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いいことは悪いこと
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ライナスがその赤い光を見るのは三回目だった。
彼の目の前の空間にゆがみが生じ、そこから金色の光が溢れ、その光が消滅した。
そしてそこには、白銀と漆黒で形成されている、美しくも禍々しい全身鎧に身を包まれた一人の女剣士が立っていた。
「アクトさん、思ったより早くまた会えましたね!」
兜のせいで、ややくぐもってはいたが、ライナスの耳には、彼女の声が嬉しそうに聞こえた。
「ああ、今朝以来だな……いや、今はそんな話をしている場合じゃない。あいつの力、どう見る?」
アクトが、油断なく視線を闇の騎士に向けたままそう尋ねた。
「……馬と併せて、今の私と同等ぐらい、と思った方が良さそうです。ヴェルサーガ以降、今まで戦ってきたどの敵より強力だと思います」
「やはりそうか……たかがトロールの討伐に、何人もが帰ってきていないという話を聞いて嫌な予感はしていたんだ。より強い者をおびき寄せるための罠だったか」
「えっ……そんな話あったんですか?」
ライナスが驚きの声を上げる。
「ああ、お前達とはその情報が入れ違いになっていたんだろう。誰も帰ってこない、という話は伝わりにくい。ましてや星一つ、まだ慣れていないハンターならそのヤバさに気づかないのも無理はない……いや、今はそんな話をしている場合ではないな。向こうもメルの召喚を見て警戒を強めたみたいだな」
アクトの言葉通り、闇の騎士は彼らから七十メールほど離れた位置に立っており、馬に乗ったままその動きを止めていた。
「……勝てそうか?」
「はい、こちらは貴方を含めて四人。ライナス君にミクを護衛してもらって、そのミクは強力な魔法で攻撃。私が接近戦、そして貴方に聖光の魔法を、どこか弱点を見つけて打ち込んでもらえれば……」
メルが冷静にそう分析しているときに、闇の騎士はまた槍を掲げた。
するとその騎士の背後に、緑色の光の円柱が数十も現れ、それらの一つ一つにワーウルフが出現した。
「……前言撤回、簡単には勝てないです……」
「……だろうな……」
メルとアクトが、苦笑しながら言葉を交わす。
「……ライナス、さっきまでと同じ作戦で、迫ってくるワーウルフからミクを守れ。メルは接近戦、短期決戦であの鎧の騎士と馬を頼む。俺もミクを守る、ミクはその肩の装備と爆撃魔法で、まずは近づいてくるワーウルフを、時々メルの援護をしてくれ!」
「はい!」
「わかりました!」
「了解です!」
アクトの指示に、全員が従う。
ワーウルフ達はミク達に集団で迫り、その強力な爪で襲ってくるが、接近戦のためになんとかライナスも対応できる。
ミクのバトルスーツの性能は想像以上で、そこまで完璧にガードしなくとも、軽く攻撃が当たるぐらいならダメージは全くないと聞かされて、敵の大振りの攻撃や体当たりだけを防ぐ。
アクトの聖なる光は、ワーウルフ達の目を眩ませ、弱体化させる。
そしてミクが爆撃魔法を効果的に使い、中距離に存在するワーウルフ達をまとめて吹き飛ばす。
それらが効果的に機能して群れの数を減らしていくのも、メルが高速・高精度、そして強力な剣技で闇の騎士を食い止めているためだ。
引き抜いた白銀の剣で、馬上の闇騎士に切りつける。
騎士は長い槍を連続で突き下ろしてくるが、それらを見切って素早く躱し続ける。
一見不利に見えるメルだが、その速さは闇騎士のそれを超え、互角以上に立ち回る。
このために闇騎士は、爆撃などの強力な魔法を使えず、ライナス達に意識を向けることができなかった。
そこに、逆にミクが放った爆撃魔法が闇騎士の乗馬を直撃する。
防御の魔力結界を自動展開するも、ダメージを受けてふらつく黒い馬。
さらにそこにメルの強力な一撃が加わり、ついに黒馬は膝から崩れ落ちるように倒れた。
その際、闇騎士も馬から転落したが、上手く着地し、すぐさま槍でメルを攻撃する。
だが、接近戦ならばメルに有利。
黒馬を倒した強力な一撃を黒騎士に放ったが、その分厚い鎧に重厚な魔力結界が上乗せされ、よろけさせることもできなかった。
しかし、それだけの結界を張ったと言うことは、魔力を相当消費したということだ。
ワーウルフ達もライナスやアクトの必死の守りで半減しており、このままなら押し切れる、というところで、闇の騎士がまた動きを見せた。
倒れてもがいていた黒馬が緑色の光となって消え、黒騎士の左手に巨大な盾が現れる。
そして長い槍を、右手一本で振り回した。
メルはその一撃を剣で受けたが、その体が数メール吹き飛ばされた。
彼女の鎧に魔力結界が展開されたことから、剣越しでも鎧にダメージを受けたことが分かった。
ライナス、アクト、ミクのエコーイヤホンにメルの言葉が届く。
「馬を失った分、単純に走る速度は落ちたけど、地に足を付けてから力は強くなった! だからこちらには近づかないで!」
自分に任せろ、というメルの気遣いだった。
いや、自分以外が接近戦に加担すれば、足手まといになると思ったのだろう。
「勝算はあるのか!?」
アクトが確認する。
「ええ。私が短期決戦で魔力結界を剥ぎ取ります。そうなったらアクトさん、聖光の魔力で攻撃してください!」
「分かった!」
今の状態でアクトが攻撃しても、如何に闇を払う純白の光魔法であったとしても闇の騎士には通用しない。
ある程度、弱らせる必要があるのだ。
そして何より、ワーウルフ達の波状攻撃は続き、さらにアンデッド化して襲いかかってくるために、メルに加担する余裕がなかった。
さらに、メルの方も攻めあぐねていた。
馬に乗っているときよりも、闇騎士は動きに正確さが出て、さらに大盾を効果的に使ってメルの攻撃をそれ以上受けない。
メルがじれて強力な魔法を使おうとしても、そのわずかな隙に槍での攻撃を放たれ、中断させられる。
ミクが爆撃魔法を使って闇騎士を遠距離攻撃したが、それも盾で防がれ、わずかに後ずさりさせただけだった。
闇騎士の防御力がすさまじい。
メルが戦える時間は残り少なくなってきて、次第に焦りが出てきた。
「……姉さん、もう馬はいないんだから、一旦退却してもいいんじゃない?」
ミクがエコーイヤホンを通じてそう提案したが、
「駄目、馬は死んだわけじゃないから、再召喚されたら回復魔法使われて追いかけられる可能性がある。倒しきらないと……」
「でも、もう姉さん、あんまり戦えないんじゃ……」
「……この敵、固すぎて、盾が邪魔で……あ、いいこと思いついたわ! アクトさん、三十秒だけこの場を離れても大丈夫ですか?」
「三十秒? ……わかった、いい事って言うことは……何か悪いこと思いついたんだな?」
「もう……まあ、外れてはいませんけど。すぐに帰ってきます!」
メルはそう言い残して、金色の光と共に消え去った。
突然、今まで戦っていた最強の相手が目の前からいなくなり、闇の騎士はしばらく困惑していた。
そして逃走したと考えたのか、すぐに目標をワーウルフの群れと戦っているアクト達に向けて、ゆっくりと歩いて近寄り始めた。
もしたどり着かれたら、確実に殺される。
そのことが理解できているミクは、メルの言葉を信じてはいたが、焦って爆撃魔法を使用し、それを闇騎士に盾で防がれた。
その隙を狙ってワーウルフの生き残りが長い爪で襲うが、ライナスが体当たりでその攻撃を逸らした。
彼の鎧に防御結界を張るための充魔量も残り少ない。
疲れもある。
アクトが放つ聖光魔法も、明らかに頻度が落ちていた。
唯一の救いは、その様子を見た黒騎士が、余裕をもってゆっくりと近づいてきていることだった。
そして残り二十五メル、というところで、アクトのすぐ側の空間が歪み、金色の光が溢れた。
美しくも禍々しい全身鎧に身を包まれた一人の女剣士が、帰ってきた。
目の前に、先ほどまで使っていたものとは別の、むき出しの大剣を持って。
「ライナス君、これ使って! 貴方なら使いこなせるはずよ!」
その女剣士……メルは、そう言ってその大剣を、彼女にしては珍しく重そうにライナスの足下に放り投げた。
ズンッ、という鈍い音と共に、その剣は地面にめり込んだ。
「……これは……カラエフさんのところにあった……」
それはライナスが、一度目は渾身の力でなんとか引き抜き、二度目はなぜか軽々と扱うことができた剣だ。
カラエフは、十億積まれてもその剣は売らないと言っていたが……。
「……まさか、盗んできたんですか?」
「人聞きの悪いことを言わないで。緊急事態だから、ちょっと黙って借りてきただけよ!」
やはりアクトの言うとおり、メルは悪いことを考えていた。
彼の目の前の空間にゆがみが生じ、そこから金色の光が溢れ、その光が消滅した。
そしてそこには、白銀と漆黒で形成されている、美しくも禍々しい全身鎧に身を包まれた一人の女剣士が立っていた。
「アクトさん、思ったより早くまた会えましたね!」
兜のせいで、ややくぐもってはいたが、ライナスの耳には、彼女の声が嬉しそうに聞こえた。
「ああ、今朝以来だな……いや、今はそんな話をしている場合じゃない。あいつの力、どう見る?」
アクトが、油断なく視線を闇の騎士に向けたままそう尋ねた。
「……馬と併せて、今の私と同等ぐらい、と思った方が良さそうです。ヴェルサーガ以降、今まで戦ってきたどの敵より強力だと思います」
「やはりそうか……たかがトロールの討伐に、何人もが帰ってきていないという話を聞いて嫌な予感はしていたんだ。より強い者をおびき寄せるための罠だったか」
「えっ……そんな話あったんですか?」
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「ああ、お前達とはその情報が入れ違いになっていたんだろう。誰も帰ってこない、という話は伝わりにくい。ましてや星一つ、まだ慣れていないハンターならそのヤバさに気づかないのも無理はない……いや、今はそんな話をしている場合ではないな。向こうもメルの召喚を見て警戒を強めたみたいだな」
アクトの言葉通り、闇の騎士は彼らから七十メールほど離れた位置に立っており、馬に乗ったままその動きを止めていた。
「……勝てそうか?」
「はい、こちらは貴方を含めて四人。ライナス君にミクを護衛してもらって、そのミクは強力な魔法で攻撃。私が接近戦、そして貴方に聖光の魔法を、どこか弱点を見つけて打ち込んでもらえれば……」
メルが冷静にそう分析しているときに、闇の騎士はまた槍を掲げた。
するとその騎士の背後に、緑色の光の円柱が数十も現れ、それらの一つ一つにワーウルフが出現した。
「……前言撤回、簡単には勝てないです……」
「……だろうな……」
メルとアクトが、苦笑しながら言葉を交わす。
「……ライナス、さっきまでと同じ作戦で、迫ってくるワーウルフからミクを守れ。メルは接近戦、短期決戦であの鎧の騎士と馬を頼む。俺もミクを守る、ミクはその肩の装備と爆撃魔法で、まずは近づいてくるワーウルフを、時々メルの援護をしてくれ!」
「はい!」
「わかりました!」
「了解です!」
アクトの指示に、全員が従う。
ワーウルフ達はミク達に集団で迫り、その強力な爪で襲ってくるが、接近戦のためになんとかライナスも対応できる。
ミクのバトルスーツの性能は想像以上で、そこまで完璧にガードしなくとも、軽く攻撃が当たるぐらいならダメージは全くないと聞かされて、敵の大振りの攻撃や体当たりだけを防ぐ。
アクトの聖なる光は、ワーウルフ達の目を眩ませ、弱体化させる。
そしてミクが爆撃魔法を効果的に使い、中距離に存在するワーウルフ達をまとめて吹き飛ばす。
それらが効果的に機能して群れの数を減らしていくのも、メルが高速・高精度、そして強力な剣技で闇の騎士を食い止めているためだ。
引き抜いた白銀の剣で、馬上の闇騎士に切りつける。
騎士は長い槍を連続で突き下ろしてくるが、それらを見切って素早く躱し続ける。
一見不利に見えるメルだが、その速さは闇騎士のそれを超え、互角以上に立ち回る。
このために闇騎士は、爆撃などの強力な魔法を使えず、ライナス達に意識を向けることができなかった。
そこに、逆にミクが放った爆撃魔法が闇騎士の乗馬を直撃する。
防御の魔力結界を自動展開するも、ダメージを受けてふらつく黒い馬。
さらにそこにメルの強力な一撃が加わり、ついに黒馬は膝から崩れ落ちるように倒れた。
その際、闇騎士も馬から転落したが、上手く着地し、すぐさま槍でメルを攻撃する。
だが、接近戦ならばメルに有利。
黒馬を倒した強力な一撃を黒騎士に放ったが、その分厚い鎧に重厚な魔力結界が上乗せされ、よろけさせることもできなかった。
しかし、それだけの結界を張ったと言うことは、魔力を相当消費したということだ。
ワーウルフ達もライナスやアクトの必死の守りで半減しており、このままなら押し切れる、というところで、闇の騎士がまた動きを見せた。
倒れてもがいていた黒馬が緑色の光となって消え、黒騎士の左手に巨大な盾が現れる。
そして長い槍を、右手一本で振り回した。
メルはその一撃を剣で受けたが、その体が数メール吹き飛ばされた。
彼女の鎧に魔力結界が展開されたことから、剣越しでも鎧にダメージを受けたことが分かった。
ライナス、アクト、ミクのエコーイヤホンにメルの言葉が届く。
「馬を失った分、単純に走る速度は落ちたけど、地に足を付けてから力は強くなった! だからこちらには近づかないで!」
自分に任せろ、というメルの気遣いだった。
いや、自分以外が接近戦に加担すれば、足手まといになると思ったのだろう。
「勝算はあるのか!?」
アクトが確認する。
「ええ。私が短期決戦で魔力結界を剥ぎ取ります。そうなったらアクトさん、聖光の魔力で攻撃してください!」
「分かった!」
今の状態でアクトが攻撃しても、如何に闇を払う純白の光魔法であったとしても闇の騎士には通用しない。
ある程度、弱らせる必要があるのだ。
そして何より、ワーウルフ達の波状攻撃は続き、さらにアンデッド化して襲いかかってくるために、メルに加担する余裕がなかった。
さらに、メルの方も攻めあぐねていた。
馬に乗っているときよりも、闇騎士は動きに正確さが出て、さらに大盾を効果的に使ってメルの攻撃をそれ以上受けない。
メルがじれて強力な魔法を使おうとしても、そのわずかな隙に槍での攻撃を放たれ、中断させられる。
ミクが爆撃魔法を使って闇騎士を遠距離攻撃したが、それも盾で防がれ、わずかに後ずさりさせただけだった。
闇騎士の防御力がすさまじい。
メルが戦える時間は残り少なくなってきて、次第に焦りが出てきた。
「……姉さん、もう馬はいないんだから、一旦退却してもいいんじゃない?」
ミクがエコーイヤホンを通じてそう提案したが、
「駄目、馬は死んだわけじゃないから、再召喚されたら回復魔法使われて追いかけられる可能性がある。倒しきらないと……」
「でも、もう姉さん、あんまり戦えないんじゃ……」
「……この敵、固すぎて、盾が邪魔で……あ、いいこと思いついたわ! アクトさん、三十秒だけこの場を離れても大丈夫ですか?」
「三十秒? ……わかった、いい事って言うことは……何か悪いこと思いついたんだな?」
「もう……まあ、外れてはいませんけど。すぐに帰ってきます!」
メルはそう言い残して、金色の光と共に消え去った。
突然、今まで戦っていた最強の相手が目の前からいなくなり、闇の騎士はしばらく困惑していた。
そして逃走したと考えたのか、すぐに目標をワーウルフの群れと戦っているアクト達に向けて、ゆっくりと歩いて近寄り始めた。
もしたどり着かれたら、確実に殺される。
そのことが理解できているミクは、メルの言葉を信じてはいたが、焦って爆撃魔法を使用し、それを闇騎士に盾で防がれた。
その隙を狙ってワーウルフの生き残りが長い爪で襲うが、ライナスが体当たりでその攻撃を逸らした。
彼の鎧に防御結界を張るための充魔量も残り少ない。
疲れもある。
アクトが放つ聖光魔法も、明らかに頻度が落ちていた。
唯一の救いは、その様子を見た黒騎士が、余裕をもってゆっくりと近づいてきていることだった。
そして残り二十五メル、というところで、アクトのすぐ側の空間が歪み、金色の光が溢れた。
美しくも禍々しい全身鎧に身を包まれた一人の女剣士が、帰ってきた。
目の前に、先ほどまで使っていたものとは別の、むき出しの大剣を持って。
「ライナス君、これ使って! 貴方なら使いこなせるはずよ!」
その女剣士……メルは、そう言ってその大剣を、彼女にしては珍しく重そうにライナスの足下に放り投げた。
ズンッ、という鈍い音と共に、その剣は地面にめり込んだ。
「……これは……カラエフさんのところにあった……」
それはライナスが、一度目は渾身の力でなんとか引き抜き、二度目はなぜか軽々と扱うことができた剣だ。
カラエフは、十億積まれてもその剣は売らないと言っていたが……。
「……まさか、盗んできたんですか?」
「人聞きの悪いことを言わないで。緊急事態だから、ちょっと黙って借りてきただけよ!」
やはりアクトの言うとおり、メルは悪いことを考えていた。
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