魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール

文字の大きさ
上 下
22 / 42

ミクの誘い

しおりを挟む
 巨大スライムが守っていた扉の奥に眠っていたのは、大量の古代金貨や純金の装飾品だった。
 パーティーメンバーは、魔力反応がなかったのであまり期待していなかったのだが、想像以上の宝物が見つかり歓喜した。

 これ以上、強力な魔物は出現しないと判断したディーヴァは、時空間移動魔法を駆使して帰っていった。

 グリントの分析によれば、隠していた宝物が金だったからこそ、強酸を使用するグレータースライムがガーディアンとして置かれていたのではないか、とのことだった。

 金は「王水」と呼ばれる特別な酸以外には溶けない。
 仮に、盗賊が何らかの手段を用いてあのスライムを倒さずに突破して宝物にたどりついたとする。
 しかし帰りにスライムに捕まり、その体に宝物ごと取り込まれることがあるかもしれない。
 それでも金なら溶けずにその体内に残る……そういう理屈だったのかもしれない。

 また、突発的な戦闘や天変地異などで部屋を仕切る壁が崩れたとして、そこからグレータースライムが宝物を取り込んだ場合も、体内に残るのは同じだ。そういう想定もあったかもしれない、とのことだった。

 遺跡を出て、イフカの街に遺物を持ち帰り、取扱店で鑑定して貰った結果、古代金貨のプレミアもあり、総額一億ウェンを超える大金となった。
 これまでにかかった経費を差し引き、コルトの杖の損害を穴埋めしても、まだ八千万ウェン以上の利益が残った……パーティーにとって、今回の遠征は大成功だった。

 本来の契約であれば、ライナスに入ってくる収入は八百万ウェンだったが、ディーヴァを呼び出した経費で百万ウェン、さらにコルトが「スライムに取り込まれそうになった自分を助けてくれたお礼」として七百万ウェン、そしてグリントから、ダメになった鎧の補填も含めて、特別に二百万ウェンが支給されるという。

「今回の戦い、新入りのお前が予想以上に活躍してくれた上に、あの女剣士まで呼び出してくれたんだ。考え方によっちゃおまえが一番の功労者だ」

 とのことで、計千八百万ウェンという大金を手に入れた。
 ライナスは、貰いすぎだ、と一部断ろうとしたのだが、

「いや、あのディーヴァを呼び出せるお前と縁を持っておきたい。今回の活躍もすさまじかった……あの『伸びる刃』もそうだが、化け物の攻撃が一切通用しない防御力、触手を素手で引きちぎる腕力、そして一発であれを仕留めた雷撃系上級魔法……あれは本物の悪魔だ。あんなのを味方にすれば、これほど心強いことは無い」

 とのことで、半ば強引に受け取らされた。
 このまま正式にパーティーのメンバーに加わらないかと誘われたのだが、互いに次の攻略予定が決まっていないこともあり、一旦解散することとなった。

 ライナスは資金ができたことで、宿で一泊して休養を取った。
 ダメになった装備は外し、丈夫な防護服に着替え、そしてまずはイフカでの拠点となる「冒険者用長期宿泊施設」の部屋を借りて、荷物を仮預かり所からそちらに移した。
 その後、彼は他に生活に必要な家具や、普段用の衣類、食器などの雑貨を揃え、夕刻になってから「魔法堂 白銀の翼」へと向かった。

「いらっしゃいませーっ! ……あ、ライ君、来たっ! かなりのお宝、見つけたらしいね。いくらぐらい貰ったの?」

 出迎えたのは、ミクだった。

「えっと……一応、手元に残ったのは、千五百万ウェンぐらいかな?」

 実際より少し控えめに答えた。

「千五百万!? 凄い、一気にお金持ちねっ! ちょっと待って、姉さん、呼んでくるから!」

 ミクは、我が事のようにはしゃいで喜んでいた。
 しばらくして、姉妹が揃って店の奥から出てきた。

「……ライナス君、かなり報酬分けてもらえたみたいね」

 メルは少し眠そうに、しかし笑顔で彼に語りかける。
 どうしても、あのときのすさまじい攻撃力、防御力、魔法力をもっていたディーヴァと同一人物とは思えなかった。

「はい、まさかあんなに金が眠っていたなんて思っていなかったですし、それに『ディーヴァ』さんを呼び出したって言うことで、余計に報酬をもらえたんです」

 ライナスが周囲を見渡し、言葉を慎重に選びながらそう言葉にした。

「そう、良かったわね。じゃあ……お支払いは大丈夫かしら?」

「はい、えっと……前回の分と併せて、二百万ウェンですね?」

 ライナスはそう言って、金貨二十枚を差し出した。

「……はい、確かに! じゃあ、解呪しますね」

 メルはにっこりと微笑むと、店内に他の客がいないことを確認して、ライナスの右腕に触れた。
 その途端に、彼が今まで感じていた右腕の違和感が消えた。
 インナー「黒蜥蜴」の袖をまくってみると、肉片と融合し、一部埋もれていたそれが、細い銀の護符に戻っていた。

「本当だ……只の護符に戻った……」

「うふふっ、『只の』ではないわよ。今もまだ、『ディーヴァ』を呼び出す効果は残ったままだから」

「いえ……当分、これを使わないでいいように慎重に行動します」

 彼はそう言って、姉妹を笑わせた。
 これでもまだ、彼の資金は千三百万ウェン以上残っている。

 グレータースライムの酸で使い物にならなくなった鎧と、剣ももっと良いものに変えたいことを伝えると、その前に、まずブラックストレッチインナー+3、通称:『黒蜥蜴』の使用感をミクに聞かれた。

「ああ、凄く良かった。普通の鎧がすぐに溶けるぐらいの強酸を浴びたのに、魔力結界が張られて助かった。命拾いしたよ」

「へえ、酸にも効果あったんだ……まあ、『素材がダメージを受ける』状態を防ごうと結界が働くからね。一つ検証になった。ありがとうね! それに、ライ君にケガがなくて良かった!」

 ミクが本当に嬉しそうに満面の笑顔でそう語るのを見て、その可愛さに、ライナスの鼓動が少し高まる。

「えっと、ライ君が良ければ、『黒蜥蜴』はそのまま使ってもらうとして……剣と鎧も、新しくするのよね? 一千万以上の資金があるなら、一緒に武器と防具の工房に行かない? 知り合いの職人さんがいるの。結構、凄い人なんだから。その人が作る武器や防具は、普通は高級なアイテムショップでしか買えないけど、私と一緒に行ったら、ひょっとしたら直接安く売ってくれるかもしれないよ」

 ミクの言葉を聞いて、彼女がクリューガーブランドの主任技師だったことを思い出した。
 そして現在はメルと同じく、アイテムショップのオーナーをしている。そういう顔の広さを持っていても不思議ではないと考え、その誘いに乗ることにした。

「あ、でも、その人……カラエフさんっていうお爺さんなんだけど、結構頑固で……気に入った人でないと売ってくれないかも。それと、もしそれで武器と防具を良いものに変えることができたら、その……ちょっと、お願いしたいことがあるんだけど……」

 彼女はそう言うと、なぜか少し、顔を赤らめた。

「お願い? ……安く、良い武器、防具が手に入るなら、このインナーのお礼もあるし、大抵のことは協力するけど……」

 その言葉を聞いて、ミクは一度、姉であるメルの方を見て、頷きあった。
 そしてもう一度ライナスの目を見て、決意を込めた様子で口を開いた。

「……私と二人で、冒険に出てもらっていい?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...