上 下
194 / 318
夏は大ぼうけんのきせつ

小助くんとワン太くんと大きな鳥

しおりを挟む
 小助は、今日も子犬のワン太といっしょに森の中であそぼうとかけ足で走っています。森の中は、これからはじまる大ぼうけんへの入口でもあります。 

 いつもだったらほかのどうぶつたちがいますが、今日は1ぴきもそのすがたが見えません。 

「こちゅけくん(小助くん)、どこにもいないよ」 

 ワン太は、いつもあそんでくれるちびっこオオカミがいないのでざんねんそうにまわりを見回しています。 

 そんな中、小助は大きなつばさを広げた大きな鳥が空をとんでいるのをじっとながめています。その鳥は、いくつもの雲がうかぶ大空を鳴き声を上げながらくるくると回っています。 

「ピ~ヒョロヒョロヒョロ、ピ~ヒョロヒョロヒョロ」 

 小助は、大きな鳥がどこへとんで行くのか見ようと草木をかき分けています。ワン太も、小助の後をおうようについて行きます。 

 川のあるばしょへ出ると、小助は大きな鳥が大きな池のほうへ向かっていることに気づきました。 

「どこまで行くの?」 
「あっち! あっち!」 

 小助たちは、大きな岩だらけで足元がわるい道をあるきながらすすんでいます。行き先をたおれた木でさえぎっていても、小助はワン太をだきかかえながら自分の足でのりこえて行きます。 

 そこからさらにすすむと、たきの見える大きな池の後ろにさっきの鳥が止まっているのを目にしました。小助たちは、その鳥に声をかけようとゆっくりあるきながら近づきました。 

 池のおくのほうにある岩場には、大きな鳥がはねをとじたままでじっとしています。小助は、さっそく鳴き声のまねをしようとかわいい声で歌いはじめました。 

「ピ~ヒョロ、ピ~ヒョロヒョロ、ピ~ヒョロヒョロ」 

 すると、岩場にいる鳥は子どもの歌声を耳にしながら何か言おうと口をひらきました。そのすがたは、やさしいお母さんのようなふんいきにつつまれています。 

「ぼうや、どうしたの?」 
「ねえねえ、いっちょに(いっしょに)歌おう! いっちょに歌おう!」 
「もしかして、さっきの鳴き声はぼうやなのかな?」 
「うん!」 

 小助は、大きな鳥になり切って鳴き声を上げようとしています。ワン太も、ワンワンとほえながら小助といっしょに歌っています。 

「ピ~ヒョロ、ピ~ヒョロ、ピ~ヒョロヒョロ」 
「ワンワン、ワンワンワンッ」 
「上手に鳴き声を出しているわね。ぼうやたちの名前は?」 
「小助! 小助! 小助!」 
「ぼくはワン太。こちゅけくんが名前をつけてくれたよ」 

 子どもたちの名前を聞くと、大きな鳥は自分がどんな鳥なのかしつもんすることにしました。 

「それじゃあ、わたしの鳥の名前は何かな?」 
「う~ん……」 

 小助たちは、鳥が空をとんでいるのはこの目で見ているのでよく知っています。しかし、じっさいに鳥の名前を知っているのはごくわずかにすぎません。 

「わたしはトビという名前の鳥なの」 
「トビ?」 
「ふふふ、はじめて聞く名前だものね。わたしの鳴き声といっしょに名前をおぼえてみたらどうかな?」 
「ピ~ヒョロヒョロ、ピ~ヒョロヒョロヒョロ」 
「小助くん、鳴き声が上手だね。この鳥の名前は?」 
「トビ! トビ! トビ!」 
「よくおぼえたね。ついでに、小助くんとワン太くんにはこれも教えてあげるね」 

 トビは、小助たちの前で2つのつばさを広げました。小助たちは、つばさを広げるだけで大きく見えるトビのすがたにびっくりしています。 

「わあ~っ! ちゅごい(すごい)! ちゅごい!」 
「この大きなはねを広げると、遠いところまでとんで行くことができるよ」 
「あっちなの? あっちなの?」 
「ここからはるかに遠い海の見えるところだよ」 

 小助とワン太は、トビからはじめて聞くことばがどうしても気になってしまいます。なぜなら、小助たちは今まで海というものを見たことがありません。 

 そんな小助たちのようすに、トビはやさしく声をかけようと口をあけました。 

「それなら、いっしょにのって行ってみるかな?」 
「海が見たい! 海が見たい!」 

 トビは、小助とワン太のために山の中ではあじわうことのできない広い海へつれて行くことにしました。 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

おねしょゆうれい

ケンタシノリ
児童書・童話
べんじょの中にいるゆうれいは、ぼうやをこわがらせておねしょをさせるのが大すきです。今日も、夜中にやってきたのは……。 ※この作品で使用する漢字は、小学2年生までに習う漢字を使用しています。

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

どろんこたろう

ケンタシノリ
児童書・童話
子どもにめぐまれなかったお父さんとお母さんは、畑のどろをつかってどろ人形を作りました。すると、そのどろ人形がげんきな男の子としてうごき出しました。どろんこたろうと名づけたその男の子は、その小さな体で畑しごとを1人でこなしてくれるので、お父さんとお母さんも大よろこびです。 ※幼児から小学校低学年向けに書いた創作昔ばなしです。 ※このお話で使われている漢字は、小学2年生までに習う漢字のみを使用しています。

【総集編】日本昔話 パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
⭐︎登録お願いします。  今まで発表した 日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。 朝ドラの総集編のような物です笑 読みやすくなっているので、 ⭐︎登録して、何度もお読み下さい。 読んだ方も、読んでない方も、 新しい発見があるはず! 是非お楽しみ下さい😄 ⭐︎登録、コメント待ってます。

獣人ディックと赤ずきんちゃん

佐倉穂波
児童書・童話
「赤ずきん」の物語を読んでトラウマになった狼の獣人ディックと、ほんわかしてるけど行動力のある少女リリアの物語。  一応13話完結。

少年王と時空の扉

みっち~6画
児童書・童話
エジプト展を訪れた帰り道。エレベーターを抜けると、そこは砂の海。不思議なメダルをめぐる隼斗の冒険は、小学5年のかけがえのない夏の日に。

おねこのさんぽみち

はらぺこおねこ。
児童書・童話
おねこのうたを詩や物語にしてみました。 今まで書いた詩を…… これから書く詩を…… 徒然るままに載せていきます。 また。ジャンルがなにになるかわかりませんのでおそらく一番近い「児童書・童話」で書かせていただきます。

神社のゆかこさん

秋野 木星
児童書・童話
どこからともなくやって来たゆかこさんは、ある町の神社に住むことにしました。 これはゆかこさんと町の人たちの四季を見つめたお話です。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ この作品は小説家になろうからの転記です。

処理中です...