。
「痛い……」
机で書き物をしていると、指を切ってしまった。指の腹にうっすらと血がにじむ。
これが実家にいたときだったら、侍女が騒ぎ母が飛んできて丁寧に手当てをされただろう。だが、今はそうして薬を塗ってくれる人はいない。薬の在り処も、誰かに尋ねなければわからない。
ひとまずハンカチで拭って、それから机の上の本をパラパラとめくった。クレーフェ侯爵から渡された本の中には、初歩的な魔術薬学のものもあったのだ。
薬がなければ作ればいい――たくましくなったミュリエルはそう考え、材料をメモして庭へ向かった。
最低限の使用人しか雇っていないからか、それともクレーフェ侯爵の趣味なのか、この屋敷の庭は荒れ果てている。
かろうじて前庭部分は剪定されているが、裏庭は様々な植物が好き勝手に繁茂している。
初めて見たときは何て風情がない場所だろうと、花園のような実家の庭と見比べて思った。だが、薬学の本を片手に歩いてみれば、この庭がいかに有用な場所かわかる。
ただの雑草はほとんどなく、薬草や薬効のある植物ばかりが植わっている。
「鋸草と薄紅葵があればいいんだよね。あとは風邪をひいたとき用に、夏白菊も摘んで乾燥しておこうかな」
少し前まで深窓の令嬢といった雰囲気だったミュリエルが、今ではすっかり魔術師の卵らしくなっている。本人は魔女気取りだ。もう少し慣れてきたら鍋で煎じる薬も教わりたいと考えている。
「ん……?」
目当ての草を採取して、あとは少し散策してから戻ろうと考えていたとき、妙な音が聞こえて立ち止まった。
よくよく耳をそばだててみると、それは音では無く叫び声なのだとわかった。
(裏庭で誰かが叫んでるなんて……普通のことじゃないわ!)
叫んでいるのはクレーフェ侯爵かリカかリケかハインツか。はたまた侵入者か。とにかく確認せねばと、声のするほうへ走っていった。
「……大変だわ!」
途切れ途切れの声を頼りに裏庭の最奥までたどり着くと、そこには驚きの光景が広がっていた。
そびえ立つ大木の枝が、まるで触手のように宙でうごめいているのだ。枝というより、太い蔦なのかもしれない。
その蔦はひとりの人間――金髪の従僕の足首に絡みついて、高々と掲げている。
どう見ても普通の木ではない。人里離れた森の中には、こうして人に襲いかかる樹妖がいると聞いたことがある。おそらく、そういった類のものだろう。
樹妖はミュリエルの存在に気づいているようだが、一切襲いかかってこない。捕まえている人間を振り回したり持ち上げたりするのに忙しい。それを見て、樹妖の多くが若い男性が好きという話をミュリエルは思い出した。
「リ、リカ! 大丈夫?」
何か目的があって襲われているのか、それとも不慮の事故だったのか。判断がつかずに静観していたが、捕まっている人間が喉を絞められたニワトリのような声をあげたことで緊急事態なのだと悟った。
「た、助けてー!」
ミュリエルに気がつくと、リカは自由なほうの手を必死でバタバタと振った。それを面白がるように、樹妖は蔦を踊らせた。
「今助けるわ!」
そう叫んで、ミュリエルは杖を構えた。修行中の身で、何の準備もしていない状態では、できることは限られていても、無視することはできない。
今できることで最も攻撃的の高そうなものは火の魔術しかないが、制御が難しくてリカにまで怪我をさせそうだ。それに、この木をわざわざ傷つけたくない。クレーフェ侯爵もきっと、理由があってこの木を植えているのだろうから。
「――風の指先、その木をくすぐれ!」
木をもリカも傷つけない方法はないのか。そう考えて思いついたのは、風の魔術だった。
杖に刻まれた風の文様をひと撫でし、ミュリエルは自身の手に風の帯の端をまとわせると、遠隔操作するつもりで指をワシワシ動かした。
魔術を行使する上で大切なのは、しっかりと頭の中で想像することだという。ミュリエルは巨大な手で樹妖の枝の付け根をこしょこしょするのをイメージして、手を動かし続けた。
「うわっ」
しばらく続けているとくすぐったくなったのか、樹妖は幹を激しくよじり始めた。やがてリカを掴んでいた蔦をほどき、ポンと投げ出してしまう。
「――風の翼!」
地面に叩きつけさせてなるものかと、すかさず杖を振るう。だが、集中力の問題か魔力切れか、出現したのは小さな羽が一枚。
「いって!」
羽はわずかにリカの衝撃を吸収しただけで消えてしまった。おかげでリカは、激しく尻もちをついた。
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