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第一話 最悪の誕生日2
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夢のために婚約破棄のことしか考えられなくなっていたミュリエルは、御者に頼んでできる限り馬車を飛ばして走らせた。
その甲斐あって、三時間かかる道のりをニ時間半で到着することができた。
ミュリエルがたどり着いたのは、郊外の屋敷だ。といってもカントリーハウスのような大規模なものではなく、タウンハウスを少し大きくしたくらいの規模だ。
こんなところにわざわざ新しく屋敷を建てて住んでいるのかと、そのことにミュリエルは驚いた。だが、婚約破棄するのだからどうだっていいことだ。
「旦那様は事情がございまして、誰ともお会いになられません」
父からの連絡はきちんと届いていたらしく、すんなりと屋敷の中に招かれた。だが、そこからがいけなかった。
応接室に通してくれた執事が、そんなことを言い出したのだ。
「あの……お会いしたいということは伝えていただけたのでしょうか?」
「はい。ミュリエル様のことは応接室にお通しするようにと指示されております。ゆっくりしていただくようにと。旦那様の問題が解決しましたら、面会も叶いますので」
「それは、いつになるのかしら?」
ゆったりとした執事の雰囲気に流されてはいけないと気づき、肝心なことをミュリエルは尋ねた。執事は顔色ひとつ変えず、かすかに首をかしげた。
「私にはわかりかねます。ですが、面会をご希望でしたら、お待ちいただくほかないとのことですので」
「そんな……!」
さっさと婚約破棄して、その足で魔術学院に乗り込むくらいの気持ちでいたから、ミュリエルの気は急(せ)いていた。いつになるともわからない、その事情とやらが解決するのを待つことなんてできない。
しばらく逡巡して、ミュリエルは席を立った。
「クレーフェ卿は二階にいらっしゃるのかしら? わたくし、直接お部屋にいきますわ!」
失礼を承知で、ミュリエルは応接室を飛び出した。
この際、無礼も失礼もない。婚約破棄してしまえば、関係のない赤の他人になるのだから。
そう思って、ズンズンと廊下を進み、階段をのぼり、おそらく屋敷の主人がいるであろう部屋の前までたどり着いた。貴族の屋敷の構造なんて家々でそう変わるものではないだろうと、自分の父の部屋と同じような位置に当たりをつけたのだ。
「そちらは書斎です。旦那様は、こちらにおりますよ」
止めるかと思いきや、執事はそんなふうに案内してくれた。主人からの指示を守る気があるのかないのか、いまいちわからない態度だ。
「旦那様、ミュリエル様がお見えです。どうしても、今すぐにお会いしたいということで」
「え? 待つよう言ってくれたんじゃないのかい?」
執事の呼びかけに返ってきたのは、存外若い男の声だった。父のような低く渋い声を想像していたミュリエルは、そのことに少し驚いた。
そんなことよりも拍子抜けしたのは、聞こえてきたクレーフェ侯爵の声が、実に元気そうだったことだ。
もしも体調が優れないなどの理由で面会を先延ばしにしようとしているのではあれば、一旦は引き下がろうかとも考えていたのに。
ドア越しに聞いた声が元気そうだったということで、クレーフェ侯爵への不信感はいっそう強まった。
「はじめまして、クレーフェ卿。ミュリエル・リュトヴィッツと申します。大事なお話があって参りましたので、失礼いたします」
「え? ちょっと待って! 困る困る!」
ドアノブに手をかけると、クレーフェ侯爵の焦った声が聞こえた。焦るというのも、不誠実な感じがする。
解決しなければならない事情とやらも含めて、すべて暴いてやろうという思いでミュリエルは思いきりドアを開けた。
そして、冒頭に至るというわけだ。
その甲斐あって、三時間かかる道のりをニ時間半で到着することができた。
ミュリエルがたどり着いたのは、郊外の屋敷だ。といってもカントリーハウスのような大規模なものではなく、タウンハウスを少し大きくしたくらいの規模だ。
こんなところにわざわざ新しく屋敷を建てて住んでいるのかと、そのことにミュリエルは驚いた。だが、婚約破棄するのだからどうだっていいことだ。
「旦那様は事情がございまして、誰ともお会いになられません」
父からの連絡はきちんと届いていたらしく、すんなりと屋敷の中に招かれた。だが、そこからがいけなかった。
応接室に通してくれた執事が、そんなことを言い出したのだ。
「あの……お会いしたいということは伝えていただけたのでしょうか?」
「はい。ミュリエル様のことは応接室にお通しするようにと指示されております。ゆっくりしていただくようにと。旦那様の問題が解決しましたら、面会も叶いますので」
「それは、いつになるのかしら?」
ゆったりとした執事の雰囲気に流されてはいけないと気づき、肝心なことをミュリエルは尋ねた。執事は顔色ひとつ変えず、かすかに首をかしげた。
「私にはわかりかねます。ですが、面会をご希望でしたら、お待ちいただくほかないとのことですので」
「そんな……!」
さっさと婚約破棄して、その足で魔術学院に乗り込むくらいの気持ちでいたから、ミュリエルの気は急(せ)いていた。いつになるともわからない、その事情とやらが解決するのを待つことなんてできない。
しばらく逡巡して、ミュリエルは席を立った。
「クレーフェ卿は二階にいらっしゃるのかしら? わたくし、直接お部屋にいきますわ!」
失礼を承知で、ミュリエルは応接室を飛び出した。
この際、無礼も失礼もない。婚約破棄してしまえば、関係のない赤の他人になるのだから。
そう思って、ズンズンと廊下を進み、階段をのぼり、おそらく屋敷の主人がいるであろう部屋の前までたどり着いた。貴族の屋敷の構造なんて家々でそう変わるものではないだろうと、自分の父の部屋と同じような位置に当たりをつけたのだ。
「そちらは書斎です。旦那様は、こちらにおりますよ」
止めるかと思いきや、執事はそんなふうに案内してくれた。主人からの指示を守る気があるのかないのか、いまいちわからない態度だ。
「旦那様、ミュリエル様がお見えです。どうしても、今すぐにお会いしたいということで」
「え? 待つよう言ってくれたんじゃないのかい?」
執事の呼びかけに返ってきたのは、存外若い男の声だった。父のような低く渋い声を想像していたミュリエルは、そのことに少し驚いた。
そんなことよりも拍子抜けしたのは、聞こえてきたクレーフェ侯爵の声が、実に元気そうだったことだ。
もしも体調が優れないなどの理由で面会を先延ばしにしようとしているのではあれば、一旦は引き下がろうかとも考えていたのに。
ドア越しに聞いた声が元気そうだったということで、クレーフェ侯爵への不信感はいっそう強まった。
「はじめまして、クレーフェ卿。ミュリエル・リュトヴィッツと申します。大事なお話があって参りましたので、失礼いたします」
「え? ちょっと待って! 困る困る!」
ドアノブに手をかけると、クレーフェ侯爵の焦った声が聞こえた。焦るというのも、不誠実な感じがする。
解決しなければならない事情とやらも含めて、すべて暴いてやろうという思いでミュリエルは思いきりドアを開けた。
そして、冒頭に至るというわけだ。
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