魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール

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ワーウルフ

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 その後、過剰だろうとは思いつつ盗賊の罠を警戒しながら進んだため、当初予定よりもムアールの村に着くのが遅くなってしまった。

 日は大分傾いていたが、馬を休ませたり、自分たちも食事や休憩を取ったりしているうちに、夕刻になってしまった。
 幸いにも、村の人たちはトロール討伐にやってきたライナス達を歓迎し、その村でできる限りの豪華な食事を提供するなど、盛大にもてなしてくれた。

 周囲も暗くなってきたので、この日は宿を取り、トロール討伐は翌日に持ち越そうかと相談していたのだが、村人達の話では、トロールが徘徊するのはむしろ夜間の方が多いのだという。
 村は高い壁で厳重に囲まれており、夜間は門番が丈夫な閂で門を閉じるので、トロールが村の中に入ってくることはないのだが、外で放牧している牛や馬が犠牲になって、大損害が出ているという。

 また、行方不明になった村人も、十人近くに上る。
 魔物の姿を見て、一目散に逃げてきた男性の話によると、身長が三メールもある巨体で、走るのも速く、一緒に村へ逃げ帰ろうとした仲間が捕まったのだという……おそらく貪り食われただろう、と震えながら証言してくれた。

「走るのが速い、か……動きが遅いトロールと言っても、『魔物の中では』っていう前置きが必要だからね。普通の人間なら、追いつかれても不思議じゃあない……トロールも人間も、個体差はあるけど」

 ライナスは、そう解釈した。 
 例えば、たまたま足の速いトロールの個体が、老人のように足の遅い人間を追いかけたなら、容易に捕まってしまうだろう。
 さらに、身長三メール、というのは、トロールにしても巨大な方だ。
 多少は目撃者の誇張も入っているかもしれないが、そんな巨人に追いかけられたのなら、トラウマ以外の何物でも無いだろう。

 また、それだけの大物ならば、怪力にも注意せねばならない。
 鎧や兜の魔力結界は、斬撃や刺突といった瞬間的、限定的な負荷には強いが、強力な力で長時間圧迫され続けるような負荷だと、あっという間に充魔石の魔力を消費してしまう。

 とはいえ、ここまでの話を総合すると、ミクの中・遠距離攻撃能力、接近されたとしても新調したライナスの装備により、そこまで苦戦する相手ではないだろうと考えていた。
 そのため、今日にでも討伐に出て欲しい、という住民達の要望を、安易に聞いてしまった。

 本音を言えばもう少し休みたかったが、ミクのハンターとしてのレベルを急いで上げるためにも、早めに討伐して損はなかった。
 また、「黒梟」や「黒鷹」といったゴーグルも改良しており、ランタンの光がなくとも、夜間でも周囲が見渡せるほど視界が良好になっている。
 さすがに夜は馬を使うのは諦め、徒歩で「以前、トロールに襲われた」という村はずれの牧場に向かうことにした。

 歩いて約、一時間。
 山間部と言うこともあり、あたりはすっかり暗くなってしまったが、ゴーグルの性能もあり、視界は良好だ。

 しかし、だからこそ、牧場の惨状がはっきりと見て取れた。
 牛や馬の骨が散乱し、頭部がそのまま残っているものもある。
 建物は、あちこち大きな力によって壊されている。
 また、所々に鋭い四本の切り傷のようなものがあったのが気になった。

「……これ、なんだろう……トロールはあんまり頭が良くないから、棍棒の類いの武器以外は使わないと思うけど……」

 ライナスが疑問を述べる。

「そうね……アレじゃないかな? 牧場の人が、藁をすくうのに使う、大きなフォークみたいなやつ」

「ああ、なるほど……それを拾って武器にして、振り回した……あり得るなあ。でも、だったら鉄製だろうから、力が強いトロールが使うなら、ちょっと気をつけないと……」

 と、それほど悲観的には考えていなかった。
 そのとき、ゴーグルから警戒を促すアラームが響いた。
 これも新しく備えた機能で、その音の種類によって警戒すべき内容が分かる。今回のものは、魔物が近づいていることを示すものだった。

 慌てて周囲を警戒する。
 すると、二百メールほど離れた森の中から、巨大な影が一つ、こちらに向かって接近しているのが分かった。

「魔物……それも、かなり強い魔石を持ってる! 早い……大きい……トロールじゃないっ!」

「なんだ、あれ……まるで二本足で走る巨大なオオカミ……」

「ワーウルフっ! それもあんなに大きい……多分、上位種。トロールなんかよりずっと危険な敵よっ!」

 ミクが、即座に「ラムダ!」と唱え、青い鎧を瞬時に装備する。そして即、、『ツイン・カノン・ギミック』を発動させた。

 発見が早かったこともあり、ミクは焦ることなく、余裕を持って狙いを定める。
 そして肩口の二本の柄から、青い光を数発、射出した。

「……うそ……避けられたっ!」

 弓矢よりも早いその光弾を、ワーウルフは避けながら、さらに接近してくる。
 魔物の二本の腕からは、ダガーナイフほどもの鋭く、長い爪が生えており、月光を反射して煌めいている。
 その距離は、もう百メールほどに迫っていた。

「この……これでも喰らいなさいっ!」

 ミクはさらに、ヤケになったように青い光を連射した。

「やった、当たった!」

 そのうちの一発がワーウルフの右肩口、もう一発が左足の太もも付近をかすめるように穿ち、魔物は倒れた。
 二人が安堵したのも束の間、ワーウルフはのっそりと起き上がり、百メール離れたライナス達でも耳を塞ぎたくなるほど大きな遠吠えを響かせた。
 そして目をギラギラとさせながら、足を引きずりながらなおも迫ってきた。

 ライナスは冷静に見ていたが、あまり実際の戦闘経験が無いであろうミクは、青ざめながらなおも青い魔光弾を打ち続けた。
 一発、二発と脇腹や頬をかすめるが、それでも進行を止めない。
 五十メールほどに迫ったところで、ついに左腕に命中し、肘から先を吹き飛ばした。
 それでもワーウルフは、血を滴らせながら前進を止めなかった。

 だが、さすがに動きの鈍ったワーウルフはミクの連弾を避けることができず、胸部と胴体に光弾をまともに受け、鮮血を派手に噴出させてその場に倒れた。

「……倒した、よね?」

「ああ、青い光は貫通してた。死んでる……と思う。確かめてくるよ」

 万が一、生きていたとしたら、確かめに行ったときに起き上がって襲いかかってくる恐れがある。
 その場合、接近戦に強いライナスが対応した方がいい……そう思って、彼が歩き始めたそのときだった。
 先ほどのワーウルフの咆吼に呼応するかのように、森のあちこちから、同種の遠吠えが聞こえてきた。

「そんな……この森に、どれだけワーウルフ、居るの?」

 ミクも、流石に顔色が悪い。

「……僕たちは、いくつか勘違いをしていたんだ……依頼も間違っていたけど……討伐の対象はトロールじゃなくて、より危険なワーウルフ、しかも上位種だった。それに、一匹じゃなかった……なんでそんなに危険な魔物が、何匹も発生したんだろう?」

「わからないわ……ゴブリンなんかは、突如として何千って言う群れが発生することがあるって聞いた気はするけど……えっ、待って!」

 突然の警報音追加に、ミクもライナスも驚く。

「3……5……8……森の中からの反応数がどんどん数が増えている……」

 ミクが唇を震わせながら話す。

「……一匹でもあんなにしぶとかったのに、群れで……しかも、こっちに向かっている……」

 ライナスは、反応が15以上になったところで数えるのを諦め、兜を装備し直し、口元の金具を閉め、そして背中から
『ツーハンデッドソード +3 (クリューガ・カラエフモデル)』
 を引き抜いた。

 ミクも、中距離戦闘用に、腰の
『ロッド・オブ・レクサシズハイブリッド +5』
 を抜いて、前方に構えた。

「……来たっ!」

 森の中から、先ほどの上位ワーウルフと同等か、それ以上の大きさの魔物の群れが飛び出し、一斉に向かってきた。

「魔光弾っ!」

 ミクはそれらの敵に向かって、手当たり次第に『ツイン・カノン・ギミック』の連射を始めた。
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