界渡りの魔女の安寧

千羊

文字の大きさ
上 下
4 / 12

04 魔女のペットその三 もふもふ度★★★★

しおりを挟む
「お、おねえちゃん! ふえたよ!!」

 私が昼メシに手を出そうとした時、イーフォが慌てたような声をあげた。騒がしいな。私は腹が減ってるんだぞ。
 グラタンに伸ばしている手を止めて少し不機嫌にイーフォを見る。

「ん? 何がだ?」
「なんか、ふえた!?」

 イーフォは目を見開いて、庭を指さしていた。そこでは相変わらずもふもふなケサパサと自分の獲物を食べているアールと背筋を伸ばして座っている二号がいる。何かおかしいことがあったか?

「なんだ? 変な虫でもいたか?」
「ち、ちがくて、おっきなねこが……!」

 イーフォは蒼い瞳を大きく見開きながら、何度も二号を指さした。

「ああ、二号のことか? 可愛いだろう?」

 そういえばイーフォは二号を初めて見るんだったな。それで慌ててたのか。なんせ、二号は可愛いからな。

「ほら、二号、こっちに来い」

 私が二号を手招きすると、二号はにゃーんと鳴いて私の方に寄ってきた。その姿は近づくにつれ段々と小さくなっていき、私の目の前に来る頃には脛の高さほどの猫になった。
 二号は猫ではなく、本当はとある世界の魔法が使える黒豹の一種だ。実際の大きさはさっき庭に降り立った時のように5メートルほどある。だが、私とご飯を食べたり、甘えるには小さい姿が楽らしく、猫ほどのサイズでいるときも多い。
 私は自分の足元にやってきた二号を抱き上げると、膝の上にのせてもふもふな身体を撫でた。うむ、なめらかで柔らかくて気持ちがいい。

「二号の本当の姿はさっきの大きい方だ。普段は家の中を歩き回るために小さくなってるかもしれんが、アールみたいに危険はない」
「ほんと!? じゃあ、さわってもいい?」
「ああ、構わんぞ」

 二号は気性が穏やかだからな。イーフォとも仲良くなれるだろう。

「わっ! な、なんか、おこってる……」

 だが、そう思った矢先に、私の膝の上の二号に手を伸ばしていたイーフォに二号はシャーッと威嚇した。びっくりしてイーフォは慌てて手を引っ込めた。ショックだったようで、狐耳が垂れてしゅんとしている。
 おかしいな。二号は懐きやすいはずなんだが。
 そう思ってイーフォを見ると、私は原因に思い至って納得した。

「たぶんイーフォの魔力に驚いたんだ。二号は繊細だからな」

 二号の種族は魔法を使える分魔力感応に優れている。イーフォはそこそこ大きな魔力を持っているからな、それに反応して警戒したんだろう。

「そ、そうなんだ……」
「ああ。動物はこういうのに敏感だからな。私がイーフォを警戒していないから二号もそのうち慣れる」
「う、うん……」

 私直々励ましてみたが、イーフォはケサパサに続いて二号にまで避けられたのがショックみたいだな。まあ、どちらも見た目からして素晴らしいもふもふだからな。触りたいのもわかる。

「まあ、まだもう一人・・いるんだ。あいつはお前を避けたりしないから大丈夫だろ」
「ま、まだいるの?」
「ああ、今はたぶんこの辺を散策しているんだと思う。ここに放ったのもイーフォが寝た直ぐ後だからな。そのうち会える」
「そ、そっかぁ!」

 イーフォはあからさまに嬉しそうな顔になった。ぱぁっと周りに花が咲きそうだな。うん、可愛い。
 私は狐耳をもふもふ撫でた。膝の上からにゃーんと二号の撫でてとせがむ鳴き声がする。
 もちろん二号も撫でるぞ。もふもふ。

 ああ、両手にもふもふだなんてここはやっぱりオアシスだなっ!!

 私がもふもふを堪能していると、嬉しそうに私に頭をささげていたイーフォのお腹がグーッと鳴った。そういえば、まだ昼メシを手を付けてすらいなかったな。私も腹が減った。

「じゃあ、食うか!」
「うん!!」

 私たちの昼メシはやっと始まった。





 グラタンはうまかった。まあ、私が作ったのだから当たり前だな。
 うん、さすが私だ。

 イーフォもおいしいと何度も何度も繰り返しながらグラタンとステーキ、そしてサラダを食べていた。
 膝の上の二号にもステーキをあげたが、満足そうだった。最近は私が家造りで忙しくて相手してやれなかったからな。一緒に食べるのもそういえば久しぶりだったかもしれん。心なしかいつもより二号が甘えるのもそのせいか。少し悪いことをしたかもな。今日はたっぷり撫でてやろうっ!!

 そういえば、食事中、窓の外で自分で獲った獲物を食べるアールを見て、イーフォは少し青ざめていた。
 アールは獲物を爪で挟み、嘴で裂いて食べているだけなんだが、それはイーフォにとってはスプラッターなシーンだったようだ。私はよく一緒に食べるから見慣れているが、食事中に生で見るものじゃなかったかもな。
 どこかの獣人は生で獲物を食べていたはずだが、この世界のことじゃなかったっけか? まあ、獣人はいろんな世界にいるからな。混ざることもあるだろう。とりあえず、アールはこれからはイーフォがいる前では食事を控えてもらうか。私の自慢の庭も血なまぐさくなるしな。

 ちなみに、ケサパサは私の魔力を食べた。あいつは見かけによらず美食家だからな、私の魔力の質の良さが分かるんだろう。まあ、私は魔力の味なんてわからないがな。




 昼メシを終えると、私たちは家の周りの森を軽く探索した。それも広すぎてほとんど回り切れず、今日は帰って夕飯を食って一緒に風呂に入ったらもう寝る時間だ。私も今日は疲れたからな。今日は早めに寝るか。

「おねえちゃんはどこでねるの?」

 寝間着に着替え、もう寝る準備が万端になると、イーフォは少し顔を赤らめて私に尋ねた。

 何だ? 私の寝間着が魅力的過ぎたのか? まあ、私は今、10歳にも満たない見た目だが、素晴らしきビジュアルだからな!! 小さいイーフォが照れるのもわかるぞ。

「私は自分の部屋で寝るぞ」

 そう言って私は手を振って亜空間を開いた。この亜空間は私がどの世界に渡っても寝泊りできるようにカスタマイズした。まあ、どこでも出入りできる私室みたいなところだな。この部屋には私の私物やお気に入りのベッドもあるからな、寝るのには最適だ。

「えっ!? ぼくのとなりのへやじゃないの?」
「ああ、あれは一応作っただけで研究室みたいなものだからな。ソファはあってもベッドはない」
「そ、そうなんだ……」

 イーフォは銀の狐耳をしゅんと垂らして落ち込んだ。
 だが、そんなに落ち込む要素があったか?
 私が疑問に思っていると、イーフォは恐る恐るといった風に私の目を見た。そして、何度も口を開こうとしては閉じ、また開いては閉じた。何か言いたいのは分かるが、どうも言い出しにくいみたいだな。

「どうした? 何か気に入らないものでもあったか? それとも欲しいものが見つかったか?」

 言いたければ遠慮するな、と私が言うと、イーフォは決心を決めた顔になった。その青い瞳が強い光を灯していた。

「ぼ、ぼく、おねえちゃんといっしょにねたい!!」
「ほうっ! 私を二度も誘うとは贅沢だなっ! だが、いいだろう。一緒に寝てやろう!!」

 金品や新しい家具ではなく、私と同衾を望むとはイーフォは贅沢者で、―――そして、寂しがり屋でもあるな。だがまあ、付き合ってやろう。まだイーフォは小さいんだ。それに、人の生は短いんだ。

 私が了承すると、イーフォはぱぁっと顔を明るくした。尻尾を盛大に降り、耳もぴくぴくしている。うむ、可愛いな。とりあえずもふもふしておくか。

「じゃあ、寝るか」

 もふもふを堪能しきると、私たちはイーフォの部屋に行き、直ぐにベッドに入った。スプリングの利いた最高級のベッドは気持ちがいい。

「じゃあ、電気を消すぞ」

 うん、と隣のイーフォが嬉しそうに笑ったので、私は手を振って電気を消した。どの部屋もスイッチだが、私の場合はベッドに入っていても魔法でスイッチを動かせるから便利だ。
 ついでに寝言を聞こえなくする魔法も自分にかけておく。私は寝言がうるさいらしいからな。

 布団の中に肩まで入ると、自分以外の温かみがあってなんかにやける。
 ……うん、これは、嬉しいんだな。

「おやすみ、イーフォ」
「おやすみなさい、おねえちゃん」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

処理中です...