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第1章 幼少期~暗闇と救済編~
12 わたしとおいしい料理
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「お金が足りない!!」
ティファニアは叫び、机に突っ伏した。
図書室で叫ぶとはかなりの蛮行であるが、今は司書とティファニア、アリッサしかいない。そして、言ってる内容はともかく、屋敷の主人の娘の可愛い叫び声を咎めるものもいないだろう。
「やはり、初期費用がかなりかかります。領内でかけられる費用も限られているでしょうし…。なんとか投資してくれる方を募るしかなさそうですわ」
「でも、人脈がないんだよね……」
ティファニアはスラム救済案をどんどん進めていた。ある程度枠組みができたが、学校を作るのにも給料を払うにも全てにお金が非常にかかる。その為、ティファニアはどこからお金を捻出するのか考えていたのである。
(お父様に手伝ってもらう、とか)
ラティスの領内での人脈で出資者を募ることは出来るだろう。しかし、ティファニアはそれだけでは心許なかった。
(もう自分で稼いで出資するしかないかなぁ…)
「うーん、お金を稼ぐ手段かぁ…」
ティファニアはぼそっと呟いた。 しかし、ティファニアのことに関しては人一倍、いや、人百倍くらい耳聡いアリッサはしっかり聞いていた。
「食事処、はいかがでしょうか?」
「うん?」
ティファニアはきょとんとして首を傾げた。
アリッサが後ろに立っている為、角度的に振り返って見上げる形になっており、上目遣いと絶妙な角度で首を傾げたティファニアがいつも以上に可愛いとアリッサは悶えそうになる。
「い、いえ、前にお嬢様が食べたいと言っていた料理がありましたでしょう? まだ2種類しか召し上がれておりませんが、他にもあるとおっしゃっていませんでしたか?」
「うん。まだまだあるよ!」
「その料理を作って、振る舞うお食事処を開いて見てはいかがですか? お嬢様の料理は料理長も知らないくらい珍しいものですので、お客様は集まると思いますわ。」
「そう、かな? レストランってことでしょ?」
「はい。そうでございます」
「うーん、レストランかぁ…」
ティファニアは前に無性にオムライスが食べたくなった為、料理長に頼んで作ってもらったのだ。流石に卵を半熟にしてもらうことは出来なかったが、ケチャップもどきでオムライスを作ってもらった。ティファニアが絶賛するので、今は料理長のアレンジも加わってもっと美味しくなっている。
他にも、イタリアンや中華など食べたいものはたくさんある。特に和食が食べたい。この世界では米はあるが、あまり浸透していないようなので料理を通して広げてみるのもいいかもしれないとティファニアは思った。前世が米が主流だったので、ティファニアはあんなに美味しそうなものを食べてみたいと思っていたのだ。
「いいかもしれない!」
ウルタリア侯爵領は王国の南西寄りにあり、比較的温暖な気候だ。その為、米の生産を増やし、米を領内に広げることもできるのではないかという打算もある。ゆくゆくは米もパンのように普通に食べられるようするのが今できたティファニアのちょっとした野望である。
「じゃあ、何を作るかまとめて、ブルーノさんに作ってもらおう!!」
料理長であるブルーノにはいっぱい働いてもらうことになるなとティファニアは思った。普段から体調を崩すティファニアはブルーノに特別メニューを作ってもらっているので、負担にならないか少し心配になったのだ。
「でも、ブルーノさん、いそがしいかな…?」
「心配ありませんわ、お嬢様。ブルーノは喜んでお嬢様に協力してくれますよ。……それはもう、他の仕事を弟子たちに押し付けてでも、ですわ」
最後にアリッサが何か呟いたのを聞き取れず、ティファニアは首を傾げたが、アリッサの綺麗な笑顔に流されてしまった。
「じゃあ、何にしようかな。お米を使うなら、パエリアとかリゾットとかかな。和食は醤油がないからなぁ…。ねえ、アリッサ、大豆ってあるかな?」
「だいず、でございますか?」
「うん。その、豆なんだけど、栄養価が高くて、どんな環境でも育ちやすくて、おいしいの」
「まるで、夢のような豆ですわ」
「うん、まあ、そうかも! 確か、畑の肉って例えられることもあるんだよね」
「そうですね、ブルーノに聞いてわからないのでしたら、何種類か似たような豆を取り寄せるのがよろしいかと思いますわ」
「うん!! そうする!!」
和食を作るためには大豆は必須だ。味噌や醤油、豆腐などを作ることができたら、和食の幅がかなり広がる。
(味噌の作り方はなんとなく覚えてるけど、醤油は微妙だなぁ…。大豆の図鑑っぽいのを読んでいたみたいだから、一回は見てるはずなのに…。あー、なんで前世のわたしはもっと読み込まずにへんないきものがいっぱい載ってる図鑑の方が覚えてるの! ワラスボとかどうでもいいから!!)
前世のティファニアは知識が偏っていたようだ。役に立たない雑学がかなりあるが、肝心な知識がないことにティファニアは悪態をつき、少し腹を立てる。
しかし、そんなことをしてもなんの意味もないので、研究するしかないだろうなとちょっと肩を落とした。
紙に今の作れそうな料理をまとめると、ティファニアはアリッサと一緒に厨房へと足を向けた。昼食が終わってからそう時間は経っていない為、料理人達は殆どおらず、がらんとしていた。
そんな厨房に2人の影があった。なにやらコンロの前で試行錯誤しているようだ。その一人はティファニアの今回の御目当ての人であるブルーノだった。ブルーノはサラサラした鈍い青色の髪と綺麗な緑の瞳をした好青年だ。しかし、料理長という職に既についているため、見た目は20代前半でも実年齢はもっと上だという噂である。
「ブルーノさん、こんにちは!!」
「お、お嬢様!?」
もう一人のブルーノより幾分若くみえる料理人が驚いて振り返った。しかし、ブルーノは落ち着いた優しそうな顔でティファニアの方を見て微笑んだ。
「よくいらっしゃいました、お嬢様。今日はいかがなさいましたか?」
裏方の使用人は言葉遣いがなっていないことが多いが、ブルーノの物腰は柔らかく、丁寧な口調だ。
「えーっと、つくってほしいりょうりがあって…。でも、ブルーノさん、いそがしくない?」
「ご心配なく。私がいないくらいで料理に支障が出る弟子はおりません。お嬢様の料理は面白いものばかりですので、何なりとおっしゃって下さい」
「ほんとうに!?」
「はい。もちろんでございます」
「あのね、レストランを開きたいから、そのための料理を作ってほしいの」
「レストラン、とはなんでしょうか」
「えーっと、高級のお食事処、かな。やりたいことがあるんだけど、その為のお金が必要なの」
「なるほど、分かりました。そこでお嬢様の料理を出すので試作を私に手伝って欲しいということですね」
「うん!!」
「お任せ下さい!! 今度こそはお嬢様が一番好きな料理を作ってみせましょう!!!」
ブルーノにやる気がみなぎり、心なしか周りの温度が上がった気がした。さすが、主人を勝手にライバル認定している料理長である。
「それでね、新しい調味料を作りたいから、大豆っていう豆がほしいの」
「ダイズ、ですか?」
「うん、そう。あのね、栄養価が高くて、どんなところでも育って、おいしい豆なの」
「それは…、まるで夢のような豆ですね」
「………ティーもそう思う」
アリッサと同じ反応されたことに少し驚き、そして夢のようなと言われるなら、大豆はないのではないかとティファニアは残念に思った。
「ブルーノさん、知らないかな?」
「そうですね、西の方の国にその様な豆があると聞いたことがあります。少し時間がかかりますが、お取り寄せ致しましょうか?」
「ほんとに!? すっごくすっごくほしい!!」
大豆が見つかるかもしれないことにティファニアは目を輝かせた。先ほど肩を落としたことを忘れてしまったかの様に飛び跳ねて喜んだ。
そんな様子をブルーノはにこにこ笑って眺めていた。
「かしこまりました。届き次第、お嬢様にお伝えいたします」
「うん!!」
「それで、今日はどのような料理を作りますか?」
「えーっとね、今日はお菓子を作ろうと思ってるの。蒸し料理って食べたことないから、お試しで蒸したお菓子を作るの!!」
「むす、とはなんでしょうか? 新しい料理ですか?」
「ううん。えーっとね、湯気で熱を通す料理法、かな。ティーも口で説明できないや。えへへ」
ティファニアはこれから作るのお菓子で頭がいっぱいになっており、なぜか説明できないことに照れていた。
ティファニアはこの屋敷にから大半が病人食だったが、それでも煮る、焼く、炒める以外の料理法で作られた料理を見たことがなかった。ゆえに蒸し料理はないのではないかと思ってレストランの定番メニューにしようと思ったのだ。
米料理も出すつもりだが、なにぶん流通量が少なく、生産量を増やさなければ必然的に料理の値段が高くなってしまう。まずは生産を増やさなければ値段は抑えられない。その為、米以外の料理と考えたときに今までにない蒸し料理が思いついたのだ。決してティファニアが前世の自分がコンビニの肉まんをよく食べていて、自分も食べてみたいと思ったからではない。
「今日はね、プリンを作るの!」
プリンは卵、牛乳、砂糖さえあれば簡単にできる。砂糖は希少な為、今回ティファニアは蜂蜜で代用するつもりである。
材料と大体の分量をブルーノに伝え、混ぜてもらう。ティファニアもやりたがったが、体力がないのとブルーノが自分がやると固辞した為、全て彼に任せている。
その間に、ティファニアは簡易蒸し装置を作っていた。深い鍋に水を張り、コップを3つ置いて、その上に肉などを焼く為の金属の網を乗せるというとっても簡単なものだ。そのうちせいろを作る予定であるが、今回は蒸し料理がどんなものであるか伝えるだけなので、ティファニアは簡単なものにした。
ティファニアが簡易蒸し装置を完成させると、あとはブルーノに作ってもらったプリンのタネを型に入れ、アルミホイルがないので小さなお皿を型に乗せ、鍋に蓋をして蒸すだけだ。
「では、この上に乗せて、3、40分中火で待てば良いのですか?」
「うん!! できたら、それを冷やして食べるの!」
ティファニアのワクワクは止まらず、何度も時計をちらちら見ながら待った。
頬を染めながら、まだかまだかと待つティファニアの姿は隅で厨房を覗いていた弟子たちの心を射止めるのには十分だった。そのうち彼らもレストランの為の料理研究に嬉々として参加してくれるだろう。
「うふふ〜、できたぁ!!」
やっと蒸し終わり、火を止めてもらうと、ティファニアは大喜びして机に並べてあるプリンに手を伸ばした。
「お、お嬢様!?」
「あちっ!」
熱いことは分かりきっていたが、興奮したティファニアはすっかり忘れて器を触ってしまった。指先に熱が走り、咄嗟に指を引っ込める。
「お嬢様、大丈夫ですか!?」
後ろに控えていたアリッサがすぐにティファニアの指を確認するが、少し赤くなっているだけで大事なかった。安心したアリッサは目を丸くしているティファニアを見て、くすくすと笑った。
「お嬢様、冷やして食べるとご自分でおっしゃってたじゃないですか」
「そうだった…」
すっかり自分が言ったことを忘れていたティファニアは恥ずかしがって顔をぼんっと真っ赤にした。
それがまた可愛く、アリッサはまたくすくすと笑った。
冷やして食べたプリンは美味しかった。次はせいろを作ってもらい、肉まんなどで蒸し料理の幅を広げようとティファニアは思った。
こうしてウルタリア侯爵家の食卓は彩りを増していく。
レストラン開業までまだまだ道のりは長い。
*
ティファニアが難しい言葉を話しても、天使フィルターがかかっているのでみんな気にしません。
作者はあんまり料理をしないので、図書館で料理本を借りてきました。
変なところがあったらご指摘ください!
昨日、総合ポイントが1万を超えました♪
ありがとうございます!
なろうにて記念にSSを書いていますので、明日までには投稿予定です。
ラティスとティファニアがらぶらぶする予定です。
本編の更新は水曜日か木曜日になりますので、よろしくお願いします!
ティファニアは叫び、机に突っ伏した。
図書室で叫ぶとはかなりの蛮行であるが、今は司書とティファニア、アリッサしかいない。そして、言ってる内容はともかく、屋敷の主人の娘の可愛い叫び声を咎めるものもいないだろう。
「やはり、初期費用がかなりかかります。領内でかけられる費用も限られているでしょうし…。なんとか投資してくれる方を募るしかなさそうですわ」
「でも、人脈がないんだよね……」
ティファニアはスラム救済案をどんどん進めていた。ある程度枠組みができたが、学校を作るのにも給料を払うにも全てにお金が非常にかかる。その為、ティファニアはどこからお金を捻出するのか考えていたのである。
(お父様に手伝ってもらう、とか)
ラティスの領内での人脈で出資者を募ることは出来るだろう。しかし、ティファニアはそれだけでは心許なかった。
(もう自分で稼いで出資するしかないかなぁ…)
「うーん、お金を稼ぐ手段かぁ…」
ティファニアはぼそっと呟いた。 しかし、ティファニアのことに関しては人一倍、いや、人百倍くらい耳聡いアリッサはしっかり聞いていた。
「食事処、はいかがでしょうか?」
「うん?」
ティファニアはきょとんとして首を傾げた。
アリッサが後ろに立っている為、角度的に振り返って見上げる形になっており、上目遣いと絶妙な角度で首を傾げたティファニアがいつも以上に可愛いとアリッサは悶えそうになる。
「い、いえ、前にお嬢様が食べたいと言っていた料理がありましたでしょう? まだ2種類しか召し上がれておりませんが、他にもあるとおっしゃっていませんでしたか?」
「うん。まだまだあるよ!」
「その料理を作って、振る舞うお食事処を開いて見てはいかがですか? お嬢様の料理は料理長も知らないくらい珍しいものですので、お客様は集まると思いますわ。」
「そう、かな? レストランってことでしょ?」
「はい。そうでございます」
「うーん、レストランかぁ…」
ティファニアは前に無性にオムライスが食べたくなった為、料理長に頼んで作ってもらったのだ。流石に卵を半熟にしてもらうことは出来なかったが、ケチャップもどきでオムライスを作ってもらった。ティファニアが絶賛するので、今は料理長のアレンジも加わってもっと美味しくなっている。
他にも、イタリアンや中華など食べたいものはたくさんある。特に和食が食べたい。この世界では米はあるが、あまり浸透していないようなので料理を通して広げてみるのもいいかもしれないとティファニアは思った。前世が米が主流だったので、ティファニアはあんなに美味しそうなものを食べてみたいと思っていたのだ。
「いいかもしれない!」
ウルタリア侯爵領は王国の南西寄りにあり、比較的温暖な気候だ。その為、米の生産を増やし、米を領内に広げることもできるのではないかという打算もある。ゆくゆくは米もパンのように普通に食べられるようするのが今できたティファニアのちょっとした野望である。
「じゃあ、何を作るかまとめて、ブルーノさんに作ってもらおう!!」
料理長であるブルーノにはいっぱい働いてもらうことになるなとティファニアは思った。普段から体調を崩すティファニアはブルーノに特別メニューを作ってもらっているので、負担にならないか少し心配になったのだ。
「でも、ブルーノさん、いそがしいかな…?」
「心配ありませんわ、お嬢様。ブルーノは喜んでお嬢様に協力してくれますよ。……それはもう、他の仕事を弟子たちに押し付けてでも、ですわ」
最後にアリッサが何か呟いたのを聞き取れず、ティファニアは首を傾げたが、アリッサの綺麗な笑顔に流されてしまった。
「じゃあ、何にしようかな。お米を使うなら、パエリアとかリゾットとかかな。和食は醤油がないからなぁ…。ねえ、アリッサ、大豆ってあるかな?」
「だいず、でございますか?」
「うん。その、豆なんだけど、栄養価が高くて、どんな環境でも育ちやすくて、おいしいの」
「まるで、夢のような豆ですわ」
「うん、まあ、そうかも! 確か、畑の肉って例えられることもあるんだよね」
「そうですね、ブルーノに聞いてわからないのでしたら、何種類か似たような豆を取り寄せるのがよろしいかと思いますわ」
「うん!! そうする!!」
和食を作るためには大豆は必須だ。味噌や醤油、豆腐などを作ることができたら、和食の幅がかなり広がる。
(味噌の作り方はなんとなく覚えてるけど、醤油は微妙だなぁ…。大豆の図鑑っぽいのを読んでいたみたいだから、一回は見てるはずなのに…。あー、なんで前世のわたしはもっと読み込まずにへんないきものがいっぱい載ってる図鑑の方が覚えてるの! ワラスボとかどうでもいいから!!)
前世のティファニアは知識が偏っていたようだ。役に立たない雑学がかなりあるが、肝心な知識がないことにティファニアは悪態をつき、少し腹を立てる。
しかし、そんなことをしてもなんの意味もないので、研究するしかないだろうなとちょっと肩を落とした。
紙に今の作れそうな料理をまとめると、ティファニアはアリッサと一緒に厨房へと足を向けた。昼食が終わってからそう時間は経っていない為、料理人達は殆どおらず、がらんとしていた。
そんな厨房に2人の影があった。なにやらコンロの前で試行錯誤しているようだ。その一人はティファニアの今回の御目当ての人であるブルーノだった。ブルーノはサラサラした鈍い青色の髪と綺麗な緑の瞳をした好青年だ。しかし、料理長という職に既についているため、見た目は20代前半でも実年齢はもっと上だという噂である。
「ブルーノさん、こんにちは!!」
「お、お嬢様!?」
もう一人のブルーノより幾分若くみえる料理人が驚いて振り返った。しかし、ブルーノは落ち着いた優しそうな顔でティファニアの方を見て微笑んだ。
「よくいらっしゃいました、お嬢様。今日はいかがなさいましたか?」
裏方の使用人は言葉遣いがなっていないことが多いが、ブルーノの物腰は柔らかく、丁寧な口調だ。
「えーっと、つくってほしいりょうりがあって…。でも、ブルーノさん、いそがしくない?」
「ご心配なく。私がいないくらいで料理に支障が出る弟子はおりません。お嬢様の料理は面白いものばかりですので、何なりとおっしゃって下さい」
「ほんとうに!?」
「はい。もちろんでございます」
「あのね、レストランを開きたいから、そのための料理を作ってほしいの」
「レストラン、とはなんでしょうか」
「えーっと、高級のお食事処、かな。やりたいことがあるんだけど、その為のお金が必要なの」
「なるほど、分かりました。そこでお嬢様の料理を出すので試作を私に手伝って欲しいということですね」
「うん!!」
「お任せ下さい!! 今度こそはお嬢様が一番好きな料理を作ってみせましょう!!!」
ブルーノにやる気がみなぎり、心なしか周りの温度が上がった気がした。さすが、主人を勝手にライバル認定している料理長である。
「それでね、新しい調味料を作りたいから、大豆っていう豆がほしいの」
「ダイズ、ですか?」
「うん、そう。あのね、栄養価が高くて、どんなところでも育って、おいしい豆なの」
「それは…、まるで夢のような豆ですね」
「………ティーもそう思う」
アリッサと同じ反応されたことに少し驚き、そして夢のようなと言われるなら、大豆はないのではないかとティファニアは残念に思った。
「ブルーノさん、知らないかな?」
「そうですね、西の方の国にその様な豆があると聞いたことがあります。少し時間がかかりますが、お取り寄せ致しましょうか?」
「ほんとに!? すっごくすっごくほしい!!」
大豆が見つかるかもしれないことにティファニアは目を輝かせた。先ほど肩を落としたことを忘れてしまったかの様に飛び跳ねて喜んだ。
そんな様子をブルーノはにこにこ笑って眺めていた。
「かしこまりました。届き次第、お嬢様にお伝えいたします」
「うん!!」
「それで、今日はどのような料理を作りますか?」
「えーっとね、今日はお菓子を作ろうと思ってるの。蒸し料理って食べたことないから、お試しで蒸したお菓子を作るの!!」
「むす、とはなんでしょうか? 新しい料理ですか?」
「ううん。えーっとね、湯気で熱を通す料理法、かな。ティーも口で説明できないや。えへへ」
ティファニアはこれから作るのお菓子で頭がいっぱいになっており、なぜか説明できないことに照れていた。
ティファニアはこの屋敷にから大半が病人食だったが、それでも煮る、焼く、炒める以外の料理法で作られた料理を見たことがなかった。ゆえに蒸し料理はないのではないかと思ってレストランの定番メニューにしようと思ったのだ。
米料理も出すつもりだが、なにぶん流通量が少なく、生産量を増やさなければ必然的に料理の値段が高くなってしまう。まずは生産を増やさなければ値段は抑えられない。その為、米以外の料理と考えたときに今までにない蒸し料理が思いついたのだ。決してティファニアが前世の自分がコンビニの肉まんをよく食べていて、自分も食べてみたいと思ったからではない。
「今日はね、プリンを作るの!」
プリンは卵、牛乳、砂糖さえあれば簡単にできる。砂糖は希少な為、今回ティファニアは蜂蜜で代用するつもりである。
材料と大体の分量をブルーノに伝え、混ぜてもらう。ティファニアもやりたがったが、体力がないのとブルーノが自分がやると固辞した為、全て彼に任せている。
その間に、ティファニアは簡易蒸し装置を作っていた。深い鍋に水を張り、コップを3つ置いて、その上に肉などを焼く為の金属の網を乗せるというとっても簡単なものだ。そのうちせいろを作る予定であるが、今回は蒸し料理がどんなものであるか伝えるだけなので、ティファニアは簡単なものにした。
ティファニアが簡易蒸し装置を完成させると、あとはブルーノに作ってもらったプリンのタネを型に入れ、アルミホイルがないので小さなお皿を型に乗せ、鍋に蓋をして蒸すだけだ。
「では、この上に乗せて、3、40分中火で待てば良いのですか?」
「うん!! できたら、それを冷やして食べるの!」
ティファニアのワクワクは止まらず、何度も時計をちらちら見ながら待った。
頬を染めながら、まだかまだかと待つティファニアの姿は隅で厨房を覗いていた弟子たちの心を射止めるのには十分だった。そのうち彼らもレストランの為の料理研究に嬉々として参加してくれるだろう。
「うふふ〜、できたぁ!!」
やっと蒸し終わり、火を止めてもらうと、ティファニアは大喜びして机に並べてあるプリンに手を伸ばした。
「お、お嬢様!?」
「あちっ!」
熱いことは分かりきっていたが、興奮したティファニアはすっかり忘れて器を触ってしまった。指先に熱が走り、咄嗟に指を引っ込める。
「お嬢様、大丈夫ですか!?」
後ろに控えていたアリッサがすぐにティファニアの指を確認するが、少し赤くなっているだけで大事なかった。安心したアリッサは目を丸くしているティファニアを見て、くすくすと笑った。
「お嬢様、冷やして食べるとご自分でおっしゃってたじゃないですか」
「そうだった…」
すっかり自分が言ったことを忘れていたティファニアは恥ずかしがって顔をぼんっと真っ赤にした。
それがまた可愛く、アリッサはまたくすくすと笑った。
冷やして食べたプリンは美味しかった。次はせいろを作ってもらい、肉まんなどで蒸し料理の幅を広げようとティファニアは思った。
こうしてウルタリア侯爵家の食卓は彩りを増していく。
レストラン開業までまだまだ道のりは長い。
*
ティファニアが難しい言葉を話しても、天使フィルターがかかっているのでみんな気にしません。
作者はあんまり料理をしないので、図書館で料理本を借りてきました。
変なところがあったらご指摘ください!
昨日、総合ポイントが1万を超えました♪
ありがとうございます!
なろうにて記念にSSを書いていますので、明日までには投稿予定です。
ラティスとティファニアがらぶらぶする予定です。
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