2 / 42
戦慄の魔道具
しおりを挟む
アイテムショップ「魔法堂 白銀の翼」オーナー兼販売員のメルは、話しやすい性格で、まだこの街に来たばかりの一つ星冒険者であるライナスに、新規の客だというのに懇切丁寧に接客した。
この店が、古代遺跡群攻略都市「イフカ」の中でも、魔道具専門店としてちょっと変わった商品を取り扱っている、少々マニアックなことで名が知られていること。
一般的な商品も置いているが、あまり量は揃えていないので、珍しい商品を購入する「ついで」以外の場合は量販品の大型店舗で購入することをおすすめすること。
その代わり、ここでしか購入できないアイテムも多く、星を持つ本格的な冒険者に推奨できる商品がいくつもあること。
さらには、冒険者の中でも戦闘に秀でた「ハンター」と呼ばれる人にはお得意様が多いこと……もっとも、このイフカの街では、冒険者とハンターはほぼ同義であること、など。
ライナスにとっては、少し年上で、多くの熟練ハンターとも接しているであろうメルの知識は豊富と感じられ、それでいて気さくだった。
彼女は、いつのまにか敬語からフレンドリーな言葉遣いに変化しており、そして彼のことを「ライナス君」と呼ぶようになっていた。
そんな彼女の言葉を、嫌に思うどころか、逆に気に入ってしまっていると、彼は実感し始めていた。
しばらく会話しているうちに、不意にメルが真剣な表情になり、ライナスの目をじっと見つめた。
ほんの数秒のことだったが、彼は、意識の奥底まで除かれているような、不思議な感覚に陥った。
「……ライナス君の瞳、すごく綺麗……それに、なにか特別な力を感じる……ひょっとして……あなたは……」
そこまで言葉にしたところで、彼女はなにかを直感したように目を見開き、大きくうなずいた。
彼はその意味が分からず、戸惑った。
「……ごめんなさい、ちょっとライナス君が美男子だから、見入ってしまったの。気にしないで……それより、商品の紹介するわね。予算に応じておすすめのアイテムがあるけれど、まずはこの『シルバーランタン+1』は是非買ってもらいたい商品ね。ウチのオリジナル品で、たいていのお客様は購入してくれているの。ここの一つ目のつまみで光量を調整できて、さらに二つ目のつまみで、光を拡散させるか、一方向に集中して照らすかを選択できるわ。小型だから、付属のバンドで体に固定させれば、前方を照らしながら両手が自由に使えるの。フル充魔状態で、普通の光量なら十時間は持つのよ。もちろん、充魔が切れかけても、魔石からいつでもチャージできるわ」
この世界では、「充魔石」と「魔水晶」の連携「魔道コンポーネント」により、気軽に魔法のアイテムが使用できる。その魔力は、魔物から得た魔石により、容易にチャージでき、それが残っている間は魔法が発動され続けるのだ。
「しかも、使用している魔水晶には『強化』の効果も付いているから、魔力が残っている間はランタン自体の強度も抜群に上がっているの。そのままワンポイントの防具になるぐらい」
メルはそう言うと、手に持って説明していた小型ランタンを床に落とした。
ライナスは、あっと慌てたが、床に落ちたそれはわずかな青い光――魔力による衝撃保護の証――を発しただけだった。
彼女はにこやかにそれを拾うと、ライナスにそれを渡して見せた。
彼はそれを受け取って確認し、落とした衝撃によるへこみどころか、傷一つ付いてないことに驚いた。
さらに、メルの言うとおりそのつまみを操作して灯りを灯すと、驚くほど明るいオレンジの光が、部屋いっぱいに広がった。
「どう、凄いでしょう? 高性能な分、お値段はちょっと高めで十万ウェンなんだけど……どうかな?」
彼が持っていた安物のランタンは、普通に油を使用するタイプで、安いが暗く、使い勝手が悪かった。しかも、ダンジョン内における灯りの喪失はハンターにとって命を左右する重要事項なので、強度不足も心配な点だった。
ウェンは即決で「シルバーランタン+1」を購入した。
その様子に、メルはますます笑顔になり、
「ありがとうございます! ……それでは、ライナス君が当店のお得意様となった証に、とっておきのアイテムを紹介させていただきます!」
と、銀色の鎖状の腕輪を取り出した。
魔物の頭を模した文様が描かれた、小さな金属板が取り付けられ、さらにごく小さな水晶が埋め込まれている。
「これは道具側が人を選ぶのだけど、ライナス君なら使えるはず。『アミュレット・オブ・ザ・シルバーデーヴィー』……貴方が危機に陥ったとき、百万ウェンの支払いと、倒した魔物の魔石を報酬とすることを条件に、敵を殲滅してくれる『悪魔』を呼び出す魔道具です」
メルがそのアイテムの概要を説明したとき、重苦しく変化した彼女の雰囲気に、ライナスは少し、戦慄した。
この店が、古代遺跡群攻略都市「イフカ」の中でも、魔道具専門店としてちょっと変わった商品を取り扱っている、少々マニアックなことで名が知られていること。
一般的な商品も置いているが、あまり量は揃えていないので、珍しい商品を購入する「ついで」以外の場合は量販品の大型店舗で購入することをおすすめすること。
その代わり、ここでしか購入できないアイテムも多く、星を持つ本格的な冒険者に推奨できる商品がいくつもあること。
さらには、冒険者の中でも戦闘に秀でた「ハンター」と呼ばれる人にはお得意様が多いこと……もっとも、このイフカの街では、冒険者とハンターはほぼ同義であること、など。
ライナスにとっては、少し年上で、多くの熟練ハンターとも接しているであろうメルの知識は豊富と感じられ、それでいて気さくだった。
彼女は、いつのまにか敬語からフレンドリーな言葉遣いに変化しており、そして彼のことを「ライナス君」と呼ぶようになっていた。
そんな彼女の言葉を、嫌に思うどころか、逆に気に入ってしまっていると、彼は実感し始めていた。
しばらく会話しているうちに、不意にメルが真剣な表情になり、ライナスの目をじっと見つめた。
ほんの数秒のことだったが、彼は、意識の奥底まで除かれているような、不思議な感覚に陥った。
「……ライナス君の瞳、すごく綺麗……それに、なにか特別な力を感じる……ひょっとして……あなたは……」
そこまで言葉にしたところで、彼女はなにかを直感したように目を見開き、大きくうなずいた。
彼はその意味が分からず、戸惑った。
「……ごめんなさい、ちょっとライナス君が美男子だから、見入ってしまったの。気にしないで……それより、商品の紹介するわね。予算に応じておすすめのアイテムがあるけれど、まずはこの『シルバーランタン+1』は是非買ってもらいたい商品ね。ウチのオリジナル品で、たいていのお客様は購入してくれているの。ここの一つ目のつまみで光量を調整できて、さらに二つ目のつまみで、光を拡散させるか、一方向に集中して照らすかを選択できるわ。小型だから、付属のバンドで体に固定させれば、前方を照らしながら両手が自由に使えるの。フル充魔状態で、普通の光量なら十時間は持つのよ。もちろん、充魔が切れかけても、魔石からいつでもチャージできるわ」
この世界では、「充魔石」と「魔水晶」の連携「魔道コンポーネント」により、気軽に魔法のアイテムが使用できる。その魔力は、魔物から得た魔石により、容易にチャージでき、それが残っている間は魔法が発動され続けるのだ。
「しかも、使用している魔水晶には『強化』の効果も付いているから、魔力が残っている間はランタン自体の強度も抜群に上がっているの。そのままワンポイントの防具になるぐらい」
メルはそう言うと、手に持って説明していた小型ランタンを床に落とした。
ライナスは、あっと慌てたが、床に落ちたそれはわずかな青い光――魔力による衝撃保護の証――を発しただけだった。
彼女はにこやかにそれを拾うと、ライナスにそれを渡して見せた。
彼はそれを受け取って確認し、落とした衝撃によるへこみどころか、傷一つ付いてないことに驚いた。
さらに、メルの言うとおりそのつまみを操作して灯りを灯すと、驚くほど明るいオレンジの光が、部屋いっぱいに広がった。
「どう、凄いでしょう? 高性能な分、お値段はちょっと高めで十万ウェンなんだけど……どうかな?」
彼が持っていた安物のランタンは、普通に油を使用するタイプで、安いが暗く、使い勝手が悪かった。しかも、ダンジョン内における灯りの喪失はハンターにとって命を左右する重要事項なので、強度不足も心配な点だった。
ウェンは即決で「シルバーランタン+1」を購入した。
その様子に、メルはますます笑顔になり、
「ありがとうございます! ……それでは、ライナス君が当店のお得意様となった証に、とっておきのアイテムを紹介させていただきます!」
と、銀色の鎖状の腕輪を取り出した。
魔物の頭を模した文様が描かれた、小さな金属板が取り付けられ、さらにごく小さな水晶が埋め込まれている。
「これは道具側が人を選ぶのだけど、ライナス君なら使えるはず。『アミュレット・オブ・ザ・シルバーデーヴィー』……貴方が危機に陥ったとき、百万ウェンの支払いと、倒した魔物の魔石を報酬とすることを条件に、敵を殲滅してくれる『悪魔』を呼び出す魔道具です」
メルがそのアイテムの概要を説明したとき、重苦しく変化した彼女の雰囲気に、ライナスは少し、戦慄した。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~
ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。
いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。
テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。
そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。
『強制フラグを、立てますか?』
その言葉自体を知らないわけじゃない。
だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ?
聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。
混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。
しかも、ちょっとだけ違うセリフで。
『強制フラグを立てますよ? いいですね?』
その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。
「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」
今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。
結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。
『強制フラグを立てました』
その声と、ほぼ同時に。
高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、
女子高生と禁断の恋愛?
しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。
いやいや。俺、そんなセリフ言わないし!
甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって!
俺のイメージが崩れる一方なんだけど!
……でも、この娘、いい子なんだよな。
っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか?
「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」
このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい?
誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
魔拳のデイドリーマー
osho
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生した少年・ミナト。ちょっと物騒な大自然の中で、優しくて美人でエキセントリックなお母さんに育てられた彼が、我流の魔法と鍛えた肉体を武器に、常識とか色々ぶっちぎりつつもあくまで気ままに過ごしていくお話。
主人公最強系の転生ファンタジーになります。未熟者の書いた、自己満足が執筆方針の拙い文ですが、お暇な方、よろしければどうぞ見ていってください。感想などいただけると嬉しいです。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる