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光の刃
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「……本当に呼び出しやがった……『ディーヴァ』を……」
グリントは……いや、ライナスを除く全パーティーメンバーが目を見開いて驚いていた。
「お久しぶり。グリントにゲッペル、だったかしら?」
「……一度会っただけなのに、よく覚えていてくれたな?」
「ええ、私は戦いの時の記憶は確かなのよ」
白銀の全身鎧は、顔や頭部まで隙間無く覆っているために声がややくぐもって聞こえるが、その口調と声色から女性であることは感じられる。
「それで、ライ……状況はどうなの?」
彼女は、召喚主であるライナスにそう尋ねた。
メルさん、と言いかけていた彼だったが、普段の「ライナス君」ではなく「ライ」と短く呼ばれたことで、彼女の正体を秘密にしなければならないことを思い出した。
「この扉の奥に、ものすごく大きなスライムがいるんです。強力な酸を噴出してきて、剣も魔法も無効でした。それに触手を伸ばしてきて、武器や、下手をすれば体ごとその体内に取り込まれかねません」
ライナスは余計なことは口にせず、事実だけを話す。
「スライム……扉越しにもわかる、あれだけ強力な魔力を持つ魔物の正体がスライムとはね……まあ、なんとかなるでしょう。私がその巨大スライムを倒したなら、報酬とは別にその魔石も貰うけど、それは問題ない認識でいいかしら?」
その言葉は、グリントとゲッペルに向けられていた……どちらかがリーダーと見抜いたのだろう。
「ああ、それは問題ない。俺たちが欲しいのは、あのガーディアンが守っている扉の奥のお宝だからな……あれば、の話だが」
グリントが答えた。
「分かったわ。じゃあ、行ってくるわね」
それだけ聞いてさっさと大広間への扉を開けようとした彼女に、パーティーメンバー一同は驚いた。
「ま……待てディーヴァ。その奥にいるのは、あんたが考えるのよりずっと厄介な相手だ!」
「そうかもしれないけど、実際に戦ってみないと分からないでしょう? それとも、さっきライが説明した以上の情報があるの?」
彼女のことをディーヴァと呼ぶグリントが止めようとしたが、本人は気にしていない様子だ。
また、他のメンバーも彼女の放つオーラ、漏れ出る魔力のすさまじさに気圧され、それ以上彼女に話しかけられない。
「ディーヴァ……それがあなたの名前なのですね?」
ライナスが確認する。
「そう、ディーヴァ。前に言ってなかったわね……いろいろ秘密が多いから、なぜあなたが私を召喚できるのかも含めて、余計なことは言わないようにしてね」
「はい……わかりました」
ライナスも、それ以上何も話さないようにした。
白銀と漆黒で形成された、美しくも禍々しい全身鎧に身を包まれた剣士。
頭部、顔まで金属でできた兜、仮面に覆われているが、胸部に二つの膨らみがあり、それで女性用だと判別できる。
手甲部分や剣の鍔といった箇所にターコイズブルーの複雑な文様が描かれ、それが装飾なのか、あるいは魔法陣の類いなのか判別できないが、鮮やかなそれが一層壮麗な雰囲気を醸し出していた。
「……他に何もなければ、中に入るわね」
気圧されているパーティーメンバーに最後の確認をして、彼女は中に入ろうとする。
「待て、俺も一緒に行く。俺がリーダーだ、戦況を確認する義務がある」
グリントが申し出る。
「……だったら、僕も行きます、ディーヴァさんを呼び出したのは僕です!」
ライナスも続く。
「……なら、私も必要ね。あの強力な酸を中和できるのは私だけだから」
サーシャもそう言って杖を手にした。
「……ふむ、儂は残る。後方から魔物が来たら厄介だからな……」
ゲッペルはその場に残ることを選択した。
本音では戦いに参加したいのかもしれないが、役に立たないことを自覚していたし、杖を無くして落ち込んでいるコルトを守る必要があった。
「……分かったわ。じゃあ、突入するわね」
ディーヴァはそう言って、重いはずの金属製の扉を片手で軽々と押し開けた。
そのことに軽く驚くパーティーメンバーだが、彼女は気にすらしていなかった。
中に入ると、グレータースライムは即座に反応し、強酸の体液をディーヴァに噴出した。
しかし彼女は全く避けようとしない。
まともに命中するが、鎧のその部分がわずかにオレンジ色に光っただけで、体液はジュワッっという音と共に白煙を上げて消滅した。
その様子にスライムも戸惑ったのか、何度も噴出するが結果は同じだ。
一緒に入ったパーティーメンバーはその光景に最初は仰天したが、彼女がそういう存在なのだとすぐに認識を改めた。
「……魔力結界……しかも、ものすごく薄く範囲も狭く、それでいて強力だ……効率的に、自動で展開されてやがる……鎧に攻撃が届いてさえいない。あれはやっぱり、現代の装備じゃねえな……しかも、おそらく呪われていやがる……」
グリントが独り言のようにつぶやき、ライナスにはその声が届いていた。
現代の装備ではない……つまり、古代の超魔法文明の遺産、ということになる。
そして呪われている……それがどういうことなのか、ライナスには分からなかった。
ディーヴァは、グレータースライムの体内で輝く大きな魔石に興味津々、といった様子で、強酸の攻撃を無視して見つめていた。
スライムはそれに業を煮やしたのか、今度は赤い触手を、彼女の体に伸ばしてきた。
ディーヴァはそれも避けようとせず、巻き付いてきた触手を両手で引きちぎった。
魔物は激しく蠢き、次々と酸を履き出すが、やはり彼女には通用しない。
ついにグレータースライムは、本体ごとゆっくりと彼女に迫って来た。
それに対し、ディーバは腰に装備していた剣を抜いた。
鎧と同色、白銀に輝く刀身が姿を見せる。
見る者を圧倒するすさまじいオーラを放つ、美しい両刃の長剣だが、魔物の弱点である魔石まで届くとは思えなかった。
しかし彼女がその剣を右手で前にかざすと、その刀身が伸びたように見えた。
実際は、オレンジ色に光る、薄く細い膜が、10メールほど、剣から生えるように伸びていた。
「あれは……魔力結界の応用みたいなものかしら? 薄いけど、凄く強力で凝縮されている……刃(やいば)が伸びたみたい……」
サーシャが、少し怯えたようにそう話した。
ディーヴァは、長剣から伸びるそのオレンジ色の光の刃を、巨大なスライムの上方から押し当て、少し力を込めて押し下げた。
ザクッ、という音と共に、魔石のすぐ横をかすめて、グレータースライムは両断された。
ピギィー、という悲鳴のような音を上げて、魔石が残った方のスライムが大量の体液を飛ばしてきたが、その猛攻を受けてもディーヴァは相変わらず避けもせず平然としていた。
何本か触手も伸ばしてきたが、全て彼女の長剣で切り落とされた。
「……うーん、これじゃあ倒せないか……」
ディーヴァが呟く。
見ると、切断されたはずのグレータースライムは、また下の方から元通り繋がりつつあった。
「ディーヴァ、その剣が伸びたみたいな技で、魔石を壊せないのか?」
グリントがそう問うたが、彼女は
「そんな勿体ないことしたくないわ……ちょっと魔力使うけど、こっちなら魔石にダメージ与えなくて済むかも……」
彼女はそう言うと、一瞬でグレータースライムとの間合いを詰めた。
そしていつの間にかオレンジの光刃を消した剣の本体を、魔物の体に突き刺した。
「轟雷撃(デ・ライデル)!」
瞬間、バシュン、という大きな音と共に、グラータースライムの体全体が眩しく発光した。
そのままその巨大な魔物は動きを止め、やがてぐにゃっと歪んだかと思うと、やや粘土の高い液体になって床に広がった。
グリント、サーシャ、ライナスはそれが足下まで迫ったのに驚いたが、よく見ると床面はわずかに傾斜があり、その先には排水溝のフタのようなものが存在して、液体はそちらへと流れていった。
「……この部屋の床、あのスライムの消化液や廃液がどこかへ流れていくように工夫されていたみたいね。もっとも、スライム自身が死んだ後に流れ出ることまで考慮されていたかどうかは分からないけどね」
そう話す彼女の声は、心なしか機嫌が良さそうだった。
そして床に落ちていた、人間の拳ほどもある、黄色く輝く魔石を拾い上げて、じっくりと眺めていた。
自分よりずっとレベルの高いメンバーでも、全く為す術がなかったグレータースライム。
それを、たった一人であっさりと、余裕を持って倒しきったディーヴァ。
その正体が、アイテムショップのオーナー兼美人店員であるメルであることを知っているライナスは、再び戦慄と、軽い混乱を覚えていた。
グリントは……いや、ライナスを除く全パーティーメンバーが目を見開いて驚いていた。
「お久しぶり。グリントにゲッペル、だったかしら?」
「……一度会っただけなのに、よく覚えていてくれたな?」
「ええ、私は戦いの時の記憶は確かなのよ」
白銀の全身鎧は、顔や頭部まで隙間無く覆っているために声がややくぐもって聞こえるが、その口調と声色から女性であることは感じられる。
「それで、ライ……状況はどうなの?」
彼女は、召喚主であるライナスにそう尋ねた。
メルさん、と言いかけていた彼だったが、普段の「ライナス君」ではなく「ライ」と短く呼ばれたことで、彼女の正体を秘密にしなければならないことを思い出した。
「この扉の奥に、ものすごく大きなスライムがいるんです。強力な酸を噴出してきて、剣も魔法も無効でした。それに触手を伸ばしてきて、武器や、下手をすれば体ごとその体内に取り込まれかねません」
ライナスは余計なことは口にせず、事実だけを話す。
「スライム……扉越しにもわかる、あれだけ強力な魔力を持つ魔物の正体がスライムとはね……まあ、なんとかなるでしょう。私がその巨大スライムを倒したなら、報酬とは別にその魔石も貰うけど、それは問題ない認識でいいかしら?」
その言葉は、グリントとゲッペルに向けられていた……どちらかがリーダーと見抜いたのだろう。
「ああ、それは問題ない。俺たちが欲しいのは、あのガーディアンが守っている扉の奥のお宝だからな……あれば、の話だが」
グリントが答えた。
「分かったわ。じゃあ、行ってくるわね」
それだけ聞いてさっさと大広間への扉を開けようとした彼女に、パーティーメンバー一同は驚いた。
「ま……待てディーヴァ。その奥にいるのは、あんたが考えるのよりずっと厄介な相手だ!」
「そうかもしれないけど、実際に戦ってみないと分からないでしょう? それとも、さっきライが説明した以上の情報があるの?」
彼女のことをディーヴァと呼ぶグリントが止めようとしたが、本人は気にしていない様子だ。
また、他のメンバーも彼女の放つオーラ、漏れ出る魔力のすさまじさに気圧され、それ以上彼女に話しかけられない。
「ディーヴァ……それがあなたの名前なのですね?」
ライナスが確認する。
「そう、ディーヴァ。前に言ってなかったわね……いろいろ秘密が多いから、なぜあなたが私を召喚できるのかも含めて、余計なことは言わないようにしてね」
「はい……わかりました」
ライナスも、それ以上何も話さないようにした。
白銀と漆黒で形成された、美しくも禍々しい全身鎧に身を包まれた剣士。
頭部、顔まで金属でできた兜、仮面に覆われているが、胸部に二つの膨らみがあり、それで女性用だと判別できる。
手甲部分や剣の鍔といった箇所にターコイズブルーの複雑な文様が描かれ、それが装飾なのか、あるいは魔法陣の類いなのか判別できないが、鮮やかなそれが一層壮麗な雰囲気を醸し出していた。
「……他に何もなければ、中に入るわね」
気圧されているパーティーメンバーに最後の確認をして、彼女は中に入ろうとする。
「待て、俺も一緒に行く。俺がリーダーだ、戦況を確認する義務がある」
グリントが申し出る。
「……だったら、僕も行きます、ディーヴァさんを呼び出したのは僕です!」
ライナスも続く。
「……なら、私も必要ね。あの強力な酸を中和できるのは私だけだから」
サーシャもそう言って杖を手にした。
「……ふむ、儂は残る。後方から魔物が来たら厄介だからな……」
ゲッペルはその場に残ることを選択した。
本音では戦いに参加したいのかもしれないが、役に立たないことを自覚していたし、杖を無くして落ち込んでいるコルトを守る必要があった。
「……分かったわ。じゃあ、突入するわね」
ディーヴァはそう言って、重いはずの金属製の扉を片手で軽々と押し開けた。
そのことに軽く驚くパーティーメンバーだが、彼女は気にすらしていなかった。
中に入ると、グレータースライムは即座に反応し、強酸の体液をディーヴァに噴出した。
しかし彼女は全く避けようとしない。
まともに命中するが、鎧のその部分がわずかにオレンジ色に光っただけで、体液はジュワッっという音と共に白煙を上げて消滅した。
その様子にスライムも戸惑ったのか、何度も噴出するが結果は同じだ。
一緒に入ったパーティーメンバーはその光景に最初は仰天したが、彼女がそういう存在なのだとすぐに認識を改めた。
「……魔力結界……しかも、ものすごく薄く範囲も狭く、それでいて強力だ……効率的に、自動で展開されてやがる……鎧に攻撃が届いてさえいない。あれはやっぱり、現代の装備じゃねえな……しかも、おそらく呪われていやがる……」
グリントが独り言のようにつぶやき、ライナスにはその声が届いていた。
現代の装備ではない……つまり、古代の超魔法文明の遺産、ということになる。
そして呪われている……それがどういうことなのか、ライナスには分からなかった。
ディーヴァは、グレータースライムの体内で輝く大きな魔石に興味津々、といった様子で、強酸の攻撃を無視して見つめていた。
スライムはそれに業を煮やしたのか、今度は赤い触手を、彼女の体に伸ばしてきた。
ディーヴァはそれも避けようとせず、巻き付いてきた触手を両手で引きちぎった。
魔物は激しく蠢き、次々と酸を履き出すが、やはり彼女には通用しない。
ついにグレータースライムは、本体ごとゆっくりと彼女に迫って来た。
それに対し、ディーバは腰に装備していた剣を抜いた。
鎧と同色、白銀に輝く刀身が姿を見せる。
見る者を圧倒するすさまじいオーラを放つ、美しい両刃の長剣だが、魔物の弱点である魔石まで届くとは思えなかった。
しかし彼女がその剣を右手で前にかざすと、その刀身が伸びたように見えた。
実際は、オレンジ色に光る、薄く細い膜が、10メールほど、剣から生えるように伸びていた。
「あれは……魔力結界の応用みたいなものかしら? 薄いけど、凄く強力で凝縮されている……刃(やいば)が伸びたみたい……」
サーシャが、少し怯えたようにそう話した。
ディーヴァは、長剣から伸びるそのオレンジ色の光の刃を、巨大なスライムの上方から押し当て、少し力を込めて押し下げた。
ザクッ、という音と共に、魔石のすぐ横をかすめて、グレータースライムは両断された。
ピギィー、という悲鳴のような音を上げて、魔石が残った方のスライムが大量の体液を飛ばしてきたが、その猛攻を受けてもディーヴァは相変わらず避けもせず平然としていた。
何本か触手も伸ばしてきたが、全て彼女の長剣で切り落とされた。
「……うーん、これじゃあ倒せないか……」
ディーヴァが呟く。
見ると、切断されたはずのグレータースライムは、また下の方から元通り繋がりつつあった。
「ディーヴァ、その剣が伸びたみたいな技で、魔石を壊せないのか?」
グリントがそう問うたが、彼女は
「そんな勿体ないことしたくないわ……ちょっと魔力使うけど、こっちなら魔石にダメージ与えなくて済むかも……」
彼女はそう言うと、一瞬でグレータースライムとの間合いを詰めた。
そしていつの間にかオレンジの光刃を消した剣の本体を、魔物の体に突き刺した。
「轟雷撃(デ・ライデル)!」
瞬間、バシュン、という大きな音と共に、グラータースライムの体全体が眩しく発光した。
そのままその巨大な魔物は動きを止め、やがてぐにゃっと歪んだかと思うと、やや粘土の高い液体になって床に広がった。
グリント、サーシャ、ライナスはそれが足下まで迫ったのに驚いたが、よく見ると床面はわずかに傾斜があり、その先には排水溝のフタのようなものが存在して、液体はそちらへと流れていった。
「……この部屋の床、あのスライムの消化液や廃液がどこかへ流れていくように工夫されていたみたいね。もっとも、スライム自身が死んだ後に流れ出ることまで考慮されていたかどうかは分からないけどね」
そう話す彼女の声は、心なしか機嫌が良さそうだった。
そして床に落ちていた、人間の拳ほどもある、黄色く輝く魔石を拾い上げて、じっくりと眺めていた。
自分よりずっとレベルの高いメンバーでも、全く為す術がなかったグレータースライム。
それを、たった一人であっさりと、余裕を持って倒しきったディーヴァ。
その正体が、アイテムショップのオーナー兼美人店員であるメルであることを知っているライナスは、再び戦慄と、軽い混乱を覚えていた。
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