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必死の逃亡
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俺とミクは、わき目もふらずに逃げ続けた。
やはり、走る速さではミクはシルヴィには到底及ばず、持久力もない。
彼女は、魔法が使える以外は普通の女の子だ。
ひょっとしたら補助系の魔法も使えるかもしれないが、それで足が速くなるかと言えばそんなことはないようで、せいぜい一時的な疲労回復ができるぐらいだろう。
現に、俺についてこれない。
仕方がないので彼女に合わせて走りながら、背後を警戒するしかない。
幸いにも、あの異常な男も、野次馬も、この街の警備員も追ってくるような様子はなかった。
また、アイゼンの別荘? までもそれほど距離はなかった。
その建物を知られないように回り道をしてたどり着く方が良かったかもしれないが、そんな余裕などなかった。
直線的に人混みを避けながら駆け抜け、建物の扉にたどり着くと、ミクは息を切らしながら短く呪文を唱えた。
解錠を試みたのだが、一度目は言葉がうまく出ず、失敗。
落ち着いて、ゆっくり呪文を唱えるよう促すと、彼女は一度頷き、再度その言葉を口にした。
扉の施錠は解除された。
俺とミクは、急いで建物の中に入り、扉を閉めた。
荒い呼吸を続けるミク。俺はちょっと慌てて、鍵をかけなくていいのか聞いたのだが、
「大丈夫、勝手にかかる」
と返された。どうやらオートロックらしい。
とはいえ、扉をぶち破って乱入してくるかもしれない……その心配をするほど、あの男は異常に思えた。
「……うん、急ぐ……でも、一つだけ教えて……あの真っ白な光、何?」
ミクは遺跡探索を俺と一緒にはしていないので、LEDライトの光を見たことがなかったのだ。
「あれは、君たちにとっては並行世界の技術だよ。魔力は必要なく、誰でも白い光を出せるんだ」
「……並行世界の技術……」
今の彼女には、そのことを理解する余裕があったかどうか定かではなかった。
とにかく、急いでアイゼンの館に戻るため、例の地下室の魔法陣へと向かった。
ミクは息を切らせながらも呪文を唱え、今度は一発で転移魔法が発動した。
館に戻り、ほっと一息つきたいところだったが、あの男は魔法も使えるはずだ。
「大丈夫……アイゼン様が事前に登録した人しか使えない」
と、少し焦っている俺を見て、考えていることを察したのか、先に応えてくれた。
「でも、俺も来れたぞ?」
「ショウは、私と一緒に魔法陣の中にいたから……」
なるほど、そういう仕組みなのか。
これでやっと安心して、部屋を出ようとした……その時、ミクは倒れこんだ。
俺は何とか彼女を支え、
「誰か、来てくれっ!」
と大きな声を出した。
それに反応して、真っ先にやって来たのはエルフのソフィアだった。
「なっ……ミク、しっかりしろ! 何があった!」
慌てて声をかけるソフィア。
「……大丈夫……ちょっと疲れただけ……」
そんな彼女の表情は、言葉とは裏腹に、苦しそうな、そしてそれ以上に悔しそうなものだった。
「……貴様、何をした?」
ソフィアは、今度は俺を睨んだ……なんか、シルヴィの時もそんなだったな……。
「ショウは、私を助けてくれた……」
ミクは俺をかばってくれる。
「……そうか……すまない……しかし、シルヴィといい、ミクといい、ショウ殿と出かけると、どうして普通に帰ってこられないんだ……」
ソフィアが、やり場のない怒りを口にする……それに対しては反論できない。
そこにアイゼンがやって来た。
そしてミクの様子を見るなり、慌てて何かの魔法をかけた。
すると彼女は落ち着いたのか、静かに寝息を立て始めた。
「……ミクがこんな状態になるとは……こんな表情を見せるとは……一体、何があったのじゃ?」
さすがにアイゼンの視線も厳しい。
「……俺も、状況を正確に把握できているわけじゃないんですが……そうだ、見てもらった方が早い。ちゃんと撮れているかどうかわからないけど……」
俺は、肩に装着したウェアラブルカメラの存在を思い出した。
やはり、走る速さではミクはシルヴィには到底及ばず、持久力もない。
彼女は、魔法が使える以外は普通の女の子だ。
ひょっとしたら補助系の魔法も使えるかもしれないが、それで足が速くなるかと言えばそんなことはないようで、せいぜい一時的な疲労回復ができるぐらいだろう。
現に、俺についてこれない。
仕方がないので彼女に合わせて走りながら、背後を警戒するしかない。
幸いにも、あの異常な男も、野次馬も、この街の警備員も追ってくるような様子はなかった。
また、アイゼンの別荘? までもそれほど距離はなかった。
その建物を知られないように回り道をしてたどり着く方が良かったかもしれないが、そんな余裕などなかった。
直線的に人混みを避けながら駆け抜け、建物の扉にたどり着くと、ミクは息を切らしながら短く呪文を唱えた。
解錠を試みたのだが、一度目は言葉がうまく出ず、失敗。
落ち着いて、ゆっくり呪文を唱えるよう促すと、彼女は一度頷き、再度その言葉を口にした。
扉の施錠は解除された。
俺とミクは、急いで建物の中に入り、扉を閉めた。
荒い呼吸を続けるミク。俺はちょっと慌てて、鍵をかけなくていいのか聞いたのだが、
「大丈夫、勝手にかかる」
と返された。どうやらオートロックらしい。
とはいえ、扉をぶち破って乱入してくるかもしれない……その心配をするほど、あの男は異常に思えた。
「……うん、急ぐ……でも、一つだけ教えて……あの真っ白な光、何?」
ミクは遺跡探索を俺と一緒にはしていないので、LEDライトの光を見たことがなかったのだ。
「あれは、君たちにとっては並行世界の技術だよ。魔力は必要なく、誰でも白い光を出せるんだ」
「……並行世界の技術……」
今の彼女には、そのことを理解する余裕があったかどうか定かではなかった。
とにかく、急いでアイゼンの館に戻るため、例の地下室の魔法陣へと向かった。
ミクは息を切らせながらも呪文を唱え、今度は一発で転移魔法が発動した。
館に戻り、ほっと一息つきたいところだったが、あの男は魔法も使えるはずだ。
「大丈夫……アイゼン様が事前に登録した人しか使えない」
と、少し焦っている俺を見て、考えていることを察したのか、先に応えてくれた。
「でも、俺も来れたぞ?」
「ショウは、私と一緒に魔法陣の中にいたから……」
なるほど、そういう仕組みなのか。
これでやっと安心して、部屋を出ようとした……その時、ミクは倒れこんだ。
俺は何とか彼女を支え、
「誰か、来てくれっ!」
と大きな声を出した。
それに反応して、真っ先にやって来たのはエルフのソフィアだった。
「なっ……ミク、しっかりしろ! 何があった!」
慌てて声をかけるソフィア。
「……大丈夫……ちょっと疲れただけ……」
そんな彼女の表情は、言葉とは裏腹に、苦しそうな、そしてそれ以上に悔しそうなものだった。
「……貴様、何をした?」
ソフィアは、今度は俺を睨んだ……なんか、シルヴィの時もそんなだったな……。
「ショウは、私を助けてくれた……」
ミクは俺をかばってくれる。
「……そうか……すまない……しかし、シルヴィといい、ミクといい、ショウ殿と出かけると、どうして普通に帰ってこられないんだ……」
ソフィアが、やり場のない怒りを口にする……それに対しては反論できない。
そこにアイゼンがやって来た。
そしてミクの様子を見るなり、慌てて何かの魔法をかけた。
すると彼女は落ち着いたのか、静かに寝息を立て始めた。
「……ミクがこんな状態になるとは……こんな表情を見せるとは……一体、何があったのじゃ?」
さすがにアイゼンの視線も厳しい。
「……俺も、状況を正確に把握できているわけじゃないんですが……そうだ、見てもらった方が早い。ちゃんと撮れているかどうかわからないけど……」
俺は、肩に装着したウェアラブルカメラの存在を思い出した。
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