魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

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 数分後。
 全員、ようやく息が整い始めたところで、リーダーのグリントが状況の整理を始める。

「……奴の向こう側にも扉があった。あの化け物は、そこを守っているガーディアンだ。未踏破の遺跡、しかもあんな奴がいるんだ、あの奥に相当なお宝が眠っている確率は高い」

 彼はそう言って士気を高めようとするが、効果は薄い。

 ライナスのゴーグル「アドバンスド・アウル・アイ +2」でも、その扉の向こうに魔石は見えなかった。
 ただ、古代遺跡の宝物には、そもそも魔石が使用されていることは少ない、と聞いている。
 使用者が魔力を持つことを前提とした、現在の「魔導コンポ」とは全く異なる「魔道具」が存在することだってありえるのだ。

 それに、奥にあるのが金貨や宝石などの「財宝」である可能性もある。
 ただ、それを考えてもあの巨大な化け物を倒す、またはやり過ごして奥の扉を開け、財宝を手にして引き返してくる、という構図が、どうしても描けない。

 剣や斧による攻撃は無効。唯一有効そうに思われたコルトの攻撃用魔道具「スタッフ・オブ・スイフタブルハイブリッド +3」は破壊された。
 彼女は予備のロッドを持っているようだったが、性能は大きく劣る。そのことも、パーティーに大きな影を落とした。

「……確かに、あの奥にお宝が眠っている可能性は高いけど、その前に体勢を立て直さないと……何より、ライナス……君、大丈夫なの? 鎧、ボロボロになっているけど、ケガはしていないの?」

 サーシャが彼の事を気遣う。

「いえ、幸いにもインナーが守ってくれていたので……」

「そうじゃのう、ありゃあ、何じゃ? その黒いインナー、魔力結果を纏っていたではないか。そんなもの、見たことないぞ?」

 ゲッペルが今更ながら驚いたように話した。

「あ、これはその、借り物で……」

「借り物? ……そういや、お前は『白銀の翼』のミク嬢と仲良くしていたな……新しい魔道具の試着ってとこか。あの魔力の正体が強力な魔物ってことも言い当てたしな……」

 勘の鋭いグリントがそう呟いた。

「すみません、秘密にしておくように言われたので……それに、性能もまだ確実じゃないっていうことなので……」

「ふうん、なるほど……だが、今は凄いお宝がかかっている状況だ。分け前を増やすことを考えるから、他になにかあるなら話してくれ」

「いえ、残念ながら……あればさっきの戦いの時に使っていました」

「……なるほど、そりゃそうか……」

 グリントが半分納得、半分不満げにそう口にした。

「……まあ、君が無事なら、それで良かったけど……やっぱり、一度出直した方がよさそうね。あいつを倒すなら、もっと強い……それこそ、四つ星ハンター以上を仲間にしないといけないかも」

「四つ星なんか頼んだら、報酬を半分以上もっていかれてしまうぞ! それに、そんなハンターでも単体ならあの化け物を倒せるかわからねえ」

 サーシャの意見を、グリントが否定する。
 コルトは、ロッドを失ったショックからか、下を向いて黙ったままだ。

「……あの化け物を倒せるとしたら……一人だけ、心当りがある。俺と同じ三つ星ランクのハンターだが……『白い光』を放つ魔導剣士だ。まだ若いが、素早く、剣の腕も確かで、何より『妖魔』を滅ぼす希少な『聖光魔法』を使えるっていう奴だ。名前は……たしか、アクトとか言ってたな……」

「魔道剣士、ですか……その人なら、あの化け物を倒せるのですか?」

 ライナスがグリントに質問する。

「いや……確かに凄腕だが、奴でも無理だ。ただ、以前、迷宮の奥で奴と組んでハンター稼業をしていたときに、とんでもない巨人と出くわしたときがあったんだが……そのとき、そのアクトがもっととんでもねえ奴を呼び出したんだ。全身を白銀の鎧に包まれた女剣士……召喚魔法で呼び出されたそいつは、その巨人をあっさりと倒してしまった。アクト以外は、俺を含めて全員あっけにとられたんだが……あのときは、まだサーシャとコルトは仲間になってなかった。ゲッペルは見たよな?」

「うむ。確かに、アレは禍々しい雰囲気を纏っていて、上級の悪魔、といっても差し支えない存在だった。たしかに、あの女剣士ならこの奥の馬鹿でかいスライムを倒せるかもしれぬが……そのためには、まずイフカに戻って、アクトを探すところから始めねばならん。その間、この迷宮が他の奴らに攻略されぬとも限らん」

 ゲッペルも悩ましげだ。

「白銀の鎧に包まれた女剣士? ……ひょっとしたら……」

 ライナスの脳裏に、武装したメルの姿が浮かんだ。

「……なんだ、新入り。お前も知っているのか?」

「はい。でも、彼女を呼び出すには百万ウェンの報酬を要求されますし、倒した魔物の魔石も渡さないといけないんです」

「……そういや、アクトの奴もそんなこと言ってたな……」

 グリントがそう呟いてまた意気消沈する。

「……ちょっと待ってください。ひょっとしてあなた、その女剣士、召喚できるんですか?」

 今まで下を向いていたコルトが、急に顔を上げてライナスにそう問いただした。

「あ、以前に一度、呼び出したことはあります。ただ、今回もできるかどうか分かりませんけど」

「馬鹿野郎、さっき隠し事は『もうない』って言ってただろう!? そんな奥の手があるなら、さっさと言いやがれ!」

 グリントに叱られ、ライナスは「しまった」と思ったが、もう後の祭りだ。

「……お願いです……私、壊されてしまったロッドの敵、取りたいんです……」

「そうじゃのう……本当にお宝があるかどうか分からんが、このままおめおめと引き下がるのも癪に障る」

「そうよ。君、いろいろズルいわよ」

 パーティー全員から責められ、ライナスはほとほと困った……そもそも、あの店で「アミュレット・オブ・ザ・シルバーデーヴィー」を入手したことは秘密にするように言われてていたのだ。

 ……いや、どこで入手したかバラさなければ大丈夫か?
 それに、たとえ「アミュレット・オブ・ザ・シルバーデーヴィー」を使ったとしても、今回も彼女が来てくれるかどうか分からない。都合が悪ければ、来ないだろう……彼はそう考えた。

「……その、百万ウェンとやらは、お前への報酬とは別に出してやる。あの化け物の魔石も、本当に壊さずに倒せるのなら持って行ってもらっていい。いや……お前への報酬も倍に増やす。だから、もしお前が本当にあの女剣士を呼び出せるなら、試してみてくれ」

 この日、何度か奇妙な言動やアイテムを見せていたライナスに対し、グリントがそれに賭けてみるという様子でそう促した。

「……分かりました……試してみます」

 彼はそう言うと、インナーの「黒蜥蜴」越しに、右腕に装着し、今は取れなくなっている細い銀の護符に左手の指を添え、そのまま両腕を上に上げた。

「今、我が掲げし護符の契約により、馳せ参じよ! シルバーデーヴィー!」

 しかし、数秒間なにも起きない。
 じれたメンバーがライナスに何か言おうとした瞬間、「黒蜥蜴」を透かして、真っ赤な光が辺りを一瞬照らした。

「この赤い光……あのときと同じだ!」

 グリントが声を上げる。

 彼等の目の前の空間にゆがみが生じ、次の瞬間に金色の光が溢れ、その光が消えたとき、そこには白銀と漆黒で形成された、美しくも禍々しい全身鎧に身を包まれた、一人の剣士が立っていた。
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