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第二章

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 それから三つほど物件を見に行ったが、どれもそこそこに素敵で、どれも不満足だった。
 というのも、どれもこれも〝男子禁制〟だとか〝来訪者は管理人の許可制〟だとか、そんな条件がつく物件ばかりだったのだ。
 集合住宅と言いながら、元の世界でいうところの学校の寮みたいだなと思う。
 どれだけ外観や他の条件が気に入っても、それが減点ポイントとなって、サーヤの機嫌はずっと下降気味だ。
「見て回って、どこか気に入るところはあったかい?」
 すべての物件を見終えてから、ローレンツはサーヤに尋ねる。聞く前から、サーヤが不満を持っていることには気づいている様子だ。だが、何を不満に思っているのかはピンとこないのだろう。
「強いて言うなら、三つ目に見た物件かな。管理人のおばあちゃまの朝食と夕食が食べられるのが最高っぽかった。おばあちゃま可愛いし」
「そうだろう? アチソン夫人は面倒見がいい方で、まるでお母さんやおばあちゃんと暮らしているみたいで寂しくないと評判の物件なんだよ。あの物件なら、私も安心してサーヤを住まわせられるな」
「確かに食事の心配はしなくてもよさそうだけど……」
 アチソン夫人が管理している物件に心惹かれるものの、ほんのりと門限があることを匂わせられてサーヤはそこが引っかかっていた。夜遊びも外泊も気軽にできない物件だと、婚期が遠のきそうだなとほんのり思う。実家のような安心感があるのは良いことかもしれないが。
「私としては、建物全体に魔術をかけてもいいと許可が出た、一番最初に見せた物件がおすすめだがな」
「バルコニーがあるところだよね? 建物全体にって……先生、一体何をする気なの?」
 ローレンツは〝渡り〟の研究者でありながら、魔術もできる。本人曰く『多少嗜んでいる程度』だが、王立図書館の中にある魔術の研究室の人たちと魔術について議論を交わしている姿を見たことがあるから、おそらくそれなりの実力があるのだろう。
 そんな彼がこだわって施す魔術がどのようなものなのか、サーヤは気になっていた。防犯意識は必要なのかもしれないが、一体何をしようとしているのか、やや心配になる。
「特に変わったことをする気はないよ。サーヤの部屋に不届き者が入ろうとしたら防御の魔術が発動してバチッと痺れるのと、私のところへ通知が来る、くらいかな」
「……わぁ、すごい安全」
 元の世界のホームセキュリティもびっくりなトラップも同然の防犯システムに、サーヤは思わず棒読みになった。
 心配してもらえるのは嬉しいが、どうにもずれている気がしてならない。
「そんなに心配なら、先生がいつでも一緒にいてくれたらいいのに……」
 大事にされているのはわかるから、つい本音がこぼれてしまった。
 サーヤが上目遣いに見つめると、ローレンツは眉根を寄せて優しい顔に困った表情を浮かべていた。
「ずっとそばにいてやりたいのは山々だが……ついていてやれない代わりに安全な場所で暮らしてほしいし、できうる限りの防犯対策をしたいと思っているんだよ」
「それは、わかってるけど……」
「そうだ。いいものを作ったのだった」
 なだめるようにサーヤの頭を撫でながら、ローレンツはポケットから何かを取り出した。
 大きめのリングに革紐を通したシンプルなペンダントで、彼はそれをそっとサーヤの首にかけた。
「なぁに、これ?」
「簡単に言うと、追跡魔術がついたお守りだ。もしサーヤが誰かに拐われただとか迷子になったときに、私が探し出すことができる」
「……ビリッてならない?」
「悪漢に襲われた時用にそういった仕掛けもしようかと思ったが、協力してくれた魔術師に『サーヤ嬢に一生恋人を作らせない気ですか?』と言われたから我慢したんだ。親心としては、これを無理やり外そうとする恋人なんかいらないと思うがな」
 紐の長さを調節するのに夢中のローレンツは、サーヤが渋い表情をしていることには全く気がついていなかった。
 今の発言から、ローレンツにとってはサーヤはいずれ恋人ができると思っているとわかる。つまり、自分意外と付き合うのだと。
 こんなにも大事にされているのに、こんなにも脈なしなことがあるのかと、切ないを通り越して虚しい気持ちになっていた。
「大事につけとくけど……先生がずっと一緒にいてくれたらいいんじゃないの?」
「いつでも駆けつけてやるつもりはあるが……そのうち、守ってくれる男もできるさ。それまではこれを肌見放さず身につけていなさい」
 ダメ元でもう一度甘えてみたものの、ローレンツは優しく目を細めて頭を撫でてくれただけだった。
(守ってくれる男ができるまで肌見放さず身につけてなさいって……それって一生ってことだよ、先生)
 言えない言葉をグッと呑み込んで、サーヤはペンダントトップを手慰みに握りしめることしかできなかった。
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