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幕間 美樹と蒼
美樹と蒼
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Unfair lover
幕間 美樹と蒼
「あ、君この間もあったよね」
美樹は焦げ茶のミディアムストレートヘアーの女を連れた、いかにもスポーツが好きそうな男に声を掛ける。昼間の駅前は人通りも多く、呼び止められた彼は一瞬首を傾げたが、すぐに、ああ! と思い出したように手を叩いてあの時のエレベーターの人と指をさした。
「こんな所で会うなんて奇遇だね。そっちの子は彼女?」
「ああ、そう。咲っていうんだ。そういえば名前言ってなかったな。俺、四堂蒼。気軽に蒼って呼んでくれよ」
「蒼クンね。俺、美樹。よろしく」
手を差し出して強く握る。無邪気にぶんぶん振るその手にアホ面と内心で毒づいて、美樹は近くの喫茶店を指した。
「よかったらちょっとお茶してかない? 奢るからさ。俺知人との約束まで暇してて困ってるんだよね」
「俺はいいぜ。咲は?」
「私も大丈夫だよ」
にこりと笑う彼女にサンキューと抱き着く蒼に内心で唾を吐く。こんな男のどこがいいんだろう? 紅ちゃんも趣味が悪いなあ。なんて思いながら顔に張り付けた笑みは絶やさずに、二人を適当に先程歩いていた時に見つけた喫茶店に案内する。
なんでも頼んでよと笑う美樹の言葉に甘えて、高木咲はミルクティーを、蒼はオレンジジュースを注文する。美樹はブラックコーヒーを頼んだ。
「ほんとに奇遇だね。まさか蒼クンと会えるとは思っていなかったから嬉しいよ」
ぺらぺらと自分でも驚くくらい口から出る嘘塗れの言葉に蒼は楽しそうに頷く。会話は盛り上がって、蒼の友達の話や過去の話になった。美樹と蒼が話ている横で、ただ静かに聞いていた高木咲はうんうんと優しそうな目を細めて微笑み頷いている。彼女さんはどう? と時折会話に混ぜようとしたが、流石高木家の娘というべきか、うまく交わして蒼に話を託すので、これは手強いと感じ、美樹は早々に彼女を会話から切り離した。
蒼との会話で紅の話題が出たのは、自然な流れだった。蒼が美樹に今度会わせたいと言って幼馴染の佐渡紅の名前を出したのだ。その名前に少し口角が上がる。
「佐渡、紅?」
「そう、紅っていうんだ。男だけど、海月とかめっちゃ好きでさ、あと家でマリモも育ててるぜ」
「そうなんだ、それは可愛いね」
くすくす笑うと蒼は嬉しくなったのか、紅との幼い頃のエピソードをさらに色々思い出しては語ってみせた。目の前にいる相手のことも、隣の彼女のこともなんにも配慮せず、紅との思い出をただ楽しそうに語る姿は子供みたいだが、どこか、違和感がある。
そう例えば、恋をしているような。
コーヒーカップをソーサーに置いて一息ついて美樹は笑う。
「蒼クンは紅くんのことが本当に大好きなんだね」
「おう! ずっと一緒だ」
「そっか。今日はありがとう。そろそろ時間だから行くわ。これ、お代ね」
「もうそんな時間か? こんなにいらねえよ、美樹」
ガタンと席を立って美樹が財布から一万円札を取り出して机に置くと時計を指さして言った。金額に驚く蒼ににっと笑った美樹は「余りは二人のデート代にしてね」と言ってその場を後にした。
四堂蒼は佐渡紅に恋をしている。美樹は確信した。
紅のことになるときらきらと楽しそうに話す姿もそうだが、何よりもあの目。あれは何度も見てきた一般的に言う恋する目というものだろう。自分の彼女が傍にいると言うのに残酷な男だ。
彼女と言えば高木咲。彼女に自分の正体が知られていないだろうかと気になったが、あの態度を見るにその心配は無意味そうだ。
高木家とはいえ、彼女は実家の仕事に携わっているわけでもなければ、実家に住んでいるわけでもないらしい。となればパーティーで会っている確率も低い。幼い頃は遠い親戚の家で過ごしたらしいし、美樹の顔を知らなそうだ。
「それにしても、あの昔話する時の蒼クンの顔!」
お手洗いに入って手を洗う。念入りに手を洗い流して、清潔なハンカチで手を拭いて美樹は呟いた。
「すんげえムカつく!」
幕間 美樹と蒼
「あ、君この間もあったよね」
美樹は焦げ茶のミディアムストレートヘアーの女を連れた、いかにもスポーツが好きそうな男に声を掛ける。昼間の駅前は人通りも多く、呼び止められた彼は一瞬首を傾げたが、すぐに、ああ! と思い出したように手を叩いてあの時のエレベーターの人と指をさした。
「こんな所で会うなんて奇遇だね。そっちの子は彼女?」
「ああ、そう。咲っていうんだ。そういえば名前言ってなかったな。俺、四堂蒼。気軽に蒼って呼んでくれよ」
「蒼クンね。俺、美樹。よろしく」
手を差し出して強く握る。無邪気にぶんぶん振るその手にアホ面と内心で毒づいて、美樹は近くの喫茶店を指した。
「よかったらちょっとお茶してかない? 奢るからさ。俺知人との約束まで暇してて困ってるんだよね」
「俺はいいぜ。咲は?」
「私も大丈夫だよ」
にこりと笑う彼女にサンキューと抱き着く蒼に内心で唾を吐く。こんな男のどこがいいんだろう? 紅ちゃんも趣味が悪いなあ。なんて思いながら顔に張り付けた笑みは絶やさずに、二人を適当に先程歩いていた時に見つけた喫茶店に案内する。
なんでも頼んでよと笑う美樹の言葉に甘えて、高木咲はミルクティーを、蒼はオレンジジュースを注文する。美樹はブラックコーヒーを頼んだ。
「ほんとに奇遇だね。まさか蒼クンと会えるとは思っていなかったから嬉しいよ」
ぺらぺらと自分でも驚くくらい口から出る嘘塗れの言葉に蒼は楽しそうに頷く。会話は盛り上がって、蒼の友達の話や過去の話になった。美樹と蒼が話ている横で、ただ静かに聞いていた高木咲はうんうんと優しそうな目を細めて微笑み頷いている。彼女さんはどう? と時折会話に混ぜようとしたが、流石高木家の娘というべきか、うまく交わして蒼に話を託すので、これは手強いと感じ、美樹は早々に彼女を会話から切り離した。
蒼との会話で紅の話題が出たのは、自然な流れだった。蒼が美樹に今度会わせたいと言って幼馴染の佐渡紅の名前を出したのだ。その名前に少し口角が上がる。
「佐渡、紅?」
「そう、紅っていうんだ。男だけど、海月とかめっちゃ好きでさ、あと家でマリモも育ててるぜ」
「そうなんだ、それは可愛いね」
くすくす笑うと蒼は嬉しくなったのか、紅との幼い頃のエピソードをさらに色々思い出しては語ってみせた。目の前にいる相手のことも、隣の彼女のこともなんにも配慮せず、紅との思い出をただ楽しそうに語る姿は子供みたいだが、どこか、違和感がある。
そう例えば、恋をしているような。
コーヒーカップをソーサーに置いて一息ついて美樹は笑う。
「蒼クンは紅くんのことが本当に大好きなんだね」
「おう! ずっと一緒だ」
「そっか。今日はありがとう。そろそろ時間だから行くわ。これ、お代ね」
「もうそんな時間か? こんなにいらねえよ、美樹」
ガタンと席を立って美樹が財布から一万円札を取り出して机に置くと時計を指さして言った。金額に驚く蒼ににっと笑った美樹は「余りは二人のデート代にしてね」と言ってその場を後にした。
四堂蒼は佐渡紅に恋をしている。美樹は確信した。
紅のことになるときらきらと楽しそうに話す姿もそうだが、何よりもあの目。あれは何度も見てきた一般的に言う恋する目というものだろう。自分の彼女が傍にいると言うのに残酷な男だ。
彼女と言えば高木咲。彼女に自分の正体が知られていないだろうかと気になったが、あの態度を見るにその心配は無意味そうだ。
高木家とはいえ、彼女は実家の仕事に携わっているわけでもなければ、実家に住んでいるわけでもないらしい。となればパーティーで会っている確率も低い。幼い頃は遠い親戚の家で過ごしたらしいし、美樹の顔を知らなそうだ。
「それにしても、あの昔話する時の蒼クンの顔!」
お手洗いに入って手を洗う。念入りに手を洗い流して、清潔なハンカチで手を拭いて美樹は呟いた。
「すんげえムカつく!」
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