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朝日を背景に
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「ヴァンパイア……ヴェルサーガの配下、か……」
「しかも、全員……あの黒騎士並の魔石を持ってる……それに、宙に浮いてる……」
アクトとミクが、呻くようにそう言葉にした。
ここに来て、ヴェルサーガが強力な妖魔を召喚した。
ベルサーガだけでも、倒すことが困難で、夜明けによる撤退を待つしか望みがない状況だった。
それをメルの奮戦でなんとか持ちこたえていたものが、一気に状況が悪化した。
そのうちの一体が、低空飛行で滑るように滑空し、アクト、ミク、ライナスの三人に迫った。
全員、迎え撃つべく身構えるが、その表情には絶望感が漂っていた。
――しかし、そのヴァンパイアがたどり着くことはなかった。
アクト達の手前、三十メールほどのところで爆発したような衝撃音と共に落下、地中深くにめり込んでしまった。
ライナスは驚いて、さっきまでその妖魔が迫っていた上空を見上げた。
そこには六本の腕をはやした、身長三メールを超える、美しくも禍々しい白銀の鎧を纏った大妖魔が存在していた。
「姉さん……『ディモース』の封印が、解けてる……」
ミクが唇を震わせながらそう言った。
「ディモース……まさか……」
ライナスが、過去に聞いた話を思い出して青ざめる。
「そう……姉さんには最上級悪魔『ディモース』の魔石が埋め込まれている……最初にヴェルサーガから襲撃を受けたとき、それしか助かる道がなかったから。そしてその悪魔に体を乗っ取られることを防ぐため、意識支配への絶対抵抗魔水晶『王者の金剛石』も埋め込んだ。それを半分、無効化したんだわ……」
「まさか……でも、あの鎧までも六本腕に……」
「あの鎧は、悪魔が住む世界、魔界のものを召喚しているの。しかも、『ディモース』専用に作られていて、その体型変化に合わせて形状が変化する。だから小柄で、しかも女性の姉さんにもピッタリと合っていた。それが今、あんなに大きく、六本もの腕をはやしている……もう、姉さんの体は人間のそれじゃあない……」
「そんな……アクトさん、なんとかならないんですか!?」
ライナスはそう声をかけるが、アクトの表情も厳しい。
「……おそらく、肉体は悪魔のそれになってしまっているだろう。とすれば、あとは意識がどうなっているかだが……」
上空に浮遊する白銀の鎧を纏った大妖魔は、アクト達を一瞥すると、すぐに反転してヴェルサーガ達の元へと向かった。
ヴェルサーガは焦ったように黒球を連射するが、それらは全て躱される。
召喚され、残った二体のヴァンパイアが、冷却系の魔法で足止めしようとするが、物ともせずに高速飛行する。
ついにヴェルサーガのすぐ側まで迫った大妖魔は、六本の腕のうち、右側三本をヴェルサーガに打ち付けた。
多重魔力結界を展開したにも関わらず、その一撃はヴェルサーガにヒットし、不死の肉体が吹き飛び、地面に叩きつけられ、十メールほどもはね飛んでやっと止まった。
苦しげに起きようとするところを、さらに追撃しようとする大妖魔。
二体のヴァンパイアがその目前で立ちはだかり、同時に爆撃魔法を放つが、それでも退くことがなく、逆に二体を殴りつけ、数十メール以上も先に吹き飛ばした。
「フハハハハッ、いいぞっ、それでこそ魔界の神獣だ……その力、この世の全てを壊し、灰塵とさせるものだ。まだ、小娘の意思が残っているようだが……いつか我が物としてやる。夜明けも近い故、今日のところは退くが……その神獣、せいぜい大事に守り抜くが良い!」
ヴェルサーガは、ふらつきながらそう言い残すと、転移魔法でその姿をかき消した。
その後を追うように、残りのヴァンパイア二体も緑色の光を残して消え去った。
――戦いは、終わった。
そのことを悟ったのか、六本腕の大妖魔は上空から落下し、地面に叩きつけられた。
オレンジ色の魔力結界が張られてその衝撃を吸収したようだが、それが最後の力だったのか、白銀の鎧は消え去り、大妖魔の肉体だけが残った。
アクト達が急いで駆け寄る。
すると、その赤黒い巨体は白い泡を吹いて溶け始めていた。
「これって……『ディモース』が魔力を使って、無理矢理、仮の肉体を作っていただけだわ!」
その様子を見たミクが叫ぶ。
「そうか……本当に肉体が乗っ取られたわけじゃなく、その上にまがい物をかぶせられていただけ……メルは、どうなんだ?」
「えっと、ちょっと待って……元々、半分不死族になっていたから、よく分からないけど……あっ、顔と体が出てきた!」
そこには、いつものメルの美しい顔が存在した。
「姉さん、しっかりして! 聞こえる!?」
「……んっ……」
幾分苦しそうにはしているが、意識が完全に飛んでいる訳ではないようだった。
「……血色も良いから、多分、大丈夫そう……あっ、ライ君は向こう向いて! アクト兄さんは……まあ、いいかな……」
『ディモース』の仮の肉体が泡になって消えていくにしたがい、メルの白い肌が見えてきたのだが、妖魔化したときに服が破れ飛んだのか、彼女は全裸だった。
一瞬、その白い肌を見てしまったライナスは、少し動揺し、そして彼女を案じながらもミクの指示通り後ろを向いた。
「姉さん、大丈夫?」
ミクがそう声をかける。
「んっ……ミク……なんとか『カイザーレックス』に残った魔力で衝動を抑え込めたけど、そのせいでもう、本当に魔力、つきちゃった……もう、帰れないかも……」
「いや、まだだ……急いでワーウルフたちが残した魔石をかき集めて充魔するんだ!」
アクトがそう言って行動を開始しようとする。
「ううん、それじゃあ間に合いません……あの丘の向こうから日の光が差し込むまで、多分あと数分……」
メルの今の肉体も、半妖魔化していて、日光の中では生きられない。
「それなら、せめて建物の陰に……」
アクトがそう言葉にしたときだった。
グオオオォ、という野太い叫びと共に、地中から一体のヴァンパイアが出現した。
「……さっき姉さんが叩き落とした妖魔だわっ! まだ生きてた!」
今の状態で、あの黒騎士と同等の妖魔に襲われたらひとたまりも無い……ミクはそう思った。
しかし、その危険を察知して、その妖魔との距離を詰めるライナスがいた。
彼は雄叫びを上げ、伝説の『サザンの剣』、それも裏物をヴァンパイアに叩きつけた。
メルの一撃を受け、墜落し、ダメージを負い飛ぶ力を失っていた妖魔に、彼は容赦なく重厚な剣劇を繰り出す。
速く、重く、彼の気迫がこもった容赦の無い連続攻撃に、妖魔は何度も吹き飛び、叩きつけられ、突き刺されて、ついに爆散した……黄色に煌めく、鶏卵大の高密度の魔石を残して。
ライナスは素早く回収すると、もう一刻も猶予が無いと感じて、それをアクトに投げ渡した。
受け取った彼は、それをメルの胸の上に置いた。
彼女の全身が淡くオレンジに輝き、強力な魔石の魔力を吸収していく。
「どうだ?」
「……帰れそうです……」
その言葉に、ミクも、アクトも、ほうっとため息をつく。
そしてミクは、ライナスに笑顔で手を振った。
それに安堵したライナスは、こんどこそ力がぬけて、その場に両膝をついた。
そんな彼の目に、立ち上がり、ほんの少しだけ浮き上がったメルの美しい全裸の姿が一瞬見えた。
そしてすぐに、その姿はかき消えた……帰還魔法の発動に、成功したのだ。
そのほんの数十秒後、暖かな日の光が、辺り一帯を照らした。
ワーウルフ達の死体が蒸発し、数十にも及ぶ魔石が出現する。
「……これって、いくらぐらいになりますかね?」
疲れ切ったライナスが、なんとかミク達の元に戻って、今までの激闘からすればどうでも良いような質問を投げかけた。
「どうだろうな……一千万にはなるんじゃないか?」
「……あれだけ苦戦して一千万なの? 本当に、ハンターって、割に合わない仕事ね……」
ミクが、拗ねるようにそう愚痴をこぼして、アクトもライナスも笑った。
その後、一時間ほど休憩してから、帰る準備を始めた。
ライナスには、もはや「サザンの剣」を持ち帰る体力も魔力も残っていなかった。
そこで、彼が剣の側に残り、誰かに取られないように見張っていて(重いためそう簡単に盗られる物ではないが)、アクトが二頭立ての馬車を借りてくることにした。
ミクも、アクトが帰ってくるまで、ライナスと一緒に残ることを選んだ。
比較的体力の残っていた彼女は、ワーウルフたちの魔石を拾って集めた。
そして余った時間で、アクトのメルの関係を、ライナスに説明した。
アクト――魔道剣士アクテリアスは、ロックウェル侯爵家の長男で、本来であればハンターとして活動するような身分ではないこと。
しかし彼の家系は代々、唯一「純白の聖光魔法」が使えることもあり、特別視されており、特にヴェルサーガの襲撃事件があって以来、彼は積極的に妖魔退治の仕事を受けていること。
元々、メルとアクトは幼なじみで、許嫁でも有り、そして本当に恋人同士だったこと……。
二人とも、ヴェルサーガの襲撃事件で人生を大きく狂わされた被害者なのだ。
そんな二人が、打倒ヴェルサーガのために戦い続けることは、必然の成り行きだった。
ミクは最初、その戦いに参加するのは危険すぎると反対されていたが、自分の手で強力な装備を作成できるようになって、条件付きながら認められることになった。
それが、「信頼の置ける、かつ強力な戦力の追加」だった。
「……僕は、認められたのかな……」
「この戦い、大活躍だったでしょ? その前から、姉さんに『特別な力を持っている』って言われて、姉さんを呼び出す腕輪を渡された時点で認められていたんだけどね……正直、ここまでとは思わなかった。私がまだ、一番足手まといだな……」
「そんなことはないよ。僕が黒騎士にやられそうになったとき、『ひどいことしたら許さない』って助けてくれただろう?」
「あははっ、あれはつい、そんな言葉が出ちゃっただけ。ライ君の役に立てたなら良かったよ」
そう言って、わずかに頬を赤らめる。
「……でも、僕はまだ、君たちほど深く関われていないかな……幼なじみって訳でもないし、血が繋がっている訳でもないし、ましてや許嫁、婚約者、っていうわけでもない」
「……だけど、今回、一緒にヴェルサーガと戦ってくれたよね? 前回、アクト兄さんも戦っていないから、そういう意味では一緒。あと、たしかに婚約者とか、そういうのじゃないけど、一応、私の……騎士様って言ってくれたし、その……」
そういうミクは、頬を真っ赤に染めていた。
その表情がものすごく可愛く思えて、ライナスも顔が赤くなる。
「……僕から、言わせて欲しい。不相応かもしれないけど……ミク、君のことが好きだ……」
それを聞いて、ミクはパッと笑顔になった。
「……ありがと。私も、好きだよ……だったら、その……私を、恋人にしてくれるかな……」
「……君がいいなら、そうなりたい。そしたら、また一緒にいられる理由が増えるから……」
彼の言葉に、ミクは小さく頷いた。
そして昇ってくる朝日を背景にして、二人は、唇を重ねた――。
「しかも、全員……あの黒騎士並の魔石を持ってる……それに、宙に浮いてる……」
アクトとミクが、呻くようにそう言葉にした。
ここに来て、ヴェルサーガが強力な妖魔を召喚した。
ベルサーガだけでも、倒すことが困難で、夜明けによる撤退を待つしか望みがない状況だった。
それをメルの奮戦でなんとか持ちこたえていたものが、一気に状況が悪化した。
そのうちの一体が、低空飛行で滑るように滑空し、アクト、ミク、ライナスの三人に迫った。
全員、迎え撃つべく身構えるが、その表情には絶望感が漂っていた。
――しかし、そのヴァンパイアがたどり着くことはなかった。
アクト達の手前、三十メールほどのところで爆発したような衝撃音と共に落下、地中深くにめり込んでしまった。
ライナスは驚いて、さっきまでその妖魔が迫っていた上空を見上げた。
そこには六本の腕をはやした、身長三メールを超える、美しくも禍々しい白銀の鎧を纏った大妖魔が存在していた。
「姉さん……『ディモース』の封印が、解けてる……」
ミクが唇を震わせながらそう言った。
「ディモース……まさか……」
ライナスが、過去に聞いた話を思い出して青ざめる。
「そう……姉さんには最上級悪魔『ディモース』の魔石が埋め込まれている……最初にヴェルサーガから襲撃を受けたとき、それしか助かる道がなかったから。そしてその悪魔に体を乗っ取られることを防ぐため、意識支配への絶対抵抗魔水晶『王者の金剛石』も埋め込んだ。それを半分、無効化したんだわ……」
「まさか……でも、あの鎧までも六本腕に……」
「あの鎧は、悪魔が住む世界、魔界のものを召喚しているの。しかも、『ディモース』専用に作られていて、その体型変化に合わせて形状が変化する。だから小柄で、しかも女性の姉さんにもピッタリと合っていた。それが今、あんなに大きく、六本もの腕をはやしている……もう、姉さんの体は人間のそれじゃあない……」
「そんな……アクトさん、なんとかならないんですか!?」
ライナスはそう声をかけるが、アクトの表情も厳しい。
「……おそらく、肉体は悪魔のそれになってしまっているだろう。とすれば、あとは意識がどうなっているかだが……」
上空に浮遊する白銀の鎧を纏った大妖魔は、アクト達を一瞥すると、すぐに反転してヴェルサーガ達の元へと向かった。
ヴェルサーガは焦ったように黒球を連射するが、それらは全て躱される。
召喚され、残った二体のヴァンパイアが、冷却系の魔法で足止めしようとするが、物ともせずに高速飛行する。
ついにヴェルサーガのすぐ側まで迫った大妖魔は、六本の腕のうち、右側三本をヴェルサーガに打ち付けた。
多重魔力結界を展開したにも関わらず、その一撃はヴェルサーガにヒットし、不死の肉体が吹き飛び、地面に叩きつけられ、十メールほどもはね飛んでやっと止まった。
苦しげに起きようとするところを、さらに追撃しようとする大妖魔。
二体のヴァンパイアがその目前で立ちはだかり、同時に爆撃魔法を放つが、それでも退くことがなく、逆に二体を殴りつけ、数十メール以上も先に吹き飛ばした。
「フハハハハッ、いいぞっ、それでこそ魔界の神獣だ……その力、この世の全てを壊し、灰塵とさせるものだ。まだ、小娘の意思が残っているようだが……いつか我が物としてやる。夜明けも近い故、今日のところは退くが……その神獣、せいぜい大事に守り抜くが良い!」
ヴェルサーガは、ふらつきながらそう言い残すと、転移魔法でその姿をかき消した。
その後を追うように、残りのヴァンパイア二体も緑色の光を残して消え去った。
――戦いは、終わった。
そのことを悟ったのか、六本腕の大妖魔は上空から落下し、地面に叩きつけられた。
オレンジ色の魔力結界が張られてその衝撃を吸収したようだが、それが最後の力だったのか、白銀の鎧は消え去り、大妖魔の肉体だけが残った。
アクト達が急いで駆け寄る。
すると、その赤黒い巨体は白い泡を吹いて溶け始めていた。
「これって……『ディモース』が魔力を使って、無理矢理、仮の肉体を作っていただけだわ!」
その様子を見たミクが叫ぶ。
「そうか……本当に肉体が乗っ取られたわけじゃなく、その上にまがい物をかぶせられていただけ……メルは、どうなんだ?」
「えっと、ちょっと待って……元々、半分不死族になっていたから、よく分からないけど……あっ、顔と体が出てきた!」
そこには、いつものメルの美しい顔が存在した。
「姉さん、しっかりして! 聞こえる!?」
「……んっ……」
幾分苦しそうにはしているが、意識が完全に飛んでいる訳ではないようだった。
「……血色も良いから、多分、大丈夫そう……あっ、ライ君は向こう向いて! アクト兄さんは……まあ、いいかな……」
『ディモース』の仮の肉体が泡になって消えていくにしたがい、メルの白い肌が見えてきたのだが、妖魔化したときに服が破れ飛んだのか、彼女は全裸だった。
一瞬、その白い肌を見てしまったライナスは、少し動揺し、そして彼女を案じながらもミクの指示通り後ろを向いた。
「姉さん、大丈夫?」
ミクがそう声をかける。
「んっ……ミク……なんとか『カイザーレックス』に残った魔力で衝動を抑え込めたけど、そのせいでもう、本当に魔力、つきちゃった……もう、帰れないかも……」
「いや、まだだ……急いでワーウルフたちが残した魔石をかき集めて充魔するんだ!」
アクトがそう言って行動を開始しようとする。
「ううん、それじゃあ間に合いません……あの丘の向こうから日の光が差し込むまで、多分あと数分……」
メルの今の肉体も、半妖魔化していて、日光の中では生きられない。
「それなら、せめて建物の陰に……」
アクトがそう言葉にしたときだった。
グオオオォ、という野太い叫びと共に、地中から一体のヴァンパイアが出現した。
「……さっき姉さんが叩き落とした妖魔だわっ! まだ生きてた!」
今の状態で、あの黒騎士と同等の妖魔に襲われたらひとたまりも無い……ミクはそう思った。
しかし、その危険を察知して、その妖魔との距離を詰めるライナスがいた。
彼は雄叫びを上げ、伝説の『サザンの剣』、それも裏物をヴァンパイアに叩きつけた。
メルの一撃を受け、墜落し、ダメージを負い飛ぶ力を失っていた妖魔に、彼は容赦なく重厚な剣劇を繰り出す。
速く、重く、彼の気迫がこもった容赦の無い連続攻撃に、妖魔は何度も吹き飛び、叩きつけられ、突き刺されて、ついに爆散した……黄色に煌めく、鶏卵大の高密度の魔石を残して。
ライナスは素早く回収すると、もう一刻も猶予が無いと感じて、それをアクトに投げ渡した。
受け取った彼は、それをメルの胸の上に置いた。
彼女の全身が淡くオレンジに輝き、強力な魔石の魔力を吸収していく。
「どうだ?」
「……帰れそうです……」
その言葉に、ミクも、アクトも、ほうっとため息をつく。
そしてミクは、ライナスに笑顔で手を振った。
それに安堵したライナスは、こんどこそ力がぬけて、その場に両膝をついた。
そんな彼の目に、立ち上がり、ほんの少しだけ浮き上がったメルの美しい全裸の姿が一瞬見えた。
そしてすぐに、その姿はかき消えた……帰還魔法の発動に、成功したのだ。
そのほんの数十秒後、暖かな日の光が、辺り一帯を照らした。
ワーウルフ達の死体が蒸発し、数十にも及ぶ魔石が出現する。
「……これって、いくらぐらいになりますかね?」
疲れ切ったライナスが、なんとかミク達の元に戻って、今までの激闘からすればどうでも良いような質問を投げかけた。
「どうだろうな……一千万にはなるんじゃないか?」
「……あれだけ苦戦して一千万なの? 本当に、ハンターって、割に合わない仕事ね……」
ミクが、拗ねるようにそう愚痴をこぼして、アクトもライナスも笑った。
その後、一時間ほど休憩してから、帰る準備を始めた。
ライナスには、もはや「サザンの剣」を持ち帰る体力も魔力も残っていなかった。
そこで、彼が剣の側に残り、誰かに取られないように見張っていて(重いためそう簡単に盗られる物ではないが)、アクトが二頭立ての馬車を借りてくることにした。
ミクも、アクトが帰ってくるまで、ライナスと一緒に残ることを選んだ。
比較的体力の残っていた彼女は、ワーウルフたちの魔石を拾って集めた。
そして余った時間で、アクトのメルの関係を、ライナスに説明した。
アクト――魔道剣士アクテリアスは、ロックウェル侯爵家の長男で、本来であればハンターとして活動するような身分ではないこと。
しかし彼の家系は代々、唯一「純白の聖光魔法」が使えることもあり、特別視されており、特にヴェルサーガの襲撃事件があって以来、彼は積極的に妖魔退治の仕事を受けていること。
元々、メルとアクトは幼なじみで、許嫁でも有り、そして本当に恋人同士だったこと……。
二人とも、ヴェルサーガの襲撃事件で人生を大きく狂わされた被害者なのだ。
そんな二人が、打倒ヴェルサーガのために戦い続けることは、必然の成り行きだった。
ミクは最初、その戦いに参加するのは危険すぎると反対されていたが、自分の手で強力な装備を作成できるようになって、条件付きながら認められることになった。
それが、「信頼の置ける、かつ強力な戦力の追加」だった。
「……僕は、認められたのかな……」
「この戦い、大活躍だったでしょ? その前から、姉さんに『特別な力を持っている』って言われて、姉さんを呼び出す腕輪を渡された時点で認められていたんだけどね……正直、ここまでとは思わなかった。私がまだ、一番足手まといだな……」
「そんなことはないよ。僕が黒騎士にやられそうになったとき、『ひどいことしたら許さない』って助けてくれただろう?」
「あははっ、あれはつい、そんな言葉が出ちゃっただけ。ライ君の役に立てたなら良かったよ」
そう言って、わずかに頬を赤らめる。
「……でも、僕はまだ、君たちほど深く関われていないかな……幼なじみって訳でもないし、血が繋がっている訳でもないし、ましてや許嫁、婚約者、っていうわけでもない」
「……だけど、今回、一緒にヴェルサーガと戦ってくれたよね? 前回、アクト兄さんも戦っていないから、そういう意味では一緒。あと、たしかに婚約者とか、そういうのじゃないけど、一応、私の……騎士様って言ってくれたし、その……」
そういうミクは、頬を真っ赤に染めていた。
その表情がものすごく可愛く思えて、ライナスも顔が赤くなる。
「……僕から、言わせて欲しい。不相応かもしれないけど……ミク、君のことが好きだ……」
それを聞いて、ミクはパッと笑顔になった。
「……ありがと。私も、好きだよ……だったら、その……私を、恋人にしてくれるかな……」
「……君がいいなら、そうなりたい。そしたら、また一緒にいられる理由が増えるから……」
彼の言葉に、ミクは小さく頷いた。
そして昇ってくる朝日を背景にして、二人は、唇を重ねた――。
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