37 / 42
闇の騎士
しおりを挟む
ゴーグル『黒梟』越しに見える、驚くほど強力な光を放つ魔石。
離れていても分かる、圧倒的に感じられる禍々しいオーラ。
アクトから語られた、「高度な知性を有する人間型のアンデッドモンスター、もしくは、上位の悪魔」という言葉。
「……あれが、ひょっとしてミクが前から言っていた、ヴェルサーガっていう敵ですか?」
ライナスがそう確認する。
「いや……ヴェルサーガが鎧を着ていたということは過去にないはずだ……それに、もしそうならばもっと強力な邪気を放っているだろう。かといって、迫ってくる奴が貧弱というわけではない。負のオーラもすさまじいものがある……おそらくは、ヴェルサーガが創り出した最強の妖魔の一体だ。気をつけろ、あの鎧の個体だけでなく、馬の方も強力だぞ」
アクトが、剣を握りしめながらそう話す。
「……まだ距離があるけど、私なら狙える……先に攻撃加えても良いかな?」
ミクが言葉を発する間に、迫ってくる漆黒の鎧を纏った妖魔は、右手に持っていた長い槍を構えた。
「そうだな、明らかに敵対的だ……躊躇せず、全力で放て!」
「うんっ! 魔光弾っ!」
ミクの肩口の『ツイン・カノン・ギミック』から、連続して青い光が放たれる。
しかしそれらは、瞬時に馬ごと数メール横に移動した闇の騎士には当たらない。
「……早い……あの魔獣達も避けてたけど、全く違う……予備動作がないままスライドするように避けるなんて……」
彼女が驚きの顔でそう呟いた。
しかしその直後、闇の騎士が槍を上に突き上げた瞬間、別の異変が起き、何倍もの恐怖を味わうことになった。
「……警戒しろっ! ワーウフルたちが起き上がるぞっ!」
アクトの言葉は、最初ミクとライナスの二人には理解できなかった。
しかし、先ほど倒したはずの魔獣達が、胴体に大穴が開いている者達までも含めて立ち上がり、爪を伸ばして三人に一斉に襲いかかってきた。
「くっ……なんで……」
ライナスが、またミクの左側の防御を受け持つ。
先ほどまでと違って力も弱く、速度も遅いものの、切りつけたり、突き刺したりしても、まるっきり痛みを感じないように襲いかかってくる。
「ライ、首をはねろ! そうすれば視界を失って動きがより鈍くなる。もしくは、縦に両断しろ! 立ち上がれなくなる!」
アクトからアドバイスを受けたライナスが、その言葉通り実践しようとするが、相手は数が多く、死に物狂いどころか、死んでいるのに突っ込んでくるので、剣でがむしゃらに切り刻み、それ以上ミクに近寄らせないので精一杯だ。
それに対して、アクトの方はアンデッドに有効な『聖なる光』の力が絶大で、切りつけるとその部分が溶けるように蒸発する。
さらに、「聖光の矢」でミドルレンジの魔法攻撃も可能。それらで「死骸の群れ」をそれ以上近づけさせない。
しかし、闇の騎士はその間も悠然と迫ってくる。
なんとかミクが、牽制の意味で青い魔光弾を放ち続けるが、もうその距離は百メールほどにまで迫っている。
「……当たった! でも……向こうも魔力結界張ってる!」
距離が縮まったことでようやく彼女の魔光弾が当たり始めるが、黒い全身鎧に蜂の巣状の光が現れ、拡散されてしまう。
ミクは咄嗟に馬の方を狙うが、そこにも魔力結界特有の模様が現れた。
「そんな……まるで効いてない……」
「威力が足りないか……仕方が無い、引きつけてロッドの爆撃魔法に切り替えろ!」
アクトが叫ぶ。
ミクも、このままでは充魔石の魔力が持たないと考え、『ロッド・オブ・レクサシズハイブリッド +5』に持ち替えて爆撃魔法発動の準備をする。
……と、そのとき、ゴーグルが警告音を発した。
闇の騎士から強力な魔力反応が発せられているのだ。
次の瞬間、相手の槍の先から、赤い閃光が放たれてこちらに迫る。
「うそっ……爆撃(エイスティック・クラッシュ)よっ! 逃げてっ!」
ミクが着弾予想点から飛び退き、その盾になるようにライナスが覆い被さる。
やや距離があり、反対方向にいたアクトは逆側に飛ぶ。
一瞬遅れて、強烈な爆風と熱波が三人を襲った。
ライナスは数メール、体が浮き上がルのを感じたが、空中でミクを守るようにして地面に落ち、そして転がった。
意外なほど痛みはない……新調したばかりの『ハーフプレートアーマー +3 (クリューガ・カラエフモデル)』が魔力結果を展開、ダメージを吸収したからだ。
しかし、目安となる肘の内側の魔石を見ると、今の一撃でごっそり魔力を消費しているのが分かった。
ライナスより防御力の高い装備のミクも無傷だったが、今まで実戦で魔力結界を展開するようなことは無かったようで、青ざめていた。
「……この距離で、正確に私たちを狙って、高威力……私のロッドと同等以上の爆撃魔法よ、しかもあんな重装備で、私の魔法弾をはじき返して……」
「ああ、イカレた奴だ……あの爆撃で、手下のワーウルフごと吹き飛ばしやがった……おかげで奴だけに集中できるが……」
アクトが自嘲気味にそう呟く。
「えっと……逃げることはできないですよね?」
ライナスのこの発言は、ミクを気遣っての言葉だったが、彼女は首を横に振った。
「無理よ……私たちは徒歩で向こうは重装備とはいえ、馬に乗っている……アクト兄さんもそうよね?」
「ああ、深夜だからな。馬は村に預けてきた……この状況じゃあ、誰か一人が引きつけるというのも無理だな……」
暗闇の状況、敵の姿が見えているのはゴーグルの性能によるものだ。本来、馬で走れるような状況ではない……敵が乗る、『闇の魔獣』ならば別だが。
そしてその闇の馬に乗る黒い騎士が、やや速度を上げてこちらに迫ってきていた。
「……ミク、爆撃魔法の応酬で倒せると思うか?」
「ううん……あれだけの魔石を持っているんだもの、魔力量も威力も到底及ばないよ」
「そうか……俺の『聖光魔法』も、あの全身鎧が邪魔で届かないだろうな……」
そう話す二人だったが、なぜか絶望ではなく、苦笑いを浮かべていることに、ずっと絶望的な思いであるライナスは、違和感を覚えた。
「……どっちが呼ぶ?」
「もちろん、婚約者のアクト兄さんが呼んで」
「……残念ながら『元』だけどな……」
「諦めてないんでしょ?」
ミクの言葉に、アクトは、ふっと笑って、右手を高々と掲げた。
「今、我が掲げし護符の契約により、馳せ参じよ! シルバーデーヴィー!」
――刹那、彼の右手首部分から真っ赤な光が溢れ、辺りを一瞬照らした。
離れていても分かる、圧倒的に感じられる禍々しいオーラ。
アクトから語られた、「高度な知性を有する人間型のアンデッドモンスター、もしくは、上位の悪魔」という言葉。
「……あれが、ひょっとしてミクが前から言っていた、ヴェルサーガっていう敵ですか?」
ライナスがそう確認する。
「いや……ヴェルサーガが鎧を着ていたということは過去にないはずだ……それに、もしそうならばもっと強力な邪気を放っているだろう。かといって、迫ってくる奴が貧弱というわけではない。負のオーラもすさまじいものがある……おそらくは、ヴェルサーガが創り出した最強の妖魔の一体だ。気をつけろ、あの鎧の個体だけでなく、馬の方も強力だぞ」
アクトが、剣を握りしめながらそう話す。
「……まだ距離があるけど、私なら狙える……先に攻撃加えても良いかな?」
ミクが言葉を発する間に、迫ってくる漆黒の鎧を纏った妖魔は、右手に持っていた長い槍を構えた。
「そうだな、明らかに敵対的だ……躊躇せず、全力で放て!」
「うんっ! 魔光弾っ!」
ミクの肩口の『ツイン・カノン・ギミック』から、連続して青い光が放たれる。
しかしそれらは、瞬時に馬ごと数メール横に移動した闇の騎士には当たらない。
「……早い……あの魔獣達も避けてたけど、全く違う……予備動作がないままスライドするように避けるなんて……」
彼女が驚きの顔でそう呟いた。
しかしその直後、闇の騎士が槍を上に突き上げた瞬間、別の異変が起き、何倍もの恐怖を味わうことになった。
「……警戒しろっ! ワーウフルたちが起き上がるぞっ!」
アクトの言葉は、最初ミクとライナスの二人には理解できなかった。
しかし、先ほど倒したはずの魔獣達が、胴体に大穴が開いている者達までも含めて立ち上がり、爪を伸ばして三人に一斉に襲いかかってきた。
「くっ……なんで……」
ライナスが、またミクの左側の防御を受け持つ。
先ほどまでと違って力も弱く、速度も遅いものの、切りつけたり、突き刺したりしても、まるっきり痛みを感じないように襲いかかってくる。
「ライ、首をはねろ! そうすれば視界を失って動きがより鈍くなる。もしくは、縦に両断しろ! 立ち上がれなくなる!」
アクトからアドバイスを受けたライナスが、その言葉通り実践しようとするが、相手は数が多く、死に物狂いどころか、死んでいるのに突っ込んでくるので、剣でがむしゃらに切り刻み、それ以上ミクに近寄らせないので精一杯だ。
それに対して、アクトの方はアンデッドに有効な『聖なる光』の力が絶大で、切りつけるとその部分が溶けるように蒸発する。
さらに、「聖光の矢」でミドルレンジの魔法攻撃も可能。それらで「死骸の群れ」をそれ以上近づけさせない。
しかし、闇の騎士はその間も悠然と迫ってくる。
なんとかミクが、牽制の意味で青い魔光弾を放ち続けるが、もうその距離は百メールほどにまで迫っている。
「……当たった! でも……向こうも魔力結界張ってる!」
距離が縮まったことでようやく彼女の魔光弾が当たり始めるが、黒い全身鎧に蜂の巣状の光が現れ、拡散されてしまう。
ミクは咄嗟に馬の方を狙うが、そこにも魔力結界特有の模様が現れた。
「そんな……まるで効いてない……」
「威力が足りないか……仕方が無い、引きつけてロッドの爆撃魔法に切り替えろ!」
アクトが叫ぶ。
ミクも、このままでは充魔石の魔力が持たないと考え、『ロッド・オブ・レクサシズハイブリッド +5』に持ち替えて爆撃魔法発動の準備をする。
……と、そのとき、ゴーグルが警告音を発した。
闇の騎士から強力な魔力反応が発せられているのだ。
次の瞬間、相手の槍の先から、赤い閃光が放たれてこちらに迫る。
「うそっ……爆撃(エイスティック・クラッシュ)よっ! 逃げてっ!」
ミクが着弾予想点から飛び退き、その盾になるようにライナスが覆い被さる。
やや距離があり、反対方向にいたアクトは逆側に飛ぶ。
一瞬遅れて、強烈な爆風と熱波が三人を襲った。
ライナスは数メール、体が浮き上がルのを感じたが、空中でミクを守るようにして地面に落ち、そして転がった。
意外なほど痛みはない……新調したばかりの『ハーフプレートアーマー +3 (クリューガ・カラエフモデル)』が魔力結果を展開、ダメージを吸収したからだ。
しかし、目安となる肘の内側の魔石を見ると、今の一撃でごっそり魔力を消費しているのが分かった。
ライナスより防御力の高い装備のミクも無傷だったが、今まで実戦で魔力結界を展開するようなことは無かったようで、青ざめていた。
「……この距離で、正確に私たちを狙って、高威力……私のロッドと同等以上の爆撃魔法よ、しかもあんな重装備で、私の魔法弾をはじき返して……」
「ああ、イカレた奴だ……あの爆撃で、手下のワーウルフごと吹き飛ばしやがった……おかげで奴だけに集中できるが……」
アクトが自嘲気味にそう呟く。
「えっと……逃げることはできないですよね?」
ライナスのこの発言は、ミクを気遣っての言葉だったが、彼女は首を横に振った。
「無理よ……私たちは徒歩で向こうは重装備とはいえ、馬に乗っている……アクト兄さんもそうよね?」
「ああ、深夜だからな。馬は村に預けてきた……この状況じゃあ、誰か一人が引きつけるというのも無理だな……」
暗闇の状況、敵の姿が見えているのはゴーグルの性能によるものだ。本来、馬で走れるような状況ではない……敵が乗る、『闇の魔獣』ならば別だが。
そしてその闇の馬に乗る黒い騎士が、やや速度を上げてこちらに迫ってきていた。
「……ミク、爆撃魔法の応酬で倒せると思うか?」
「ううん……あれだけの魔石を持っているんだもの、魔力量も威力も到底及ばないよ」
「そうか……俺の『聖光魔法』も、あの全身鎧が邪魔で届かないだろうな……」
そう話す二人だったが、なぜか絶望ではなく、苦笑いを浮かべていることに、ずっと絶望的な思いであるライナスは、違和感を覚えた。
「……どっちが呼ぶ?」
「もちろん、婚約者のアクト兄さんが呼んで」
「……残念ながら『元』だけどな……」
「諦めてないんでしょ?」
ミクの言葉に、アクトは、ふっと笑って、右手を高々と掲げた。
「今、我が掲げし護符の契約により、馳せ参じよ! シルバーデーヴィー!」
――刹那、彼の右手首部分から真っ赤な光が溢れ、辺りを一瞬照らした。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる