魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

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闇の騎士

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 ゴーグル『黒梟』越しに見える、驚くほど強力な光を放つ魔石。
 離れていても分かる、圧倒的に感じられる禍々しいオーラ。
 アクトから語られた、「高度な知性を有する人間型のアンデッドモンスター、もしくは、上位の悪魔」という言葉。

「……あれが、ひょっとしてミクが前から言っていた、ヴェルサーガっていう敵ですか?」

 ライナスがそう確認する。

「いや……ヴェルサーガが鎧を着ていたということは過去にないはずだ……それに、もしそうならばもっと強力な邪気を放っているだろう。かといって、迫ってくる奴が貧弱というわけではない。負のオーラもすさまじいものがある……おそらくは、ヴェルサーガが創り出した最強の妖魔の一体だ。気をつけろ、あの鎧の個体だけでなく、馬の方も強力だぞ」

 アクトが、剣を握りしめながらそう話す。

「……まだ距離があるけど、私なら狙える……先に攻撃加えても良いかな?」

 ミクが言葉を発する間に、迫ってくる漆黒の鎧を纏った妖魔は、右手に持っていた長い槍を構えた。

「そうだな、明らかに敵対的だ……躊躇せず、全力で放て!」

「うんっ! 魔光弾っ!」

 ミクの肩口の『ツイン・カノン・ギミック』から、連続して青い光が放たれる。
 しかしそれらは、瞬時に馬ごと数メール横に移動した闇の騎士には当たらない。

「……早い……あの魔獣達も避けてたけど、全く違う……予備動作がないままスライドするように避けるなんて……」

 彼女が驚きの顔でそう呟いた。
 しかしその直後、闇の騎士が槍を上に突き上げた瞬間、別の異変が起き、何倍もの恐怖を味わうことになった。

「……警戒しろっ! ワーウフルたちが起き上がるぞっ!」

 アクトの言葉は、最初ミクとライナスの二人には理解できなかった。
 しかし、先ほど倒したはずの魔獣達が、胴体に大穴が開いている者達までも含めて立ち上がり、爪を伸ばして三人に一斉に襲いかかってきた。

「くっ……なんで……」

 ライナスが、またミクの左側の防御を受け持つ。
 先ほどまでと違って力も弱く、速度も遅いものの、切りつけたり、突き刺したりしても、まるっきり痛みを感じないように襲いかかってくる。

「ライ、首をはねろ! そうすれば視界を失って動きがより鈍くなる。もしくは、縦に両断しろ! 立ち上がれなくなる!」

 アクトからアドバイスを受けたライナスが、その言葉通り実践しようとするが、相手は数が多く、死に物狂いどころか、死んでいるのに突っ込んでくるので、剣でがむしゃらに切り刻み、それ以上ミクに近寄らせないので精一杯だ。

 それに対して、アクトの方はアンデッドに有効な『聖なる光』の力が絶大で、切りつけるとその部分が溶けるように蒸発する。
 さらに、「聖光の矢」でミドルレンジの魔法攻撃も可能。それらで「死骸の群れ」をそれ以上近づけさせない。

 しかし、闇の騎士はその間も悠然と迫ってくる。
 なんとかミクが、牽制の意味で青い魔光弾を放ち続けるが、もうその距離は百メールほどにまで迫っている。

「……当たった! でも……向こうも魔力結界張ってる!」

 距離が縮まったことでようやく彼女の魔光弾が当たり始めるが、黒い全身鎧に蜂の巣状の光が現れ、拡散されてしまう。
 ミクは咄嗟に馬の方を狙うが、そこにも魔力結界特有の模様が現れた。

「そんな……まるで効いてない……」

「威力が足りないか……仕方が無い、引きつけてロッドの爆撃魔法に切り替えろ!」

 アクトが叫ぶ。
 ミクも、このままでは充魔石の魔力が持たないと考え、『ロッド・オブ・レクサシズハイブリッド +5』に持ち替えて爆撃魔法発動の準備をする。
 ……と、そのとき、ゴーグルが警告音を発した。
 闇の騎士から強力な魔力反応が発せられているのだ。
 次の瞬間、相手の槍の先から、赤い閃光が放たれてこちらに迫る。

「うそっ……爆撃(エイスティック・クラッシュ)よっ! 逃げてっ!」

 ミクが着弾予想点から飛び退き、その盾になるようにライナスが覆い被さる。
 やや距離があり、反対方向にいたアクトは逆側に飛ぶ。
 一瞬遅れて、強烈な爆風と熱波が三人を襲った。
 ライナスは数メール、体が浮き上がルのを感じたが、空中でミクを守るようにして地面に落ち、そして転がった。

 意外なほど痛みはない……新調したばかりの『ハーフプレートアーマー +3 (クリューガ・カラエフモデル)』が魔力結果を展開、ダメージを吸収したからだ。

 しかし、目安となる肘の内側の魔石を見ると、今の一撃でごっそり魔力を消費しているのが分かった。
 ライナスより防御力の高い装備のミクも無傷だったが、今まで実戦で魔力結界を展開するようなことは無かったようで、青ざめていた。

「……この距離で、正確に私たちを狙って、高威力……私のロッドと同等以上の爆撃魔法よ、しかもあんな重装備で、私の魔法弾をはじき返して……」

「ああ、イカレた奴だ……あの爆撃で、手下のワーウルフごと吹き飛ばしやがった……おかげで奴だけに集中できるが……」

 アクトが自嘲気味にそう呟く。

「えっと……逃げることはできないですよね?」

 ライナスのこの発言は、ミクを気遣っての言葉だったが、彼女は首を横に振った。

「無理よ……私たちは徒歩で向こうは重装備とはいえ、馬に乗っている……アクト兄さんもそうよね?」

「ああ、深夜だからな。馬は村に預けてきた……この状況じゃあ、誰か一人が引きつけるというのも無理だな……」

 暗闇の状況、敵の姿が見えているのはゴーグルの性能によるものだ。本来、馬で走れるような状況ではない……敵が乗る、『闇の魔獣』ならば別だが。
 そしてその闇の馬に乗る黒い騎士が、やや速度を上げてこちらに迫ってきていた。

「……ミク、爆撃魔法の応酬で倒せると思うか?」

「ううん……あれだけの魔石を持っているんだもの、魔力量も威力も到底及ばないよ」

「そうか……俺の『聖光魔法』も、あの全身鎧が邪魔で届かないだろうな……」

 そう話す二人だったが、なぜか絶望ではなく、苦笑いを浮かべていることに、ずっと絶望的な思いであるライナスは、違和感を覚えた。

「……どっちが呼ぶ?」

「もちろん、婚約者のアクト兄さんが呼んで」

「……残念ながら『元』だけどな……」

「諦めてないんでしょ?」

 ミクの言葉に、アクトは、ふっと笑って、右手を高々と掲げた。

「今、我が掲げし護符の契約により、馳せ参じよ! シルバーデーヴィー!」

 ――刹那、彼の右手首部分から真っ赤な光が溢れ、辺りを一瞬照らした。
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