33 / 42
待ち伏せ
しおりを挟む
「待ち伏せ? どういうこと?」
「昨日、私たちがトロール討伐の依頼を受けたでしょう? それを見ていたんじゃないかな。そしたら、この林道を通るっていうのは分かるから、待っていて襲いかかるつもりなんじゃないかしら?」
「えっ……だったら、盗賊じゃないか!」
ライナスが驚きをあらわにする。
「まあ、そうとは言い切れないし、単に私たちの後から付いてきて、私たちが依頼を失敗したり、取りこぼしたりするのを狙っているだけかもしれないけど……でも、ああやって隠れている時点で、一緒に魔物と戦いましょうっていう友好的な人たちじゃないと思うよ」
「それはそうだろうけど……そうだとしたら、なんで僕たちみたいな駆け出しの冒険者を狙うんだろうか?」
「その駆け出しの冒険者が、最低でも二千万ウェンはする、『クリューガ・カラエフモデル』を装備して、たった二人で人気の少ないこの林道を来る……盗賊にとっては絶好の標的だと思わない?」
「なるほど……そんなことまで考えていたのか……僕はまだまだだな……」
ミクの、想像以上に実践的な判断に、自分の未熟さを思い知る。
「あははっ、実は私も、少しもそんなこと考えていなかったの。でも、昨日姉さんにその日の出来事を話したら、それ、かなり高い確率で狙われるから注意しなさいって言われてたの。そうでなかったら、私もこれ……ライ君のそれより一つランクの高い『黒鷹』だけど、『両探知』モードにしてなかったよ」
自分のゴーグルを指さしながら、ミクはそう笑っていた。
「……でも、どうするべきか。こちらが気づいたのは良かったけど、馬を止めたから、向こうも気づいたことに気づいたはずだ。本当に盗賊なら、退治するべきだろうけど、数なら向こうの方が多そうだ」
騎士にとって、盗賊は倒すべき悪だが、まだそうだと決まった訳ではない。
また、ライナスが最新の装備に更新したとはいえ、前に一緒に居たグリントパーティーほどの実力者と人数が揃っていれば、まず勝つことは無理だ。
「そうね……私がフル装備になって、この距離から一方的に遠距離攻撃するっていう方法もあるけど、下手すると私たちの方が強盗と認識されかねないしね……例えば、隠れているのだって、『背後から馬に乗って追いかけてきたから、怖くなってそうしていた』って言われたら反論できないし」
イフカの街から外に出れば、そこは事実上の無法地帯だ。
強者が弱者を襲い、その装備や金品を奪い取ったり、いざこざで殺し合いに発展することもあるという。
とはいえ、しっかり武装した者同士が戦うと、襲った方も反撃を受けるために割に合わないことが多く、それほど頻度が多いわけではないと聞いている。
今回は、諸々の条件が揃い、標的になった可能性があるわけだが、下手にこちらから手を出して、実は勘違いでした、というのももちろん良くない。
「それもそうだな……でも、こちらが気づいてしまったんだ。向こうが盗賊だったとしても、不意打ちに失敗しているわけだし……ミク、君も武装して、警戒しながら交渉してみようか? いや、迂闊に近づいて、取り囲まれると面倒か」
「そうね……だったら、こちらに手を出したら、そちらも痛い目に遭いますよ、ということを知らせてみよっか?」
ミクはそう言うと、ちょっと嬉しそうに馬から降りた。
そしてロッドを取り出して、林道からやや離れた位置にそそり立つ巨木に向けた。
「爆撃(エイスティック・クラッシュ)!」
一瞬、赤い閃光が放たれて大木に着弾。
爆発音が轟き、大木は根元付近から吹き飛んで、後方に地響きを立てて倒れた。
ライナスは、相変わらずすさまじい魔法攻撃力にしばし呆然としたが、ミクに指をさされて、慌ててその方向を確認する。
すると、魔石を埋め込んだアイテムを持って隠れていた盗賊容疑者達が姿を現し、慌てて林の奥に逃げて行くのが見えた。
「……盗賊か、様子を見ていただけの冒険者かは分からないけど、どっちにせよ逃げて行ってくれたなら良かったね」
ミクは笑顔でそう話し、ライナスも頷く。
しかし、自分は何もしていないだけに、やや微妙な表情となってしまった。
思わぬトラブルで時間を取ってしまったが、移動を再開する。
しかし、ライナスはどうも嫌な予感がして、盗賊容疑者が居たあたりまで、速度をそれほど上げず馬の歩を進めた。
――一瞬、すぐ前方に何かが煌めいたような気がして、馬を急停止させた。
ミクがライナスに軽くぶつかるが、魔力の籠もったインナーによる保護のおかげでダメージはない。
それでも驚いたのは確かで、
「どうしたの、ライ君!?」
と声をかけた。
それに返事をする代わりに、彼は彼女を残して馬を下りた。
そしてすぐ目の前、高さ0.5メールほどに張られていた細い金属ワイヤーを指さした。
「これ、見えるかい?」
「……見える! なに、これ……罠?」
「ああ……単純だけど、多分、馬を引っかけて転ばすためのものだろう。この左右の木にくくりつけて張っていたんだ。これに速度を上げた状態で突っ込んでいたら、転倒は間違いないし、下手をすれば馬の足は切断されていたかもしれない。そこを襲いかかってくるつもりだったんだろう……やっぱり、間違いなく奴らは盗賊だったんだ!」
ライナスが声を上げて怒りをあらわにする。
それに対して、ミクは青くなっていた。
「まさか……こんな単純な仕掛けがあるなんて……魔石も込められていなかったから、わからなかった。私一人だったら間違いなく馬と一緒に転倒してた。せっかくの鎧も纏うことなく襲われたら、インナーだけじゃ危なかったかも……姉さんが、一人じゃ危なすぎるって言ったの、分かった気がする……本当にありがと、ライ君!」
ミクは、そう言ってライナスの右手を両手で握った。
手袋越しだったが、ミクの優しい両手の感触が伝わってきた。
ちょっとしたことだったが、自分が彼女の役に立ち、守れたことを、嬉しく思った。
「昨日、私たちがトロール討伐の依頼を受けたでしょう? それを見ていたんじゃないかな。そしたら、この林道を通るっていうのは分かるから、待っていて襲いかかるつもりなんじゃないかしら?」
「えっ……だったら、盗賊じゃないか!」
ライナスが驚きをあらわにする。
「まあ、そうとは言い切れないし、単に私たちの後から付いてきて、私たちが依頼を失敗したり、取りこぼしたりするのを狙っているだけかもしれないけど……でも、ああやって隠れている時点で、一緒に魔物と戦いましょうっていう友好的な人たちじゃないと思うよ」
「それはそうだろうけど……そうだとしたら、なんで僕たちみたいな駆け出しの冒険者を狙うんだろうか?」
「その駆け出しの冒険者が、最低でも二千万ウェンはする、『クリューガ・カラエフモデル』を装備して、たった二人で人気の少ないこの林道を来る……盗賊にとっては絶好の標的だと思わない?」
「なるほど……そんなことまで考えていたのか……僕はまだまだだな……」
ミクの、想像以上に実践的な判断に、自分の未熟さを思い知る。
「あははっ、実は私も、少しもそんなこと考えていなかったの。でも、昨日姉さんにその日の出来事を話したら、それ、かなり高い確率で狙われるから注意しなさいって言われてたの。そうでなかったら、私もこれ……ライ君のそれより一つランクの高い『黒鷹』だけど、『両探知』モードにしてなかったよ」
自分のゴーグルを指さしながら、ミクはそう笑っていた。
「……でも、どうするべきか。こちらが気づいたのは良かったけど、馬を止めたから、向こうも気づいたことに気づいたはずだ。本当に盗賊なら、退治するべきだろうけど、数なら向こうの方が多そうだ」
騎士にとって、盗賊は倒すべき悪だが、まだそうだと決まった訳ではない。
また、ライナスが最新の装備に更新したとはいえ、前に一緒に居たグリントパーティーほどの実力者と人数が揃っていれば、まず勝つことは無理だ。
「そうね……私がフル装備になって、この距離から一方的に遠距離攻撃するっていう方法もあるけど、下手すると私たちの方が強盗と認識されかねないしね……例えば、隠れているのだって、『背後から馬に乗って追いかけてきたから、怖くなってそうしていた』って言われたら反論できないし」
イフカの街から外に出れば、そこは事実上の無法地帯だ。
強者が弱者を襲い、その装備や金品を奪い取ったり、いざこざで殺し合いに発展することもあるという。
とはいえ、しっかり武装した者同士が戦うと、襲った方も反撃を受けるために割に合わないことが多く、それほど頻度が多いわけではないと聞いている。
今回は、諸々の条件が揃い、標的になった可能性があるわけだが、下手にこちらから手を出して、実は勘違いでした、というのももちろん良くない。
「それもそうだな……でも、こちらが気づいてしまったんだ。向こうが盗賊だったとしても、不意打ちに失敗しているわけだし……ミク、君も武装して、警戒しながら交渉してみようか? いや、迂闊に近づいて、取り囲まれると面倒か」
「そうね……だったら、こちらに手を出したら、そちらも痛い目に遭いますよ、ということを知らせてみよっか?」
ミクはそう言うと、ちょっと嬉しそうに馬から降りた。
そしてロッドを取り出して、林道からやや離れた位置にそそり立つ巨木に向けた。
「爆撃(エイスティック・クラッシュ)!」
一瞬、赤い閃光が放たれて大木に着弾。
爆発音が轟き、大木は根元付近から吹き飛んで、後方に地響きを立てて倒れた。
ライナスは、相変わらずすさまじい魔法攻撃力にしばし呆然としたが、ミクに指をさされて、慌ててその方向を確認する。
すると、魔石を埋め込んだアイテムを持って隠れていた盗賊容疑者達が姿を現し、慌てて林の奥に逃げて行くのが見えた。
「……盗賊か、様子を見ていただけの冒険者かは分からないけど、どっちにせよ逃げて行ってくれたなら良かったね」
ミクは笑顔でそう話し、ライナスも頷く。
しかし、自分は何もしていないだけに、やや微妙な表情となってしまった。
思わぬトラブルで時間を取ってしまったが、移動を再開する。
しかし、ライナスはどうも嫌な予感がして、盗賊容疑者が居たあたりまで、速度をそれほど上げず馬の歩を進めた。
――一瞬、すぐ前方に何かが煌めいたような気がして、馬を急停止させた。
ミクがライナスに軽くぶつかるが、魔力の籠もったインナーによる保護のおかげでダメージはない。
それでも驚いたのは確かで、
「どうしたの、ライ君!?」
と声をかけた。
それに返事をする代わりに、彼は彼女を残して馬を下りた。
そしてすぐ目の前、高さ0.5メールほどに張られていた細い金属ワイヤーを指さした。
「これ、見えるかい?」
「……見える! なに、これ……罠?」
「ああ……単純だけど、多分、馬を引っかけて転ばすためのものだろう。この左右の木にくくりつけて張っていたんだ。これに速度を上げた状態で突っ込んでいたら、転倒は間違いないし、下手をすれば馬の足は切断されていたかもしれない。そこを襲いかかってくるつもりだったんだろう……やっぱり、間違いなく奴らは盗賊だったんだ!」
ライナスが声を上げて怒りをあらわにする。
それに対して、ミクは青くなっていた。
「まさか……こんな単純な仕掛けがあるなんて……魔石も込められていなかったから、わからなかった。私一人だったら間違いなく馬と一緒に転倒してた。せっかくの鎧も纏うことなく襲われたら、インナーだけじゃ危なかったかも……姉さんが、一人じゃ危なすぎるって言ったの、分かった気がする……本当にありがと、ライ君!」
ミクは、そう言ってライナスの右手を両手で握った。
手袋越しだったが、ミクの優しい両手の感触が伝わってきた。
ちょっとしたことだったが、自分が彼女の役に立ち、守れたことを、嬉しく思った。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~
ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。
いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。
テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。
そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。
『強制フラグを、立てますか?』
その言葉自体を知らないわけじゃない。
だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ?
聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。
混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。
しかも、ちょっとだけ違うセリフで。
『強制フラグを立てますよ? いいですね?』
その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。
「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」
今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。
結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。
『強制フラグを立てました』
その声と、ほぼ同時に。
高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、
女子高生と禁断の恋愛?
しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。
いやいや。俺、そんなセリフ言わないし!
甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって!
俺のイメージが崩れる一方なんだけど!
……でも、この娘、いい子なんだよな。
っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか?
「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」
このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい?
誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる