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「魔物を全滅って……すごい数ですよ?」
困惑しながらそう口にするライナス。
「ええ、そうみたいね。でも、低レベルのスケルトンでしょう? 毒にさえ気をつければ……つまり、攻撃を受けなければ大丈夫よ……えっと、ちょっとそれ、借りてもいいかしら?」
彼女はそう言うと、治癒役の少年からメイスを受け取った。
金属製の1メールほどの柄の先に、筒状の接続部から金属板を放射状に配置された形状だ。
「それ、結構重いですよ」
ライナスが自分で持ったわけではないが、そのメイスを持っていた少年が両手で数回振り回しただけで息切れしていた。
少なくとも、彼はメルより大きな体つきだ。
なので、そのように忠告しようとしたライナスだったが、メルが片手で軽々と、それこそ拾った小枝を扱うように振り回すのを見て驚愕した。
「こう見えても、私、結構力あるの。これでスケルトンをやっつけちゃえば良いでしょう?」
「ええ、まあ……そうなんですけど、この先は二人並ぶのがやっとぐらいの通路になってて、迂闊に出たら前後から挟み撃ちに遭ってしまうので……それに、出口に向かう途中に、六本腕のやっかいな化け物がいるんです」
「そうなの? ……じゃあ、私が後方を守りながらライナス君について行くわ。貴方には、その化け物のところまで案内してもらいますね」
あくまで笑顔を崩さないメル。
今の彼女には、本当になんとかしてしまいそうな余裕と、そして体からあふれ出るオーラというか、迫力があった。
「……わかりました。どのみち、そうしないと解毒薬がいくらあっても足りません」
「そうね。でも、無事帰れても百万ウェンはしっかりいただきますからね!」
相変わらず笑顔で接してくるメルに、今、手元にそれだけの貯金がないとは言えないな、と彼は思った。
頑丈な扉だが、相変わらず定期的にガンガンと、なにかで小突く音が聞こえる。
ライナスとメルの二人は、扉の手前で待機する。
手前から向こうに押して開くタイプの扉だったので、合図と共に剣士の一人が錠を外し、そしてライナスが体当たりした。
ガシャン、という向こうのスケルトンが弾き飛ばされ、砕けた音と同時に、ライナスとメルが飛び出し、直後、再び扉が閉められる。
そこには、数十体のスケルトンが集まっていたが、細長い通路であるため、前後それぞれ一、二体ずつ相手をすればそれ以上の攻撃は受けない。
ライナスが、両手持ちの長剣「ツーハンデッドソード」を振り回す。
一振りする度に、二、三体のスケルトンが蹴散らされる。
魔物の振る刃は遅く、間合いも短く、届かない。
また、多少攻撃が当たったとしても、彼はブリガンダインアーマーに金属製の籠手、すね当てを装備し、それで刃を弾くことができる。
そう、前方に関しては、彼は低級のスケルトンごときに遅れは取らないのだ。
問題は後方だったが……チラリと後ろを見やると、驚くべき速度で的確に、そして軽々と骸骨の頭、背骨、剣を持つ腕を破壊していく、メイスを振り回す小柄な女性の姿があった。
「メルさん……すごい!」
ライナスがそう言うと、チラリと彼の方を見たメルが、
「そちらこそ、それだけの腕があれば余裕でこんな迷宮、脱出できたんじゃないかしら?」
と返事を返した。
「ええ、多分自分だけなら。でも、他に五人いましたし……」
「……そういうことね……これだけの数、星なしの五人守りながらじゃ無理だったのね……やっぱりもう一人ぐらい、星持ちのハンターがいないと、このイフカの迷宮は厳しいわね」
会話しながらでも、二人は余裕でスケルトンを撃破していく。
最初の宣言通り、ライナスが前方のスケルトンを蹴散らし、メルが後方から追撃してくる骸骨を破壊して彼について行く。
二人とも、ノーダメージのまま数十メール進むと、やや開けた空間に出た。
縦25メール、横10メール、高さも十メールほどの広間だ。
ライナスが、腰の前の部分に装着している「シルバーランタン+1」の光度を上げた。
そこには、八体のスケルトンを取り巻きにした、2メールを超える大きさの、六本腕の骸骨が立っていた。
それぞれの腕に、ギラリと光る長剣を携えている。
その胸の部分には、鶏卵ほどもの大きさの黄色い魔石が輝いている。
「あいつです、あの化け物が……近づくと、ものすごい勢いであの剣をそれぞれ振り回してくるんです!」
「……なるほどね……確かに、これは厄介。六本の腕が全部長くて、一本ずつを相手にしてたら手数が足りなくなる。それに魔力も強い……かなり素早く動けるはず。こんな魔物が居着いていたなんて……道理でスケルトンがこれだけ集まってくるわけね……」
「そうなんです。でも、二人がかりならば、なんとか手数で対応して……」
「いいえ、それはダメ……荒っぽい戦い方をすれば、あの魔石を壊しかねないから……」
「……どういうことですか? 魔石を壊せば、あの魔物を倒せるんじゃ……」
魔石は、全ての魔物に共通する急所で、それを破壊すれば活動を停止する。
特に、アンデッド系の妖魔には数少ない有効な弱点となる。
「それだと、勿体ないでしょう? 契約にあった通り、倒した魔物の魔石は、私が貰うことになります。だから、私が一人で倒しますね!」
メルが、にっこりと笑顔を浮かべる……それは商売人としての顔だったが、次の瞬間、その表情が凜々しく引き締まった。
刹那、彼女の体が金色の光に包まれ……その光が消えたとき、そこには、白銀と漆黒で形成された、美しくも禍々しい全身鎧に身を包まれた、一人の剣士が立っていた。
困惑しながらそう口にするライナス。
「ええ、そうみたいね。でも、低レベルのスケルトンでしょう? 毒にさえ気をつければ……つまり、攻撃を受けなければ大丈夫よ……えっと、ちょっとそれ、借りてもいいかしら?」
彼女はそう言うと、治癒役の少年からメイスを受け取った。
金属製の1メールほどの柄の先に、筒状の接続部から金属板を放射状に配置された形状だ。
「それ、結構重いですよ」
ライナスが自分で持ったわけではないが、そのメイスを持っていた少年が両手で数回振り回しただけで息切れしていた。
少なくとも、彼はメルより大きな体つきだ。
なので、そのように忠告しようとしたライナスだったが、メルが片手で軽々と、それこそ拾った小枝を扱うように振り回すのを見て驚愕した。
「こう見えても、私、結構力あるの。これでスケルトンをやっつけちゃえば良いでしょう?」
「ええ、まあ……そうなんですけど、この先は二人並ぶのがやっとぐらいの通路になってて、迂闊に出たら前後から挟み撃ちに遭ってしまうので……それに、出口に向かう途中に、六本腕のやっかいな化け物がいるんです」
「そうなの? ……じゃあ、私が後方を守りながらライナス君について行くわ。貴方には、その化け物のところまで案内してもらいますね」
あくまで笑顔を崩さないメル。
今の彼女には、本当になんとかしてしまいそうな余裕と、そして体からあふれ出るオーラというか、迫力があった。
「……わかりました。どのみち、そうしないと解毒薬がいくらあっても足りません」
「そうね。でも、無事帰れても百万ウェンはしっかりいただきますからね!」
相変わらず笑顔で接してくるメルに、今、手元にそれだけの貯金がないとは言えないな、と彼は思った。
頑丈な扉だが、相変わらず定期的にガンガンと、なにかで小突く音が聞こえる。
ライナスとメルの二人は、扉の手前で待機する。
手前から向こうに押して開くタイプの扉だったので、合図と共に剣士の一人が錠を外し、そしてライナスが体当たりした。
ガシャン、という向こうのスケルトンが弾き飛ばされ、砕けた音と同時に、ライナスとメルが飛び出し、直後、再び扉が閉められる。
そこには、数十体のスケルトンが集まっていたが、細長い通路であるため、前後それぞれ一、二体ずつ相手をすればそれ以上の攻撃は受けない。
ライナスが、両手持ちの長剣「ツーハンデッドソード」を振り回す。
一振りする度に、二、三体のスケルトンが蹴散らされる。
魔物の振る刃は遅く、間合いも短く、届かない。
また、多少攻撃が当たったとしても、彼はブリガンダインアーマーに金属製の籠手、すね当てを装備し、それで刃を弾くことができる。
そう、前方に関しては、彼は低級のスケルトンごときに遅れは取らないのだ。
問題は後方だったが……チラリと後ろを見やると、驚くべき速度で的確に、そして軽々と骸骨の頭、背骨、剣を持つ腕を破壊していく、メイスを振り回す小柄な女性の姿があった。
「メルさん……すごい!」
ライナスがそう言うと、チラリと彼の方を見たメルが、
「そちらこそ、それだけの腕があれば余裕でこんな迷宮、脱出できたんじゃないかしら?」
と返事を返した。
「ええ、多分自分だけなら。でも、他に五人いましたし……」
「……そういうことね……これだけの数、星なしの五人守りながらじゃ無理だったのね……やっぱりもう一人ぐらい、星持ちのハンターがいないと、このイフカの迷宮は厳しいわね」
会話しながらでも、二人は余裕でスケルトンを撃破していく。
最初の宣言通り、ライナスが前方のスケルトンを蹴散らし、メルが後方から追撃してくる骸骨を破壊して彼について行く。
二人とも、ノーダメージのまま数十メール進むと、やや開けた空間に出た。
縦25メール、横10メール、高さも十メールほどの広間だ。
ライナスが、腰の前の部分に装着している「シルバーランタン+1」の光度を上げた。
そこには、八体のスケルトンを取り巻きにした、2メールを超える大きさの、六本腕の骸骨が立っていた。
それぞれの腕に、ギラリと光る長剣を携えている。
その胸の部分には、鶏卵ほどもの大きさの黄色い魔石が輝いている。
「あいつです、あの化け物が……近づくと、ものすごい勢いであの剣をそれぞれ振り回してくるんです!」
「……なるほどね……確かに、これは厄介。六本の腕が全部長くて、一本ずつを相手にしてたら手数が足りなくなる。それに魔力も強い……かなり素早く動けるはず。こんな魔物が居着いていたなんて……道理でスケルトンがこれだけ集まってくるわけね……」
「そうなんです。でも、二人がかりならば、なんとか手数で対応して……」
「いいえ、それはダメ……荒っぽい戦い方をすれば、あの魔石を壊しかねないから……」
「……どういうことですか? 魔石を壊せば、あの魔物を倒せるんじゃ……」
魔石は、全ての魔物に共通する急所で、それを破壊すれば活動を停止する。
特に、アンデッド系の妖魔には数少ない有効な弱点となる。
「それだと、勿体ないでしょう? 契約にあった通り、倒した魔物の魔石は、私が貰うことになります。だから、私が一人で倒しますね!」
メルが、にっこりと笑顔を浮かべる……それは商売人としての顔だったが、次の瞬間、その表情が凜々しく引き締まった。
刹那、彼女の体が金色の光に包まれ……その光が消えたとき、そこには、白銀と漆黒で形成された、美しくも禍々しい全身鎧に身を包まれた、一人の剣士が立っていた。
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